第32回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門『アトランティス』記者会見レポート

【写真】第32回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門 映画『アトランティス』記者会見 (ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ、アンドリー・リマルーク)

第32回 東京国際映画祭(TIFF) 
コンペティション部門『アトランティス』記者会見

独自手法でウクライナ紛争のリアルと心情を映し出す!
ヴァシャノヴィチ監督と元兵士の主演俳優が来日

第32回東京国際映画祭(TIFF)のコンペティション部門に選出されたウクライナ映画『アトランティス』(原題:Atlantis)の記者会見が、10月30日(水)にTOHOシネマズ 六本木ヒルズで開催。来日した監督のヴァレンチン・ヴァシャノヴィチと、主演のアンドリー・リマルークが登壇した。

映画『アトランティス』は2025年の近未来が舞台。戦争直後の世界で深いトラウマを抱えた元兵士の男が、身元不明の死体発掘に携わる女性と出会い、自らの過去と向き合っていく様子が描かれる。主演を務めたリマルークは、もともと俳優ではなく、主人公と同じく戦争を経験した元兵士。リアリティーあふれるリマルークのたたずまいに加え、荒廃した土地を硬質に映し出す映像美と驚異のワンシーン・ワンショットに圧倒されるディストピア異色作だ。

【画像】映画『アトランティス』メインカット

「ウクライナで今も続く戦争を知ってもらいたい」
オーディションで重視したのはプロ俳優ではなく“戦争体験者”

まずはヴァシャノヴィチ監督が今作を手掛けた理由について「ウクライナではまだ戦争が続いている。それをみなさんに知ってもらいたい」と挨拶。続くリマルークは「この撮影には非常に興味深く参加しました。というのも、私自身が戦争に参加したことのある経験者だから。映画は100%真実に近いものであると確信しています」と自身の経歴について語った。

映画制作のきっかけに対して「戦争の真実を知ってもらうための映画でなぜ近未来の設定したのか」とMCの笠井による質問が。ヴァシャノヴィチ監督は「これまで撮られた多くの戦争映画は、(実際の)戦争が終わってから10年ないし15年後くらいに作られたもの。私自身も最初は現代の設定を想定していたが、こういう作品ではどうしても政治的な問題が絡んできたり、私達作り手も敵軍を悪い役割に決めてしまうようなことが起こりえる。それを避けるためにあえて近未来の設定にしました。戦争が起こることで人々の間にどのようか変化や結果がもたらされるかを描きたかったので、今ではその判断は正しかったと考えています」と話し、現実の紛争から日の浅い現時点では背景に複雑な事情があることをにじませた。

演技初体験だったというリマルークのオーディションコンセプトについて聞かれると、「(主演役オーディションの)一番大切なコンセプトはプロの俳優は使わないこと。また、戦争の実体験者であることも重要でした」と求められたのは”演技力”ではなかったと回答。「今回は実際の戦争でPTSDを抱えた人に参加してもらいたかった。そういう役柄は俳優が演じるのは難しい。その仕上がりは作品をご覧になっていただければ分かると思います」とあくまでリアリティーを求めたことを告白した。

リマルークは、自身の体験について「戦争は常に恐ろしいもの。私は1年半もの間戦争に参加し、その間に血や人々の死、爆発などさまざまなものを目の当たりにしてきました。ウクライナで今回の戦争に参加した人はほとんどがPTSDを抱えています。この映画の中でも現在のウクライナ人が抱えている問題を如実に表している」と苦悩を語り、統計として約1割の戦争体験者がアルコール依存症になり、約8%が自死に至っている深刻な現実を伝えた。

「フレームワークと長回しでよりドラマチックに」
ドキュメンタリー出身監督ならではのこだわり

質疑応答では、ほぼ全編ワンシーン・ワンカットで撮影という独特の手法についての質問が。その撮影方法による狙いを問われたヴァシャノヴィチ監督は、「私の出身はドキュメンタリーです。今作では大きな画面のフレームワークで長回しで撮影することによって、よりドラマチックな場面を再現したかった。それによって主人公たちの感情をより観客に伝えられると期待しています」と丁寧に説明。また、人物だけでなく、彼らを取り囲む環境にも興味がありできるだけそれを表現することも理由の一つだったという。

長回しでワンシーンを撮りきる、プロの俳優でも過酷な撮影。どのようにしてそれを乗り切ったかと聞かれたリマルークは、「撮影は価値を付けられないほど非常に貴重な体験だった」とチャンスを与えてくれた監督への感謝を述べ、撮影自体は2015年頃の自身の戦争体験を思い出しながら取り組んだと率直に語った。

さらに監督が「今回私はアンドリーを戦争によるPTSDを抱えた人物ということで採用したけれど、撮影でも非常に大変な思いをさせてしまったので、2重のPTSDを抱えさせてしまったのではないかとスタッフ仲間で冗談で話したりもしています」と返し、リマルークと笑いあう一面も。また、アンドリーが今回の撮影を経て今後役者の道に進むことを決め、次作のオファーも届いていると明かして主演俳優の今後を後押し。フォトセッションを経て記者会見は終了した。

【写真】第32回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門 映画『アトランティス』記者会見 (ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ、アンドリー・リマルーク)

独自の手法でディストピアを映し出し、淡々と進む戦後の世界と元兵士の決断が胸を打つ『アトランティス』は、第32回東京国際映画祭で11月2日(土)に東京・六本木の「EX THEATER ROPPONGI」で公式上映される。

[スチール撮影: Cinema Art Online UK / 記者: 深海 ワタル]

イベント情報

第32回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
映画『アトランティス』記者会見

■開催日: 2019年10月30日(水)
会場: TOHOシネマズ 六本木ヒルズ スクリーン8
■登壇者: ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督、アンドリー・リマルーク
■MC: 笠井信輔(フジテレビアナウンサー)

【写真】第32回東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門 映画『アトランティス』記者会見 (ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ、アンドリー・リマルーク)

第32回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門
映画『アトランティス』(原題:Atlantis) 予告篇

映画作品情報

【画像】映画『アトランティス』(原題:Atlantis) ポスタービジュアル

第32回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門 出品作品
 
原題: Atlantis
邦題: アトランティス
 
監督・脚本・撮影監督・編集・プロデューサー: ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ
 
出演: アンドリー・リマルーク、リュドミラ・ビレカ、ワシール・アントニャック
 
2019年 / ウクライナ / ウクライナ語 / 108分
 
映画公式サイト

この記事の著者

深海 ワタル

深海 ワタルエディター/ライター

女性向け情報誌で旅・エンタメジャンルを担当し、試写会紹介やタレントインタビューなどを執筆。インタビュー実績は堤真一、永瀬正敏、大森南朋、北村一輝、松田龍平、斎藤工、柳楽優弥、柴咲コウ、北川景子、吉田羊、中谷美紀ほか30人以上。学生時代から地元の名画座に通い、年間50本超の映画鑑賞を15年以上継続中。好きなジャンルはヒューマンドラマ、アクション、サスペンス、ファンタジー。人生を変えた1本は、子どもの頃劇場で鑑賞して映画好きのきっかけとなり、通算30回以上リピートしている『ターミネーター2』。

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