映画『二十六夜待ち』越川道夫監督インタビュー

【写真】映画『二十六夜待ち』舞台挨拶 越川道夫監督

映画『二十六夜待ち』越川道夫監督インタビュー

孤独を抱えた男と女が心と身体で寄りそう恋物語
現場で生まれ出たものを大切に育む越川監督にインタビュー!

佐伯一麦の同名短編小説を『アレノ』(2015年)、『海辺の生と死』(2017年)の越川道夫監督が映画化した映画『二十六夜待ち』が2017年12月23日(土)から、東京・テアトル新宿ほか全国で順次公開中である。

記憶を失った男と震災で家族を失った女が出会い、お互いの欠けている部分を月と波のように揺れながら愛し合う大人のラブストーリーをダブル主演の黒川芽以と井浦新が熱演している。

【画像】映画『二十六夜待ち』メインカット

本作の企画から待望の映画化へのプロセスを越川道夫監督に伺った。

―― 原作者の佐伯一麦氏とは、2011年2月のトークイベントからの知り合いだと伺っています。群像(2013年2月)の12星座小説集の蟹座「二十六夜待ち」をどのような経緯で読まれて、この小説のどのような点に惹かれて映画化しようと考えられたのですか?

佐伯一麦さんとは、2011年2月仙台のブックカフェ火星の庭の前野さんのお誘いで、佐伯さんと私と岡崎武志さんの3人で映画『海炭市叙景』(2010年)と佐藤泰志の文学についてのトークショーをしたのが出会いです。佐伯さんや前野さんともこのイヴェントで知り合い、仙台に知人のできるきっかけになりました。『アレノ』と『二十六夜待ち』の音楽を担当してくれた澁谷浩次さんも、演奏してくれたメンバーも仙台在住のミュージシャンたちです。そして、3月が震災です。佐伯さんの小説は知り合うずっと前から愛読していました。「二十六夜待ち」は、小説集『光の闇』(扶桑社刊)が出て初めて読みました。どの短編小説も味わい深いものでしたが、孤独を抱えた杉谷と由実が心だけでなく、その身体も含めて寄り添い合おうとするところが、とても好きでした。心が寄り添う事を望んでも、身体はまた別の反応をしてしまうことが、私たちにはありますから。

―― 主演の井浦新さんと黒川芽以さんとは、古くからの人間関係があると伺っています。2人をキャスティングされた理由を、それぞれ教えてください。

あて書きをすることはありませんが、『二十六夜待ち』の脚本を書き終えた時には、杉谷はもう井浦新さんとしか思えなくなっていました。黒川芽以さんとは、彼女が15歳か16歳の頃に知り合い、プロデューサーと演出補で参加したたむらまさき監督『ドライブイン蒲生』(2014年)でヒロインを演じてもらいました。由実の俳優を誰にお願いしようか考えていた時、脚本を読んだ佐藤有記が「これは黒川芽以さんだ」と言いました。その通りだと思いました。黒川さんは市井に生きる女性の美しさを演じることのできる女優だと思っていますから。

【画像】映画『二十六夜待ち』由美

―― 井浦新さんが、キャスティングのオファーがあったときに「越川監督のもとで、何かに遠慮することなく演技ができると思った」という発言をされています。黒川芽以さんも、「越川監督との人間関係があったので、挑戦できると思った」と言われています。このようなキャストとの人間関係の構築で心がけてきたこと。それによって、本作品に良い影響があったことがあれば、教えてください。

基本的に演出である僕と、スタッフ、キャストのセッション性の高い芝居作り、映画作りを目指しているので、映画に参加しているメンバー同士の信頼関係は大切です。どのシーンも同じだと思いますが、『二十六夜待ち』には特にラブシーンが数回にわたってありますから、特に信頼関係は重要です。どのくらい相手に委ねることができるか、ということです。この映画を撮るまでには紆余曲折ありましたが、井浦さんも「20代最後の映画に、この作品を」と言ってくれた黒川さんも、ずっと待っていてくれました。ぼく自身も彼らのその思いに応えなければなりません。それは井浦さんと黒川さんに限った事ではありません。初めて仕事をする俳優もいますが、この映画に参加してくれた俳優たちの多くは、これまでいろいろな作品で繰り返し一緒に闘ってきた仲間たちです。彼らといつも課題を持ちながら一緒に映画を作ることが僕の喜びでもあると思います。スタッフも同じです。そうやって、一本の映画は作られていくものだと考えています。

【画像】映画『二十六夜待ち』杉谷

―― 主演の2人は、それぞれに孤独感や痛みをもち、セリフでの表現以上に、言語以外の表現が多い役柄に感じました。演出において、それぞれにこだわられたことがあれば、教えてください。また、本作でも、監督ご自身をアンコントロールすることを基本にされたのでしょうか?撮影のエピソードも伺いたいです。

