第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門『名付けようのない踊り』Q&A レポート
【写真】第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『名付けようのない踊り』Q&A (田中泯)

第34回東京国際映画祭(TIFF)
Nippon Cinema Now部門
映画『名付けようのない踊り』Q&A 

「“犬童さんに作り上げられた踊り”はかっこいい」
田中泯×犬童一心監督の“表現”と思いが融合

『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)、『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)、『のぼうの城』(2012年)などで知られる犬童一心監督が、世界的なダンサーとして活躍する田中泯の踊りと生き様を追った、映画『名付けようのない踊り』2022年1月28日(金)に公開される。

【画像】映画『名付けようのない踊り』メインカット

1966年からソロダンス活動を開始、1978年のパリ秋芸術祭で海外デビューを果たしたことをきっかけに世界中のアーティストとコラボレーションを実現してきた田中泯。さらに映画『たそがれ清兵衛』(2002年)から映像作品への出演を重ね、独自の存在感を発揮してきた田中のダンスを映画『メゾン・ド・ヒミコ』でのタッグから交流を重ねてきた犬童一心監督が撮影、作品として作り上げた。2017年8月から2019年11月までポルトガル、パリ、東京、福島、広島、愛媛などを巡りながら撮影。さらに短編アニメーション映画『頭山』(2002年)で第75回アカデミー賞® 短編アニメーション部門に日本人で初めてノミネートされた山村浩二によるアニメーションとのコラボレートで独自の世界観をふくらませた

今作はロードショーに先立ち、10月8日(金)にワールドプレミア上映が行われた第26回釜山国際映画祭(BIFF)に続いて、10月30日(土)に開幕した第34回東京国際映画祭(TIFF)Nippon Cinema Now部門へ出品。11月6日(土)に角川シネマ有楽町で行われたジャパンプレミアとなる上映後のQ&Aに、主演の田中泯犬童一心監督が登壇し、唯一無二の踊りがいかにして映像作品へと仕上がっていったか、それぞれの熱い思いを語り合った。

膨大な撮影、編集期間を経ての上映に
田中泯、犬童監督とも感無量

映画を観終わったばかりの観客による温かい拍手に包まれて、田中と犬童監督が登場。最初に上映を迎えての気持ちを聞かれた犬童監督は、「撮影を始めてから3年くらい経っていますが、実は編集も、たいへん長い時間していました。編集をしても、しても、完成しなかった映画。やっと観てもらえて『もう直さなくてもいいんだな』という気持ちです。来ていただいてありがとうございます」と、完成までの苦労をしのばせつつ挨拶。

田中も犬童監督の思いに応えるように「僕も終わってよかったなという思い」と笑いながら、「いつ区切りが着くのかというくらい、踊る場所、踊る場所(撮影に)来ていただいた。それが無くなったのは少し寂しいですがこうしてみなさんに観ていただき、これからさらに先に進めるのはうれしいこと」と率直な気持ちを語った。さらに、聞き入る観客に対して「皆さん、映画観たんですよね?(雰囲気が)暗い…ですね、ちょっと」とつぶやき、観客の拍手を浴びて「ありがとうございます」と返すユーモラスな一面を見せ、和やかな雰囲気の中でイベントはスタートした。

【写真】第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『名付けようのない踊り』Q&A (田中泯、犬童一心監督)

『メゾン・ド・ヒミコ』出演交渉時の一言が
今作を生み出すきっかけに

今作は、犬童監督が田中に誘われて訪れたポルトガルの公演から撮影がスタートしたといい、まずは司会を務めた東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三から、犬童監督に「なぜ今、田中泯さんを題材に撮影しようと思ったのか?」の質問が。

犬童監督は、『メゾン・ド・ヒミコ』の出演交渉時、田中が現在も農業を続けている山梨まで出演交渉をしに行った時のことを思い返し、「『メゾン・ド・ヒミコ』のシナリオを読んでくださったときに、日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞をもらっている泯さんから“このシナリオはいいと思うけれど、僕は演技ができない。それでもいいか?”と言われたんです。その後に“ただ、撮影をする場所に一生懸命いることはできるから、それでいいならやります”と言われた。それが、ダンスでやってきたことだからと。この言葉が自分の中にずっと残っていた」と回想。

【写真】第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『名付けようのない踊り』Q&A (田中泯、犬童一心監督)

『メゾン・ド・ヒミコ』撮影後から、ずっと田中のダンスを観るようになったという犬童監督。理由の一つは「その時に言われた言葉がどういう意味なのか、確かめたい気持ちがあった」ことだという。「なんとなく自分の中で分かってはいるけれど、確かめたい。それでポルトガルに誘われたときに撮ってみようと思った。当時はまだ作品にするつもりではなく、撮影してみようかなと。結果、僕の中の疑問を、作品の中でちゃんと確かめてみようと思うようになった」と、きっかけは約15年前の田中の言葉だったことを明かした。

