第29回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品『この世界の片隅に』舞台挨拶レポート
【写真】第29回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品 映画『この世界の片隅に』舞台挨拶 (のん、片渕須直監督)

第29回 東京国際映画祭(TIFF)
特別招待作品『この世界の片隅に』舞台挨拶

女優・のん「“普通”がすごく愛おしくなる作品」と心震える思いを語る!

10月28日(金)、東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて開催中の第29回東京国際映画祭(TIFF)の特別招待作品として、2016年11月12日(土)から全国公開となる映画『この世界の片隅に』が上映され、片渕須直監督と女優・のんが登壇した。

声優初挑戦で主人公の北條すずを演じたのんは、共に登壇した片渕監督に続き、少し緊張の色を浮かべながら観客へ挨拶。少し詰まり気味の挨拶が逆に会場の緊張感をほぐし、周囲は二人をより優しく迎える雰囲気に包まれた。

【写真】第29回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品 映画『この世界の片隅に』舞台挨拶 (のん、片渕須直監督)

 

『この世界の片隅に』は、戦時中の広島を舞台にしたアニメ映画。生き証人も減り、記憶も薄れつつある戦争の時代であるが「今の世界とつながっていることを表現したい」と、できるだけ当時あったものを再現し、実際はどうだったのかをより鮮明に描くことにこだわった片渕監督。それに対しのんは、「昭和20年代の広島であることも重要ですが、それより日々を普通に送っていることの重要さを感じて欲しい」と語った。

アプローチこそ違うが両者共に、そこに現代の我々と変わらない人々が存在していることを最重視したと言う点では共通している。片渕監督は「タイムマシンで行くような」と表現するほどに世界を詳細に作り上げることで、のんはただ毎日の暮らしを一生懸命生きるすずを演じることでそれを目指した。その思いを作品に昇華させられた背景にはのん自身を取り巻いてきた現実が影響しているのかも知れない。それは作品に対して彼女が語った、「日々を普通に送ることや、どんなことがあっても毎日はめぐるとか、“普通”が愛おしくなる作品です」という言葉からも感じとることができる。

【写真】第29回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品 映画『この世界の片隅に』舞台挨拶 (のん、片渕須直監督)

 

その一方で印象的だったのは、作中の気に入っている台詞として「ビラをもいで使う、それらを工夫し続けるのがうちらの戦いですけん」という言葉を挙げたことだ。すべての質問にたどたどしくながら丁寧に答えていた彼女が、「それでも環境に適応して強く賢く生きる」という台詞を気に入っていると明確に挙げたのは、彼女自身の意志表明にも取れた。それほどに彼女の表情は凛としていた。

【写真】第29回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品 映画『この世界の片隅に』舞台挨拶 (のん、片渕須直監督)

 

『この世界の片隅に』と共に女優・のんの今後のこの世界での戦い方にも注目したい。

[記者: 安藤 匠郎 / スチール撮影: 恵水 流生]

イベント情報

第29回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品
映画『この世界の片隅に』舞台挨拶

■開催日: 2016年10月28日(金)
■会場: TOHOシネマズ 六本木ヒルズ スクリーン2
■登壇者: 片渕須直(監督)、のん(女優)
■MC: 新谷里映
■英語通訳: 鈴木小百合

【写真】第29回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品 映画『この世界の片隅に』舞台挨拶 (のん、片渕須直監督)

映画『この世界の片隅に』予告篇

第29回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品
映画『この世界の片隅に』舞台挨拶

© 2016 TIFF

映画作品情報

映画 「この世界の片隅に」

第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞したこうの史代の原作漫画「この世界の片隅に」を、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞した映画『マイマイ新子と千年の魔法』(2009年)の片渕須直監督がアニメ映画化!NHK「花は咲く」アニメ版でタッグ組んだ2人が再び結集。クラウドファンディングを実施し、日本全国からの「この映画が見たい」という多くの声に支えられ、映画が完成した。6年の歳月をかけ徹底して考証を行い再現した当時の広島の街並み。片渕須直監督が「ほかには考えられない」と絶賛した女優・のんがその声を演じ、まるで実在したかのように描かれた主人公すずさんの一生懸命生きる姿が世代を越えて勇氣と感動を与える。

《ストーリー》

18歳のすずさんに、突然縁談がもちあがる。良いも悪いも決められないまま話は進み、1944(昭和19)年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。呉はそのころ日本海軍の一大拠点で、軍港の街として栄え、世界最大の戦艦と謳われた「大和」も呉を母港としていた。見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった。

夫の両親は優しく、義姉の径子は厳しく、その娘の晴美はおっとりしてかわいらしい。隣保班の知多さん、刈谷さん、堂本さんも個性的だ。配給物資がだんだん減っていく中でも、すずさんは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。

ある時、道に迷い遊郭に迷い込んだすずさんは、遊女のリンと出会う。またある時は、重巡洋艦「青葉」の水兵となった小学校の同級生・水原哲が現れ、すずさんも夫の周作も複雑な想いを抱える。

1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされ、すずさんが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。

そして、昭和20年の夏がやってくる――。

 

第29回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品

邦題: この世界の片隅に
英題: In This Corner of the World
原作: こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊)
 
監督・脚本: 片渕須直
 
声の出演: のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘 めぐみ、岩井七世
 
企画: 丸山正雄
監督補/画面構成: 浦谷千恵
キャラクターデザイン/作画監督: 松原秀典
音楽: コトリンゴ
プロデューサー: 真木太郎
 
製作統括: GENCO
アニメーション制作: MAPPA 
配給: 東京テアトル

2016年 / 日本 / 日本語 / 130分 / カラー
© こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

2016年11月12日(土)より、
テアトル新宿、ユーロスペースほか全国ロードショー!

映画公式サイト
 
公式Twitter: @konosekai_movie
公式Facebook: @konosekai.movie

この記事の著者

安藤 匠郎俳優、プロデューサー、ライター

京都出身・東京在住。
一線で活動するスタイリスト、ヘアメイクアーティスト、モデル、カメラマンらで立ち上げた今は亡きファッション系メディアサイト「Tokyo fashion weekend」にて、強引に映画紹介コンテンツを作り、細々と紹介記事を書いていた過去を持つ。
特にSFのサスペンスや群像劇が好み。ノスタルジック系に滅法弱く、タイムリープ物においては甘い判定になってしまう。が、漫画原作物への愛が強い場合は途端に厳しい目になる。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『バタフライ・エフェクト』、『インセプション』のほか、『AKIRA』や今敏、細田守などアニメ映画も好みである。
あまり映画館に行かない人が観ても楽しめるか、と言う基準は常に持っていたいミーハー映画人。

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