- 2019-11-3
- 日本映画, 映画レビュー, 映画作品紹介, 第32回 東京国際映画祭
シネマ歌舞伎<第34弾>
『女殺油地獄』
油の滴る音の中、愛に飢えた不良少年が人殺しになる
十代目松本幸四郎襲名披露公演として大阪松竹座「七月大歌舞伎」で上演された『女殺油地獄』(おんなごろし・あぶらのじごく)がシネマ歌舞伎化!11月8日(金)より東劇ほか全国の映画館で公開される。
松竹撮影所で活躍する現役の監督やスタッフを多数迎え、公演本番時の撮影のみではなく舞台稽古や舞台上に上がっての撮影も実施!あらゆる角度から撮影した膨大な素材から選び抜かれたカットを使用し、『女殺油地獄』の世界をより深く、より鮮やかに描き出し、シネマ歌舞伎<第34弾>として新たに生まれ変わった。
《ストーリー》
大坂の油屋・河内屋の次男与兵衛(松本幸四郎)は、継父の甘やかしをいいことに放蕩三昧。その日も金をせしめようとするが、嘘がばれ勘当するとまで言われてしまう。借金返済の期日は迫り、同業の油屋・豊嶋屋女房お吉(市川猿之助)を頼った与兵衛。その懇願に一旦は耳を傾けた彼女だが結局「金は貸せない」と断ると、与兵衛の目の色がさっと変わる。
《見どころ》
大阪の油屋の息子が同業者の妻を殺したという実際の事件をもとに、1721年に初演されたこの作品は、密室で展開する殺人の生々しさがみどころだ。あまりに衝撃的すぎたか。当時は再演に至らず、再評価が始まったのは20世紀に入ってからだ。さらに衝動殺人が頻発する近年は、古典とは思えぬ現代性や犯人の微細な心理変化を追った描写が注目され、人気作品となっている。
今回は井上昌典監督がズームアップを多用することで「劇場」という空間を消し去り、「殺人現場」の迫力を引き出している。殺人鬼と化した与兵衛の狂気、幼な子を残しては死ねないと逃げまどうお吉の必死さ。暗い背景からチロチロと絶えず聞こえてくる油の滴る音も、臨場感をさらに高める。
与兵衛お吉に懇願したあの言葉は本心だったのか、それともウソか?走り去る与兵衛の行く末を考えさせられる物語である。
[ライター: 仲野 マリ]
シネマ歌舞伎『女殺油地獄』予告篇
映画作品情報
2019年11月8日(金)より東劇ほか全国公開!
公式Twitter: @cinemakabuki