Netflixオリジナルアニメーション作品『HERO MASK』青木弘安監督インタビュー
【画像】Netflixオリジナルアニメ『HERO MASK』PartⅡ 場面カット

オリジナルアニメーション作品 『HERO MASK』ロゴ

青木弘安監督インタビュー

肝を据えて新たな発明をすることへのチャレンジができたアニメ作品に

謎のマスクを巡って、次々と起こる凶悪事件。刑事ジェームズが真相に迫る度、次々と関係者、証拠が消されていく!!美しき街を舞台に、壮大なスケールで描くNetflixオリジナルアニメシリーズ『HERO MASK』Part1が、2018年12月3日(月)よりNetflixにて全世界独占配信され、大反響を巻き起こした。その続編であるPart2が8月23日(金)より全世界独占配信となった。

Part1に引き続き、Part2でもメガホンをとった青木弘安監督に話を聞いた。

「リアルなヒーローものをやりたい」から始まった

—— この作品の監督を手掛けることになった経緯についてお聞かせください。

スタジオぴえろのプロデューサーから「リアルなヒーローものをやりたいんだけど」というお話を受けたのがきっかけで、それ以外はぶっちゃけて何も決まっていないところからスタートしました(笑)。 プリプロ(Pre-Production)から放送までかなりかかった作品ですが、最初はどういう話にするかについてひたすら練り続けていき、組んでは壊すという作業の連続でした。純粋なヒーローものの一つにヒーローが巨悪に向かうという図式はあるけど、今は時代性もありますがそれ自体がなかなか成立しづらくなっているなと。

「明確な悪」を設定できない時代になっているという議論がありました。洋画でも『アベンジャーズ』シリーズが始まった時期でしたし、DCも2016年に映画『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』が公開されましたが、そこではヒーロー同士の主義主張の相違による対立があります。そこで、「明確な悪」をなかなか描けないならば、「人々の主義主張が違う」点を描こうという流れになり、今の形になりました。

【画像】Netflixオリジナルアニメ『HERO MASK』PartⅠ 場面カット

リアルと無国籍感のバッティングをどう解決するかを意識

—— 全世界同時配信という事で、宗教や人種の違いなどデリケートな面も意識して製作されたのでしょうか。

宗教、人種に関しては意識して製作に臨みました。例えば海外版実写ドラマですと人種問題に触れていなくても、白人しか出演していなければ黒人に引っ掛かりが出るといったような“気になるコード”が出てきます。しかし今作は明確な人種設定をしていない為に、そういったコードを排除して物語を見せることができる。これはアニメーションというメディアの強みだと思っています。無国籍感を出せますし、ほのかに匂わせることもできます。

舞台設定も明言していませんが、観る人によってはわかる。「リアルさを出す」という事も今作におけるテーマでしたが、リアルと無国籍感は結構バッティングすることがあって、こと宗教の面でいうと切り離せないシーンも物語に出てくるわけです。

今作ですと重要なキャラクターの葬式のシーンがありましたが、この世界観の中で最も自然な葬式のあり方を選びました。場の雰囲気として教会でキャラクターがやりとりしているとすごく良い雰囲気は出ますが、そこの場にあまり意味が出てしまうようであればやめようと。「マスクを中心として人々がそこに振り回されていく様」というのがストーリーの大筋なので、なるべくその他の問題には触れず、気にならない形にしようと努めました。

【画像】Netflixオリジナルアニメ『HERO MASK』PartⅠ 場面カット

どの国で観ても海外版の吹き替えを観ている感覚を与えられたら

—— 本作のジャンルはクライムアクションということで、監督がお好きな海外作品やクライムアクション作品があれば教えてください。

映画は『ボーン・アイデンティティ』(2002年)を始めとするボーンシリーズが好きですね。小説は海外ミステリー作家のロジャー・ホッブスの「時限紙幣」やジョー・イデの「IQ」などが好きです。

