首藤凜監督 インタビュー
主演・山田杏奈の“意識外”の魅力
強く意識したのは“愛をどう面白く見せるか”
高校3年生の木村愛は、クラスでも目立つ華やかな存在。常に友人に囲まれ男子にも不自由しない愛が、その姿を見ただけで胸を苦しくさせるほど恋焦がれているのは、同じクラスの西村たとえ。だが彼には誰にも知られていない“秘密の恋人”・新藤美雪がいた。2人の揺るがない絆を知った愛は、美雪に急接近。いびつでエキセントリックな三角関係は、思いもよらない方向へ走りはじめる――。
芥川賞受賞作家・綿矢りさの傑作恋愛小説「ひらいて」が衝撃の映画化!荒々しさと繊細さが共存する少女が美しくもポップに描かれる、新感覚・乱反射する少女の愛憎エンターテインメント作品、映画『ひらいて』が10月22日(金)に全国公開される。
主人公・愛を演じるのは、『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020年)、『名も無き世界のエンドロール』(2021年)、『樹海村』(2021年)、『哀愁しんでれら』(2021年)と話題作に立て続けに出演、加えて12月3日(金)公開の映画『彼女が好きなものは』にも出演が決まっている注目の若手女優・山田杏奈。
愛が思いを寄せるたとえを、人気急上昇中のアイドルグループHiHi Jets(ジャニーズJr.)のメンバー・作間龍斗が演じ、たとえと密かに交際する美雪を主演作『ソワレ』(2020年)での熱演も記憶に新しい芋生悠が演じる。
そして、監督・脚本を務めるのは、10代の多感な時期にこの原作と運命的に出会い、以来「この映画を撮るために監督になった」と公言している首藤凜。映画『また一緒に寝ようね』(2016年)が、第38回ぴあフィルムフェスティバル(PFFアワード2016)で審査委員特別賞と映画ファン賞(ぴあ映画生活賞)を受賞。話題のオムニバス映画『21世紀の女の子/I wanna be your cat』(2018年)でも注目を集めた新進気鋭の映画監督である。
念願の原作の映画化で長編映画監督デビューを果たした首藤監督に、作品に懸ける熱意や、小説を映像に昇華させる上でこだわり抜かれた脚本と演出、主演の山田杏奈について話を聞いた。
ついに叶った『ひらいて』映画化の野望
首藤監督が原作小説「ひらいて」に出会ったのは、17歳の冬。好きな人に好かれるという恋愛の形からはみ出した世界観、思ってもみない方向から人が人に受け入れられる物語に感銘を受けたという彼女は、「この映画を撮るために生きてきた」という。
首藤監督「21歳のときに、2016年に第38回ぴあフィルムフェスティバル(PFFアワード2016)で賞をいただいて、スカラシップで映画を撮ってコンペに出せるという権利をいただいたんです。そこで一番最初に『ひらいて』の企画を出しました。原作者の綿矢りささんにもお手紙を書いてアプローチをしたところ、口約束のような感じでしたが『撮れることになったら撮っていいですよ』と言ってくださって。(オリジナル作品以外認められなかったので)そのときは実現しなかったものの、『綿矢さんは撮って良いと言ってくださったし!』と勝手にずっと思い続けていました。コロナの影響や予算のこともあって撮れるかどうかわからない期間が長くて、制作権を他に取られてしまうのがすごく怖かったので、撮れると決まったときは本当に安心しました」。
“観客が目撃するメディア”で愛をどう面白く見せるか
作品に出会ってから、脚本を書き続けていたという首藤監督。自身も原作の熱狂的なファンであり、また“原作を忠実に再現する”ことに重きを置かれる映画も多い中、映画『ひらいて』には原作にないシーンも多く見られた。そんな映画化の形を選んだ彼女が強く意識したのは、“(小説とは違って)役者がいる”ということの意味、そして“愛という人物をどう面白く見せるか”だった。
首藤監督「例えば、美雪視点と愛視点で入れ替わるものだったり、(当初は)原作ともっと違うバージョンの脚本を考えていたこともありました。私としては、最終的には結構原作に忠実になったかなと思っています。原作は一人称で進む激白的な物語になっていますが、映画という“観客が目撃するメディア”で愛という人物をどう面白がってもらえるかというのは脚本を書く際すごく考えました。また(映画には)小説と違って役者さんがいるのでその意味も考えつつ、この作品は“愛が心をひらいて、美雪が身体をひらいていく”お話なので、この心と身体の繋がりというのはかなり意識しました」。
“心と身体”の話を描く上で重要になってくるのは、愛と美雪のベッドシーン。初めて2人が関係を持つシーンには特に注目してほしいそうだ。
こだわり抜かれた演出
映像と音のある“映画ならでは”のシーンも!