【画像】映画『名付けようのない踊り』場面カット

踊りは再生技術を持たない“一過性の花火”
「犬童監督が再現してくれたことが一番大事」

続いて、「自身の踊りが映像化されたことをどのように感じた?」と問われた田中はまず「映像のために踊るということをしたつもりはありません。踊っていたのはやはり、その場所、その場所のための、現地で自分がキャッチした踊り。その踊りをみてくださった犬童さんが、今度は(作品の中で)踊りを再生してくださった。ここが一番大事だと思う」ときっぱり。

さらに、ビデオテープが生まれてから何度も自身の踊りを記録されてきているが、「一度として踊った時の感覚に戻れた試しがない」と前置きをしたうえで「踊った時に私に押し寄せてくるさまざまな感覚は、映像になると消えてしまう。それなのにまた同じ踊りを(映像で)同じように流すことに、僕はむしろ嫌悪さえ抱いていました。でも、犬童さんは僕の踊りを再現してくださった。僕の踊りをみなさんが観て、面白く思えるように。目を引き寄せて、釘付けになるようなものに編集してくださった。だから、皆さんがご覧になる踊りは、おそらく僕が踊った時のものとは違うものになっている。ここが僕にとってはすごく大事なところ」と力を込めて語った。

【写真】第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『名付けようのない踊り』Q&A (田中泯)

さらに自身が「踊り」をどのように捉えているかといった核たる部分にもふれ、「僕は踊りを踊っていますが、“私の踊り”として所有する気は全くない。だからどう使われても平気だし、どんな風になっていても“僕は踊った”のだと。その時に感じ取った踊りは何月何日のどこ、という記憶で大事にしまってあります。この映画の踊りは僕が確かに踊っています。でも間違いなく、映画の中の踊りは犬童さんに“踊り”として作り上げられたもの。これがうれしい。かっこいいんです、僕にとって」と今作の魅力について言及。音楽とは違って再生する技術を全く持たない踊りを「一過性の花火」と表したうえで、「でも踊りは、それを観た人の中で生まれ変わっているはずなんです。それを犬童さんは犬童さんの映画作品として実現してくれた。それが今日僕が一番言いたかったことです」と静かな声音の中に強い思いをにじませて観客へと伝えた。

【写真】第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『名付けようのない踊り』Q&A (田中泯)

田中泯と山村浩二のアニメーションが拮抗
生まれたのは、唯一無二の世界観

田中の踊りに、山村浩二のアニメーションが加わることで、独特の世界観が作り上げられている今作。犬童監督は、異色とも言える2つを組み合わせた意図を聞かれると「(作品の制作を通して)泯さんの踊りを長時間観ていた。ご本人の前ではすごく言いづらいけど、泯さんの踊りはどういう風に作られているのかを自分なりに考えたときに、イマジネーションが連なっていながら、観ている側としてはメタモルフォースしていっている感覚が非常に強かった。泯さんの中でイマジネーションが変形していって、文脈がつながっているというよりも、変形しながら次へいっている。僕の偉大な後輩・山村浩二のアニメーションも、常にストーリーと戦いながら、どうメタモルフォースするかということをひたすら続けている。それがアニメーションの面白さでもあって。もしかしたら、田中泯の踊りに山村浩二なら拮抗できるんじゃないかと思った。一つの映画にするときに上手くかみ合うんじゃないかっていう、僕の漠然とした勘でこうなった」と一見異なる表現の中に同じものを見ていたことを告白。隣で話を聞く田中も興味深そうな笑顔を浮かべた。

【写真】第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『名付けようのない踊り』Q&A (犬童一心監督)

時間をかけないと生まれないものの
重さや輝きを伝えたい

最後に、来場した観客から犬童監督へ「本作の中で泯さんが何度も多様な時間の重要性を語っている。作品の中でものすごく豊かな時間が流れていた。この時間に関して監督が意識されたことや難しかったことを教えてほしい」との質問が。

犬童監督は、本作での「時間」については2つの軸で考えられていたと説明。「全体の編集に対する考え方は、泯さんの踊りを観に行き、そこから帰るまで時間を一本の映画で上手く再現できないか、という点。(作品内で)とてもたくさんの踊りを撮っているけれど、僕の中では泯さんの一つの踊りを観に行き帰ったという感覚に近い仕上がりにしたかった。それも“踊りを観ていた時間”だけではなく、その場に着いてから帰るまでの時間を描けないかと」と、膨大な量の踊りを一つの踊りという考え方で表現していたことを伝えた。

