映画『天命の城』ファン・ドンヒョク監督インタビュー
【写真】映画『天命の城』ファン・ドンヒョク監督

映画『天命の城』

ファン・ドンヒョク監督インタビュー

臣下に落ちての和睦か、徹底抗戦か。結論は観客にも考えてほしい。

イ・ビョンホンとキ ム・ユンソクをW主演に迎えた歴史大作『天命の城』が6月22日(金)より 公開された

1636年、1万3000人の朝鮮朝廷は清の軍勢12万人に包囲され、孤立無援のまま南漢山城に逃げ延びる。清の臣従に落ち、恥辱に耐えて民を守るのか。大義のために死を覚悟で戦うのか。ファン・ドンヒョク監督は朝鮮歴史上最も熾烈な丙子の役と呼ばれる闘いを取り上げ、5カ月にも及ぶ極寒の中でのオールロケ―ションを決行。国への忠誠を持つ家臣2人の異なる信念の闘いの末、王が決断を下すまでの47日間を描いた。

【画像】映画『天命の城』メインカット

公開に先立ち、ファン・ドンヒョク監督が来日。作品に対する思いについて聞いた。

答えは時代や状況によって変わる。作品を議論のきっかけに

―― これまで現代的な作品を撮ってきました。今回はなぜ時代劇なのでしょうか。

本作の原作はキム・フンのベストセラー小説「南漢山城」ですが、彼の娘さんが映画の製作にかかわっていて、彼女からオファーがありました。

実は、原作を読む前まで、私自身も丙子の役について、あまり詳しくは知りませんでした。学校でも深く習ったことがありません。というのも、歴史的には屈辱な部分ですから、韓国の方々も断片的な知識しか持っていないのではないかと思います。 原作を通して当時のことを詳しく知り、これを他の方々にも知らせたい、共有したい気持ちになりました。また、当時の国政状況が今の韓国とあまり変わらない事実に驚くとともに、非常に残念な気持ちにもなりました。この物語は、ただ単に昔の話で終わらせる内容ではありません。議論のきっかけとなるのではないかと思い、オファーを受けることにしました。

【写真】映画『天命の城』ファン・ドンヒョク監督

―― 監督は作品を通じて、生きることの大切さを伝えたかったのでしょうか。

映画に登場するキム・サンホンとチェ・ミョンギルのどちらが正しかったのか。結論を出すのではなく、観客に質問を投げかける物語にしたいと考えました。

もちろん、当時は降伏してでも民を救おうとしたチェ・ミョンギルの答えが正しかったのでしょう。しかし、答えは時代や状況によって変わると思います。いつの時代にもチェ・ミョンギルの選択が正しいとは限りません。

このような状況はいつどこでも起こりうること。個人の信念を追い求めた方がいい場合もあれば、後々のことを考えて、頭を下げた方がいい場合もあると思います。

同じような状況が起きた場合、どのような選択をすべきか。これを問い続けることで、悲しい結果を二度と繰り返さないようにしたい。そう思って、この映画を製作しました。ですから、答えそのものには特にこだわってはいませんでした。

【画像】映画『天命の城』場面カット4

―― 迫力と臨場感があふれる映画となっています。どのようなテクニックや技法を使ったのでしょうか。

今回はテクニックを使うというよりは、むしろ使わないように努めました。既存の韓国映画を観ると、過剰なほど多くのテクニックが使われています。例えば、ほぼ全シーンで音楽が入っていたり、過度なスローモーションが使われていたり。また回想シーンでは、ディゾルブ技法で過去を説明するなど、あまりにも様々なテクニックを使っている印象がありました。

本作では、このようなテクニックを徹底的に排除して、ストーリーカットのみで臨場感を出す。できるだけありのままに伝え、その場にいるような感覚を起こさせる工夫をするよう制作に臨みました。

【画像】映画『天命の城』場面カット5

機会があれば、ぜひ日本で映画を撮りたい

―― 作品に登場する鍛冶屋のナルセは、歴史に実在していた人物ですか。それとも、創作した人物でしょうか。

映画に出てくる鍛冶屋は、原作者のキムさんが実在人物であるソ・フンナムに基づいて作ったキャラクターです。映画の舞台となった南漢山城に住んでいた記録があり、戦争中、相手方に手紙を届けた功績で、後々賞を授かりました。南漢山城には彼を偲ぶ碑石が建てられています。

【画像】映画『天命の城』場面カット3

―― 大勢の人間や馬が出演するスケールの大きい映画になっています。撮影時に苦労したことはありましたか。

かなり苦労をしました(笑)。この映画には馬だけでなく、死んだ鹿や犬などの動物も出てきます。映画を撮る際に、「子どもと動物の撮影は避けろ」とよく言われますが、動物のコントロールは本当に難しかったですね。特に馬のせいで・・・。

