突然忍び寄る恐怖…
コバルトブルーの美しい海が、漆黒の魔海へ豹変する!
《ストーリー》
サーフィンをするためにメキシコのあるビーチを訪れた医学生のナンシー(ブレイク・ライヴリー)。そこは亡き母がかつてサーフィンをした思い出の地で、滅多に人が足を踏み入れない秘密の場所だった。どこまでも広がる碧い海と白い砂浜。この地を訪れることをずっと夢見ていたナンシーは、はじけるようにビーチを飛出しサーフボードともに沖合へと向かった。陽が沈みかけるまでタップリとサーフィンを楽しんだナンシーだが、突如一匹の巨大なサメに襲われてしまう。何とか近くの岩場にたどり着いたものの、サメはその場から離れない。誰も助けには来ず、足には大けがをおってしまい…絶体絶命の苦境と恐怖が夜のとばりとともに彼女を覆い始めた――
《みどころ》
私たちは『ジョーズ』(1975年)を知っている。スティーブン・スピルバーグが世に送り出した「人喰いザメの恐怖」を知っている。そのジョーズの記憶が数十年ぶりに呼び起された―『ロスト・バケーション』はそんな映画だ。水面ギリギリのアングルからのカメラワーク。なかなか姿を現さない人喰いザメ。かつてのジョーズを彷彿とさせるような演出で魅せながら、さらに進化させた“戦慄”の演出が光る。舞台は見渡す限り何もない大海原なのだが、空中から、水中から…様々な視点から主人公を演じたブレイク・ライヴリーをカメラがとらえ、切迫した彼女の恐怖をさらに増幅させて観客へ伝えてくれる。観終えた後に私たちの瞼(まぶた)に焼きつくのは、彼女の美貌でなく、満身創痍で海の悪魔と戦ったその傷痕だろう。
本作は上映時間90分にも満たないコンパクトな作品なのだが、そのほとんどがナンシーとサメとの闘いに費やされ、ロケーションも海原に浮かぶ岩礁のみと、非常に特化している。こうした局地的な条件がパニック映画としての言わば「極致」を創りだしており、ロケハンでこの場所を選んだスタッフには拍手を送りたい。そのおかげで、テーマは手に汗を握るくらいの重さなのだが、娯楽としてはむしろ気楽に臨める手軽さも感じられる。
これから夏本番となり、映画や映像界ではホラー映画やドラマが目白押しとなっていくだろう。これは「恐怖で身体が震撼することによって涼しくなる」という理由からのようだが『ロスト・バケーション』のようなパニック映画で震撼するのも悪くはない。体温が5℃は下がるような身の凍る体験ができることだろう。
[ライター: 藤田 哲朗]
映画『ロスト・バケーション』予告篇
映画作品情報
原題: The Shallows
制作: ワイマラナラー・リパブリック・ピクチャーズ/オムブラ・フィルムズ
製作: リン・ハリス、マティ・レシェム
製作総指揮: ダグ・メリフィールド、ジャウマ・コレット=セラ
撮影監督: フラヴィオ・ラビアノ。プロダクションデザイナー、ヒュー・ベイタップ
編集: ジョエル・ネグロン
音楽: マルコ・ベルトラミ
脚本: アンソニー・ジャスウィンスキー
2016年7月23日(土)より、全国ロードショー!