第30回 東京国際映画祭(TIFF) Japan Now 部門《河瀨直美監督》記者会見レポート
【写真】第30回 東京国際映画祭開幕(TIFF) Japan Now 部門《河瀨直美監督》記者会見

第30回 東京国際映画祭(TIFF)
Japan Now 部門 河瀨直美監督 記者会見

記念すべき第30回開催に相応しいラインナップ 
河瀨直美監督による
TIFFマスタークラスも開催!!

10月25日(水)~11月3日(金・祝)の10日間で行われる第30回東京国際映画祭(TIFF)にて、今、一番海外に発信したい監督にスポットを当てる「Japan Now」部門の一作品として、今年の第70回カンヌ国際映画祭でエキュメニカル賞を受賞した河瀨直美監督作品『光』が上映される。

映画祭開催に先駆けて10月3日(火)、日本外国特派員協会(FCCJ)にて行われた「Japan Now部門」の記者会見に、河瀨監督が登場。Japan Now部門に寄せる期待や、『光』の上映にあたっての意気込みを語った。久松猛朗フェスティバル・ディレクターより、今年で30回を迎える東京国際映画祭の注目企画の紹介、また、Japan Now部門プログラミン グ・アドバイザーの安藤紘平氏からは今年の特集企画「Japan Now 銀幕のミューズたち」の4人の女優それぞれの魅力に関して、さらに部門全15作品のラインナップにおける監督や作品に対する想いが語られた。また、上映後のQ&Aに参加する多くのゲストが発表された。

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久松猛朗 フェスティバル・ディレクター コメント 

今年は第30回の記念の開催を迎え、より多様で多彩な充実したプログラムができたのではないかと思います。そんな記念すべき映画祭の中で、日本の映画を海外へ発信していくという非常に重要なミッションを担う「Japan Now」部門は3年目を迎えました。 河瀨直美監督の『光』をはじめとして、今年の賞レースを占う作品が揃ったと思っております。 また、これまでの2回は監督特集を実施して参りましたが、今年は、「Japan Now 銀幕のミューズたち」とし、蒼井優さん、安藤サクラさん、満島ひかりさん、宮﨑あおいさんの4名の女優にフィーチャーしました。

【写真】第30回 東京国際映画祭開幕(TIFF) Japan Now 部門 記者会見 久松猛朗 フェスティバル・ディレクター

安藤紘平 プログラミング・アドバイザー コメント

先ほど久松よりご説明させていただきましたが、今年は、日本映画を牽引する4人の女優の最新作やターニングポイ ントとなった2本の作品を上映します。4人の女優さんそれぞれが非常に素晴らしい個性をお持ちで、安藤サクラさんは、圧倒的な個性と変幻自在な演技力を楽しめると思います。 蒼井優さんは、周りにいそうな親近感と高嶺の花のようなストイックさのギャップに魅力のある女優さんです。 満島ひかりさんは、ちょっとした仕草や微妙な表情がセリフを超えた素晴らしい感情や心情を一瞬で伝える演技力に注目してください。 宮﨑あおいさんは、キラキラした無垢で愛らしい笑顔から、うちに秘めた悲しみをこれほど鮮烈に表現できるのは彼女しかいないのではないかと思います。4人の女優特集の他、7本の作品を上映をいたします。その中でも、河瀨直美監督の『光』は、“失うことの美しさ”や“消えていくことの美学”ということを表現しつつも、映画という表現するものの本質までも語っています。日本の誇るべき素晴らしい監督であると感じます。

【写真】第30回 東京国際映画祭開幕(TIFF) Japan Now 部門 記者会見 安藤紘平 プログラミング・アドバイザー

司会 カレン・セバーンズ氏のコメント 

日本の女優4人をフィーチャーするだけでなく、日本の女性監督の作品も4作品ピックアップされていることも素晴らしいことだと思います。

【写真】第30回 東京国際映画祭開幕(TIFF) Japan Now 部門 記者会見 司会 カレン・セバーンズ

河瀨直美監督への質疑応答

―― 『光』の上映とマスタークラスにもご登壇いただきますが、どのようなお話やどういったことを実施するのか? また、次世代を育てていくことに対する考えをお聞かせください。

河瀨監督: この度は、東京国際映画祭、第30回開催おめでとうございます。 映画祭を30回も続けていくことはとても大変なことだと、私もなら国際映画祭をやっているのですごいなと素直に思います。映画祭は、沢山の人が集まるのでとても混乱はしますが、混乱は人生に似ていて映画作りにも似ているな、と感じます。壁があるからこそ乗り越えるというそういう場でもあると思います。様々な国の人が自分たちの映画を持ち寄って、ひとつの場所に集まり、ある期間に出会うことができる。そして自分の国に戻り、また戻ってくるということが、 地球が循環していく中のひとつに映画祭はあるのかな、と思います。

