映画『ジュピターズ・ムーン』コーネル・ムンドルッツォ監督&脚本家カタ・ヴェーベル来日インタビュー

【写真】映画『ジュピターズ・ムーン』 コーネル・ムンドルッツォ監督、脚本家カタ・ヴェーベル

映画『ジュピターズ・ムーン』 (原題:Jupiter holdja / 英題: JUPITER'S MOON)

コーネル・ムンドルッツォ監督、
脚本家 カタ・ヴェーベル 来日インタビュー!

もっと上を見上げて欲しい、信じる心を持って欲しい。

「人生に敗れた男が出会ったのは、宙を舞う少年――」

第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映され、観客たちが熱狂した映画『ジュピターズ・ムーン』が2018年1月27日(土)より新宿バルト9ほか全国順次公開される。

『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』(2014年)で第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリ&パルムドッグのW受賞が記憶に新しい、ハンガリーの俊英、コーネル・ムンドルッツォ監督の最新作だ。

本作は、『ホワイト・ゴッド』に次いで、ムンドルッツォ監督が“信頼”について描く3部作の2作目として位置付けされている。

【画像】映画『ジュピターズ・ムーン』 (原題:Jupiter holdja / 英題: JUPITER'S MOON) メインカット

第70回カンヌ国際映画祭で審査員を務めたウィル・スミスが、受賞発表の会見で「僕は『ジュピターズ・ムーン』が本当に好きだ。これから先、何度も何度も繰り返し観たいと思う最高の映画だった」と発言したことでも話題を呼び、その後出品されたシッチェス・カタロニア国際映画祭2017 ファンタスティック・コンペティション部門最優秀作品賞と視覚効果賞を受賞。さらに、北米ファンタスティック・フェスト2017でも最優秀監督賞を受賞し、世界各国の映画祭で賞賛を浴びている。

日本公開に先駆けて来日したコーネル・ムンドルッツォ監督と脚本家カタ・ヴェーベル氏に本作が映画化に至ったきっかけや独特な撮影方法、キャストについてなど製作秘話を伺った。

【写真】映画『ジュピターズ・ムーン』 コーネル・ムンドルッツォ監督、脚本家カタ・ヴェーベル

―― 難民キャンプへの滞在がきっかけで、今回の映画化に至ったとのことですが、どうしてそこでの経験を描こうとされたのですか?

コーネル・ムンドルッツォ監督(以下: ムンドルッツォ): ヨーロッパに移民難民問題が勃発する1年〜1年半前に難民キャンプを訪れました。4、5週間滞在して、ビデオインスタレーションを作りましたが、そこで胸が押しつぶされそうになる経験をしました。移民難民という彼らには過去や未来はなく、彼らの現在は我々が責任を持っているんだということをひしひしと感じました。

彼らは、言葉数が少なくとても静かでしたが、その沈黙を通して様々な基本的な問いかけをされているように感じました。例えば、ヒューマニズムとは何か?キリスト教的考えとは?ヨーロッパとは?モラルとは?

キャンプで感じたこの経験が、今回の映画化のきっかけにつながったんです。映画の登場人物であるアリアンは、以前読んだ児童文学に出てくる“浮遊する少年”からイメージを得ています。脚本のカタ・ヴェーベルともその少年のイメージをいつか映像化したいという話をしていましたが、ずっと「どういう人物として登場させたら良いのか?」という答えが出ていませんでした。難民キャンプを訪れたことで“希望の象徴”として物語に登場する、浮遊する少年=難民の少年だという着想を得ることができたんです。

【写真】映画『ジュピターズ・ムーン』 コーネル・ムンドルッツォ監督

―― 浮遊する少年はエイリアンかと思っていました。「難民問題を扱った映画になぜ浮遊する少年が登場するのだろう?」ととても興味を持ちましたが、その答えを今いただいた気がしました。