愛たちのクラスの文化祭の出し物(展示)の壮大な“折り鶴の木”は首藤監督こだわりのビジュアル演出。ほか、冒頭のダンスシーンや愛と美雪のカラオケシーンなど、映像と音のある“映画ならでは”の演出が随所に見られる。
首藤監督「原作で、愛はずっと鶴を折っているというのがあって。実際折ってみると内にこもっていく感じもしますし、それをまたほどいてひらいたり…。“折り鶴”っていうのはすごく良いなと思って、これは映画にも入れたいなと。なのでその鶴をビジュアルとしてどう活かすかにはかなりこだわって、あの“折り鶴の木”が生まれました」。
予告編映像の冒頭にも映される、愛がセンターでダンスを練習しているシーンも印象的である。
首藤監督「(映画の)ファーストシーンがしっとりした入りをするので、急に雰囲気が変わって“ドローンで入る”というのをすごくやりたかったんです。ダンスのシーンになっていますが、私が学生のときは文化祭で学年の可愛い子たちがAKB48などアイドルのダンスを踊っていて、誰がセンターだとか結構色々あったりしていて(笑)。なのでこのシーンも日向坂46だったり坂道グループを参考にして、劇中歌「夕立ダダダダダッ」も坂道グループの曲を作っている小田切大さんにお願いしました。歌詞もそれっぽく書いていただきましたが、よく聴くとちゃんと『ひらいて』の話をしているという風にしていただいて、ありがたかったですね。このシーンで“愛がこの学校でどういう立場なのか”がわかると思いますし、ビジュアルですぐ『この子(愛)はセンターだけど、楽しくなさそうに踊っているな』というのが伝わるといいなと思って(冒頭にダンスのシーンを)入れました」。
また本作には愛と美雪のカラオケシーンも。2人それぞれの“らしさ”が出る選曲と、カラオケ独特の謎の緊張感、リアルな空気感が映されている。
首藤監督「例えば𠮷田恵輔監督の映画『机のなかみ』(2007年)だったり、色んな映画のカラオケのシーンが大好きで。スクールカーストで違うところにいる女の子同士でカラオケに行って、曲の趣味が合わない感じだとか、緊張して歌う感じだとかを映したいなと思って入れたシーンです。(2人が歌っている曲は)愛らしい曲(あいみょん「ふたりの世界」)、美雪らしい曲(JUDY AND MARY「散歩道」)を選んでいます。ここはすごく楽しかったです(笑)」。
山田杏奈は「意識外の部分が面白い」
キャスティングについて、愛役は達観していない10代の若い役者に演じてもらいたいという首藤監督の希望があった。実際に愛を演じた山田杏奈は撮影当時10代だったといい、“10代最後のメモリアル的作品”にもなっている。
首藤監督「山田さんは芸歴も長くて、基本的にとてもしっかりしていて大人びた方という印象ですが、たまにものすごく眠そうなときがあったり、クランクイン前にPCR検査を受けた際、自分の検査が早く終わったことをなぜか少し自慢げにしていたりとお茶目なところもあって(笑)。そういうたまに無意識ではみ出してくるところがすごく面白くて、可愛い方でした。山田さん演じる愛は自分で自分を演じている子なので、そういった意識外の“アンコントロールな部分”が見えてくると面白いし、そういうところが映るといいなと思っていました」。
意識外の部分に山田の魅力を感じた首藤監督は、続けて山田の“顔”についても絶賛。
