映画『KOKORO』公開初日舞台挨拶
日本を舞台にした深くて静かなこころの処方せん
東尋坊で自殺防止活動を続ける茂幸雄氏をモデルとしたオリヴィエ・アダムのフランス小説をベルギーのヴァンニャ・ダルカンタラ監督が島根県隠岐島を舞台にベルギー・フランス・カナダ・日本からなる4カ国混成スタッフで作りあげた呼吸をするように自然で美しい映画『KOKORO』が11月4日(土)に東京・渋谷ユーロスペースにて公開初日を迎えた。
主人公アリスは、フランス・セザール賞常連女優のイザベル・カレが物語とは思えないナチュラルな演技で私たちのこころをつかむ。もう一人の主人公ともいえる元警官のダイスケを『哭声/コクソン』(2016年)で第37回青龍映画賞で外国人俳優初の男優助演賞と人気スター賞の二冠を受賞した國村隼が好演。アリスを優しく見つめる地元住人を安藤政信、好奇心旺盛な女子高校生を門脇麦らが演じている。
初回上映後、観客の感動が冷めやらぬ大きな拍手の中、國村隼、門脇麦、ヴァンニャ・ダルカンタラ監督が登壇し、舞台挨拶が行われた。
《イベントレポート》
キャスティングは仕事を越えた人間関係が築けるかどうか
――『KOKORO』上映初日を迎えての感想をお願いします。
國村: 今日は本当にありがとうございます。『KOKORO』の初日から、これだけたくさんのお客さまがこのユーロスペースに来ていただいたのをこうやってみせていただいて、本当に嬉しく思っています。本当に今日はありがとうございました。
門脇: みなさん、今日は足を運んでいただきありがとうございます。違う日本がみれるというか、普段自分が知っている日本とはちょっと違う日本がみえてくるような、そんな不思議な気持ちに私はこの映画を観て感じました。そういう意味でも、とっても美しい映画が出来上がったと思っています。今日はよろしくお願いします。
監督: ヨロシクオネガイシマス。今回、この場に来られたことを大変光栄に思います。初日ということで、『KOKORO』を故郷の日本に持って帰ることができました。私たちは、ついに日本で上映ができて嬉しく思っております。監督として、劇場公開されるということは、大変光栄なことになりますので、みなさんと一緒に楽しむことができて嬉しく思います。ありがとうございます。
――『KOKORO』を撮ることになったきっかけは何ですか?
監督: 私は、もともと日本が大好きで、日本の文化や精神、物語を伝えることに魅了されていました。日本が好きなことから、日本の精神やミニマムだったり、静寂を大切にするところなどをとても大切にしてきました。前作は日本とは関係のない映画だったのに、そういう思いを込めて作ったせいか、「日本の書道を感じさせられる」というお客さまもいらっしゃいました。これまでに私が映画を撮る際には、私らしい自然な方法で映画を作ってきました。あるとき、(ダイスケのモデルとなる)茂幸雄さんの話を聞きました。そのときに、そのキャラクターが映画にピッタリで完璧な物語になると感じたのです。同じ頃、フランス人女性の視点から描かれたフランス人作家オリヴィエ・アダムスの茂幸雄さんの物語「Le Coeur régulier」を知って読みました。そこで、映画を作るときに、これは私の視点と合致していてすごく感動して共感できると思い、この本を脚色しようと決めました。
―― 撮影に当たっては大変な苦労があったかと思います。
監督: (キャスティングは)とても簡単でした。まず、私がキャスティングで大切にすることは、人とのつながりや個人として、その役者さんをみます。どのように役を演じるのかだけではなく、私がこの人と仕事ができるかというところを一番に感じ取ります。人と人とのつながりを大切にしているので、その人と一緒に映画を作る上で大きな旅ができるのかという点を大切にしています。二人(國村と門脇)とは、出会って直ぐにコラボレーションと共に素晴らしい友情を結ぶことができると確信しました。
國村さんに関しては、彼の出演する映画を観て、素晴らしい役者さんであることを知っていました。一目会ったときに、この人とは、素晴らしい映画が作れると感じました。お互いに深い感情を分かり合うことができて、何かを一緒に探しながら、映画を作れる人だと感じました。また、ダイスケという影と光の二つを持ち合わせている役柄を國村さんが完璧に演じてくれることが分かりました。
門脇さんは、私が実際に映画のアリス役を演じて一緒にオーディションをしました。そして、一目でこの人だと思ったのですが、役柄の女子高生ヒロミよりも、すごく印象的でパワーがあって、西洋の観客にも大変人気のキャラクターになり、みなさんに喜んでもらえました。二人と共演できてとても嬉しく思います。
ノンフィクションを忘れてしまうキャストたちの演技
―― このようなキャスティングをする監督は目利きですね。國村さんは、オファーを受けてどう思われましたか?
