映画『マクベス』(Macbeth) レビュー
映画 「マクベス」 (Macbeth)

映画『マクベス』(原題:Macbeth) 

冒頭30秒が新しいマクベス像を生み出す

《ストーリー》 

内戦が続くスコットランド。グラミス領主マクベス(マイケル・ファスベンダー)は、スコットランド王ダンカン(デヴィッド・シューリス)に忠誠を誓い、反乱軍の大将を倒す。戦勝に高揚し、戦友バンクォー(バディ・コンシダイン)とともに帰還途中、1人の少女と3人の女性が霧の中から現れる。彼女たちはマクベスに「コーダー城の領主となり、やがてスコットランドの王にもなるだろう」と告げ、バンクォーには「王の父になるだろう」と告げて去った。直後に予言のとおりコーダー城領主に任じられたマクベスは、次はスコットランド王にもなれるかもしれないと野心に燃える。そして予言を知った妻(マリオン・コティヤール)と謀ってダンカン王を殺害。それは血塗られた権力闘争開始のゴングに過ぎなかった。

 《みどころ》

「マクベス」は「ハムレット」「オセロー」「リア王」と並ぶシェイクスピア四大悲劇の一つ。戯曲が成立した400年前から、様々な形で上演されてきた。黒澤明の映画「蜘蛛の巣城」はこの「マクベス」を日本の戦国時代に移して作られたものである。

忠誠心篤く善良な武将マクベスが「王になれる」と囁かれたことで思わぬ野心に足をすくわれ、疑心暗鬼と良心の呵責から、王にはなったものの自滅していく話だ。今回の映画の核心は、冒頭、幼い我が子の埋葬シーンにあろう。「領主」にしてはあまりに簡素な葬儀。10世紀のスコットランドの荒れ野で戦乱に生きる人々の苦難と貧しさを如実に表している。鮮烈すぎる圧倒的な貧しさ。その中で未来を照らす唯一の光であったろう天使のような幼子を失ったマクベス夫妻の哀しみ。やがて二人の狂気が走り出すと、その行動の裏に赤子の死に顔がフラッシュバックのように重なって見えてくる。

マクベス夫人が夫にダンカン王殺害を持ち掛けようと決意するのは、窓のない木造教会の中だ。質素だが、それでも村の中ではもっとも立派な建物。ちょっと触れたらそのまま倒れてしまうほど幼子の服喪に身を細らせた彼女が、無数のろうそくが灯る中、負のエネルギーをダンカン王へ向けることで生気を取り戻して悲嘆のどん底から這い上がっていくさまは、説得力に満ちている。

通常は強い女、悪女、あるいは夫の出世を自分の成功と勘違いした愚妻として描かれることの多いマクベス夫人だが、戦いに出ていく男たちを見送り、生活を支える女たちが戦争に明け暮れ住まいさえ不安定な生活を呪い、その生活を当然のように自分たちに強いるリーダーダンカン王に恨みを凝縮していくリアリティを丁寧に描いたことで、この映画はまったく新しいマクベス夫人像、新しいマクベスの読み方を示したといえる。

[ライター: 仲野 マリ]

映画『マクベス』予告篇

https://www.youtube.com/watch?v=ggdk9h2qZL4

映画作品情報

第68回 カンヌ国際映画祭 コンペティション部門 出品作品
 
邦題: マクベス
原題: Macbeth
監督: ジャスティン・カーゼル
原作: ウィリアム・シェイクスピア
出演: マイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤール、エリザベス・デビッキ、パディ・コンシダイン、ショーン・ハリス、ジャック・レイナー、デビッド・シューリス
2016年 / イギリス / 英語 / カラー / 113分 / PG12
配給: 吉本興業株式会社
提供: アイアトン・エンタテインメント株式会社

© STUDIOCANAL S.A./ CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015
2016年5月13日(金)より、全国ロードショー!

映画公式サイト

この記事の著者

仲野 マリ映画・演劇ライター

映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、書くことが得意であることから映画紹介や映画評を書くライターとなる。
檀れい、大泉洋、戸田恵梨香、佐々木蔵之介、真飛聖、髙嶋政宏など、俳優インタビューなども手掛ける。
また、歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、舞台についても同じく劇評やレビュー、俳優インタビューなどを書き、シネマ歌舞伎の上映前解説も定期的に行っている。
オフィシャルサイト http://www.nakanomari.net

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