また映画祭は、自分が映画を作るモチベーションにもなります。カンヌ国際映画祭をはじめ、沢山の映画が文化の違いを超えてコミュニケーションしていく場なのかなと思います。 (本映画祭で自身が登壇をする)マスタークラスでは、私自身、生きていることと映画を作ることを切り離して考えられていないので、プライベートな部分と映画を作る部分をどのようにして融合していっているのかの具体例を出して話していけたらと思います。 なら国際映画祭では、新しい人と一緒にプロデューサーとして映画を作っており、今、まさにイラン人の女性監督が映画を撮っている最中なのですが、そういったように一緒に(映画を)作るワークショップのようなものをやっていけたら考えています。

【写真】河瀨直美監督 記者会見

―― これまでの東京国際映画祭を見てきて、どんな印象をお持ちだったからを率直に伺いたいです。

河瀨監督 :  あらゆる映画祭がある中でも日本を代表する東京国際映画祭には少し距離があると感じていたし、手の届かない存在だと思っていました。私が奈良に住んでいるので、遠い存在と感じてしまっていたのかもしれません。 しかし、今回参加させていただき、プログラムを聞かせてもらうと少し距離感が近づいているのかなと思っています。 私自身、映画祭というのは過去、山形国際ドキュメンタリー映画祭に参加して、映画祭の凄さを実感しました。 映画館を出てからも映画談義を立ち話でしている光景を見て、“生きること”と“映画を見ること”は地続きなのかなと感じました。

【写真】第30回 東京国際映画祭開幕(TIFF) Japan Now 部門《河瀨直美監督》記者会見

その後、今年カンヌ国際映画祭でエキュメニカル賞を受賞した河瀨直美監督作品『光』の上映があり、上映終了後、改めて河瀨監督が登壇し、記者からの質疑応答の時間が設けられた。

―― 『光』のストーリーの着想はどこから?

映画『あん』(2015年)の音声ガイドを作ることになり、初めて音声ガイドというお仕事があることを知りました。音声ガイド製作者の方達からのリストをいただいた時、そこに書かれていた言葉に非常に感銘を受けたのです。映画で私は、極力言葉で表現せず、映像の表現で映画を作っているのですけど、しかし視覚障害者にとっては言葉がないと作品は伝わらないわけです。そこに書かれている言葉の使い方が非常に美しく、感動したのです。この音声ガイド製作者の方を主人公とすると、映画への愛を描けるのではないか。そう思ったのが本作の製作のきっかけです。

【写真】第30回 東京国際映画祭開幕(TIFF) Japan Now 部門 記者会見 河瀨直美監督

―― 映画の中に河瀨監督ご自分がいるように感じました。

『あん』は商業的に大成功しているのですけれども、自分が興味のある作品がなかなか思いつかなくて、今回、映画そのものを題材にしたら面白いんじゃないかと思い、取り組みました。映画そのものへの愛が詰まった作品となりました。

―― 『あん』も『光』も共通点として、身体がどんどん壊れていく(障害を持っていく)ことが描かれていますが、身体とアートの関連性についてどのように考えているか教えてください。

クリエイターはどこか自分の中にないものや欠落にフォーカスすることによって、自分自身がよりそのことを知っていく、より人間として成長していくという側面があるのではないかと思っていて、私の場合も映画に出会えたことで自分の人生をより豊かにすることができました。

みんな素晴らしいものや賞賛されるべきものにスポットライトをあてることが常ですが、私は映画作りにおいて、主人公はスポットライトを浴びない部分や人に焦点をあてたいと思っています。まだわからないものや暗闇に光をあてることで、それがまた次のライトを浴びるような世界に存在できるようになっていくのではないかと思います。

【写真】河瀨直美監督 記者会見

―― 主演である永瀬正敏さんと水崎綾女さんをキャスティングした決め手を教えてください。

前作の『あん』で永瀬さんとはご一緒していまして、カンヌに行った時に「次も一緒にやろう」と話していた上で、彼は写真家でもあって、「目を奪われた中で何を感じるのか?」という、彼自身のリアリティの中で何ができるのかを表現できるなと思いましたので、それが決め手となりました。

水崎綾女さんに関しては、すごく気の強い人だなという印象をオーディションで受けました。その御自身の生い立ちや背景を聞いていくと、彼女は阪神淡路大震災に遭われていて、その時に家族との関係も非常に苦労されてきたと。彼女の目がすごく強くて、その目の強さが美佐子を演じる決め手となりました。

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―― 自然を使ったモチーフについてお聞かせください。

自然というのは映画においてもうひとつの主人公と思っている。人間だけがこの世界に存在しているのではなくて、人間が、自然の中にいると。言葉は喋らないけれども、言葉以上のものを存在させてくれていて、私たちに影響を与えてくれていると思っています。

―― 劇中、主人公が自分の心臓と言っていたほど大切にしていたカメラを棄ててしまいましたが、なぜですか?