また、作品を作るにあたって田中を長く観ていたことから意識しだしたこともあったという。「それが、泯さんはものすごく時間をかけてものごとを進めている人だということ。ダンスを踊るために農業をするという方法が、ものすごく時間をかけている。ダンスのために訓練して、体を作って踊るという考えではなく、まず農業をして、そこで生まれてきた体で踊るという時間のかけ方。そのことをものすごく尊敬しています。時間をかけないと生まれないものの重さや輝き。そういったことを非常に考えて作った。作りながら泯さんのやり方は今一番大事なことの一つだとだんだん思うようになった」と長く深い田中とのかかわりの中で、監督自身も重要な発見をしたことを伝えて締めくくった。

【写真】第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『名付けようのない踊り』Q&A (田中泯、犬童一心監督)

 

最後に、メディアによるフォトセッションが行われ、短いながらも濃厚な回答の応酬となったイベントは盛況のうちに終了した。

[スチール写真&記者: 深海 ワタル]

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イベント情報

第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門
映画『名付けようのない踊り』Q&A

■開催日: 2021年11月6日(土)
会場: 角川シネマ有楽町
■登壇者: 田中泯、犬童一心監督
■MC: 市山尚三(東京国際映画祭 プログラミング・ディレクター)
■英語通訳: 鈴木小百合

【写真】第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 映画『名付けようのない踊り』Q&A (田中泯、犬童一心監督)

映画『名付けようのない踊り』予告篇

映画作品情報

《作品概要》

なぜ今、彼に惹かれるのか。
田中泯が、76年の生涯をかけ探し続ける踊りとは…
見るものの五感を研ぎ澄ます、120分の旅にでる

1978年にパリデビューを果たし、世界中のアーティストと数々のコラボレーションを実現し、そのダンス歴は現在までに 3,000回を超える田中泯。映画『たそがれ清兵衛』(2002年)から始まった映像作品への出演も、ハリウッドからアジアまで広がっている。

40歳の時、田中泯は“畑仕事によって自らの身体を作り、その身体で踊る”ことを決めた。そして74歳、ポルトガルはサンタクルスの街角で踊り、「幸せだ」と語る姿は、どんな時代にあっても好きな事を極め、心のままに生きる素晴らしさを気付かせてくれる。そんな独自の存在であり続ける田中泯のダンスを、『メゾン・ド・ヒミコ』への出演をきっかけに親交を重ねてきた犬童一心監督が、ポルトガル、パリ、山梨、福島などを巡りながら撮影。また、『頭山』でアカデミー賞短編アニメーション部門に日本人で初めてノミネートされた山村浩二によるアニメーションによって、田中泯のこども時代が情感豊かに点描され、ぶれない生き方が紐解かれてく―。

どのジャンルにも属さない田中泯の〈場踊り〉を、息がかかるほど間近に感じながら、次第に多幸感に包まれる―― そんな一本の稀有な映画を、ぜひスクリーンで体験してほしい。

 
第34回 東京国際映画祭(TIFF) Nippon Cinema Now部門 出品作品
 
出演: 田中泯 
石原淋/中村達也、大友良英、ライコー・フェリックス/松岡正剛
 
脚本・監督: 犬童一心
 
エグゼクティブプロデューサー: 犬童一心、和田佳恵、山本正典、久保田修、西川新、吉岡俊昭

プロデューサー: 江川智、犬童みのり

アニメーション: 山村浩二
音楽: 上野耕路
音響監督: ZAKYUMIKO
撮影: 清久素延 池内義浩 池田直矢 
編集: 山田佑介
助成: 文化庁文化芸術振興費補助金 
協賛: 東京造形大学 アクティオ

配給・宣伝: ハピネットファントム・スタジオ
配給: エレファントハウス
制作プロダクション: スカイドラム
制作: 「名付けようのない踊り」製作委員会(スカイドラム、テレビ東京、グランマーブル、C&Iエンタテインメント、山梨日日新聞社 山梨放送)
 
© 2021「名付けようのない踊り」製作委員会
 
2022年1月28日(金)より
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー!

 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @unnameabledance
公式Instagram: @unnameabledance
 

第26回 釜山国際映画祭(BIFF) 映画『名付けようのない踊り』上映後オンラインQA レポート

この記事の著者

深海 ワタルエディター/ライター

ビジネスメディア、情報誌、ITメディア他幅広い媒体で執筆・編集を担当するも、得意分野は一貫して「人」。単独・対談・鼎談含め数多くのインタビュー記事を手掛ける。
エンタメジャンルのインタビュー実績は堤真一、永瀬正敏、大森南朋、北村一輝、斎藤工、菅田将暉、山田涼介、中川大志、柴咲コウ、北川景子、吉田羊、中谷美紀、行定勲監督、大森立嗣監督、藤井道人監督ほか60人超。作品に内包されたテーマに切り込み、その捉え方・アプローチ等を通してインタビュイーの信念や感性、人柄を深堀りしていく記事で評価を得る。

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