首藤監督「山田さんの顔は、役者としてすごく“面白い”。顔の筋肉の動きが面白いというか、撮る角度によって全く違った表情に見えるんです。すごく幼くも見えるし大人っぽくも見えて、そういう意味でちぐはぐな顔をされていて、キャリー・マリガンさんみたいだなと思います。特に本人の“意識外の顔”は面白くて、ずっと見てしまうという感じでした。例えば、山田さんは自転車に乗るのが苦手だったのでそのシーンは(役というより)自転車に集中していたと思うのですが、そのときの顔とかですね。ちなみに自転車は撮影期間中で少し上達していました(笑)」。
そんな山田にとって、今回演じた愛は“理解できない存在”。首藤監督の「わからないまま演じてほしい」という要望を受け入れ、見事に応えた山田には監督もやはり感心するよりほかはなかった。
首藤監督「山田さんはしっかりした方なので『監督の思う“愛”像を演じたい』というのがおそらくあって、そこにはずっと葛藤があったのではないかと思います。それでも山田さんは途中から“わからないまま演じる”ことも受け入れてくださって、すごい役者さんだなと思いましたね」。
“世代の人”にも“世代ではない人”にも
「面白がって観ていただきたい」
人生で色々なことが起こる前に「ひらいて」に出会い感銘を受け、「自分にもいつかこんなことが起きるのかもしれない」と予感したという首藤監督。そんな若い世代にはもちろん、そうではない人にも観てほしいと語った。
首藤監督「もともとは私が原作に出会ったくらいの若い世代の方に特に観てほしいと思って作っていました。ですが制作していく中で関わったいわゆる“おじさん世代”の方から、すごく変わった感想も聞けたりして(笑)。なので“世代ではない人”にも面白がって観ていただければ嬉しいです」。
圧倒的熱量で映画化を実現した首藤監督。“面白さ”を際立たせる、映像ならではの脚本や演出が光る渾身の一作を是非劇場で。
プロフィール
首藤 凜 (Rin Shuto)1995年、東京生まれ。早稲田大学映画研究会にて映画制作をはじめる。2018年、テレビマンユニオンに参加。『また一緒に寝ようね』(2016年)がぴあフィルムフェスティバル2016で映画ファン賞・審査員特別賞を受賞。初の長編映画『なっちゃんはまだ新宿』(2017年)はMOOSIC LAB2017で準グランプリ・女優賞・ベストミュージシャン賞の三冠に輝き、劇場公開された。その後、山戸結希監督プロデュースのオムニバス映画 『21世紀の女の子/I wanna be your cat』(2019年)に参加。WOWWOWオリジナルドラマ「竹内涼真の撮休」(2020年/廣木隆一監督作)、『欲しがり奈々ちゃん~ひとくち、ちょうだい~』(2021年/城定秀夫監督作)では脚本を担当している。 |
映画『ひらいて』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》高校3年生の愛(山田杏奈)は、成績優秀、明るくて校内では人気者。 彼はクラスでも目立たず、教室でもひっそりと過ごす地味なタイプの男子。だが寡黙さの中にある聡明さと、どことなく謎めいた影を持つたとえに、愛はずっと惹かれていた。 しかし、彼が学校で誰かからの手紙を大事そうに読んでいる姿を偶然見てしまった事で事態は一変する。 手紙の差出人は、糖尿病の持病を抱える地味な少女・美雪。その時、愛は、初めてふたりが密かに付き合っていることを知るのだった。それが病気がちで目立たない美雪(芋生悠)だとわかった時、いいようのない悔しさと心が張り裂けそうな想いが彼女を動かした―。「もう、爆発しそう―」 愛は美雪に近づいていく。誰も、想像しなかったカタチで・・・。 |