- 2016-12-9
- ハンプトンズ国際映画祭, ロカルノ国際映画祭, 映画レビュー, 映画作品紹介, 第29回 東京国際映画祭
映画『グローリー』
(原題:Slava / 英題:Glory)
質素で孤独な生活を送る鉄道員が、ある出来事をきっかけに官僚の偽善的企みに巻き込まれてしまう。彼は自分のささやかな尊厳を取り戻そうと抵抗するが…。
ブルガリア出身のクリスティナ・クロゼヴァ、ペタル・ヴァルチャノフ監督コンビによる長編3部作品の第2部にあたる映画『グローリー』(原題:Slava / 英題:Glory) 。
女性教師が夫の金銭のトラブルのために窮地に陥っていく様を、転がるようなサスペンスで描き、第27回東京国際映画祭での審査員特別賞をはじめ、数々の映画祭で受賞した前作『ザ・レッスン/授業の代償』(2014年)に続き、第29回 東京国際映画祭のワールドフォーカス部門に出品された、官僚に翻弄される善意の労働者と、彼らの人間性を省みない官僚との関係を、全く先の読めない巧みでスリリングな展開で描いた本作をレビュー。
時計とレンチの名誉
真面目で不器用な鉄道員が、権力者の策略に巻き込まれ、翻弄されていく様子が巧みに描かれている。東京国際映画祭での上映の日本語字幕では説明がなかったが、“Glory”とは、栄光、名誉の意味のほか、主人公の使っている腕時計のブランド名でもある。
これはドキュメントなのではないか、と勘違いしてしまうほど、この作品はリアリティに溢れている。会話ひとつで、衣装や小道具ひとつで、人間性や状況を説明なしに伝えている。
中でも非常に魅力的なのが主人公である。ヤギのように伸ばしたヒゲに、決して綺麗とは言えない格好。障害のせいなのか、人とうまく話すことができない。この社会において、彼は孤独で不器用な労働者なのである。高級ブランドに身を包み、社会的地位も名誉もある権力者に比べると、印象はかなり良くないと言えてしまう。
しかし物語が進むにつれ、観客は彼に同情し、応援し、感情移入するだろう。その眼光を見ただけで、彼の尊厳を感じせるだろう。それは俳優の演技に加え、細部のこだわり、それを切り取ってみせる監督の技術にほかならない。
器用に生きることがそんなに偉いのか。人として正しいのはどちらなのか。そんなテーマを突きつけられる。これは遠い国のおとぎ話ではない。我々の周りにもある、普遍的な話なのである。
彼が欲しかったものは“Glory=名誉”ではない。その手首に巻かれた“Glory”でもない。
その裏に描かれた名誉なのだ。
映画『グローリー』(Glory/Slava) 予告篇
映画作品情報
第69回 ロカルノ国際映画祭 インターナショナル・コンペティション部門 出品作品
第21回 釜山国際映画祭(BIFF) フラッシュ・フォワード部門 出品作品
第29回 東京国際映画祭(TIFF) ワールドフォーカス部門 出品作品
英題: Glory
原題: Slava
監督・プロデューサー・脚本: クリスティナ・グロゼヴァ
監督・プロデューサー・脚本・編集: ぺタル・ヴァルチャノフ
プロデューサー: コンスタンティーナ・スタヴリアヌー、イリニ・ヴユーカル
脚本: デチョ・タラレジコフ
撮影監督: クルム・ロドリゲス
プロダクション・デザイナー: ヴァニナ・ゲレヴァ
サウンド・デザイナー: イヴァン・アンドレエフ
音楽: ハリスト・ナムリエフ
衣装: クリスティナ・トモヴァ
2016年 / ブルガリア=ギリシャ / ブルガリア語 / 101分 / カラー
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