小さな庭から旅立つ命の繋がりの冒険
『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』大ヒットアニメーション映画を数多く手がけてきた細田守監督、待望の最新作がいよいよ公開となった。
これまでも公開される度に世界中で注目されてきた細田監督の作品だが、世界90の国と地域での大規模な公開が決まっている『未来のミライ』は、第71回カンヌ国際映画祭の開催期間中に実施された「監督週間」(世界的に活躍する監督の登竜門とも言われている)に選出され、日本に先駆けカンヌで行われた上映は大きな反響を呼んだ。第42回アヌシー国際アニメーション映画祭の長編部門コンペティションにも選出され、ますます注目を集めている。
主人公の甘えん坊な男の子くんちゃん(4歳)を上白石萌歌、時をこえてやってくる妹ミライちゃんを黒木華、その他ふたりを取り巻く登場人物に星野源、麻生久美子、吉原光夫、宮崎美子、役所広司、福山雅治ら豪華キャストが名を連ねる。
オープニングとエンディングテーマは『サマーウォーズ』に続き細田監督とタッグを組んだ山下達郎が、愛あふれる歌詞と爽やかなメロディーで細田ワールドに引き込んでくれる。これまでにない壮大で温かな「家族」と「命」の物語だ。
《ストーリー》
4歳の男の子くんちゃんは、お父さんお母さん、犬のゆっこと、小さな木と庭がある小さな家に住んでいる。くんちゃんの日常は、ある日現れた生まれたての妹の存在によって激変し、両親から一心に受けていた愛情を全部妹に奪われてしまう。くんちゃんを“お兄ちゃん”と呼び、目的を持って未来からやってきた妹の“ミライちゃん”とその小さな庭で出会うが「ミライちゃん好きくないから、いや」と“ミライちゃん”の願いをききいれない。かつて自分は王子様だったという不思議な男、幼い頃の母、印象的な青年との出会い、未来からやってきた“ミライちゃん”の導きで、時をこえ見たこともない世界を経験するくんちゃん。冒険の最後に行き着いた場所とは・・・?
《みどころ》
細田守監督の作品は、ファンタジーがリアルに溶け込む。例えば『未来のミライ』では、主人公くんちゃんがいっとき犬になる(!)のに対し説明は多くされないが、観る側はいつのまにかそういうものと受け入れ、違和感を感じないほどだ。
「くんちゃんね、未来のミライちゃんに会ったよ」目を輝かせるくんちゃんに、お父さんは、いいなぁ!自分も早く大きいミライちゃんに会ってみたいと言いお母さんは、まだ今は赤ちゃんのままのミライちゃんがいいなぁ!と言う。家族でも、一人ひとりが持つ考えはもちろん違う。一方で、家族間で同じような言葉や行動をとっていた、なんて経験はきっと誰しもあるだろう。
幼い頃のお母さんとくんちゃんが、一緒にはしゃぎ遊ぶシーンが微笑ましい。テーブルにバサーっと広げられるお菓子を、始めくんちゃんは叱られやしないかとハラハラして見ている。「だって、ちらかして食べた方が美味しいんだもん」ニヤリと笑う幼い頃のお母さんに「たしかに!」と頷くくんちゃん。くんちゃんが生きる“今”のお母さんは、片付け下手なくんちゃんを怒ってばかりだけれど、実は幼い頃のお母さんも、くんちゃんと同じようにいつも怒られていた。くんちゃんのお母さんとばあばの怒る言葉が、そっくりなことに気がつく。家族っていいことも悪いことも脈々と受け継がれていくものらしい。そんなくんちゃん一家の物語は、あるあるそんなこと、と頷かずにはいられない私たちの物語でもあるのだ。
もし幼い頃の母に会い一緒に遊んだらどんな感じだろう?同じ悩みを持つ幼い頃の父と手を取り励ましあえたなら?くんちゃんの冒険からそんなことを想像するかもしれない。自分ごととしてだけでは、目の前の出来事の多くはただ過ぎ去る一瞬のものに思える。しかし、自分の一生の前後、そして死んでもずっと続いていくだろう長い年月を考えると意味合いが少し違って見えるのではないか。この映画は、家族はもちろん、家族すらこえた広がりと繋がりの中に、私たちはいると語りかけてくるようだ。
[文: 宮﨑 千尋]
映画『未来のミライ』予告篇
映画作品情報
作画監督: 青山浩行 秦 綾子
美術監督: 大森 崇 高松洋平
音楽: 高木正勝
オープニングテーマ・エンディングテーマ: 山下達郎
全国東宝系にてロードショー!