馬は敏感な動物で、訓練されていないとコントロールが難しい。簡単なシーンを撮るだけでも長い時間を要しました。人が声を発するだけで動き出し、そのままずっと動いていているので、裏でスタッフが手綱を持って動かないようにしたこともありました。

北門で繰り広げられた騎馬隊と朝鮮部隊の戦闘シーンでは、馬60頭を一斉に走らせました。馬によって能力も状態も違うので思う通りにいかず、大変でしたね。しかも雪で道が滑る状態だったので、騎手が落馬したり、馬にぶつかる人もいたりしました。幸い大きなゲガはなかったのですが、人よりも馬で苦労されられました。今後は馬を大群で使う映画を避けたいですね(笑)。

【画像】映画『天命の城』場面カット6

―― 音楽監督として坂本龍一さんを起用した経緯をお聞かせください。

元々、映画の仕事をする前から『ラストエンペラー』を観て、坂本さんの音楽が好きでした。たくさんの映画音楽を手がけられていますし、もちろん映画以外の音楽も、とても素晴らしいですよね。

映画監督になるために留学した時に、機会があればぜひご一緒に仕事をしたいと思っていました。しかし、坂本さんは主にアメリカを拠点に活動されていたましたし、私も韓国で活動していたのでなかなかお願いする機会はありませんでした。

本作を製作する前に、『レヴェナント:蘇えりし者』を観に映画館に行きました。その時に坂本さんがガンの闘病を終え、久しぶりに映画音楽を手がけられたことを知りました。昔と変わらず素晴らしい音楽で、映画もよかったですね。

早速、アメリカにいる坂本さんのエージェントに連絡しました。幸いスケジュールが合い、韓国映画にも関心があったとのことで、快く引き受けていただきました。

【画像】映画『天命の城』場面カット2

―― 最近の韓国の映画界について、どのように思われていますか。

韓国における映画マーケットは観客数が増え、かなり飛躍的に発展しています。

韓国映画の観客数が増えることで、いい映画が作られ、収益が上がる。それとともに人件費を含めた制作費がどんどん上がっている。今後はさらに上昇する見込みです。

映画界の賃上げのための法律が作られることになりました。人件費が上がり、労働環境が改善されることはいいことです。しかし、このまま制作費だけが上がり、収益が下がってしまうと、製作可能本数は少なくなります。その結果、品質が偏ることが懸念されます。全体的にはいい状況ですが、決して楽観的ではないですね。

【写真】映画『天命の城』ファン・ドンヒョク監督

――次回作はまた、現代を描いた作品でしょうか。

いろいろな提案をいただいていますが、今のところ全く検討していません。シナリオも受け取らず、休憩している状況です。

シナリオは書いてはいますが、これは助監督をひとり立ちさせるためのもの。私の次回作ではありません。

【写真】映画『天命の城』ファン・ドンヒョク監督

―― 韓国と日本を題材とする。日本人俳優を起用する。こういった映画を撮ることに興味はありますか。

『トガニ 幼き瞳の告発』を公開してから、日本の映画祭に行ったり、日本でインタビューを受けたりする機会が増えました。来日しているときは「日本で映画を撮りたい」と考えるのですが、韓国に帰ると怠け心に負けてしまって・・・(笑)。

6~7年くらい前から、日本に仕事で行く度に、「日本語を習おう」と思うのですが、「ありがとう」のひとことがやっとです(笑)。

海外で映画を撮ってみたい気持ちはずっと前から持っていました。いい作品やいいモチーフに出会えれば、どこの国であっても、いつでも撮影をしたい。機会があれば、ぜひ日本で映画を撮りたいと考えています。

[インタビュー: 韓 臣恵 / スチール撮影: 坂本 貴光 / 構成: 堀木 三紀]

監督プロフィール

ファン・ドンヒョク (황동혁)

1971年生まれ。2007年『マイ・ファーザー』でデビューし、2011年『トガニ 幼き瞳の告発』で韓国社会に大きな衝撃を与え観客と評論家たちの注目を浴びたファン・ドンヒョク監督。2014年『怪しい彼女』で865万人を動員し老若男女すべての心を掴んだコメディ―感覚としっかりとした演出力をみせたファン・ドンヒョク監督が本作で初の時代劇に挑戦した。本作は70万部の売り上げを誇るキム・フンのベストセラー小説「南漢山城」を原作とし、1636年孤立無援の南漢山城の中での熾烈な47日間の物語を映画的に再構成した作品。

