映画『武曲 MUKOKU』レビュー
映画「武曲 MUKOKU」

映画『武曲 MUKOKU』

剣を棄てた男と、剣と出会った少年
ふたりの運命は台風の夜に交差する・・・!

《ストーリー》

海と緑、そして寺に囲まれた街、鎌倉。
矢田部研吾(綾野剛)は幼少の頃から父(小林薫)から厳しい剣道の稽古を受けて育ってきた。ところが父とのある一件がきっかけで、研吾は酒浸りの無気力な日々を送るようになっていた。そんなある日、研吾のもう一人の師匠である光村師範(柄本明)が研吾をもう一度剣の道に戻らせようと、一人の少年を彼のもとに送り込む。少年はラップのリリックを書くことに夢中な高校生、羽田融(村上虹郎)。ごく普通の高校生だった融はふとしたきっかけで剣の道にのめり込み、本人も知らずに潜在的に持っていたその才能を研ぎすませてゆく。交わるはずも無かったふたりの剣は、台風の夜、ついに交わされる・・・。

映画「武曲 MUKOKU」

《みどころ》

主人公・研吾を演じる綾野剛は、短期間の役づくりで剣道五段の腕前に見せられるようストイックな稽古への取り組みと平行して、剣道家の身体を作り上げるための壮絶な肉体改造を自らに課した。スクリーンに映し出される綾野剛は頭からつま先まで研吾そのものであり、表情、ひとつひとつの所作など、彼が醸し出す空気はその画面に緊張感を与える。

映画「武曲 MUKOKU」

そしてその張りつめた空気にスッと割り込んでくる存在が、研吾と闘うことになる天才剣士の少年・融を演じる村上虹郎である。剣道経験もあり俳優としての確実なステップを踏んでいた彼は、全編を通して綾野とは全く違う光を放つまっすぐな演技を魅せてくれる。

映画「武曲 MUKOKU」

このふたりの台風の中での壮絶な決闘のシーンには、激しさの中にも静寂が存在していた。黒い雨が降りしきる中、見えているのはお互いの眼差しと剣という、息をのむようなこのシーンに熊切監督が描きたかった”武曲”の世界観が込められている。ここで使われている音楽は「あらかじめ決められた恋人たちへ」の池永正人による”Fly”という曲で、音のひとつひとつが緊張感と静寂をこのシーンに与えていたのが印象的であった。ここにも熊切監督の音楽的な演出のこだわりを感じられる。

映画「武曲 MUKOKU」

壮絶な決闘の後、研吾が父と自分との関係を見つめ直すことができるようになったシーンがある。そこで彼を見つめる師匠・光村師範を演じる柄本明のまなざしが素晴らしい。この作品における柄本の存在は研吾、融のふたりの父親のようにも感じることのできる、他の役者では務めることのできないであろうずっしりとした演技だった。

また、研吾の恋人を演じる前田敦子の今までに無かったであろう妖艶な役どころや、研吾が通う飲み屋の女将を演じる風吹ジュンの安定した演技、研吾の父親役である小林薫の圧倒的な演技にも注目だ。

映画「武曲 MUKOKU」

作品の舞台は原作に沿って”研吾の住む北鎌倉の山”と”融の住む湘南の海”の対比を描けるようにと鎌倉市近郊で全編ロケーションしており、熊切監督は映画の舞台に肉薄するために逗子(鎌倉市の隣)に移り住み、集中できる環境を自ら作り出しロケハン等を行って撮影のイメージを固めていったという。

筆者は以前鎌倉市に住んでいたが、在住者にもなじみの”その土地らしさ”がにじみ出るロケーションを選ばれていて、不自然さを何一つ感じなかった。監督の綿密なイメージづくりがこの作品の世界観を確固たるものにしているのであろう。

[ライター: Sayaka Hori]

映画『武曲 MUKOKU』予告篇

映画作品情報

第39回 モクスワ国際映画祭 正式出品決定!
 
監督: 熊切和嘉 
原作: 藤沢 周『武曲』(文春文庫刊)
出演: 綾野 剛、村上虹郎、前田敦子、風吹ジュン、小林 薫、柄本 明
脚本: 高田亮
音楽: 池永正二
配給: キノフィルムズ
2017年 / 日本 / カラー / 125分
© 2017「武曲 MUKOKU」製作委員会
 
2017年6月3日(土)より、絶賛公開中!
 

映画公式サイト
公式Facebook: @MUKOKU.movie
公式Twitter:
@MUKOKU_movie

この記事の著者

Sayaka Horiフォトグラファー/ライター

★好きな映画
『パリ、テキサス』 (Paris,Texas) [監督: ヴィム・ヴェンダース 製作: 1984年]
『マルホランド・ドライブ』 (Mulholland Drive) [監督: デヴィッド・リンチ 製作: 2001年]
『狂い咲きサンダーロード』 [監督: 石井 聰亙 製作: 1980年]

Sayaka SAPP Hori
http://horisayaka3.wixsite.com/mysite

この著者の最新の記事

関連記事

カテゴリー

アーカイブ

YouTube Channel

Twitter

【バナー画像】日本アカデミー賞
ページ上部へ戻る