カタ・ヴェーベル(以下: カタ): 浮遊する少年は、映画の中で“天使”と呼ばれていますが、私たちは“希望の象徴”として、映画に取り込みたかったのです。もちろんそれは観る方によって色々な象徴になり得ます。あなたにとっては“エイリアン”だったようにね。

この映画は、移民難民の方たちに対して「何もできない」「答えをあげられない」「責任を感じる」という重荷や恥じる気持ちを伝えるだけではありません。劇中のセリフでもありましたが、人はあまり空を見上げようとしないので、“上を見上げて欲しい”というメッセージも伝えたかったんです。

今、人々はスピリチュアルな文脈で物事を考えなくなってきていると感じます。だから移民難民問題などの危機に直面していると思うので、今起きている問題を描きながらも、上を見上げることとか、天使やエイリアンなど、スピリチュアルな存在を信じるかどうかといった信じる心のテーマにつながっていくんですね。

【写真】映画『ジュピターズ・ムーン』 脚本家カタ・ヴェーベル

―― キャストの起用はオーディションですか?
シュテルン医師とアリアン役はどのようなところに惹かれてキャスティングされたのですか?

ムンドルッツォ: シュテルン医師役のメラーブ・ニニッゼさんとアリアン役のゾンボル・ヤェーゲルくんは、全く違う形でキャスティングしたんです。

メラーブさんは、10年前から絶対一緒に仕事をしたいと思っていた役者の1人でした。私より少し上の世代で、現代をどう生きたら良いのか悩んでいるような知的階級の人たちがたくさんいますが、彼が出演しているロシア映画など数々の出演作を観て、そのような人たちをまさに象徴している役者だと感動したんです。

ですが、映画に出て欲しくて脚本を送っても、「何で俺がハンガリー映画に出なければいけないんだ」とか「今は忙しい」などという理由で振られ続けたので、さすがに「今回でお願いするのは最後になります」と言ったら、「じゃあやります」と出演を承諾してくれました。長年の夢が叶い、とても幸せでした!

【画像】映画『ジュピターズ・ムーン』 (原題:Jupiter holdja / 英題: JUPITER'S MOON) 場面カット6

映画は、ドキュメンタリースタイルで撮りたかったので、当初、アリアン役は本当のシリア難民の方にお願いしたいと思っていました。

ハンガリーではシリア難民に対して国外退去の政策を取っていたので見つけられませんでしたが、ドイツでクルド人の難民の少年を採用することが出来ました。ですが問題は、ハンガリーで撮影するためにドイツ国外に出てしまうと、ドイツの法律による難民指定が受けられなくなってしまうということ。結局、難民というステータスを失うことを彼のご両親が許して下さらず、クランクイン3週間前に出演を断られてしまいました。

「どうしよう!」と焦り、地元ブダペストにある演劇学校でオーディションをした時に、ゾンボルくんに出会ったのです。彼がオーディションで演じた浮遊するシーンは、“まさにアリアンがそこにいる!”と思わせてくれました。普通、振付師が付いたり、監督が指示を出しますが、彼は自ら表現してくれた。僕が自分で振付しようと思っていたイメージと真逆の演技だったにも関わらず、アリアンという天才的な役にぴったりな人と出会うことができたんです。

【画像】映画『ジュピターズ・ムーン』 (原題:Jupiter holdja / 英題: JUPITER'S MOON) 場面カット2

―― 浮遊するシーンはまるで空中を歩いているようでしたね。

ムンドルッツォ: 彼は特別なボディランゲージを持っていたよ。「いやー!ゾンボルは本当に飛べるんだね!」とふざけてからかっていたくらいです。

カタ: 今回はスタントを使っていません。高い位置での浮遊シーンも全部彼が演じてくれたし、ホテルの窓を突き破るシーンも、約40mの高さにも関わらず自ら飛び出しているのよ。勇気あるでしょ?

―― アリアンが空中浮遊するシーンは、ほとんどがCGを使わないワイヤーを使った撮影だったとのことですが苦労された点はありますか?