國村: まず最初に、この『KOKORO』の脚本を読ませていただいて、なんて静かで優しい映画のお話なんだろうと思いました。それで、監督に会うことになり、目と目を合わせて「初めまして」と言った瞬間に、僕もこの人と一緒に仕事ができると同じように思いました。この人がこの世界を作る人なんだ。この人は脚本の世界そのままだという感じを受けましたね。
監督によって撮影スタイルが違うのですが、彼女は本当に撮影の現場でショットショットを拾い集めるのに、みんなと一緒に同じように迷いや悩みを共有して相談して、「今のテイクは私はこんな風に感じているのだけど、今度はこちら側で試してみるとどうなるかやってみても良い?」とそんな感じなんですよ。だから、一緒に映画を作る旅をしている感じなのですよ。
門脇: オーディションでお会いして、相手役のアリスを監督がしてくださったのですけれども、そのときに、目がすごく深くて静かな人だなと感じました。英語で台詞を言うのも、海外の監督というのも初めての経験の中で、オーディション会場に行ったら、すごく緊張するのだろうなと思っていたのですが、そんなに特別に長い時間を話したわけでもないのですけれども、なんて魅力的な人なんだろうとすごく心がもっていかれて、緊張感は全然ありませんでした。撮影期間中も、深くて静かで柔らかくて優しくて、現場全体がそういう空気が流れていて、本当に幸せな時間でした。
―― ヒロミ役を英語で演じてどんな点が良かったですか?
門脇: ちょっと強いキャラクターでもあったので、英語を話すと少し語尾が強くなって活気がでると思うので、そこがキャラクターに合っていて良かったと思います。もし、日本語でやっていたら、ちょっと違っていたかもしれません。
―― ダイスケ役を演じるに当たり、この作品にエネルギーは吸い込まれてしまいましたか?
國村: 吸い込まれるというのとは、ちょっと違うと思います。監督のヴァンニャもそうなんですが、主役のイザベル・カレという女優さんも、ご覧になってもうお分かりの通り、何か作りもののお芝居をする人ではなくて、彼女の演じるアリスが心の痛みに耐えかねているようなときというのは、イザベル自身も本当に痛がっているのが感じられる人なんですね。ですから、そのシーンを彼女と一緒にやっていると、こっちも「どうしてあげれば良いのだろう」という思いの中で、監督が書いた台詞をやり取りするという不思議な体験といえば、不思議な体験ですよね。
もちろん、これは嘘の世界で作ってやっているのですが、なぜかそこには、そうではない不思議な空気感が立ち上がってくる。このヴァンニャという監督さんは、それを求める監督さんなので、スタッフや素晴らしいカメラもみんなそこに一点に意識を集中して現場が動いていく。ヴァンニャの人となりが、それぞれのスタッフやキャストと一つなのです。彼女は、「私は仕事をするだけのスタンスではなく、友人としてもう一歩踏み込んだ形の関係性をもてる人とでないと映画は作れない」と言っているのですが、まさにそういう人だろうという気がしました。
自分を取り戻してこころを癒す方法とは
―― この作品は、主人公が自分を取り戻すことがテーマとなっています。みなさんはどんな風に癒しますか?