“二人の忠臣、チェ・ミョンギルとキム・サンホンの論争と彼らの葛藤を、今改めて振り返えるチャンスを作りたかった”と話すファン・ドンヒョク監督。 極寒の中で南漢山城をリアルに描くために徹底した時代考証とオールロケで、映像美と物語の完成度に精魂を傾けた。壮大な見どころと、時代劇でありながら現代人にも共感を呼ぶストーリー、俳優たちの強烈な演技の相乗効果を通じて重厚な余韻と感動を伝える。

Filmography

『怪しい彼女』(2014年) 演出 脚色 
『トガニ 幼き瞳の告発』(2011年) 演出 脚本
『マイ・ファーザー』(2007年) 演出 脚本

受賞歴

2017年 第38回 青龍映画賞 脚本賞 『天命の城』
2017年 第37回 韓国映画評論家協会賞 監督賞、最優秀作品賞 『天命の城』
2015年 第18回 ファンタジア映画祭 ベストアジア映画 金賞『怪しい彼女』
2014年 第6回 沖縄国際映画祭 ピース部門 グランプリ『怪しい彼女』
2012年 第14回 ウディネ極東映画祭 観客賞『トガニ 幼き瞳の告発』
2012年 第10回 言論人権賞 特別賞『トガニ 幼き瞳の告発』
2011年 韓国障害者人権賞委員会賞 人権媒体部門『トガニ 幼き瞳の告発』

映画作品情報

【画像】映画『天命の城』ポスタービジュアル

《ストーリー》

1636年(仁祖14年)12月14日、清が朝鮮に侵入。「丙子の役」の勃発である。
清の12万の大軍が攻撃してくると、王と朝廷は南漢山城に隠れるが、敵兵に囲まれて城の中に孤立してしまう。 敵軍に完全包囲された絶体絶命の状況の中、朝鮮の未来を見据えた大臣たちの意見は激しく対立する。
平和を重んじ、国と民を守るために、清と和睦交渉を図るべきだと考える吏曹大臣のチェ・ミョンギル(イ・ビョンホン)。清と真っ向から最後まで戦い、大義を守るべきだと考える礼曹大臣のキム・サンホン(キム・ユンソク)。

主和派と主戦派。ふたりの意見の対立に挟まれ、王・仁祖(パク・ヘイル)の葛藤は深まる。軍事力は圧倒的に劣勢。そして、清が示した和親の条件は、王の息子・世子を人質に送れというものだった。サンホンたち主戦派はこの条件に猛反対し、城近くにいる兵たちを集めるべきだと主張する。だが城外の近衛兵たちに応戦を呼びかける檄文の手紙を届けるためには、敵の陣地も通っていかねばならない。
任務を受けた兵の一行は、敵軍に襲われ、乱戦で多くの命を失う。
民も馬も弱っていく城内。やがて城を囲む敵の数は増え続け、敵陣の包囲網は狭まり、檄文が届くかどうかの懸念も高まっていく。

サンホンは最後の作戦を提案。近衛兵と時を合わせ、開城して内外から同時に攻撃すれば、勝つのは不可能ではないと。城内の食料は残りわずか。近衛兵を召集する檄文が正月15日までに届かなければ限界である。
新たな檄文の手紙を届ける重大な任務に、サンホンは軍師ではなく、その誠実さに信頼を置く鍛冶屋ナルセ(コ・ス)を指名した。そんな折、清の皇帝ホンタイジが清軍の陣地に到着し、朝鮮王朝に対して全面降伏を迫る。 降伏など受け入れられるはずがない、と要求を跳ね除けるサンホンたちに対し、無益な戦いを避けるべきという考えを貫くミョンギルだけは「逆臣」と謗られるのを承知で降伏を薦める。「王様、彼らの言う大義と名分は、いったい何のためですか? まず生きてこそ、大義と名分があるのでは」抗戦か、降伏か。鍛冶屋ナルセは無事に檄文を届けることができるのか。果たして朝鮮王朝の運命は――!?

 
監督: ファン・ドンヒョク
出演: イ・ビョンホン、キム・ユンソク、パク・ヘイル、コ・ス
音楽: 坂本龍一
配給: ツイン
2017年 / 韓国映画 / 139分 / カラー / シネスコ / 5.1chデジタル / 字幕翻訳:根本理恵
©2017 CJ E&M CORPORATION, SIREN PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
 

2018年6月22日(金)より、
TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!

映画公式サイト

公式Twitter: @movietwin2
公式Facebook: Tenmeinoshiro6.22roadshow

この記事の著者

ほりき みきライター

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。

主に映画監督を中心にインタビューを行っており、これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、阪本順治、岸善幸、篠原哲雄、大九明子、入江悠、本広克行、荻上直子、吉田照幸、ジョン・ウーなど。

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