≪映画監督・是枝裕和 × 脚本家・坂元裕二≫
Perspectives トークセッションレポート
殺った?殺らない??真実より観客がどう観るか。
是枝裕和監督がハメられた演技を、坂元裕二「これまでのどれとも違う」
8月25日(金)、東京・銀座のApple 銀座で開催されたToday at Appleの人気プログラム「Perspectives」にて、『そして父になる』(2013年)で「Meet the film maker」へ登壇して以来二度目のApple 銀座となった映画監督の是枝裕和と、『最高の離婚』(2013年/フジテレビ)、火曜ドラマ『カルテット』(2017年/TBS)などのテレビドラマや映画作品を多数手がける脚本家の坂元裕二によるトークセッションが行われた。
この日の「Perspectives」では、9月9日(土)に公開となる是枝監督の最新映画『三度目の殺人』を中心に、両者の作品への思いや互いの共通点、俳優への尊敬の念を熱く語り合った。
イベント最後には、観客からの質疑応答を受ける場面も。約一時間のトークセッションに、会場は大いに盛り上がった。
《トークセッションレポート》
トークセッションが始まると、すでに映画本編を観たという坂元が、映画『三度目の殺人』の見所を語った。
「まず、どういう話かというと(主な登場人物は)福山雅治さん演じる弁護士と役所広司さん演じる殺人犯。役所さんは拘置所に捕まっている状態なんです。福山さんが役所さんに接見し、色々事情を聞いていくという物語です。その接見場面が7回あって、延々とこの二人のお芝居が繰り返されるという・・・・・・この設定を聞くだけで、本当に面白そうじゃないですか。それだけで僕はドキドキしながら拝見して、やっぱり面白かったです」
坂元いわく、本作は観客の手を引き導いてくれるような作品ではない。むしろ「どこに連れていかれるんだろう?」とよくわからず、不安にかられながら観るところすらあったという。
「これまでの作品とは違って、美味しいご飯も出てこないんですよね」という坂元に是枝監督も頷き、「今回、食べる物に興味がないという主人公なんです。意図して食事を排除してみようかなと思いやめてみました。カロリーメイトか吉牛か、そんなものしか食べていないです」と答えた。
是枝監督は、福山雅治(以下福山)と役所広司(以下役所)の二人に対しては、脚本が出来上がる前、プロットの段階ですでにオファーをしていたのだそう。
「ただ、福山さんに関して言うと『そして父になる』が終わった直後から、次も何かご一緒にという話にはなっていました。いくつか企画案を出しましたがどれも着地せず、諦めかけていたところに思い付いた(『三度目の殺人』の)アイディアでもう一度オファーし直したんです。A4でたぶん3~4枚だと思います。そこからロングプロットを作って、ある程度の分量になった所で役所さんにお声がけをしました」
また、配役に関しては初めから、弁護士が福山、殺人犯が役所ということは決まっていたという。
「役所さんって実は、殺人犯も十八番で何度かやってらっしゃいますよね。しかし、そのどれともちょっと違うなという印象を受けました。役所さんに殺人犯を演じてもらう意図というのはあったんですか」と尋ねた坂元に「役所さんは、特別な役作りをされるわけではないのにきちんと、人殺しなら人殺し、弁護士なら弁護士だったり、田舎の林業の、教養がないのに人のいい男にも見えたりします」と、どんな役をやっても、その役にしっかり見える役所の高い演技力を称賛した是枝監督。そして、「役所さんは、どこかで一度勝負をしないといけない役者さん。演出家として、一度向き合わないと一人前じゃないんじゃないかというほどの相手なんです」と、是枝監督は心境を明かした。
