- 2015-11-20
- 映画レビュー, 映画作品紹介, 第28回 東京国際映画祭
不条理と闘う男たちの信念が「忠臣蔵」の世界を飛び出した!
《ストーリー》
腐敗政治がはびこる帝国が支配する世界。悪徳大臣ギザ・モット(アクセル・ヘニー)は権力をかさに賄賂を強要する。金満政治を嫌うバルトーク卿(モーガン・フリーマン)は、真正面から賄賂を断る決断をしてギザ・モットと対峙する。怒りを爆発させたギザ・モットにより窮地に追いやられたバルトーク卿は、大臣に刀を向けたかどで斬首されてしまうのだった。
バルトークの領地は没収。城を追われた配下の騎士達は散り散りになる。しかし彼らは身分を隠して暮らしながら、復讐の機会をうかがっていた。隊長のライデン(クライヴ・オーウェン)は酒浸りの日々を過ごすとみせかけ油断を誘う。
そして一年後。いよいよ宿敵を倒す日がやってきた。彼らは難攻不落の城に潜入できるのか。
《みどころ》
紀里谷和明監督のハリウッド映画進出第一弾。
日本の名作「仮名手本忠臣蔵」をベースに、カナダ人が書いた脚本をした作品である。当初登場キャラクターが全員日本人だったものを、架空の世界、架空の国での物語に換骨奪胎したのは紀里谷監督の手腕だ。
「日本の、特別な話として片づけられたくなかった」という紀里谷監督が多国籍の俳優が違和感なく物語に溶け込めるように再構築した。紀里谷監督が描きたかったのは、普遍的な世界だ。この世に蔓延する「不条理」との戦い。アクションありサスペンスありの中に、踏まれても叩かれても、正しい生き方(義)のため立ち上がる人々の物語が浮き彫りになる。
普遍的なストーリーになっているので、「忠臣蔵」をまったく知らない人も楽しめる。「ロード・オブ・ザ・リング」などを観る感覚で楽しみながら、日本の古典である「忠臣蔵」を理解する格好の機会になるのではないだろうか。
クライマックスの「討入り」は緊迫感満載で、文句なし。ダムのように立ちはだかる城壁をはじめ、待ち受ける数々のダンジョンを前に「彼ら」はひるむことなく立ち向かっていく。待ち受ける帝国側(吉良側)の剣の達人たちとの戦い、特にイトー(伊原)とライデン(オーウェン)との一騎打ちは「奥庭泉水の場面」(竹森喜多八と小林平八郎の殺陣)をほうふつとさせる。
かなり大胆に筋を単純化しているようでいて、原典を細部まで理解した上で練られた脚本なので、「忠臣蔵」をよく知る人は、「松の廊下」は?「切腹」は?「一力茶屋」は?などなど、登場人物や有名なエピソードがどのように形を変えて姿を現すか、あるいはどの設定が変えられているかを発見するのも楽しみの一つ。「蛸」のエピソードや「図面入手」のエピソードなど、細かいところも埋め込んでいて思わず膝を打ってしまう。
目を見張るのは、ワールドワイドなオールスターキャスト。モーガン・フリーマンにクライヴ・オーウェン。モーガン・フリーマンの浅野内匠頭は、理知的で懐の深さを感じさせる。逆にクライブ・オーウェンは、武闘派の大石内蔵助だ。吉良上野介にスウェーデンのアンヘル・ヘニー。サイコパス的な演技が光る。韓国の名優アン・ソンギは加古川本蔵という渋い役どころだ。日本からも伊原剛志が、清水一学を思わせる帝国側(吉良側)剣の達人・イトーを演じる。敵側に存在する「真の騎士」として、ライデンと対峙するの重要な役回り。寡黙な中に存在感が光る。
映画『ラスト・ナイツ』予告篇
映画作品情報
原題/英題: LAST KNIGHTS
監督: 紀里谷和明
製作: ルーシー・キム (Luci Kim)
撮影監督: アントニオ・リエストラ (Antonio Riestra)
編集: マーク・サンガー (Mark Sanger)
美術: リッキー・エアーズ (Ricky Eyres)
出演: クライヴ・オーウェン (Clive Owen)
モーガン・フリーマン (Morgan Freeman)
クリフ・カーティス (Cliff Curtis)
アクセル・ヘニー (Aksel Hennie)
ペイマン・モアディ (Peyman Maadi)
アイェレット・ゾラー (Ayelet Zurer)
ショーレ・アグダシュルー (Shohreh Aghdashloo)
アン・ソンギ (安 聖基)
伊原剛志
配給: 株式会社KIRIYA PICTURES、ギャガ株式会社
2015年11月21日(土)より全国ロードショー!