映画『サーミの血』公開初日イベント開催!
(英題:Sami Blood / 原題:Sameblod)
世界の映画祭にて絶賛の声が相次ぐ渾身の感動作!
迫害の中で少女の願いは自由に生きることだった。
スウェーデンの歴史を北欧の専門家がたっぷり解説!!
第29回東京国際映画祭 (TIFF)のコンペティション部門で審査員特別賞と主演女優賞をダブル受賞!北欧スウェーデンの美しい自然を舞台にサーミ人の少女の成長を描いた映画『サーミの血』(英題:Sami Blood / 原題:Sameblod)が9月16日(土)より、東京・新宿武蔵野館、アップリンク渋谷にて公開された。
映画の公開初日を記念して、新宿武蔵野館にて鈴木賢志教授(明治大学国際日本学部教授・一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事・所長)、森百合子さん(コピーライター・北欧BOOK代表)をゲストに迎えてトークイベントが開催された。
《トークイベントレポート》
スウェーデン事情に詳しい専門家たちの感想は、「おそらくみなさん、ものすごく暗い気持ちになられていると思うのですけれども」と鈴木賢志教授の意外な言葉ではじまった。「スウェーデンや北欧の国全般ですけれども、すごく良い国、理想の国、福祉が充実していると思ってこの映画をご覧になると、ものすごく突き落とされる感じになって、とくに日本の方は葛藤が生まれると思うのです。私もこれを観た後にすごく葛藤が起きて、非常に複雑な気持ちになりました。こういうところをきちんと出して問題提起をしていくのがスウェーデン映画、スウェーデンなんだという風に感じました」と鈴木教授は感想を述べた。
スウェーデンのダンスに興味をもち、主人公のエレ・マリャたちが踊っていたような音楽に合わせてダンスを経験した森百合子氏は、「私は今回、この映画で二つすごく印象に残ったシーンがあるのですけれども、一つは、夏祭りのニクラスと出会うシーン」だと、約10年前にスウェーデンでダンスイベントに参加したときに、エレ・マリャのような異質で憧れの世界に入っていく感覚を体験して、主人公と気持ちが重なったという。「もう一つ、エレ・マリャが学校に潜り込んで不良少女っぽい子たちと交流をしますよね。あそこがすごく痛快というか、私の体験でもまさにそうなんですけど、〝そのダンスシューズ良いわね”とか、個人的に認められると素性が何であろうと受け入れてもらえる。それが痛快で良いシーンだと思って観ていました」と印象的なシーンを思い出話とともに語った。
それに対して、鈴木教授も「そうですね。あの辺りは、やっぱりメッセージとして“誰もが一緒なんだよ”ということを出しているのかなと思います。私が一番印象に残っているのは、やっぱり先生が“あなたの脳は”というところがずっと突き刺さっていますよね」と共感していた。
森氏がエレ・マリャが年老いてから、先生と似た髪型をしていたり、出身を先生と同じ地域にしていることに気づいて、「傷つけられたけれども、すごく憧れてもいたのだなというのが分かるシーンで苦い感じがしましたね」と指摘すると、鈴木教授も「そうですね。分離政策というか、こういうのは、おそらくこの当時のスウェーデンでは、差別されている当人たちには良いことだという善意でやっている部分がかなりあって。ちょっとだけそういう人が混じっているのは嫌だよという部分もありつつ、多分、善意がメインに出ているはずなんですけども。それは、お仕着せだということなのかなとも思うんですよね」と善意からの差別であったのではないかと語った。
また、鈴木教授は「やっぱり思い出すのが障害者の話で、スウェーデンも1970年代位までは、とくに精神障害者の人が身ごもったりしたときに強制で中絶させるみたいなことをやっていたという歴史もあって、多分それも良かれと思ってやっていることなんですよね。今の日本でも、障害者の人たち、その社会の中にノーマライゼーションというのは、その後の北欧からきていることだけれども、一緒にいた方が居心地が良いのではないかという善意の中で、一緒にまとめてしまおうとするところがあるじゃないですか。そういう意味では、他人事でもないのかなあという風にも受けとりましたね」と意見を述べた。
この映画の1930年代のスウェーデン時代については、鈴木教授は「私たち日本人が勘違いをしやすいのは、1930年というと、私らはどうしても45年で切れているので戦前戦後という言い方をするのですけど、戦争をしていない彼らにはないわけですよね。確かに周りではしていますけれど。1930年代がどういう時代だったかというと、スウェーデンは中立ということがすごく美化されて言われている気がするのですけれども、あれは、言い方を変えてしまえば、半分ナチスの友だちだということなので、彼らはまた分けるという政策をやっていたわけで。その真似をして、さっき言ったような中絶の話も出てきたりするので、非常にその方が良いという考え方がそういう方向に近づいていた時代で、社会民主党という左側の政権が出てくるのも30年代の後からなので。そういう意味では、どちらかと言うと、まだヨーロッパの田舎で強いドイツがそういうことをやっているというのに半分位の人は憧れて、もちろんくっつきはしないのですけれども、そういう時代だったということを忘れちゃいけないと思うんですね。
