ペンの力は不実な国家権力よりも強い!
ただ「真実」のみを伝える――
断固たる熱いブンヤの信念がアメリカの歴史を動かした!!
世界をリードする超大国アメリカ。その有史上、今でも影を落とす最大の汚点といえば、ベトナム戦争であろう。大兵力を投入するも、現地の物資供給インフラがままならない、国内の反戦運動の高まりなど様々な要因で結局撤退、結果的には不毛で徒労に終わる戦争を仕掛けたこととなった。戦局を甘く捉え、戦略なしに戦いを進めた米国首脳部の無謀さが元凶であるのだが、歴代の合衆国政府は自らの“無謀”をひたすらに隠そうとした。
映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、その政府の隠蔽を暴き不正をただそうとした新聞社の物語だ。メリル・ストリープが演じたワシントン・ポスト紙の社主キャサリン・グラハム、トム・ハンクスが演じた新聞の編集主幹ベン・ブラッドリー、そして幾人もの報道記者たち…彼らの一人一人は決して強い力を持った人間ではない。国家に対抗する権限もなく微力だ。
だが、ジャーナリズムとは何かを知っていた。真実を余すことなく伝えることが報道に与えられた唯一の使命であることを知っていた。その熱烈な魂はぶれることなく、敢然と時の政府に立ち向かったのだ。この物語はそんな小さな英雄たち興した、わずか数十年前の苦闘を巨匠・スティーヴン・スピルバーグが現代によみがえらせた傑作である。
《みどころ》
日航機墜落事故のスクープ合戦や報道闘争劇を描いた本邦映画の『クライマーズ・ハイ』(2008年)が公開された時、野武士のような日本の新聞記者の熱血ぶりに思わず目を奪われたものだ。だが、ジャーナリストが持ち合わせる灼熱のような闘争心はどの国も同じらしい。本作の舞台になったワシントン・ポスト紙メンバーの熱量はおよそクールというには程遠く、アメリカ人らしからぬ泥臭さがある。
しかし、そのシンプルで気骨あふれるスピリットこそ、この映画の最大の魅力であるに違いない。その中でもっとも濃厚な熱を放射しているのが新聞発行の編集責任者ベン(トム・ハンクス)だ。かつて二年連続でアカデミー主演男優賞を受賞するなど名優の名を欲しいままにしてきたトム・ハンクスだが、老いてますます盛んになった。
『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015年)や『ハドソン川の奇跡』(2016年)など実在の人物を丁寧に、忠実に演じて再生させたその演技力はもはや名人の域に達しているといっていい。今回はアクの強い生粋のブンヤ(新聞記者のこと)を演じているが、とおり一辺倒に暴れまくるだけでなく、自制心も少しづつ織り交ぜながら常識人としてバランスをとろうとする…その絶妙なさじ加減はさすがだ。
妙演と言えば、同じくアカデミー賞の常連であるメリル・ストリープだって負けていない。彼女が演じたキャサリンは、元来決して強い人間ではない。前社主の夫に先立たれ、やむなくワシントン・ポストを引き継いだ未亡人…本来であれば儚げな経営者といったポジションだ。
だが、時勢が彼女を強くしていく。会社の収益を改善するため株式公開を目論むが、もしベンたちが追いかけているペンタゴン・ペーパーズのスクープを掲載すれば、刑事罰まで下る可能性があり、それは株式公開の失敗を意味する。会社のトップとしての責任を優先するのか、それともジャーナリストとしての正義感を貫くのか…乾坤一擲の決断を迫られた孤高の苦悩は、映画の主題そのものといっていい。
政府の最高層による真実の隠蔽―内容が内容だけに、昨今の森友問題や財務省による公文書改ざんを思い起こす人も多いだろう。だが、どこか他人事のように進んでいく日本とは沸点が違う。湧き上がる強靭な意志力が、社会を動かし、時代に名を刻んだのだ。
[ライター: 藤田 哲朗]
映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告篇
映画作品情報
第90回 アカデミー賞® 作品賞&主演女優賞ノミネート
製作: エイミー・パスカル、スティーヴン・スピルバーグ、クリスティ・マコスコ・クリーガー
脚本: リズ・ハンナ、ジョシュ・シンガー
音楽: ジョン・ウィリアムズ
キャスト: メリル・ストリープ、トム・ハンクス他
全米公開: 2017年12月22日 (限定公開)/ 2018年1月12日(拡大公開)
日本公開日: 2018年3月30日(金)
製作: ヨーロッパコープ
配給: キノフィルムズ/木下グループ
© Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.