「はじめて演技する人であったり、子供であったりといった人達と(作品を)作るということの方が長かったものですから、どこか”役所広司を撮るのはまだ自分には早いな”という思いがありました」という是枝監督が、役所へオファーしようと思えたきっかけは、一枚の年賀状だった。「年賀状に役所さんが”そろそろですね”って手書きで書かれてたんですよ。そろそろって?何がそろそろなんだろう?と思いながら、別にこの(『三度目の殺人』の)企画を話していたわけではないんですが、ああこういうのは縁だ、これだったら役所さんをきっと撮れるなと思い、お話をしました」
各キャラクターはどのように作られていったのだろうか。役所演じる殺人犯の三隅と役所自身に、曖昧な口調などいくつかの共通点を感じたという坂元。キャラクターは俳優のパーソナリティで作られるのかと問われた是枝監督は、今回はそうではないと答えた。
「例えば、福山さん本人は、非常に明るいエンターテナーです。なのに(福山演じる弁護士の重盛を)書き始めるとどんどん嫌なやつになっていくんですよ。だから、決して福山さんのパーソナリティーに当てはめているわけではないんです」その一例が劇中で、検察官が真実という言葉を口にした時に「真実?」と言って重盛がふっと笑うシーンだ。語尾に、相手への軽蔑やプライド、自分はそうは思っていないというニュアンスを出すのが、福山は上手いなぁと感じると、どんどん更に、福山本人とは異なる嫌なやつ、重盛のキャラクターに筆が乗っていったという。
「オファーの段階とも違っていますし、脚本も確実な決定という形は決まらないまま、撮影が進んでいきました。あまりよいことではないんですけど」と役や脚本がどんどん変わっていったと是枝監督は振り返る。
「役所さんから是枝さんに、役に対する質問は何かあったんですか」という坂元。衣装あわせの際はじめて、是枝監督から役所に、役について説明する機会があった。「まだ変わるからそんなに読みこまなくていいです」という是枝監督に役所からは「最後まで僕は謎が残っていた方がいいですよね」という一言が。細かい役柄に対しての質問はなく、演じながら「むしろ今のでは○○過ぎましたか」と尋ねられることが数回くらいだったという。
「本当に殺したか殺してないかはどっちでもいいけれど、観た人あるいは重盛にどう見えたかということしか確かなことはないので、そこを(役所さんは)自分なりにコントロールしたかったんだろうなと思います」と是枝監督。
是枝監督が『三度目の殺人』と似ていると感じるのが、坂元が脚本を手がけたテレビドラマ『カルテット』だ。その中で松たか子さん(以下松たか子)が演じた真紀と、役所演じる殺人犯の三隅、両者のキャラクターのあり方や謎の残し方が似ていると思うという。
坂元は「(松さんに対して)是枝さんが役所さんに接する時と同じで、たぶん少々のことをやっても何でも乗り越えちゃう人だなと思っていました。松さんはたぶん、何を投げても打ち返せるタイプの方。最初からわかっていたので役に対してほぼ気を使っていません」と、是枝監督が役所に寄せていたのと同様に、松たか子への信頼を語った。
また、是枝監督は坂元が脚本を手がけたテレビドラマ『それでも、生きてゆく』(2011年/フジテレビ)が『三度目の殺人』の演出に大きな影響を与えていることを明かした。
「坂元さんは、三崎文哉(風間俊介)を書きながら、自分が彼をどう理解できるか。あるいは瑛太さんや満島ひかりさんが演じるキャラクターに対して、どう理解しているかを探りながら、彼の人物像を作られているじゃないですか。僕は、福山さん演じた弁護士が三隅のことを理解できるのかできないのかの前に、僕自身が理解できないところも残しながら演出していこうと考えていました。そこでヒントになったのが、あのドラマの三崎文哉に対する坂元さんのスタンスでした」
坂元は「結局あの時、僕はあの人(三崎文哉)をわかろうとしながら書いてはいたんですが、結果的にわかりませんでした」と言い、是枝監督はどうかと尋ねた。
「(三隅を)わかろうとはしてたんですが、わからない部分も残そうと思っていました。というのも、目の前で役所さんが(三隅を)演じられた瞬間に、あれ俺、こんな人書いたかな?って思っちゃったんですよ。演技が上手いってこういうことなんだなって思います」という是枝監督は「演技の細かい指示を出したかというと、出していません。むしろ役所さんから出てくるものを見逃すまいと必死だった感じがします」と語った。役所が演じているのを間近で見て、あれ?と疑問を感じると、裏に行って自分の台本を見直す。「役所さんに聞くと、台本に書いてあるっていうんですよ」是枝監督はそうして役所の演技に自分もハマっていったと語る。
