- 2017-10-22
- ゴールデングローブ賞, 映画レビュー, 映画作品紹介
- 映画レビュー
アメリカ合衆国の羅針盤をコントロールする戦略の天才
狡猾で巧妙な頭脳戦のジャンヌ・ダルクが打つ世紀の一手を最後まで見逃すな!
《ストーリー》
コール=クラヴィッツ&W社の絶対的なエース・ロビイストであるエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は昼夜問わずビジネスという戦場で、時に華々しく、時に暗躍しながら闘ってきた。百戦すれば百勝する―まさに彼女はロビー界きっての常勝将軍であった。
そんなある日、スローンは銃擁護派団体からの仕事を依頼される。新たに提出される銃規制法案に対し、女性の銃保持を認めるロビー活動を行い廃案に持ち込むようにすることが彼らの要望であった。だが、スローンは一笑の元その仕事を断る。依頼を独断で無下に断った彼女を上司のデュポン(サム・ウォーターストン)は強く非難する。それはスローンの進退にまで言及した非常に厳しい叱責であった。それでも初志を曲げないスローンは、逆の立場で銃規制支持のロビー活動を展開するシュミット(マーク・ストロング)から、一緒に銃規制法成立のために闘わないかとスカウトを受ける。同業者や政界など内外から畏敬を集めキャリアを積み上げていったスローンは、自身の信念に従い新天地への移籍を決意。古巣の巨大企業を相手に、次々と奇策を打ち始めるのであった…
《みどころ》
“ロビイスト”とは、特定の団体利益のために政治家に働きかけや根回しを行う専門家のことだ。日本でもネゴシエーター(下交渉役)くらいはいるだろうけど、アメリカではもっとドラスティックに、情け無用で容赦ない権利権謀の闘いが日常から行われている。本作はそうした光景を赤裸々に描いており、血の流れない血みどろの世界に驚かされることだろう。
そうしたアメリカ特有のスリリングな世界が舞台の本作。主演に起用されたのはハリウッドきっての実力派俳優ジェシカ・チャステインだ。映画『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)や『オデッセイ』(2015年)に代表されるように、彼女は非常にクレバーでクールな役どころが多く、本作のような敏腕ロビイストはまさにうってつけのハマリ役と言えるだろう。
相手を射抜くような眼光の鋭さ、圧倒する戦闘的な話術はさすがのひとことで、観ている我々のアドレナリンも最後まで噴出しっぱなし。特に驚かされるのは、そのセリフの多さだ。テーマが難しい政治の世界ということもあるのだが…それにしても感嘆詞から専門用語まで彼女から発せられるワードの数は桁違いの量。加えて帯びている熱量もすさまじい。相手を説得する、または叩き落すために自然とそうなるのだろうが…その情熱の源泉は国家の未来を握っている、という使命感からきているのだろう。そのプレッシャーの大きさも実によく表現されている。
そして「激しい言葉の闘い」と並んで、もう一つの大きな見どころが抜きつ抜かれつのシーソー・サスペンスだ。逆転に次ぐ逆転のデッドヒートのシナリオは息をつく暇もない。まるで将棋やチェスの名人同士が打つ棋譜を見ているかのようだ。特に最後の一手、スローンが投じた捨て身の奇手は驚愕のひとこと。目先の戦術ではなく、大局を見据えた戦略を常に考えているからこそできた最後の一手だろうし、見事なまでに爽快な大どんでん返しだ。そして、彼女が引き換えにした代償の大きさには胸を打たれる。銃乱射事件などが絶えないアメリカだが、大きなリスクを自らおってまで銃規制を進めようとした彼女の姿は、アメリカ国民の目にどう映るのだろうか。
ロビイストは目的を達成するために、時に汚い手段を用いたり一線を超えたりもする。劇中のスローンも同様だ。ただ、勧善懲悪とスッキリ綺麗に割り切れないところに、この映画の面白さはあるのだろうし、だからこそ発信するメッセージもより一層観る者に刺さるのだろう。
[ライター: 藤田 哲朗]
映画『女神の見えざる手』予告篇
映画作品情報
原題: Miss Sloane
脚本: ジョナサン・ペレラ
編集: アレクサンダー・バーナー