今作の芝居のシーンに関しては、日本映画も好きなので鈴木清順さんの会話シーンの濃密さなどは参考にしています。アクションはかなり刻んで作りましたが、会話シーンはねっとりした編集を心がけました。あえて抜けた部分を作ったり、過剰に環境音を立てたり、何かありそうな感じだけど説明しすぎないような、シーンの意図をパッと一言ではわからないような感じで作りました。ですので、とても独特な時間の流れ方をしていると思います。声優さんたちの演技力も素晴らしかったですし、無国籍感を意識して製作したので、どの国の方が観ても、海外版の吹き替えのような感覚でこの作品をご覧いただきたいです。

【画像】Netflixオリジナルアニメ『HERO MASK』PartⅡ 場面カット

主張のない、理不尽な存在がいるのが世界だと思う

—— 思い入れのあるキャラクターを一人挙げるなら誰ですか。

一人挙げるならライブ社のボスであるスティーブン・マートランドですね。最初に「明確な悪」は設定しにくいと言いましたが、彼はそれに近い存在です。今作はキャラクターの一人一人がマスクの使い方を象徴する役割があり、大切な人の病気を治すためにマスクを使うキャラクターもいれば、単純に暴力に使うキャラクターもいます。マスクはそれぞれの使い方によってはすごく良いものになりうるし、一方で混乱を引き起こす代物にもなるわけです。

主人公のジェームズだけが様々なマスクの面を目の当たりにする視聴者に近い存在で、観る人の立場によってマスクの印象が変わってくるわけですが、スティーブンはどのキャラクターとも違っていて、彼のサイドエピソードを描いていないこともあり、過去にどういうことをやってきた人物なのかがわからない。本編でその片鱗は垣間見えるのですが、概ね最期まで謎のキャラクターに映るわけです。だから彼に共感できる視聴者はあまりいないんじゃないかなと思います。

わかりやすい存在だけじゃなくて、一つの理不尽みたいなものが存在しているのが世界だというイメージもあって、彼はそれを象徴するキャラクターで、僕個人としては惹かれるものがありすね。彼のようなキャラクターを持ってこれたというのが今作の挑戦としては面白かったなと思っています。

【画像】Netflixオリジナルアニメーション作品 『HERO MASK』PartⅡ キャラクター相関図

—— ファンからいただいた声に関してお聞かせください。

直接僕に届いている反応というものは少ないのですが、ネット上でのコメントなどは見ています。今回Netfilixオリジナルでの配信なので、日本と海外が同時に配信スタートしたわけですが、海外からの視聴者の反響が日本以上に多いですね。今作は普段海外ドラマしか観ませんという方にもご覧いただきたい。海外の方の方が日本よりも顕著に、観るジャンルを決めている方が多い印象があります。普段アニメは観ない方も楽しんでいただけたり、同じく批判もいただきました。批判をいただくのも僕は大事だなと考えています。

【画像】Netflixオリジナルアニメ『HERO MASK』PartⅡ 場面カット

1話につき最大700カットものカット割にした理由

—— 面白かったコメントがあれば教えてください。

面白かったコメントは「カット割り」に関してなのですが、カット割りの数の多さを面白がっている視聴者の方もいらしたり、議論してくれる方もいらっしゃいました。1話毎にカット数を数えている方までいらっしゃったり(笑) 。一番多い回で700カット以上ありました。一般的な作品は300カット前後なので倍以上ですよね。

何故、今回倍以上のカット割りをしたかというと、Netfilix配信ということで、スマホでご覧になる方が多いと思ったので、情報量のコントロールをする為です。どこを観ていいかわからないというのを無くすべく、言いたいことは全て1カットで収めるようにしました。「観るべきは顔の表情だ」と。その為に引きの画を減らしてゆき、アニメーターの超絶作画に頼らずとも勢いのあるアクション演出ができるということもあり、必然的にカット数を増やしました。

見づらいという批判もありますが、あえて見づらくしている部分もあります。自分の意図通りに汲み取ってくれる部分と、「あ、そういう見方もあるのか」といったような様々な反応を、ツイッターなどのSNSでリアルタイムに知ることができるので面白いですね。

