- 2016-11-29
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映画『サーミ・ブラッド』
(英題:Sami Blood / 原題:Sameblod)
第29回 東京国際映画祭 (TIFF)
コンペティション部門 審査員特別賞&主演女優賞ダブル受賞!!
本作は、差別的な扱いを受けてきた北欧の少数民族サーミ人の少女の人生とアイデンティティを描いた作品である。スウェーデン北部の美しい山間部で暮らす一人の少女が、運命を変えようと差別に抗い生き抜く、少女の成長を通して“平等”という普遍的なテーマを訴えるヒューマンドラマ。
主人公の少女エレ・マリヤを演じたレーネ=セシリア・スパルロクは、本作の役柄と同様に普段はトナカイの世話をしながら暮らしている南サーミ人で、実の妹と共に本作に出演し、第29回東京国際映画祭のコンペティション部門で見事主演女優賞を受賞した。
監督のアマンダ・ケンネル自身も、サーミ人の父とスウェーデン人の母の間に生まれたサーミ人である。そのため描かれた作品はとても説得力のある脚本で、本作を観るまでサーミ族を知らない人の心にも深く刺ささる内容だ。
特に印象深かったシーンは、サーミ族の伝統的な歌「ヨイク」を歌う場面。姉妹でボートを漕ぎながら「ヨイク」を歌うシーンでは、美しい湖の情景と差別をされる民族だと歌う物悲しさが相まって複雑な心境を絵の中に上手く表現されていた。ホームパーティのシーンでは意中の男性の友人たちから「ヨイク」を歌って欲しいと言われ、披露するのだが居た堪れない気持ちになり途中で歌うことを中断し外へ逃げ出してしまう。
民族の伝統を誇りに思う気持ちと、差別されている民族だと傷心する気持ちに葛藤する少女の描写が繊細に描かれており、観ている自分までサーミ族になったかの様に心が苦しくなる場面もある。
この映画がより多くの人達の目にふれて、この世界から差別や偏見が減ることを願う。
[ライター: うずら / 編集: 清野 奨]
映画作品情報
《作品解説》
サーミ族は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドのスカンディナヴィア半島北部からロシア北部のコラ半島に至るラップランドに居住する少数民族であり、フィンランド語に近い独自の言語持っている。1930年代のサーミ族は支配勢力のスウェーデン人によってスウェーデン語を強要され、同化政策の対象となり、劣等民族として差別を受けた。スウェーデンの歴史のダークサイドである。
アマンダ・ケンネル監督自身がサーミ族の血を引いており、自らのルーツをテーマとする短編映画を撮った後、長編映画デビュー作となる本作でも同じテーマを扱った。監督曰く「支配階級と劣等民族の構図はまだ存在します。映画はスウェーデン史の暗部を書いていますが、でも基本的には、同様なことが現在でも難民キャンプで暮らす誰かに起こりうるのです」。本作は、ラップランドの美しい自然の中で描かれる少女の成長物語であり、差別に抗い生き抜く普遍的なテーマを訴える感動作である。
監督 アマンダ・ケンネル (Amanda Kernell)1986年スウェーデン・ウメオ生まれ。 |
《ストーリー》
1930年代、スウェーデン北部の山間部で暮らすサーミ人は、劣等民族とみなされ差別的な扱いを受けていた。中学生のエレ・マリャは成績も良く 街の高校に進学したかったが、先生にサーミ人には進学する資格がないと言われる。民族衣装を着ることを押し付けられ、見世物のようにテントで暮らすことを強いられる生活からなんとか脱したいと思っていたエレは、村の夏祭りのダンス大会で出会ったスウェーデン人の少年ニコラスと束の間の恋に落ちる。そのニコラスを頼ってエレは家出をするのだった…。
英題: Sami Blood
原題: Sameblod
監督: アマンダ・ケンネル
撮影監督: ソフィーア・オルソン、ペトルゥス・シェーヴィーク
出演: レーネ=セシリア・スパルロク、ミーア=エリーカ・スパルロク、マイ=ドリス・リンピ、ユリウス・フレイシャンデル、オッレ・サッリ、ハンナ・アーストロム、マーリン・クレーピン、アンドレアス・クンドレル、イルヴァ・グスタフソン
2016年 / スウェーデン=デンマーク=ノルウェー / スウェーデン語 / 112分 / カラー
© Nordisk Film Production Sverige AB
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