國村: 私は時間ができると、渓流の山の中の綺麗な水の流れている川に釣りに行くのが唯一の楽しみなんです。下手くそなのであまり魚は釣れないのですが、その渓流というシチュエーションやロケーションに身を置くだけで、すごく日常から離れた非日常に癒しを感じられるのです。渓流という山の中の綺麗な水の流れをみているだけでも、こころの在り処や疲れがチェンジできるかと思います。日本には、綺麗な水の流れる渓流がたくさんありますから、ぜひ行ってみられると良いかなと思います。
門脇: 私も山や海がすごく好きなので、疲れたときには、山に登って下に流れる雲海をボーっと眺めたり、海も泳ぐよりもひたすらザーッザーッっという波を眺めていたりします。時間がないときには、ひたすら歩きます。例えば、新宿から六本木とか2〜3時間歩いたりします。私は邪念がずっとあるので、そういうときにパッと思い浮かぶ考えごとや、忘れていたけど考えないといけないこと、これが引っかかっていたんだと出てくるので瞑想状態に近いかもしれないです。歩きながら瞑想をしている感じです。
監督: この質問はすごく深い質問ですね。私が常に探し続けているテーマでもあります。これまでに私が撮った全ての映画にも通じるものがあり、シベリアを旅するものであったり、中央アジアを旅するものであったり、今回は日本という国で自分を探すという共通のテーマがありました。私にとっては、自分の心地の良い家や故郷から離れて、一歩後ろに下がって違う視点でみてみると、色々なことが分かることに気づきました。一歩下がって色々な文化に触れて人々と話し合うことで、新たな一面をみつけることができます。それが私にとって大切なことだと感じています。やはり、文化の違いというのが自分を見つけることに非常に重要だと思います。自分の視点から一歩外れて、他からみると分かることがあります。だから、このような共通するテーマをもち続けているのですね。
日本の美しい自然のもとで、呼吸をするように深く静かにこころが洗われる作品をヴァンニャ・ダルカンタラ監督が描いている。ベルギーやフランス、カナダ、日本の4カ国混成スタッフが一つになって作った、私たちがまだ気づいていない日本の魅力が発見できるこころの処方せんです。
イベント情報<映画『KOKORO』公開初日舞台挨拶>日時: 2017年11月4日(土) |
映画作品情報
《ストーリー》夫と思春期の子供二人とフランスで暮らすアリスの元に、長い間旅に出ていた弟ナタンが戻ってきた。ナタンは日本で生きる意欲を見つけたと幸せそうに語る。しかしその数日後、彼は突然この世を去ってしまう。弟の死にショックを受けたアリスは、弟を変えた人々、そこにある何かに出会うため、ひとり日本を訪れる。ナタンの残した言葉を頼りに、弟の足跡をたどっていくアリス。そこで彼女は、海辺の村に住む元警察官ダイスケと出逢う。彼は飛び降り自殺をしに村の断崖を訪れる人々を、そっと思いとどまらせているのだった。求めすぎず、静かに傷をいやすことのできるその場所に、アリスはどこか安らぎを感じる。そしてダイスケをはじめとするジロウ、ミドリ、ヒロミ、ハルキら、その村で出会った人々との交流が、静かにアリスの心に変化をもたらしてゆく――。 |
監督・脚本: ヴァンニャ・ダルカンタラ
原作: オリヴィエ・アダム「Le cœur régulier」
配給・宣伝: ブースタープロジェクト
2016年 / ベルギー・フランス・カナダ / 95分 / カラー / シネマスコープ / 5.1ch
© Need Productions/Blue Monday Productions
公式Twitter: @movie_kokoro
公式facebook: www.facebook.com/kokoro.movie/