森氏も「私は、インテリアや住宅政策について書いていたことがあるのですが、今、北欧インテリア、スウェーデンのインテリアというと、非常に世界が羨むような豊かな暮らしみたいに描かれていますけれども、調べていくと30年代頃は住宅環境もひどく劣悪だった。都市部に人が集まって、狭くてひどく不潔なアパートに大家族が住んでいたという。それにテコ入れをしようというのが40年代位からですよね。先生の話にもありましたけれども、いっぱい政策がとられていって、それが今の私たちが知っている北欧インテリア的なものにつながっているのですけど、ついついメディアの取り上げ方で北欧は幸せの国とか、素敵だと捉えられがちなんですが、実は昔からそうだったわけではなくて、方向転換をする時代があって、実はそんなに前の事ではないというのは、いつもこういうお話をするときに思うことですね」とインテリアについても解説された。
鈴木教授は「北欧と日本がすごく似ていると思うのは、歴史の中心に長らくどちらもいないのですね。日本だと、中国や中華があってアジアで辺境だった。19世紀は北欧も同じような感じで、ローマ帝国も攻めてこないような寒くて生産性も悪くて、1/4位の人がアメリカに移住するという不毛な時期だった。そういう意味では、先ほど一番最初にお話されたように、ものすごく同質性が高いという部分をもっているわけですね。スウェーデン人、スウェーデン人とすごく言うし、移民も今は受け入れると言いながら、スウェーデン人的な考え方を受け入れて欲しいという考え方もすごくあったりして。それがこの時代には、サーミの人たちというのは、そこに入っていなかったわけですよね。そうではない人、保護しなければいけない人みたいな扱いだったのかなという風に感じますね」と感想を話した。
これまでにサーミの権利に対する政策改革は行われて改善されたようであるが、今現在のスウェーデンの人々は、サーミ人のことをどう思っているかという質問に、鈴木教授は「あまりポジティブな言い方ではないかもしれないのですが、もっと違う人が入ってきたので、相対的にスウェーデン人と見られているのかなと思います。それはサーミの人たちも、もちろんそうですし、第二次世界大戦が終わった後に、フィンランドの人たちやエストニアの人たちが入ってきたのですけれども、その人たちも今入ってきている人たちに比べて全然スウェーデン人だということで、ある意味その人たちに対する目は変わってきている。ただ、それは良いことなのかどうかは難しいのですけれども、サーミの人たちも相対的に見れば“スウェーデン人だよね君たちは”という感じかなと私は受けとっています」と説明された。
スウェーデンの良さについては、鈴木教授は「色々あるのですけれども、まずはやってみるというところが日本とは違うなと思います。色々な意味でです。失敗しても、まあ良いかということではないのですけれども、日本はしっかりやる責任で、出来なかったら責任を負うみたいなのがあるので、一歩踏み出すのが遅いのかなという風に感じていて。そこはスウェーデンでは、本当に早くやって失敗をしてもあまり咎められないというか、そういう風になっている。そういうことがすごく大切なのかと思います。先ほど日本とスウェーデンの辺境だという話をしましたけれども、日本は辺境だから受け手になるところがすごくあって、聴き手で聴き上手だというのがあるのですけれども。スウェーデンは辺境だから転換した後の話では発信上手になったのですね。何も言わないと放っておかれるというのがあるので、発信はすごくするというのが日本は見習っていくと、もうちょっとバランスが取れてくるのかなと私が思っている良さです」と日本とスウェーデンの違いを提示して述べた。
森氏も「事実が明るみになると、多くの人にそれを知らしめようという動きがすごく早いなというのを思いますし、何か決めてやるけれども、間違っていたらそこは向き合って、何が間違っていたかを直視して方向転換をするとか、舵を切るとか。そういった判断していく強さというか早さというか、そこはすごく日本は今の北欧ブームで一緒に見習ったら良いところなんじゃないかなと思いますね」と後押しをした。
スウェーデンでのこの作品の評判について、森氏は「あれは観なきゃねって話題になっているというのと。サーミのこともそうなんですが、難民の問題とかもそうですね。やっぱり聴くとあまりタブー感がないのですね。聴きやすいというのはありますよね。取材をしていてもタブーがないし、何でも教えてくれる。もちろん、考え方はそれぞれ違うのですけれども、何か社会的な問題に目を背けるのではなくて、質問がしやすいという印象が非常にありますよね」とスウェーデンの良さを語った。