「一番大切なものを捨てる」ということは、その次にやってくる「もっと大切なものを受け取れる」ことに繋がっていると信じているからです。

―― ロミオとジュリエットのようなシーンがありましたが。

あのシーンは、永瀬正敏くんからの提案でした。脚本にはもともと無かったものです。
何故なら、美佐子(水崎綾女)はずっと追いかけてばかりいる。今度は雅哉(永瀬正敏)から向かっていくというシーンを撮りたかったという、彼自身の中から出てきたものなのです。

私の映画は、完全に順撮りをしています。シーン1からシーン2、シーン3と撮っていくのです。シーン3から、いきなりシーン8に飛ぶということはありません。だから、俳優の中に映画の流れと一緒に時間が蓄積されていくので、出てくるエピソードは、非常にリアリティのある、自分の作る脚本を超えたまるでドキュメンタリーのようなシーンになるのです。

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―― 映画の中で実際に視覚障害者を起用したのか?

モニターの中でマサコさんと呼ばれる方は本当に視覚障害者です。彼女のリアルな言葉がモニターの世界を大きくしてくれています。永瀬正敏くんにも、実際撮影前に一ヶ月ほど奈良に住んでもらって、一日中目の見えなくなるゴーグルをつけてもらって過ごしてもらいました。

―― 新作映画も撮影真っ只中ということですが、こちらの映画も永瀬さんが主演で、そして日本での撮影が初めてのジュリエット・ビノシュさんも主演に迎えての作品になるわけですけれども、新作について差し支えない範囲内で、お話をお願いします。

So Exciting(笑)。ビノシュはやっぱり想像以上の人で、思っていた感じよりもすごいなと思うのは、即興が出来るのです。そこにある私が書いた脚本はもとより、そこにある中から、このキャラクターになるために、何日も時間をかけてずっとそのキャラクターを自分の中に入れる作業をしているのです。なので、即興ができるのです。ジャンヌという役なのですが、ジャンヌはどういう人物なのか、どんな両親の元に生まれたバックグラウンドを持っているのか?などなど、全部言わずとも自分でやってきたんですね。驚きだし、「やっと出会えた」という感覚です。

カンヌ国際映画祭のクロージングセレモニーで、パルム・ドールのプレゼンテーターとして出てきたのがビノシュでした。その時、彼女が「映画は、光だ!」って言ったのです。その“光”という言葉を聞いて、「パルム・ドールは私かな?何かの間違えなのかな」って思いました(笑)。

3カ月後に奈良で彼女とその話ができる「映画は光だ、映画は愛だ」っていう話ができるこの奇跡を私は喜んでいます。

【写真】第30回 東京国際映画祭開幕(TIFF) Japan Now 部門 記者会見 河瀨直美監督

河瀨直美監督への再びのフォトセッションの後、盛大な拍手を受け笑顔で会場を後にした。

第30回東京国際映画祭での映画『光』の上映と、河瀨直美監督によるTIFFマスタークラスは10月28日(日)に行われる。

[記者: 蒼山 隆之 / 編集: Cinema Art Online UK]

 

記者会見概要

■開催日: 2017年10月3日(火) 
■会場: 公益社団法人 日本外国特派員協会(FCCJ)
■登壇者: 河瀨直美監督(Japan Now 部門出品『光』監督) 、久松猛朗(東京国際映画祭 フェスティバル・ディレクター)、安藤紘平(「Japan Now」部門プログラミング・アドバイザー)
■司会: Karen Severns(FCCJ – Film Committee)
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河瀨直美監督 プロフィール

映画作家。生まれ育った奈良で映画を創り続ける。大阪写真専門学校映画学科卒業。『につつまれて』(1992年)、『かたつもり』(1994年)で、山形国際ドキュメンタリー映画祭国際批評家連盟賞等を受賞。『萌の朱雀』(1997年)でカンヌ国際映画祭カメラドールを最年少受賞し、『殯の森』(2007年)で審査員 特別大賞グランプリに輝く。その後も同映画祭で、数々の賞を受賞し、2017 年には『光』がエキュメニュカル審査員賞を受賞した。

【Japan Now部門上映作品】映画『光』予告篇

第30回 東京国際映画祭(TIFF)
Japan Now部門 上映ラインナップ&ゲスト情報

【画像】第30回 東京国際映画祭(TIFF) Japan Now 部門 上映ラインナップ & ゲスト情報

この記事の著者

蒼山 隆之アーティスト/インタビュア/ライター

映画俳優や監督のインタビュー、映画イベントのレポートを主に担当。
東京都内近郊エリアであれば、何処にでも自転車で赴く(電車や車は滅多に利用しない)スプリンター。

そのフットワークを活かし、忙しい中でもここぞという時は取材現場に駆けつけ、その時しかないイベントを現地から発信したり、映画人の作品へ対する想いを発信するお手伝いをしている。

また、自身も表現者として精力的に活動を展開。

マグマ、波、雷など、自然現象から受けたインスピレーションをブルーペイントを用いたアートで表現する「Blue Painter」として、数々の絵画作品を制作。銀座、青山、赤坂などで開催する個展を通じて発表している。

俳優の他、映画プロデューサーやインテリアデザイナーと幅広い顔を持つブラッド・ピットをこよなく尊敬している。

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