「役所さんの付き人の方に、思わず聞きました。役所さんは何でそんな風に演じられるんですか。そうしたら”誰よりも役のことを長く考えてるんですよ”長い時間その役のことを考えていると思いますと言われて。特別なことじゃなく、ちゃんと台本を読むってことなのかなって思うと、自分が勢いで書いたト書きの一行とかが怖くて仕方なくなっちゃって。これは本当にないがしろにできないなって思いました」
ここで客席から、二人への質問タイムが設けられた。
Q: (是枝監督へ)映画を通して、一番表現したいことは何でしょうか?是枝監督: 難しい質問ですね…。個々の作品で自分に問いたいことは毎回あるのですが、『三度目の殺人』だと、人は人を裁けるのか。人は人をどこまで理解できるのか、っていうことを考えてみたいと思って撮りました。 Q: お金がもらえなくても、映画を撮って、脚本を書きますか?坂元: 脚本は設計図だと思っているので、それをただ書いていても楽しくないんです。僕は俳優さんに演じてもらうことが好きなので、そうならないのならば書かないかもしれませんね。 是枝監督: 僕はモノを書いて飯を食えるようになりたいって大学の時は思っていました。 Q: お二人の作品には毎回名言や名シーンがあると思います。執筆するうえで、視聴者へのメッセージは意識していますか?坂元: 僕は、物語に自分が出ないようにって心がけている。登場人物が語りだすことが大事だと思うから、メッセージというのはそのさらに下のところに存在していると思っています。 是枝監督: 僕も坂元さんが話すように、登場人物が話している世界のメッセージ化されていないところに、僕らが意識していない伝えたいことや、逆に伝わってしまうものがあると思うんです。 |
最後に、「広瀬すずさんも素晴らしいんですよ」という坂元の言葉が印象的だった。「三隅という役を作っているのは、役所さんだけでなく広瀬すずさんとの共同作業」という言葉を、映画を観た後に思い出す人もいるに違いない。
[メインカット写真: オフィシャル提供]
イベント情報
映画『三度目の殺人』Perspectives
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映画『三度目の殺人』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》勝利にこだわる弁護士重盛(福山)が、やむをえず弁護を担当することになったのは、30年前にも殺人の前科がある三隅(役所)。解雇された工場の社長を殺し、死体に火をつけた容疑で起訴されている。犯行も自供し、このままだと死刑はまぬがれない。はじめから「負け」が決まったような裁判だったが、三隅に会うたび重盛の中で確信が揺らいでいく。三隅の動機が希薄なのだ。彼はなぜ殺したのか?本当に彼が殺したのか?重盛の視点で絡んだ人間たちの糸を一つ一つ紐解いていくと、それまでみえていた事実が次々と変容していく―。心揺さぶる法廷心理ドラマ。 |
撮影: 瀧本幹也(『そして父になる』『海街diary』)
音楽: ルドヴィコ・エイナウディ(『最強のふたり』)
撮影: 瀧本幹也(『そして父になる』『海街diary』)
美術監督: 種田陽平(『キル・ビルVol.1』『空気人形』)
出演: 福山雅治、広瀬すず、吉田鋼太郎、斉藤由貴、満島真之介、市川実日子、橋爪功 / 役所広司
製作: フジテレビジョン アミューズ ギャガ
配給: 東宝 ギャガ
コピーライト: © 2017『三度目の殺人』製作委員会
2017年9月29日(土) 全国ロードショー!
公式Twitter: @SandomeMovie
公式Facebook: @tkg.movie