【画像】Netflixオリジナルアニメ『HERO MASK』PartⅡ 場面カット

—— 製作にかけた時間はやはり長い方なのでしょうか。

とても長いです(笑)。リアルなヒーローものの作品は本当に難しかったですね。でも、このジャンルは業界全体では増加傾向にあり、昔よりは作りやすい。それでもオリジナル作品が消費されていって、どんどん埋没されていく状態はあまりよろしくないなと思います。Netfilixさんは長いこと置いておいてもらえる。作品を製作する以上は長い期間を通して観てもらえる作品にしたいですし、多少時間がかかっても新しい試みを取り入れた作品にしたいという想いで作りました。

【画像】Netflixオリジナルアニメ『HERO MASK』PartⅡ 場面カット

作品のエッジを殺さず、批判を恐れず肝を据えた作品づくりが出来た

—— 青木監督だからこそできたという部分などがありましたら教えてください。

そこに関しては僕は運が良かったと思っています。まずカット割りの数にしても、本当だったらできないところをプロデューサーが良しとしてくれたのがありがたかったです。

ただ「やっていいよ」と言われても踏ん切りのつかない方も多いと思いますが、批判を恐れて作ってしまうとどんどん一般化してしまうというか、作品のエッジが削ぎ落とされてしまうのが一番怖かったです。今作は内容がわかりづらいという視聴者もいると思いますが、キャラクターのバックボーンをいろいろと想像できる余地がかなりあって、そこに批判を恐れず肝を据えることができたこと、そういうスタイルでやるという判断を下せたのが、僕がやって面白いことだなと思っています。

プロデューサーから、「なんとかするから」と言ってくれたのが嬉しかったですね。「なんならもっとやっちゃえよ」と言ってくださったぐらいで(笑)。

【画像】Netflixオリジナルアニメ『HERO MASK』PartⅡ 場面カット

常に何らかの発明をする作品づくりをしていきたい

—— 次回作でやってみたいことはありますか。

『HERO MASK』の製作の特色にまつわる話を今までさせてもらいましたが、それらはこの作品演出の為の“発明”だと思っています。作品を新しく作るごとに、技法ありきというよりは長い期間ディスカッションしながら突き詰めて、組み立ててお話に対しての演出・手法を考え始めたので。次回、どんな作品をやるにしてもなんらかのその作品ならではの“発明”をしたいですね。なんのカドもない作品を作るよりも、何かが突き抜けた作品を作っていきたいですね。

【画像】Netflixオリジナルアニメ『HERO MASK』PartⅡ 場面カット

—— 最後に、シネマアートオンラインの読者の皆様にメッセージをお願いします。

『HERO MASK』はすごく変わった作品になっていると思います。普段アニメは観ないという方もいらっしゃるでしょうし、アニメしか観ないという方もいらっしゃるでしょうけれども、僕としてはアニメだから観るというより、硬質な作品が好きな方に観ていただきたいと思っています。きっと刺さる方もいれば、すごく嫌いという方もいると思います。それも含めていろんな方に観ていただきたいです。

[インタビュー: 蒼山 隆之]

プロフィール

青木 弘安 (Hiroyasu Aoki)

マッドハウス社にて制作進行、原画、設定製作、脚本、演出などを務める。手掛けた作品は「チーズスイートホーム」(2007年 – 2008年)、「X-MEN」(2011年)、「HUNTER×HUNTER」(2011年)、「ノーゲーム・ノーライフ」(2014年)、「うしおととら」(2015年)など。細田守監督のアニメーション映画『バケモノの子』(2015年)では助監督を務めた。

完全オリジナルアニメ『HERO MASK』PV

完全オリジナルアニメ『HERO MASK』第2弾PV

作品情報

【画像】Netflixオリジナルアニメーション作品 『HERO MASK』PartⅡ キービジュアル

《ストーリー》

《マスク》に隠された秘密――希望・・・それとも絶望か

〈PART Ⅰ〉

首都警察・特殊捜査部(SSC)の有能だが型破りな刑事・ジェームズは、恩人の女性検事の殺害疑惑事件を追う中、装着すると超人的能力をもたらす《マスク》をめぐる謎に辿り着く。そこに立ちはだかる、かつてのSSCの相棒・ハリー。彼は、巨大企業・ライブ社の人間となっていた。そこでは、主任研究員・コナーが《マスク》開発を違法な方法で進めていた。ジェームズたちSSCは、ライブ社会長・スティーブンが雇った武装集団による度重なる妨害を乗り越え、《マスク》研究にまつわる人物関係を突き止め、ついにそのライブ社の陰謀の核心へと迫ろうとするが……。