ムンドルッツォ: 一番大変だったことは、浮遊シーンの撮影方法を見つけること。また、制作チームの信頼を得ることも大変でした。一番簡単なのは、グリーンバックで撮ってCGを使うやり方ですが、僕たちは出来る限りリアルに、でもなるべくお金をかけずに撮影する方法を見つけなければなりませんでした。その為には、撮影方法をとことん話し合う必要がありましたが、結果的に最高のチームに恵まれました。

浮遊シーンで使用するワイヤーの装置を動かす人たちを“リガー”と呼びますが、リガーチームも最高でした。実は、アリアンだけではなく、カメラも吊っているんですよ。小さなステディカムに乗せて、固定ではなく浮遊している状態で動かせるようにしました。

そうすれば、垂直と並行の軸を同じカットに入れ込むことが出来たからです。アリアンが歩いている時に突然浮遊するシーンは垂直に撮影し、空中で動く時は並行に撮影するなどワンシーン撮り終えるごとに自分の心からまるで岩が降ろされるようなホッとした気持ちになりました。

このような難しいコンビネーションの撮影に成功したことは誇りですし、チームのおかげだと思っています。

アリアン役のゾンボルくんの演技、カメラワークの技術の高さに加え、光も全て自然光で撮影しているので、観て下さる方にも作り物ではない、本物の映像だと感じていただけると思います。

【画像】映画『ジュピターズ・ムーン』 (原題:Jupiter holdja / 英題: JUPITER'S MOON) 場面カット3

―― カーチェイスのシーンは、観ている側が実際に追いかけているような気持ちになりましたが、どのように撮影されたのですか?

ムンドルッツォ: カメラを出来るだけ低い位置に置きたかったので、撮影用に特別に追跡している車の地面から7cmの位置に設置して撮影しました。

真夜中から朝6時まで全ての道路をブロックして、約50人の警官の方に応援をお願いし、スタントの車を約30台用意したのは大変でしたね。実際のカーチェイスのシーンは2回目の撮影でクラッシュし、OKテイクが撮れました。

やはり限界があるからこそ、どうしたらより良く撮れるのかという方法を見つけていくことが大事だと思います。追いかけているような気持ちになったとのことですが、それは警官役のラズロの怒りを表現したシーンなので、そう感じられたのだと思います。

【写真】映画『ジュピターズ・ムーン』 コーネル・ムンドルッツォ監督

―― お二人は、目の前に空中浮遊している方がいたら信じますか?

ムンドルッツォ: 僕は奇跡を信じます。奇跡を信じる心を失ったら、僕は生きることが出来ません。また、奇跡はワンチャンスではなく、何回も巡ってくると思っています。気持ちが落ち込んで心が迷子になっていても、もしかしたら出口は近いのかもしれない。そういう風に僕は考えます。

カタ: 私も信じます。浮遊飛行に関してかなりリサーチをしたので「なんだこんな風にやってたんだ!」とがっかりすることもありましたが、マジシャンによっては本当に浮いているように信じさせてくれる人もいましたよ。

【写真】映画『ジュピターズ・ムーン』 コーネル・ムンドルッツォ監督、脚本家カタ・ヴェーベル

インタビューを終えて

映画の中で“天使”と呼ばれていたアリアン少年は、苦しい現実の中に生きる我々から“信じる心”を取り戻すために現れた“希望の象徴”。それは観る方によってどんな象徴にもなり得ますが、説明のできないものを信じる心は世界を豊かにしてくれることは確かだと感じました。インタビューさせて頂いたからこそ教えていただけたメッセージを、1人でも多くの方に伝えさせていただきたいと思いました。

[スチール撮影: Cinema Art Online UK / インタビュー: 大石 百合奈]

 
 

監督プロフィール

コーネル・ムンドルッツォ (Kornél Mundruczó)

