- 2017-11-1
- イベントレポート, トークショー, 第30回 東京国際映画祭
第30回 東京国際映画祭(TIFF) マスタークラス開催!
第4回 “SAMURAI” 賞授賞記念
坂本龍一スペシャルトークイベント ~映像と音の関係~
坂本龍一が語る映画音楽
〜『戦場のメリークリスマス』から『Ryuichi Sakamoto: CODA』まで 〜
“SAMURAI(サムライ)”賞とは?
比類なき感性で「サムライ」のごとく、常に時代を斬り開く革新的な映画を世界へ発信し続けてきた映画人の功績を称える賞。第1回の受賞者:北野武監督、ティム・バートン監督、第2回の受賞者:山田洋次監督、ジョン・ウー監督、第3回の受賞者:マーティン・スコセッシ監督、黒沢清監督。第4回となる今回は、坂本龍一が受賞した。
映画『戦場のメリークリスマス』(1983年)での鮮烈なデビューから、30年以上に渡り数多くの映画音楽を生み出してきた音楽家の坂本龍一氏(以下、坂本)。第30回東京国際映画祭では、TIFFマスタークラスの一つとして、第4回“SAMURAI”賞を授賞した坂本のこれまでの軌跡をたどると同時に、その映画音楽論を披露するトークイベントが11月1日(水)に六本木アカデミーヒルズ49Fのタワーホールで行われた。
モデレーターは、音楽・文芸批評家の小沼純一氏が担当。トークは、各作品のワンシーンを観客と共に観ながら進められ、はっとする名言や意外なエピソードも飛び出した。
“『戦場のメリークリスマス』は僕からのオファーなんですよ”
坂本の映画デビュー作である大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』は当初、役者としてオファーされたものだ。しかし、坂本は「大島渚さんに言いました。音楽もやらせてくれるならいいですよ」と、映画音楽も担当させてくれるようまさかの逆オファーをしたという。子供の頃から映画好きで、映画音楽も好き。人生で初めて感銘を受けた映画『道』(1954年)では、映画の内容よりもむしろ、劇中の映画音楽、トランペットの音が最も印象に残っているのだとか。
「『戦場のメリークリスマス』だから、クリスマスソングがいいんじゃないかと。単純でしょう?」という坂本。片っ端からクリスマス音楽をききまくった結果、それらに見出した共通点は”鐘の音”だった。しかし、映画の舞台はどこかの南の島。ヨーロッパの教会とは異なる”鐘の音”を表現するため、ワイングラスの音を使用した。2週間ほど、あーでもないこーでもないと試行錯誤を繰り返したある日、ピアノの前でふっと意識がなくなると次の瞬間、不思議なことが起きたという。譜面にメロディーが書き付けられていた。「自分で作った気がしない」というその音楽は、神話的な内容だとする原作を踏まえた上で「東洋と西洋の神が出会う。どこの国の人がきいてもファンタジーのような、エキゾチックな感じにしたかった」と語る。
“いい映画に、音楽は必要ないんです。僕はそう信じています”
映画『ラストエンペラー』(1987年)は、坂本の映画音楽2作目となる作品だ。『戦場のメリークリスマス』でシンセサイザーに手応えを感じた坂本が、意気揚々と機材を抱え「こんなにリアルに弦の音が出るなんて、すごいでしょ!」と披露したところ、ベルナルド・ベルトルッチ監督は「衣擦れの音はどこだ?しないじゃないか」とバッサリ。オーケストラ音楽が主流となった。加えて、45曲作った音楽の内、採用されたのは半分だけ。残りは手元にすら残っておらず、どうなったかわからないという。「泣きべそですもん。今でも辛い、音楽ははっきり覚えていますから」とほろ苦い思い出が残る同作は、長編の割に、音のないシーンが多いと言われる。坂本は「自分の職業を否定しているみたいですけど」としながらも、「いい映画には音楽は必要ない。音楽の力を借りずとも、いい映画は映像に力がある」という。
“主役は自然。風の音、氷の軋む音・・・音楽は自然を際立たせるためのもの”
アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作品『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年)は、音楽活動を休止していた坂本の、復帰作だ。「監督は基本、ダメ出しをしますね皆さん」と苦笑いする坂本も、同作に関しては監督と意向が合致したという。レオナルド・ディカプリオ演じる主人公が、何とか生きようともがく荒野では、風の音、氷の軋む音など無数の音を自然が発している。映画音楽も自然に溶け込むようにと作られており、音の間に自然音や余白をもたせている。「この映画の主役は自然なんです。音は最低限に、なるべく音楽にしないようにしていますね」と坂本。
