映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE) レビュー
【画像】映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE) メインカット

 映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE)

アメリカ合衆国の羅針盤をコントロールする戦略の天才
狡猾で巧妙な頭脳戦のジャンヌ・ダルクが打つ世紀の一手を最後まで見逃すな!

《ストーリー》  

コール=クラヴィッツ&W社の絶対的なエース・ロビイストであるエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は昼夜問わずビジネスという戦場で、時に華々しく、時に暗躍しながら闘ってきた。百戦すれば百勝する―まさに彼女はロビー界きっての常勝将軍であった。

【画像】映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE) SLOANE 1

そんなある日、スローンは銃擁護派団体からの仕事を依頼される。新たに提出される銃規制法案に対し、女性の銃保持を認めるロビー活動を行い廃案に持ち込むようにすることが彼らの要望であった。だが、スローンは一笑の元その仕事を断る。依頼を独断で無下に断った彼女を上司のデュポン(サム・ウォーターストン)は強く非難する。それはスローンの進退にまで言及した非常に厳しい叱責であった。それでも初志を曲げないスローンは、逆の立場で銃規制支持のロビー活動を展開するシュミット(マーク・ストロング)から、一緒に銃規制法成立のために闘わないかとスカウトを受ける。同業者や政界など内外から畏敬を集めキャリアを積み上げていったスローンは、自身の信念に従い新天地への移籍を決意。古巣の巨大企業を相手に、次々と奇策を打ち始めるのであった…

【画像】映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE) 場面カット1

《みどころ》 

“ロビイスト”とは、特定の団体利益のために政治家に働きかけや根回しを行う専門家のことだ。日本でもネゴシエーター(下交渉役)くらいはいるだろうけど、アメリカではもっとドラスティックに、情け無用で容赦ない権利権謀の闘いが日常から行われている。本作はそうした光景を赤裸々に描いており、血の流れない血みどろの世界に驚かされることだろう。

【画像】映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE) 場面カット4

そうしたアメリカ特有のスリリングな世界が舞台の本作。主演に起用されたのはハリウッドきっての実力派俳優ジェシカ・チャステインだ。映画『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)や『オデッセイ』(2015年)に代表されるように、彼女は非常にクレバーでクールな役どころが多く、本作のような敏腕ロビイストはまさにうってつけのハマリ役と言えるだろう。

【画像】映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE) SLOANE 2

相手を射抜くような眼光の鋭さ、圧倒する戦闘的な話術はさすがのひとことで、観ている我々のアドレナリンも最後まで噴出しっぱなし。特に驚かされるのは、そのセリフの多さだ。テーマが難しい政治の世界ということもあるのだが…それにしても感嘆詞から専門用語まで彼女から発せられるワードの数は桁違いの量。加えて帯びている熱量もすさまじい。相手を説得する、または叩き落すために自然とそうなるのだろうが…その情熱の源泉は国家の未来を握っている、という使命感からきているのだろう。そのプレッシャーの大きさも実によく表現されている。

【画像】映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE) 場面カット6

そして「激しい言葉の闘い」と並んで、もう一つの大きな見どころが抜きつ抜かれつのシーソー・サスペンスだ。逆転に次ぐ逆転のデッドヒートのシナリオは息をつく暇もない。まるで将棋やチェスの名人同士が打つ棋譜を見ているかのようだ。特に最後の一手、スローンが投じた捨て身の奇手は驚愕のひとこと。目先の戦術ではなく、大局を見据えた戦略を常に考えているからこそできた最後の一手だろうし、見事なまでに爽快な大どんでん返しだ。そして、彼女が引き換えにした代償の大きさには胸を打たれる。銃乱射事件などが絶えないアメリカだが、大きなリスクを自らおってまで銃規制を進めようとした彼女の姿は、アメリカ国民の目にどう映るのだろうか。

【画像】映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE) 場面カット4

ロビイストは目的を達成するために、時に汚い手段を用いたり一線を超えたりもする。劇中のスローンも同様だ。ただ、勧善懲悪とスッキリ綺麗に割り切れないところに、この映画の面白さはあるのだろうし、だからこそ発信するメッセージもより一層観る者に刺さるのだろう。

[ライター: 藤田 哲朗]

 
© 2016 EUROPACORP – FRANCE 2 CINEMA

映画『女神の見えざる手』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『女神の見えざる手』(MISS SLOANE) ポスター

第74回 ゴールデングローブ賞 主演女優賞(ドラマ部門) ノミネート
 
邦題: 女神の見えざる手
原題: Miss Sloane
 
出演: ジェシカ・チャステイン、マーク・ストロング、ググ・バサ=ロー、ジョン・リスゴーほか
 
監督/製作総指揮:ジョン・マッデン
脚本: ジョナサン・ペレラ
美術: マシュー・デイビス
編集: アレクサンダー・バーナー
2016年 / フランス=アメリカ合作 / 英語 / カラー / シネマスコープ / 132分
日本語字幕: 松浦美奈 / 映倫区分: G指定
配給: キノフィルムズ
日本公開日: 2017年10月20日
© 2016 EUROPACORP – FRANCE 2 CINEMA
 
映画公式サイト
 
公式Facebook: @misssloaneJP

この記事の著者

藤田 哲朗映画ライター・愛好家

大手出版取次会社で20代後半より一貫してDVDのバイヤー/セールスの仕事に従事する。
担当したクライアントは、各映画会社や映像メーカーの他、大手のレンタルビデオチェーン、eコマース、コンビニチェーンなど多岐にわたり、あらゆるDVDの販売チャネルにかかわって数多くの映画作品を視聴。
プライベートでも週末は必ず都内のどこかの映画館で過ごすなど、公私とも映画づけの日々を送っている。

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