発話する(台詞を言う)ということは、身体活動の一部であって、すべてではありません。どうしても、どう台詞を言うか、ということが芝居の主眼になりがちなのですが、もう一度それを身体の方から捉え直したい、といつも考えています。だって、赤ちゃんは言葉も持っていないでしょう? 発話は、その身体活動や言葉では言い表せないような感情に支えられているもので、決してその逆ではないからです。これは『二十六夜待ち』に限ったことではありません。特に『二十六夜待ち』では、震災後の身体に『刻み付けられた記憶や記憶を失っても身体が覚えている事をテーマにしていますから尚更です。

ぼくの撮影現場は、日々発見していくプロセスです。ぼくは俳優をアンコントロールの状態にするだけでなく、自分もまたアンコントロールの状態にします。机の上で考えたプラン、一応いろいろと考えるのですが、それよりも現場で生まれて来るものを優先して、「ぼくが」でははく「作品が」伸びたがっている方向に、どこまでも伸びていけるようにしていきます。ぼくたちは撮影期間を通して絶えず発見し続け、自分たちが作っている作品が何を言いたがっているのか、ということに耳を澄ませたいと思っています。

だから、ぼくは脚本にかき込んだ自分のプランを、その日の撮影が終ると全部消してしまいます。現場で生まれたことを膨らませていくので、ぼくが机の上で考えたことはもう役割をおえているからです。その日ぼくたちがやったことを思い出しながら消し、それが終ると、それを受けて翌日のプランを考えます。そして、また一日撮影が終ると、また思い出しながら机上のプランは消してしまいます。『海辺の生と死』から始まったやりかたですが、今回もそうでした。クランクアップした後も、やはり消してしまいますから。撮影が終った後には何も書き込みのない、書き込んだ痕跡だけがある。でも真っ白な台本が手許に残ります。

ぼくたちが現場で見つけたことのひとつに「手」があります。魚にふれる杉谷の手つき、料理をする手つき、由実が杉谷の手をどうやってふれるか、撮影が進む中で、ぼくたちは自然にそのことに拘り始めていました。杉谷が由実に東京行きの切符を渡すシーンでは、由実は切符をとらずに、ます切符を差し出した杉谷の手を握ります。こういう芝居は、撮影を通じて培われていくもので、ぼくが指示を出したわけではありません。

【画像】映画『二十六夜待ち』メインカット

―― 若い世代にも、メッセージ性があると思われる内容のところ、視聴年齢が18歳以上の大人のラブストーリーにされた理由を教えてください。

視聴年齢が18歳以上になったのは結果であって、目指した事ではありません。なるべく人間の営みをまるごと描きだいと思っていますし、身体活動を重く考えているので、いきおいラブシーンも描くことになります。セックスすることも、働く事も、ご飯を食べる事も、家事をすることも、言葉を交わす事も、ひとつのこととして同等に扱いたいと思っています。

―― 草花を積むシーンや草木がいけてあるシーンがとても印象的でした。以前、越川監督は人間以上に植物や虫、自然などに興味があると言われていたことを思い出しました。どのような意図をもって、これらのシーンを撮影をされたのですか?

個人的には、毎日人間よりも草や花などを見て暮らしているかもしれません。『二十六夜待ち』では、原作もそうですが、杉谷は毎日野の花を摘んで店に飾ります。月の満ち欠けを毎晩数える事、野の花を摘み、その名前を覚える事は、記憶を失った杉谷にとって、記憶を失った日から後の自分の記憶を作っていくための重要なことなのではないかと思います。そして、それを描く事によって、ぼくたちがそういったものの中で暮らしているという事を、もう一度認識させてくれます。認知症によって記憶というものを失いかけていた私の祖父が、まだ発症して間もない頃に「記憶を失う事はアイデンティティーを失う事であろうか」と何度も手帖に書いていたのを思い出します。

【画像】映画『二十六夜待ち』杉谷&由美

―― 福島県のいわきの人々との人間関係から、この小説の舞台を仙台からいわきに変更されています。劇中の方言なども、地元の人たちからの評価が高く、これまでの作品を拝見しても、ロケ地などをとても大切にされている印象(畏敬の念を感じる)があります。心がけておられることがあれば、教えてください。

ぼくはいつでも「その街の子ども」を描きたいと考えているのだと思います。ぼくは静岡県の浜松市の駅前で育ちましたが、その商店街の人々、風向きで浜から風が運んでくる潮の匂いといった気候風土が、ぼくを育んでくれたと思いますし、今の自分はそれと無関係ではありません。だから、その街の子どもを描こうとすると、その土地がどんな場所なのか、どんな植物が生えていて、どんな気候なのかも大事になります。『海辺の生と死』は、それを抜きにしては撮れなかった映画だと思います。

―― 最後に2人の将来が明るいように感じられました。短編小説から、舞台を変えて、2時間4分の映画を作るにあたって、脚本はどのように作られていったのでしょうか?以前、脚本家である奥さまとの共同作業について話されていましたが、今回はどうだったのでしょうか?