〈PART Ⅱ〉

一連の事件は、不正武器輸出で起訴されたスティーブンの失踪とライブ社の解散という形で収束し、《マスク》についての真相は解決できずにいた。その頃、バスの大事故から唯一人生還した少女・ティナの存在がニュースに取り上げられる。彼女は、かつて《マスク》研究をしていた夫婦の娘であった。そして彼女の体には《マスク》に通じる、ある秘密が隠されていた。ジェームズは、ティナを狙って襲い来るコナーと新たな武装集団から彼女を守るべく、秘密裏にセーフハウスへと保護する。だが、その居場所は何故か敵に知られていた……。

 

STAFF

監督・シリーズ構成: 青木弘安
キャラクターデザイン: 片桐貴悠
美術設定: 山田勝哉
美術監督: 園田由貴、中村隆
衣装デザイン: いさお
色彩設計: 古性史織
撮影監督: 久野利和
画面設計: sankaku△
編集: 柳圭介
音響監督: 久保宗一郎
音響効果: 西村睦弘
音楽: 加藤久貴
アニメーション制作: スタジオぴえろ
製作: HERO MASK製作委員会
 

CAST

ジェームズ・ブラッド: 加瀬康之
サラ・シンクレア: 甲斐田裕子
レノックス・ギャラガー: 森田順平
エドモンド・チャンドラー: 高野憲太朗
ハリー・クレイトン: 内山昂輝
ジェフリー・コナー: 青山穣
スティーブン・マートランド: 菅生隆之
リチャード・バーナー: 仲野裕
モニカ・キャンベル: 渋谷はるか
フレッド・ファラデー: 志村知幸
ジェレミー・ペイン(グリム): 烏丸祐一
イヴ・パーマー: 藤井ゆきよ
アンナ・ワインハウス: 宮寺智子
その男: 津田健次郎
ティナ・ハースト: 嶋村侑
アラン・ワイアット: 星野貴紀
ダグラス・コーツ: 後藤敦
ウィリアム・ハースト: 星野充昭
ゲイリー・エヴァンズ: 金田明夫
 
©フィールズ・ぴえろ・創通/ HERO MASK製作委員会
 
Netflixにて全世界独占配信中!
 
公式サイト: http://heromask.jp/
公式Twitter: @heromask_anime

公式Facebook: @heromaskOfficial
公式Instagram: Coming soon 
ぴえろ公式サイト: http://pierrot.jp/
 

「HERO MASK」のスピンオフコミカライズ
 電子コミックサービス「LINEマンガ」にて限定連載配信中!

『HERO MASK』オリジナルサウンドトラック
 各種音楽配信サービスにて販売中!

iTunes、Amazonデジタルミュージック、Google Play Music、レコチョク、mora、Apple Music、Spotify、LINE MUSIC、Amazon Music、Google Play Music ほか

この記事の著者

蒼山 隆之アーティスト/インタビュア/ライター

映画俳優や監督のインタビュー、映画イベントのレポートを主に担当。
東京都内近郊エリアであれば、何処にでも自転車で赴く(電車や車は滅多に利用しない)スプリンター。

そのフットワークを活かし、忙しい中でもここぞという時は取材現場に駆けつけ、その時しかないイベントを現地から発信したり、映画人の作品へ対する想いを発信するお手伝いをしている。

また、自身も表現者として精力的に活動を展開。

マグマ、波、雷など、自然現象から受けたインスピレーションをブルーペイントを用いたアートで表現する「Blue Painter」として、数々の絵画作品を制作。銀座、青山、赤坂などで開催する個展を通じて発表している。

俳優の他、映画プロデューサーやインテリアデザイナーと幅広い顔を持つブラッド・ピットをこよなく尊敬している。

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