映画『夜明け告げるルーのうた』
心からの「好き」は人を解放させるパワーを放つ!!
アニメ界の“天才”湯浅政明が本当に作りたかった物語
《ストーリー》
寂れた漁港の町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年・カイは、父親と日傘職人の祖父との3人で暮らしている。もともとは東京に住んでいたが、両親の離婚によって父と母の故郷である日無町に居を移したのだ。父や母に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えたまま学校生活にも後ろ向きのカイ。唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすることだった。
ある日、クラスメイトの国夫と遊歩に、彼らが組んでいるバンド「セイレーン」に入らないかと誘われる。しぶしぶ練習場所である人魚島に行くと、人魚の少女・ルーが3人の前に現れた。楽しそうに歌い、無邪気に踊るルー。カイは、そんなルーと日々行動を共にすることで、少しずつ自分の気持ちを口に出せるようになっていく。
しかし、古来より日無町では、人魚は災いをもたらす存在。ふとしたことから、ルーと町の住人たちとの間に大きな溝が生まれてしまう。そして訪れる町の危機。カイは心からの叫びで町を救うことができるのだろうか?
《みどころ》
アニメ界で圧倒的な存在感を誇る天才~湯浅政明(以下、湯浅監督)が手掛けた、初めての完全オリジナル劇場アニメーションが本作『夜明け告げるルーのうた』である。
湯浅監督は、『ちびまる子ちゃん』の原画や『クレヨンしんちゃん』の作画監督などでも知られているが、アニメーション映画『マインドゲーム』で長編監督デビューを果たし、同作品で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞している。湯浅監督の描く世界は、唯一無二の独創性で彩られ国内外にファンが多い。
そんな湯浅監督が本作『夜明け告げるルーのうた』を着想したきっかけは、はたして人は「心から好きなものを、口に出して『好き』と言えているか?」という疑問だった。自分が感じたことや本当の気持ちを言い訳なしに堂々と伝えることができていない人が多いのではないか?人と違っていることや変わっていると思われることを恐れ、つい周りに合わせて無難な世界に生きることが当たり前になっているのではないだろうか?そういったところから主人公の少年カイが生まれてきたという。
主人公カイは“無難な世界に生きる”多くの人を代表している。日陰に覆われさびれた田舎の漁港の町で祖父と父親と暮らしているカイは、学校生活に生気を見いだせず悶々としていた。自分の作曲した音楽をネットにアップすることが唯一の楽しみだったが、それさえ匿名で行うほどに自分を出すことを恐れていた。
ある日、人魚のルーはカイがかけていた音楽に引き寄せられてやってくる。ルーは純粋なエネルギーに満ち溢れ、人間も音楽も大好きで、音楽を聴くと踊りだし、なぜか尾びれが2本足に変貌する不思議な人魚。その後、この物語は、主人公カイと人魚ルー、ルーを見守るお父さん人魚、カイの同級生、そして漁港の町の人々を巻き込んで壮大に展開していく。
カイは、ルーと交流していくにつれ明るさを取り戻し、人生に向き合う姿勢が変わっていく。滅多に笑顔を見せることのなかったカイの表情が柔らかくなっていき、しぶしぶ参加していたバンド「セイレーン」に積極的にかかわるようになる。
そして、漁港の町の危機を救うために奔走するカイの姿は、わたしたちにその行動の結果がどういう結末を迎えるのかという打算とはまったく無縁の世界を突き付ける。
本作の主題歌に斉藤和義氏の「歌うたいのバラッド」が起用されているが、この歌の持つエネルギーと本作のテーマがまさにベストマッチで、それにも感動させられる。この映画のために作られた楽曲ではないかと思えるほどの一体感に、クライマックスでは目頭が熱くなることだろう。この曲に白羽の矢をたてた湯浅監督の感性には感服せざるを得ない。
ほんとうのことって実はとても純粋でシンプルだということ。純粋でシンプルだからこそ伝わるし心動かされるのだということをあらためて思い出させてくれた。この映画をみて、自分のなかに眠る情熱のかけらをみつけ、大切に育て、行動していきたくなうような不思議なパワーを受け取ることができるだろう。
[ライター: Takako Kambara]
映画『夜明け告げるルーのうた』予告篇
映画作品情報
脚本: 吉田玲子、湯浅政明
音楽: 村松崇継
主題歌:「歌うたいのバラッド」斉藤和義(SPEEDSTAR RECORDS)
キャラクターデザイン原案: ねむようこ
キャラクターデザイン/作画監督: 伊東伸高
美術監督: 大野広司
フラッシュアニメーション: アベル・ゴンゴラ、ホアンマヌエル・ラグナ
撮影監督: バティスト・ペロン
劇中曲/編曲: 櫻井真一 音響監督: 木村絵理子
制作プロデューサー: チェ・ウニョン
アニメーション制作: サイエンスSARU
製作: 清水賢治、大田圭二、湯浅政明、荒井昭博
チーフプロデューサー: 山本幸治
プロデューサー: 岡安由夏、伊藤隼之介
企画協力: ツインエンジン
制作: フジテレビジョン、東宝、サイエンスSARU、BSフジ
2017年 / 日本 / カラー / 107分
配給: 東宝映像事業部