- 2016-4-6
- モスクワ国際映画祭, ロッテルダム国際映画祭, 映画レビュー, 映画作品紹介
映画『孤独のススメ』(原題: Matterhorn)
一歩“ハミ出す”勇気はあるか!?
《ストーリー》
オランダの片田舎の、100歩歩けば突き当りは教会で、道は終わってしまうような小さな村。初老のフレッドは独り暮らしをしている。家に響くのはバッハのアリア。同じ時間に食事をし、同じ服を着て同じ時間に出勤し、自分の決めた生活から1ミリもはみ出さない規則正しい生活。そこへ1人の放浪者が闖入する。言葉を発せず身元もわからぬその男を、フレッドは家に泊めて面倒をみるようになる。村人たちは奇異の目で見るが、フレッドは意に介さない。亡き妻トゥルーディにプロポーズした思い出の地マッターホルンにも、彼と2人で行こうとする。そこには彼の並々ならぬ決意が潜んでいた。
《みどころ》
一日中誰とも話さないような「孤独」な生活をしているフレッド。それが放浪者テオとの遭遇によって、どんどん「孤独」から解き放たれていく。いったいどこが「孤独のススメ」なのだろうか。タイトルの言う「孤独」は、共同体から孤立しても守るべき魂をこそ意味する。共同体のルールにがんじがらめになって、家族の絆さえ犠牲にしてしまったフレッドは、テオという「はみ出し者」を起爆剤によって目覚め、共同体という人の輪からはみ出しても自分の一番大切なものを取り戻すために進む決意をする。
前半は「Mr.ビーン」を彷彿とさせる珍妙な笑いの連続で、それらのエピソードがどれほどの意味を持つのか正直わかりづらい。だが終盤、矢継ぎ早に明らかになる一連の出来事によって、前半の何気ないカットも、流れる音楽も、近所の子どもとのやりとりも、すべて大切な伏線とわかる。
オランダの片田舎のつましいプロテスタントの暮らしは、私達にはあまりなじみがない。けれど「ふつう」という世間の流れに逆らえない風潮は、現代の日本人に通じるものがあるのではないか。LGBTQや障がい者、ホームレス…テオはその象徴である。「ふつう」から一歩はみ出た人たちを、自分は受け入れられるのか。自分が「ふつう」からはみ出たとき、いかに生きていくべきか。一歩踏み出すのには勇気がいるけれど、その先には笑顔が待っている、とフレッドがおしえてくれる。
[ライター: 仲野 マリ]
映画『孤独のススメ』予告篇
映画作品情報
第35回 モスクワ国際映画祭 観客賞受賞
原題: Matterhorn
監督・脚本: ィーデリク・エビンゲ (Diederik Ebbinge)
出演: トン・カス、ルネ・ファント・ホフ、ポーギー・フランセ、アリアネ・スフルーター
2013年 / オランダ / 86分 / カラー / シネマスコープ
提供: ニューセレクト
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