- 2015-10-22
- 映画レビュー, 映画作品紹介, 第28回 東京国際映画祭
映画『ザ・ウォーク』(原題: The Walk)
マンハッタンの上空で、あなたも綱渡りを体感せよ!
《ストーリー》
ニューヨークのワールドトレードセンター、通称「ツインタワー」は、いわゆる「9.11」によって、今は跡形もなくなってしまった。そのツインタワーが「世界一高いビル」として完成しようという1974年8月7日の朝、ニューヨークの人々は、皆固唾をのんで「上」を見ていた。高さ411m、地上110階。マンハッタンの空を切り裂くようにそびえる2本のタワーの間にワイヤーをかけ、「綱渡り」している人間がいるのだ!・・・それも、命綱なしで! 目もくらむような建物の間にワイヤーを張り、ゲリラ的に綱渡りを決行するのは、フィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。フィリップはなぜこんな無謀なことに挑戦するのか? なぜそこまで「綱渡り」に魅入られてしまったのか。一介の大道芸人が極めようとする「綱渡り」の極意とは? 建物侵入という「犯罪」を犯してまで、しなくてはならない「アート」とは? 狂気ともいえるフィリップ・プティのパッションが周囲を動かし、やがて若者たちの「冒険」が始まった。果たしてフィリップは、無事に渡りきることができるのだろうか!?
《みどころ》
これは「事実」である。フィリップ・プティというフランス人大道芸人は、多くのゲリラ的綱渡りを決行している。ツインタワーにも本当に侵入し、本当に深夜にワイヤーをかけ、本当に、空中に張られた1筋の線の上を歩いたのだ。そして、その事件はすでに40年も前に終わっているから、無事に渡り終えたこともわかっている。それなのに…それなのに、私たちはフィリップと一緒にニューヨークの上空で、目もくらむような体験をする。「手に汗握る」とはまさにこのことだ。映画は自分が登場人物の目になって、今、そこで起きているように体感する。雲の上で! 揺れるワイヤーの上で! これでもか、と続くその時間に放出されるアドレナリン、そしてセロトニンはハンパない。フィリップの綱渡りは、単に「A地点からB地点にたどり着く」だけではない。マンハッタンの夜明けを背景に、空中を歩くプティの「芸」は美しい。極限の緊張の中「これしかない」完璧な動線、身体のラインを、スリルとともに堪能できる映画だ。
実は、この『ザ・ウォーク』に先駆けて、2008年にフィリップ・プティ本人が登場するドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』が作られている。
日本でも公開され、筆者も観ているが、こちらも秀作だった(第81回アカデミー賞®長編ドキュメンタリー賞ほか多数受賞)。実際にツインタワーの間を渡るフィリップの写真や、本人のインタビュー映像と比べてみると、「ザ・ウォーク」がいかにフィリップの人格、そして偉業をリスペクトし、できるだけ史実に忠実に作られたことがわかる。第28回東京国際映画祭(TIFF)のオープニング上映に先立ち、壇上であいさつに立ったロバート・ゼメキス監督は、「とにかくフィリップ・プティのパッションを感じてほしい」と話した。しかし、同じ題材を扱いながら、ドキュメンタリーとフィクションはまったく異なる味わいを残すのも事実だ。ドキュメンタリーが「事実」そのものの偉大さを認識することで感情を動かされるのに対し、そこにハリウッド映画らしい手法が加わって、私たちは心地よく着地することができるだろう。フィリップが「師匠」と仰ぐパパ・ルディ(ジェームス・バッジ・デール)とのエピソードには心温まる。
怖いけど、楽しい。そして観終わったとき幸せになれる。それが『ザ・ウォーク』である。
[ライター: 仲野 マリ]
映画予告篇/特別映像
映画作品情報
第28回東京国際映画祭 特別招待作品 オープニング作品
原題: The Walk
監督: ロバート・ゼメキス (Robert Zemeckis)
原作: フィリップ・プティ (原題: Man on Wire)
ロバート・ゼメキス (Robert Zemeckis)
ジャック・ラプケ (Jack Rapke)
出演: ジョセフ・ゴードン=レヴィット (Joseph Gordon-Levitt)
ベン・キングズレー (Sir Ben Kingsley CBE)
シャルロット・ルボン (Charlotte Le Bon)
クレマン・シボニー (Clement Sibony)
セザール・ドムボイ (Cesar Domboy)
ジェームズ・バッジ・デール (James Badge Dale)
2015年 アメリカ / 英語 カラー / 123分
配給: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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