宇治茶監督インタビュー
「アナログな感触と、心に残る恐怖を感じてほしい」
唯一無二の“ゲキメーション”の世界へ航海せよ!
1970年代以降忘れられていた、劇画とアニメーションを融合させたアニメーション技法、“ゲキメーション”。その“ゲキメーション”を現代によみがえらせたのが、京都在住の新進気鋭クリエイター・宇治茶だ。新作映画『バイオレンス・ボイジャー』は、日本での公開に先駆けて20を超える国内外の映画祭に出品、アルゼンチンの第20回ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭で審査員特別賞、カナダの第22回ファンタジア国際映画祭でアニメ部門の観客賞・銅賞を受賞するなど、その唯一無二の映像世界は世界各国で注目を集めている。
“史上初の全編ゲキメーション長編映画”として遂に日本公開を迎えた『バイオレンス・ボイジャー』について、監督、脚本、編集、キャラクター造型、作画、撮影すべてを一人で手がけた宇治茶監督に話を聞いた。
昔観たアメリカ映画への憧れを詰めこんだ念願の全編ゲキメーション作品、完成!
―― この映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください
前作『燃える仏像人間』(2013年)を作った後、プロデューサーの安斎さんと新作を作ろうという話がでました。『燃える仏像人間』は実写シーンもあって、安斎さんは今回も入れたかったみたいですが、僕はかねてからゲキメーションだけで80分上映の映画を作りたいと思っていたので、話し合いの結果実写パートなし、ゲキメーションのみという形になりました。僕としては念願叶った形です。
―― 本作の主人公ボビーはアメリカ人の少年ですね。
もともとアメリカ映画が好きで、子どもの時に見ていたホラー映画やリチャード・ドナー監督の『グ―ニーズ』(1985年)などの金髪の子供たちが活躍するような物語をやりたいなと思ったのが構想の原点です。最近はアメリカのSFホラーテレビドラマ「ストレンジャー・シングス」や映画『IT/”それ”が見えたら、終わり。』(2017年)といった作品など、僕と同じ位の時期に幼少期を過ごしたであろう監督さんたちの作品が増えてきており、それらの作品と共通するものがあると思います。
―― タイトルともなっている“バイオレンス・ボイジャー“は、物語の舞台となる娯楽施設です。
構想の最初から、娯楽施設の中で何かが起こる話にしようと考えていました。脚本を作るうちに変わっていったのですが、USJの“ジョーズ”やディズニーランドの“イッツ・ア・スモールワールド”のような、ボートで回るアトラクション施設をイメージしていました。その名残でボイジャー(航海者)という名前になっています。自分ではダサいタイトルと思っていて(笑)。この施設の創設者の古池が考えたということで、子どもが付けそうなダサい感じがキャラクターにも合っているかなと思います。
―― “たかし”や“あっくん”のような、個性的なキャラクター造形はどのように生まれたのでしょうか?
ホラー映画でいうところの“ジェイソン”や、スターウォーズの“ダース・ベイダー”のような、物語を象徴するようなキャラクターを作りたいという思いがあり、まず“たかし”というキャラクターを思いついて、そこからイメージが膨らみ、方向性が決まりました。あっくんのデザイン(メロンパンのような形の頭)は、キャラ付けとしてだけで、特に意味はありません(笑)。
―― 豪華な声優陣も魅力のひとつです。演じてもらっての感想やお願いしたことはありますか?
声優さんはあまり詳しくないので、プロデューサーの安斎さんにキャスティングをお願いしました。主人公のボビー役の悠木碧さんは、男の子役のイメージはなかったのですが、想像以上のお芝居で、作品の世界観を引っ張っていただけたと思います。ボビーの父・ジョージ役のココリコ・田中直樹さんや、ボビーの友達あっくん、弟やっくん二役を演じてもらったサバンナ・高橋茂雄さんなどは、僕の希望でお願いしました。
バイオレンス・ボイジャーの支配人・古池壮太役は田口トモロヲさんにお願いしたのですが、古池は僕が大好きな楳図かずおさんの漫画「神の左手悪魔の右手」の実写映画で田口さんが演じられていた悪役のキャラクターがイメージモデルとなっています。ですので、まさか田口さんご本人に演じていただけるとは思っていなくて、念願通りのキャスティングになりました。
ナレーションのダウンタウン・松本人志さんは僕自身大ファンで、以前お会いする機会があったときに『燃える仏像人間』を観てくれていて、「面白かった。何かできることがあったら言ってな」と言ってくださっていたので、ダメもとでお願いしたところ、引き受けていただけました。
―― 今回、爆破など大掛かりな撮影をされています。どのように撮影されたのでしょうか。
ゲキメーションは、カットごとに絵を描いていくしかないため、表情や動きが制限はされますが、ふつうの動画では大変なことでもイメージ通りに何でも表現できるのが魅力だと思います。燃やす場面は友達に車を出してもらって山奥に行き、絵を設置した裏に爆竹を仕込んで爆発させたりしました。紙の裏が見えてしまうような場面もあるのですが、そこで紙で動かしているというのが見えてしまうのが面白いかなと思い、ゲキメーションならではの味わいとして残しました。
前作『燃える仏像人間』でやり切れなかったところを意識してアップデート
―― 前作から、カメラワークなどの撮影技術が向上したように感じます。何か工夫したことや、変更した点があったのでしょうか?