1975年4月3日、ハンガリー・ゲデレー出身。
脚本家、映画監督、舞台演出家であり、映画制作会社プロトンシネマと劇団プロトンシアターの創設者。大学の卒業制作『Nincsen Nekem Vagyam Semmi』で長編映画を初監督。その後商業長編映画デビュー作『Szép napok(英題:Pleasant Days)』(2002年/未)でロカルノ国際映画祭銀豹賞やソフィア国際映画祭グランプリなどを受賞し話題を呼んだ。2004年に短編『Kis apokrif no. 2』で第57回カンヌ国際映画祭のシネフォンダシオン部門に正式出品されると、その後発表した作品が立て続けにカンヌ国際映画祭の各部門に出品、常連として名を連ねている。次作はブラッドリー・クーパー&ガル・ガドット出演の映画『Deeper』(原題)の製作が発表されている。

【写真】映画『ジュピターズ・ムーン』 コーネル・ムンドルッツォ監督

映画作品情報

【画像】映画『ジュピターズ・ムーン』 (原題:Jupiter holdja / 英題: JUPITER'S MOON) ポスタービジュアル

《ストーリー》

医療ミスによる訴訟で病院を追われた医師・シュテルンは、難民キャンプで働きながら違法に難民を逃すことで賠償金を稼ぎ、遺族による訴訟取り下げを目論んでいた。

ある日、被弾し瀕死の重傷を負った少年・アリアンが運び込まれる。シュテルンはアリアンが重力を操り浮遊する能力を持ち、さらには傷を自力で治癒できることを知り、金儲けに使えるとキャンプから連れ出すことに成功する。

その頃、アリアンを違法銃撃した国境警備隊が口封じのため彼らを追い始めるが、行く先々で起こる失踪やテロ、不可解な事件の現場に少年の痕跡が残されていることに気づく―

 
第70回 カンヌ国際映画祭 コンペティション部門正式出品
第50回 シッチェス・カタロニア国際映画祭 最優秀作品賞・視覚効果賞・タイムマシーン賞受賞
 
原題: Jupiter holdja
英題: JUPITER’S MOON
 
キャスト: メラーブ・ニニッゼ、ゾンボル・ヤェーゲル、ギェルギ・ツセルハルミ、モーニカ・バルシャイ 他
 
監督: コーネル・ムンドルッツォ
脚本: カタ・ヴェーベル
撮影: マルツェル・レーヴ
編集: ダーヴィド・ヤンチョ
音楽: ジェド・カーゼル
プロダクションデザイン: マールトン・アーグ
衣装デザイン: サビーヌ・グレーニッフ
メイク: ノラ・コルタイ
サウンド: ガーボル・バラージュ、ミハエル・カチュマレク
視覚効果: ハイコ・ティッペルト
空中浮遊装備: バラージュ・ファルカス
スタントコーディネーター: ガスパル・ザボ
助監督: ガーボル・ガユドシュ
プロダクションマネージャー: ガーボル・テニ
プロデューサー: ヴィクトリア・ペトラニー、ヴィオラ・フュージェン、ミヒャエル・ウィーバー、ミヒェル・メルクト
共同プロデューサー: アレクサンダー・ボーラー、フレデリク・ザンダー
協力プロデューサー: エステール・ギャールファス、ガーボル・コヴァッチュ、アグネス・パタキ
配給: クロックワークス
2017年 / ハンガリー= ドイツ / カラー / DCP / 5.1ch / シネマスコープ / 128分
2017 © PROTON CINEMA – MATCH FACTORY PRODUCTIONS – KNM
 
2018年1月27日(土) 新宿バルト 9 ほか全国ロードショー!
 
映画公式サイト

公式Twitter: @jupitersmoon127
公式Facebook: www.facebook.com/jupitersmoon127/
 

この記事の著者

Cinema Art Online

この著者の最新の記事

関連記事

カテゴリー

アーカイブ

Feedlyで購読

follow us in feedly

YouTube Channel

Google+

Facebook

ページ上部へ戻る