映画『ザ・ウォーク』(The Walk) レビュー
The Walk

映画『ザ・ウォーク』(原題: The Walk)

マンハッタンの上空で、あなたも綱渡りを体感せよ! 

《ストーリー》 

ニューヨークのワールドトレードセンター、通称「ツインタワー」は、いわゆる「9.11」によって、今は跡形もなくなってしまった。そのツインタワーが「世界一高いビル」として完成しようという1974年8月7日の朝、ニューヨークの人々は、皆固唾をのんで「上」を見ていた。高さ411m、地上110階。マンハッタンの空を切り裂くようにそびえる2本のタワーの間にワイヤーをかけ、「綱渡り」している人間がいるのだ!・・・それも、命綱なしで! 目もくらむような建物の間にワイヤーを張り、ゲリラ的に綱渡りを決行するのは、フィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。フィリップはなぜこんな無謀なことに挑戦するのか? なぜそこまで「綱渡り」に魅入られてしまったのか。一介の大道芸人が極めようとする「綱渡り」の極意とは? 建物侵入という「犯罪」を犯してまで、しなくてはならない「アート」とは? 狂気ともいえるフィリップ・プティのパッションが周囲を動かし、やがて若者たちの「冒険」が始まった。果たしてフィリップは、無事に渡りきることができるのだろうか!?

《みどころ》

これは「事実」である。フィリップ・プティというフランス人大道芸人は、多くのゲリラ的綱渡りを決行している。ツインタワーにも本当に侵入し、本当に深夜にワイヤーをかけ、本当に、空中に張られた1筋の線の上を歩いたのだ。そして、その事件はすでに40年も前に終わっているから、無事に渡り終えたこともわかっている。それなのに…それなのに、私たちはフィリップと一緒にニューヨークの上空で、目もくらむような体験をする。「手に汗握る」とはまさにこのことだ。映画は自分が登場人物の目になって、今、そこで起きているように体感する。雲の上で! 揺れるワイヤーの上で! これでもか、と続くその時間に放出されるアドレナリン、そしてセロトニンはハンパない。フィリップの綱渡りは、単に「A地点からB地点にたどり着く」だけではない。マンハッタンの夜明けを背景に、空中を歩くプティの「芸」は美しい。極限の緊張の中「これしかない」完璧な動線、身体のラインを、スリルとともに堪能できる映画だ。

実は、この『ザ・ウォーク』に先駆けて、2008年にフィリップ・プティ本人が登場するドキュメンタリー映画マン・オン・ワイヤーが作られている。
日本でも公開され、筆者も観ているが、こちらも秀作だった(第81回アカデミー賞®長編ドキュメンタリー賞ほか多数受賞)。実際にツインタワーの間を渡るフィリップの写真や、本人のインタビュー映像と比べてみると、「ザ・ウォーク」がいかにフィリップの人格、そして偉業をリスペクトし、できるだけ史実に忠実に作られたことがわかる。第28回東京国際映画祭(TIFF)のオープニング上映に先立ち、壇上であいさつに立ったロバート・ゼメキス監督は、「とにかくフィリップ・プティのパッションを感じてほしい」と話した。しかし、同じ題材を扱いながら、ドキュメンタリーとフィクションはまったく異なる味わいを残すのも事実だ。ドキュメンタリーが「事実」そのものの偉大さを認識することで感情を動かされるのに対し、そこにハリウッド映画らしい手法が加わって、私たちは心地よく着地することができるだろう。フィリップが「師匠」と仰ぐパパ・ルディ(ジェームス・バッジ・デール)とのエピソードには心温まる。

怖いけど、楽しい。そして観終わったとき幸せになれる。それが『ザ・ウォーク』である。

[ライター: 仲野 マリ]

Photographs by  Naoto Hiramoto / NJ Photo Works

映画予告篇/特別映像

映画作品情報

第28回東京国際映画祭 特別招待作品 オープニング作品

邦題: ザ・ウォーク
原題: The Walk
監督: ロバート・ゼメキス (Robert Zemeckis)
原作: フィリップ・プティ (原題: Man on Wire)
製作: スティーブ・スターキー (Steve Starkey)
    ロバート・ゼメキス (Robert Zemeckis)
    ジャック・ラプケ (Jack Rapke)
製作総指揮: シェリラン・マーティン (Cherylanne Martin)
 
出演: ジョセフ・ゴードン=レヴィット (Joseph Gordon-Levitt)
    ベン・キングズレー (Sir Ben Kingsley CBE)
    シャルロット・ルボン (Charlotte Le Bon)
    クレマン・シボニー (Clement Sibony)
    セザール・ドムボイ (Cesar Domboy)
    ジェームズ・バッジ・デール (James Badge Dale)
 
2015年 アメリカ / 英語 カラー / 123分
配給: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
©2015 TriStar Pictures, Inc. All Rights Reserved.
 
2016年1月23日(土)より全国ロードショー!
 
映画公式サイト

この記事の著者

仲野 マリ映画・演劇ライター

映画プロデューサーだった父(仲野和正・大映映画『ガメラ対ギャオス』『新・鞍馬天狗』などを企画)の影響で映画や舞台の制作に興味を持ち、書くことが得意であることから映画紹介や映画評を書くライターとなる。
檀れい、大泉洋、戸田恵梨香、佐々木蔵之介、真飛聖、髙嶋政宏など、俳優インタビューなども手掛ける。
また、歌舞伎、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど、舞台についても同じく劇評やレビュー、俳優インタビューなどを書き、シネマ歌舞伎の上映前解説も定期的に行っている。
オフィシャルサイト http://www.nakanomari.net

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