佐藤有記とは、いつもと同じようにこの映画の台本も僕が書き、佐藤が直しの意見を言い、また書き直す、ということを繰り返して決定稿にしました。今、佐藤は幼い子供たちと向き合っていますので書いてもらう時間がありません。ですから、こういう作業になります。映画のラストが、花のカットで終る事は脚本の段階から決まっていました。ふたりの将来が明るいかどうかは、ぼくたちの将来が明るいかどうか分からないくらいに分かりません。ただ、日々を営んでいく事、なんでもない日常を暮らしていく事は、なんでもないように見えて、実はとても難しいことなのだということを、特に震災を経て、ぼくたちはもう知っているのだと思います。だからこそラストに「花」を添えたのかもしれません。

―― 越川監督にとっての物作りや映画作りとは、どういうものでしょうか?今後、作りたい、伝えたいテーマなどがあれば、教えてください。

スタッフやキャストとの共同作業は楽しいものです。そして、いつも暮らしている自分たちの地続きにある映画を作りたいと思っています。無視してもよい「生」などひとつもない、と考えていますから、その奥深くまで入って「花」を掴み出すように映画を作りたいと思っています。だから、できれば街の片隅で生きている人たちの姿を映画にしたいと思ってます。

―― これから『二十六夜待ち』を観るファンに対して、ひと言メッセージをお願いいたします。

この映画は、いわき市の人たちと知り合い(そのひとりである岡田陽恵さんには方言指導として参加してもらいました)、いわき総合高校演劇部の子供たちと出会わなければなかった映画だと思います。「生きていかなければね」というのはチェーホフの「三人姉妹」の台詞ですが、チェーホフから離れてそんな思いをこの映画のそこここに綴ったつもりです。井浦新さんは言わずもがなですが、由実を演じた黒川芽以さんは、撮影が進むにつれてどんどん美しくなっていきました。俳優たちの生き生きとした芝居を楽しんでもらえれば嬉しいです。

【写真】映画『二十六夜待ち』舞台挨拶 越川道夫監督、黒川芽以、井浦新

インタビューを終えて

映画を家族と捉えるならば、越川監督は家族との絆や信頼関係の厚いお父さんだと感じました。そんな越川道夫監督と運命共同体の素晴らしいスタッフ、キャストたちといわきの人々との共同創造によって生まれて大切に育まれた映画『二十六夜待ち』は、あなたの「生きる力」を肯定するでしょう。

[インタビュー: おくの ゆか]

 

プロフィール

越川 道夫 (Michio Koshikawa)
1965年静岡県生まれ。助監督、演劇活動、映画館勤務を経て、映画配給に従事。多くの洋画邦画の宣伝配給に関わる一方で、プロデューサーとして『青い車』(2004年)、『海炭市叙景』(2010年)、『かぞくのくに』(2012年)、『楽隊のうさぎ』(2013年)などを制作。『アレノ』(2015年)で初監督、第28回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品された。本作は、2017年公開の『海辺の生と死』『月子』に続く監督4作目にあたる。

映画作品情報

【画像】映画『二十六夜待ち』ポスタービジュアル

《ストーリー》

由実(黒川芽以)は、先の震災で何もかもを失い、今は福島県いわき市の叔母の工務店に身を寄せ日々を過ごしていた。心に傷を抱えた由実だったが、少しは外に出なければと叔母に促され、ある日バイト募集をしていた路地裏の小さな飲み屋“杉谷”で働き始める。元気で温かなお客さん達との触れ合いもありながらお店の切り盛りをしていく由美であったが、店主の杉谷(井浦新)のどこか謎めいた部分が気になり始める。彼は記憶をすべて失い、失踪届も出されていなかったため、どこの誰とも分からない。はっきりしているのは、手が料理をしていたことを覚えていることだけであった。今では小さな小料理屋を任されるまでになったが、福祉課の木村(諏訪太朗)をはじめとしたあたたかな人々に囲まれながらも、彼の心はいつも怯え、自分が何者なのか分からない孤独を抱え込んでいた。そんな孤独で傷ついた魂を持つ杉谷と由実は、“月”と“海”がお互いを引き寄せ合うように、その心と体を寄り添い合わせるようになっていく……。

第30回 東京国際映画祭(TIFF) 日本映画スプラッシュ部門 出品作品
 
キャスト: 井浦 新、黒川芽以
諏訪太朗、天衣織女、鈴木晋介、山田真歩、鈴木慶一、宮本なつ、足立智充、杉山ひこひこ、内田周作、嶺 豪一、信太昌之、吉岡睦雄
 
監督・脚本: 越川道夫
撮影監督: 山崎 裕
プロデューサー: 藤本 款、狩野善則
音楽: 澁谷浩次
原作: 佐伯一麦
美術: 平井淳郎
照明: 山本浩資
編集: 菊井貴繁
衣装: 宮本まさ江
録音: 近藤崇生
音響: 山本タカアキ2017年 / 日本 / 日本語 / 124分
配給: フルモテルモ
© 2017 佐伯一麦/『二十六夜待ち』製作委員会

2017年12月23日(土)より、テアトル新宿ほか全国順次公開!
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @26yamachi
公式Facebook: www.facebook.com/nijyuurokuyamachi/
 

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