“音楽はとても抽象的。何にもならないけど、それが大切”
坂本は、観客からの質問にも答えた。音楽をどのように考えるか。「最近のニュースはテロ、経済うんぬん、ストレスばかりでうんざりです。そんな中でも、色んな音楽が世界中にあることが救いです」という坂本自身も、音楽に救われる気分になることがあるという。また、自分亡き後の自作品への思いを尋ねられると、火がついたように笑い出す場面も。「後世のために何かを残そうなんて考えていない」と言うも、我々が今聴いている音楽は亡くなった人、死んでる人の音楽だとし「武満徹さんの音楽は100年後も聴いているだろうか。ビートルズは100年後も聴かれているだろうな・・・」と想像を膨らませた。
最後に、坂本のドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』は、東北の震災で津波被害を受けたピアノ(劇中では「津波ピアノ」と呼んでいる)へ坂本が抱く気持ちの変化も見所の1つだ。今回のイベントでは、そんなドキュメンタリーともリンクする、坂本の音楽的変化を垣間見ることができた。
[オフィシャルスチール写真: © 2017 TIFF]
《イベント情報》<第30回 東京国際映画祭(TIFF) マスタークラス> ■開催日: 2017年11月1日(木)
■会場: 六本木アカデミーヒルズ49F タワーホール ■登壇者: 坂本龍一 ■モデレーター: 小沼純一(音楽・文芸批評家) |
《坂本龍一 プロフィール》1952年東京生まれ。1978年「千のナイフ」でソロデビュー。同年「YMO」を結成。散開後も多方面で活躍。『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞を、『ラストエンペラー』の音楽ではアカデミーオリジナル音楽作曲賞、グラミー賞他を受賞。常に革新的なサウンドを追求する姿勢は世界的評価を得ている。環境や平和問題への言及も多く、森林保全団体「more trees」の創設、「stop rokkasho」、「NO NUKES」などの活動で脱原発を表明、音楽を通じた東北地方太平洋沖地震被災者支援活動も行っている。2013年は山口情報芸術センター(YCAM)10周年事業のアーティスティック・ディレクター、2014年は札幌国際芸術祭 2014のゲストディレクターとしてアート界への越境も積極的に行っている。2014年7月、中咽頭癌の罹患を発表したが、1年に渡る治療と療養を経て2015年、山田洋次監督作品『母と暮せば』とアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作品『レヴェナント:蘇えりし者』の音楽制作で復帰を果たし、2016年には李相日監督作品『怒り』の音楽を担当した。2017年3月には8年ぶりとなるソロアルバム「async」を発表。 |
映画作品情報
映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』とは?「全てをさらけ出した」 2012年から5年間という長期間に渡る密着取材によって実現。
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監督: スティーブン・ノムラ・シブル
プロデューサー: スティーブン・ノムラ・シブル、エリック・ニアリ
エグゼクティブプロデューサー: 角川歴彦、若泉久央、町田剛雄
撮影: 空 音央、トム・リッチモンド、ASC
編集: 櫛田尚代、大重裕二
音響効果: トム・ポール
製作/プロダクション: CINERIC BORDERLAND MEDIA
製作: KADOKAWA、エイベックス・デジタル、電通ミュージック・アンド・エンタテインメント
制作協力: NHK
共同プロダクション: ドキュメンタリージャパン
配給: KADOKAWA
2017年 / アメリカ・日本 / カラー / DCP American Vista / 5.1ch / 102分
公式Twitter: @skmt_coda
公式Facebook: www.facebook.com/ryuichisakamoto.coda/