撮影に関しては、前作でやりきれなかったところをアップデートしたいなというのがあって、すごく意識して、こだわりました。機材は少し良いものに変えたのですが、撮影方法自体は変わっていません。キャラクターなどのイラストの素材を使って、カメラを持って、時には固定したりして撮影しています。今回は動きを取り入れたり、新しい試みにも挑戦しています。
―― 前作と同様、人間の限界を超克したいという願望を科学の力で叶えようとするキャラクターが描かれます。作家としてのテーマ性やこだわりなどはありますか?
作品を作るとき、テーマは考えていなくて、SF的な設定をがっちり固めているということもありません。子どもの頃から好きだった『ロボコップ』シリーズやデヴィッド・クローネンバーグ監督の映画など、人体が改造されるようなシーンのある作品の影響はあるかと思います。ヒーローもののように、変身して元に戻れるというよりは、人体を改造してしまって戻れない、これからどうするんだろうという不可逆的な状態になってしまう展開が好きで…自分でも気づかないような小ネタとかにも、今までみてきた作品の影響はあると思います。
―― この作品は、自宅で一人で制作されたそうですね。
今は引っ越したのですが、この作品は京都の宇治にある実家の自室で、一人で制作しました。自分では意識していなかったのですが、最終的な編集を手伝ってもらった方も京都の伏見出身で、「山奥に冒険に出る感じが京都で育った感じが出ているね」とおっしゃっていました。僕の育った場所は京都市内から少し外れた周りが山に囲まれている盆地で、ボビーと同じように近所の山に友達と遊びに行ったりもしていたので、そういう土地が影響しているところがあるかもしれないですね。劇中に出てくる猿吉じいさんというキャラクターは、実際近所にいた自らを猿吉と名乗っていたおじいさんをモデルにしています。トンボを捕まえて食べるような、ちょっと変わったおじいさんでした。
あと、地元と言えばミュージシャンの岡崎体育さんは実家がすごく近くで、自分と同じように実家暮らしで作品を作っていらっしゃるということもあって、親近感を持っています。
―― 今後挑戦したいことはありますか?
今作りたいなと思っている作品の構想はあります。それ以外に、今は完全に一人でやっているので、もっとたくさんの人数で大きな規模の作品が作れたらいいなというのはあります。ただ、みんなで作るということをやったことがないので、人にどうやって指示したらいいかもわからず、難しそうだなと…。それと、ゲキメーションという手法自体、ストーリーものとしては1976年のテレビアニメ「妖怪伝 猫目小僧」以降作られていないので、僕の他にもやる人が出てきて、ゲキメーション自体がジャンルとして確立してくれるといいなと思います。今はデジタル技術や機器が発展していて、そのおかげで僕の作品もできたと思います。アニメよりは手軽かと思いますので、敷居はそんなに高くないと思います。
自分の原点でもある、心に残る恐怖体験をしてもらいたい
―― 最後に、これから観る方に向けてメッセージをお願いします。
前作が少し癖のある作品だったので、前作よりは観てもらいやすい作品になるよう意識して作りました。それでも怖い部分や気持ち悪いシーンも描いているので、沖縄で上映した時、お子さんなど途中で出てしまう人もいました。でも、そういう子どもの時に見た怖い経験ってすごく心に残ると思うんです。僕もそういう心に残ったものが、今こういった作品を作る原点になっていると思います。PG12のレーティングはついていますが、親御さんがいたら12歳以下でも観ることができるので、怖いものに興味がある、というお子さんにもぜひ見てもらいたいです。老若男女に観てもらいたいなと思います。
今のアニメはCGが主流で、セルアニメもあまりないので、アナログな感触を味わえる作品が少なくなっています。クレイアニメや『犬ヶ島』(2018年)のようなストップモーション・アニメなど、アナログな感じが好きな方にも楽しんでいただける作品になっているかと思います。意識的に前半は楽しい感じにして、後半はホラー要素が強くなってくるつくりにしました。個人的には後半が好きなので、ラストの戦いまで見届けてもらいたいです!
[インタビュー&スチール撮影: 金尾 真里]
プロフィール
宇治茶 (Ujicha)1986年生まれ。京都府宇治市出身。2009年京都嵯峨芸術大学観光デザイン学科卒業。 |
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映画『バイオレンス・ボイジャー』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》日本の山奥の村で暮らすボビーは、金髪マッシュルームカットが目を引く8歳のアメリカ人少年だ。ある日、親友のあっくんとともに隣の村をめざして村はずれの山にやってきた彼は、〈体感型アトラクション バイオレンス・ボイジャー〉と記された看板に好奇心を刺激され、その不気味な娯楽施設に足を踏み入れていく。ところが施設の運営者である中年男、古池は、地元の子供たちを生け捕りにし、ロボットのように変わり果てた息子の食べ物にするという悪魔的な所業を繰り返していた。施設内に閉じ込められたボビーは、そこでめぐり合った薄幸の少女、時子を救出するため捨て身の闘いに身を投じるが、その行く手には想像を絶する運命が待ち受けていた…。 |
製作: 吉本興業
配給: よしもとクリエイティブ・エージェンシー
© 吉本興業
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