井上雅貴監督インタビュー
少数精鋭で製作した日本人監督によるロシアSF映画、待望の東京再上映!
2016年11月、渋谷ユーロ・スペースでの公開を皮切りに、全国で反響を呼んだ映画『レミニセンティア』。メインスタッフは日本人監督、助監督、ロシア人プロデューサーの3人という少数精鋭で製作された。全篇ロシア語、撮影ロケもすべてロシアという“ロシアSF映画”が、満を持して、東京で再上映される。
5月13日(土)より大手シネコンのユナイテッド・シネマ アクアシティお台場で上映される本作への熱い思いを、井上雅貴監督に聞いた。
―― ロシアSFというジャンルは斬新だと思いました。
まず、この映画はロシアで撮影するということが前提にあり、それに合わせたものを作りたいと思いました。「日本人が作ったロシア映画だ」と思われるのは絶対に嫌で、ロシア人が観て面白い「ロシア人が作った映画だね」と言われるようなものを作りたかったんです。
ロシアには“ファンタスチカ”という映画のジャンルがあります。SF(Sience Fiction)のことですね。でも、いわゆるアメリカやヨーロッパの未来的なSFではなくて、どちらかというと非日常的という意味合いの強い、普通の話とはちょっと違うというのが“ファンタスチカ”、つまり“ロシアSF”です。
また、テーマとして“記憶”があるのですが、なぜそれを選んだかというと万国共通だからです。家族や男女関係の話は、それぞれの文化がないとわからないところがあるじゃないですか。どういう形であればスケール感が出るか、皆が面白いと思ってもらえるのかを大切にしました。
―― ストーリーはどのように作られていったのでしょうか?
大まかなストーリーは日本で考えていきましたが、テーマ以外はどんどん変えていきました。役者たちによってキャラクターはどんどん変わっていきましたし、ロシア人の好きなものを理解し近づきたいと思っていましたから、現地の人の意見もどんどん取り入れました。
ロシアの人たちは、映画への尊敬の念がものすごく強いんです。映画に何の関係もない一般の人が「わたし暇だから手伝うよ」と言ってくれます。
日本だったら何かと許可が必要になること、駄目だと言われそうなこともロシアではOKだったりします。例えば、劇中で有名な宇宙開発センターが出てきます。これは当初の台本にはありませんでした。有名な所だし、まさか無理だろうと思っていたらロシア人に言われたんです。「なんであそこで撮らないんだ」と。「だって無理だろう」と返すと「なんで無理なんだ」と不思議がられて。蓋を開けてみると全然駄目なんかではなくて、むしろ営業時間内にだって撮って構わないと言ってくれました。
ロシアでは、現地の人々の助けによって色んなシーンが撮れましたね。そういった細かい所で入ってくる様々な場所でのシーンは、この作品のクオリティを上げることに一役買っていると思います。
―― タイトルの『レミニセンティア』には、どのような思いが込められているのでしょうか?
レミニセンティアはラテン語で「おぼろげに思い出す記憶達」といった意味合いの言葉です。日本人があまり馴染みのない、不思議な感覚を味わうのに最適な言葉だと思いタイトルにしました。正確にはレミニセン“ツィア”で、ロシアでは日常的に「レミニセンツィアだね」といったように使います。日本的にいうなら「記憶違いだね」でしょうか。詩的な言い方を好むロシア人らしい表現です。
―― 劇中で特にタイトルの説明はないようですね?
