- 2016-5-30
- アカデミー賞, アニメ, アヌシー国際アニメーション映画祭, 映画レビュー, 映画作品紹介
映画『父を探して』
(原題: O Menino e o Mundo)
やわらかな線と色で描かれる少年の世界は万華鏡
《ストーリー》
ブラジルの田舎の片隅で、少年と両親は幸せに暮らしていた。貧しさから出稼ぎへ出ることになった父親との別れをきっかけに、少年も都会へと旅立つ。その旅はやがて、ブラジルの風景や音楽、時代の変化に翻弄されつつ、少年が新たな世界を知るものへと変わっていく。
《みどころ》
この映画は、やわらかで簡素な絵柄に対し、社会問題をもテーマに据える骨太なアニメーションだ。絵本のページが自動に読み進められるかの様に、登場人物や鮮やかな色彩が次々と現れては消える。クレヨン、色鉛筆、切り絵、油絵の具などの多様な表現に、知らず知らず画面の中へと引き込まれていく。
少年は家を出て、世界の矛盾と変化の渦に直面する。環境破壊、暴力、戦争、差別、貧困 ・・・ 誰しものすぐ傍に存在する世界規模の問題を目にする彼は、主人公でありながら、どこにでもいるただの少年である。だからこそ、少年が劇中の世界に何の変化ももたらさないこの映画を「自分の話だ」と感じる観客は多いだろう。
父親が奏でるフルートの音色が、この作品のキーワードである。音だけでなく、まるい毛糸玉でビジュアル化され少年を導く。少年は道中、父親が奏でる音のように親切で温かな大人や、一方で強欲に己の利益のみを求める冷たい大人にも出会う。大人は未来の子ども達に希望を残すことができる一方で、負の産物を引き継がざるを得ない責任も持っている、そんなメッセージを感じた。
少年が旅し目にする世界は、まるで万華鏡のようだ。複雑に重なり暗く濁ることもあるが、覗き込むとひとりでに動き出し、予想だにしない形が現れる。少年の目にする世界は、それでも美しい。少年は特別な存在ではない。環境破壊や戦争、世界中にある様々な問題をわかりつつ止めることができない我々と同じく、世界にただ翻弄される「誰か」だ。我々が忘れがちな世界への感謝と愛おしさを、名もない少年を通じ感じた。
[ライター: 宮﨑 千尋]
映画『父を探して』予告篇
映画『父を探して』メイキング
映画作品情報
2014年 アヌシー国際アニメーション映画祭 長編アニメーション部門 クリスタル賞(最高賞)&観客賞 ダブル受賞
原題: O Menino e o Mundo
英題: The Boy and the World
音楽: ナナ・バスコンセロス (Nana Vasconcelos)
2013年 / ブラジル / 80分 / DCP上映
配給: ニューディアー
配給協力・宣伝: プレイタイム
後援: 駐日ブラジル大使館 助成: シネマ・ド・ブラジル
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