転換点のきっかけは何ですかという観客からの質問に対して、鈴木教授は「社会民主党という、どちらかというと左側の政党が一番大きな政党としてずっといたという部分が大きいのかなと思いますね。そのときに、福祉とか発信をしていく、良い方に向けていくのだというのがあるなということがあります」「民主主義に対する考え方がすごく浸透しているのかなと思うのですね。私はスウェーデンの教科書を訳しているのですけれども、それにSNSのことが書いてあって、SNSだと日本では情報収集のツールみたいに思うのですけれども、発信するものですと書いてある。小学生に対して、自分の言葉が世界の権力者に影響を与えるとか書いてあるんですよ。映画のメッセージもそういう感覚で出しているので、一人一人浸透してきたということなんだと思います」と返答をしていた。
他にも小学校の「社会の教科書には、サーミだけではなくて、後幾つかあって、それに関して、そういう人たちもいますよということを書いてある程度です。小学生ということもありますけれど、それよりも今は外国の移民の話の方を先にしている感じがあります。全体として思うのは、貧しい人とか、弱者というのをまず出していくということはある。なんとなく日本の教科書だと、タブーにつながると思うのですけれども、あまりその辺を触れないままにしてしまっている。離婚の話もそうなのですけれども、全面に出して、そういうこともあるよ、だけど全然大丈夫なんだよというのを小学生にメッセージとして出しているというのが、すごく日本と違うのかなと思っています」と鈴木教授はスウェーデンの教育の特徴も紹介していた。
『サーミの血』は、北欧スウェーデンの知られざる迫害の歴史の中で、家族や故郷を捨ててでも、自由に生きることを選択した少女の物語を描いた作品である。そして、スウェーデンならではのメッセージの伝え方で私たちに人種差別の愚かさを訴えている感動作である。
[スチール撮影&記者:おくの ゆか / アシスタント:西脇 亜樹子]
イベント情報
<映画『サーミの血』公開初日イベント>
日時: 2017年9月16日(土)
会場: 新宿武蔵野館 スクリーン1
登壇者: 鈴木賢志(明治大学国際日本学部教授・一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事・所長)、森百合子(コピーライター・北欧BOOK代表)
鈴木 賢志 (Kenji Suzuki)1968年東京生まれ。専門は比較政治社会学。日本、イギリスの大学を経て1997年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所で研究・教育に従事。2008年に帰国し、明治大学国際日本学部教授。2015年より一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事・所長を兼務。近著に『日本の若者は希望をなぜ持てないのか』(草思社)、『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む: 日本の大学生は何を感じたのか』(新評論)がある。 |
森 百合子 (Yuriko Mori)コピーライター。北欧BOOK主宰。北欧4ヶ国で取材を重ね、現地の暮らしや食を紹介する本を執筆。著書に『北欧のおいしい話』『3日でまわる北欧』(スペースシャワーネットワーク)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)など。著作活動の他に『北欧ぷちとりっぷ』などイベント企画や、テレビ・新聞・雑誌などメディア出演まで幅広く活動中。 |
映画作品情報
第29回 東京国際映画祭で審査員特別賞賞と最優秀女優賞をW受賞! 《ストーリー》1930年代、スウェーデン北部のラップランドで暮らす先住民族、サーミ人は差別的な扱いを受けていた。 |
第73回 ヴェネツィア国際映画祭 ヴェニス・デイズ部門 ヤング・ディレクター賞受賞
第29回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門 審査員特別賞&主演女優賞ダブル受賞!
英題: Sami Blood
原題: Sameblod
音楽: クリスチャン・エイドネス・アナスン
出演: レーネ=セシリア・スパルロク、ミーア=エリーカ・スパルロク、マイ=ドリス・リンピ、ユリウス・フレイシャンデル、オッレ・サッリ、ハンナ・アルストロム
後援: スウェーデン大使館、ノルウェー王国大使館
配給/宣伝: アップリンク
2016年 / スウェーデン=デンマーク=ノルウェー / 南サーミ語、スウェーデン語 / 108分 / DCP / シネマスコープ
© 2016 NORDISK FILM PRODUCTION
新宿武蔵野館、アップリンク渋谷ほか全国順次公開中!