それはこの作品全体に言えることかもしれません。後でわかる、何回か観てはじめて理解し、面白いと思ってもらえる作品を作りたかったんです。少しいじわるとも言えるかもしれませんね(笑)実際に「2、3回観てはじめてわかりました」「こうやって考える映画を久しぶりに観れました」という声をいただくことがあります。
―― 要所、要所で鳴る「ブーッ」という玄関のブザー音が印象的でした。
ああ、あの嫌な音ですね。あれはソ連時代のブザーの音なんです。ソ連時代って、あまり人への優しさといったことには気を配らず、実用性ばかり考えているんですよね。ブザーの音も気にしないというか。あの音はロシア人も嫌なんですよ。現地で僕自身、あのブザーの音が嫌だと思ったし、ロシア人もあの音は嫌だと言っているのを知って、印象的に使いたいと思ったんです。ロシア人がこの映画を観たら「ああ、あれはソ連時代の音だね」ってわかる(象徴のような)ものでもあります。せっかくなので、リアルな音で非日常的な世界を描きたいと思ったんです。
この映画はSFですが、CGなどはない非常にアナログな作品です。中心に映している旧ソ連の街並み・遺産は、教会など歴史的な建物ではない(日常的なもので)不思議な雰囲気がいつも漂っています。そういった所を中心に映画が展開すれば、この映画をリアルなこととして感じ取ってもらえるのではないかと思ったんです。
映画って体験なので、ストーリーを感じるだけの映画ではなく「あれ?これって何だろう」どういう意味なのかなって考えることでより面白くなる映画を作ってみたかった。僕自身、これってどういう意味なんだろう、と思える映画が好きで。最近の映画はわかりやすくなきゃいけない、という傾向が強いので、そうではない映画にしたいと思いました。
―― 多くがロシアの俳優陣の中で、主人公ミハエルの娘ミラーニャはアジア人ですね。
彼女は実の娘なんです。ロシア人の妻と日本人の僕のハーフですね。設定として、ミラーニャは主人公のミハエルの娘ではあるのですが、見る人によってはまるで親子には見えない不思議さが結果的に出せたと思います。ロシアの人は、家族で映画を作ることが多いので、作り方自体もロシア的でいいかなと思ったんです。
『レミニセンティア』はスタッフ3人で作り、助監督は弟、妻がプロデューサー、監督を僕がやりました。本当の意味での自主映画ですね。ヒロインとして娘が出演していますし、実は男の子が一人出てくるのですが、彼も僕の子どもです。予算の面もありますが、少人数でここまでできるというという証明になると思いました。
―― これから映画を見る方に一言お願いします。
純粋に、楽しめる映画を作ったつもりです。ロシア語の映画ということで、興味が湧かない方もいるかもしれませんが、これはエンターティメントの作品でもあります。まずは観てください。また、観た後に色々思うこと、考えることのできる作品だとも思っています。何度でも楽しめる作品ですので、ぜひ観てください。
インタビューを終えて
井上監督は「自分一人が作るものには限界がある。せっかく映画を作っているなら色んな人の意見をきいて取り入れたいと思う」と語ってくれました。著者は、映画『レミニセンティア』を観た時、なんて不思議で美しい映画なのだろうと思いました。その理由の一つは、そうした監督の柔軟な姿勢によるものかもしれません。一度目はもちろん、二度三度と観ることで、当初は気づかなかった新たな楽しみ方ができそうです。
[撮影・編集: Cinema Art Online UK]
動画メッセージ
井上雅貴監督からシネマアートオンラインをご覧の皆様へメッセージ頂きました。
監督プロフィール
井上 雅貴 (Masaki Inoue)1977年、兵庫県生まれ。日本工学院専門学校、映画科にて16 mmの短編映画を製作し始める。卒業後、MVビデオ、CM、TV番組などのディレクターをつとめ、2005年に有限会社INOUE VISUAL DESIGNを設立。映画編集として石井岳龍監督の「DEAD END RUN」「鏡心」に参加。メイキング監督として、「スカイハイ」「最終兵器彼女」「ラフ」「ディアフレンズ」「犯人につぐ」「腑抜けども、悲しみに愛を見せろ」「シャカリキ!」「しあわせのかおり」「きみの友だち」「毎日かあさん」「深夜食堂」など数々の映画作品に参加。映画制作のノウハウを多方面から学ぶ。 |
映画『レミニセンティア』 予告篇
映画作品情報
《ストーリー》レミニセンティア = 記憶の万華鏡 ロシアのとある街の郊外、小説家のミハエルは愛する娘ミラーニャと二人でひっそりと暮らしていた。彼の元には悩める人々がやってくる。
「私の記憶を消して欲しい」
ミハエルは人の記憶を消す特殊な能力を持っていた。小説のアイデアは彼らの記憶を元に書かれたものだった。そんなある日、娘との思い出の一部が無いことに気づく。過去が思い出せず、悩み苦しむミハエルは教会に行き神に祈る。すると、見たものすべてを記憶する超記憶症候群の女性マリアに出会う。彼女は忘れることが出来ない病気に苦しんでいた。そして、ミハエルと同じく特殊な能力も持っていた。その能力とは記憶を呼び起こす能力だった。ミハエルは彼女に取引を持ちかける。「記憶を消すかわりに、娘との記憶を取り戻して欲しい」彼女の能力によりミハエルは記憶のはざまへと落ちて行き、そこで、衝撃の真実を知ることとなる。
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出演: アレクサンダー・ツィルコフ、井上美麗奈、ユリア・アサードバ ほか
2016 / 日本 / 89分 / STEREO / 16:9 / ロシア語
© NOUE VISUAL DESIGN
劇場公開日: 2016年11月12日
2017年5月13日(土)より
ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場にて東京再上映!
全国順次公開中!
公式Facebook: @reminimovie