映画『ハロルドが笑うその日まで』
(原題: Her er Harold)
家具店の老主人、IKEAの創業者を誘拐!?
《ストーリー》
ノルウェーの街オサネで40年以上高級家具店を営んできたハロルド。妻と二人、穏やかな老後を送れると思った矢先、「その日」は訪れる。世界的な廉価家具販売チェーンIKEAが北欧最大店舗をハロルドの店の隣に建てたのだ! あっという間に店は潰れ、店舗の上にあった家まで失うハロルド。環境の変化についていけなかった妻は体調を崩し、この世を去る。すべての不幸の元凶はIKEAの創業者カンプラード! 自暴自棄になったハロルドは、彼を誘拐することを決意、スウェーデンに向かう。時流にのって大儲けしたカンプラードは、さぞ幸せの絶頂に身をおいているかと思いきや、会ってみると自分以上に孤独な男だった。誘拐のような、そうでないような珍道中を続けるうちに、2人の間に同世代ならではの奇妙な連帯感が生まれる。
《みどころ》
IKEAといえば、日本でも人気の家具販売店。安くてバラエティに優れ庶民の味方だが、反面「修繕して長く使う」「使うほどに味が出る」といった従来の「飽きの来ない」家具の味わいとは真逆のコンセプトだ。プライドをもって長年高級家具を商い、自らニスを塗ったりと家具に愛着も強いハロルドには、店を潰されたことと同時に、家具に対する自分の思い入れや愛情が踏みにじられた悔しさがにじむ。
そこにノルウェーとスウェーデンという、同じ北欧でお隣同士だが国民性は違う、という点をうまく入れ込んで、クスっと笑わせる作りが楽しい。
これは決して負け組が勝ち組に食ってかかる映画ではない。激動の20世紀を必死で生きてきた人々が、IKEAが象徴するファストライフにモノ申す物語である。それが滑稽に見えるのは、親が子に自分の価値観だけを押しつけるからであり、子が親の苦心をまったく意に介さないからでもあり、それがいつの世も、どこの国でも同じだからではないだろうか。
ハロルドの誘拐計画に手を貸すことになる家出少女エバの母が、「昔は選手だったの」と雪の上で新体操を披露する場面が痛々しい。青春の、一瞬の輝きは、いったいどこに行ってしまうのか。
老人にも若者にも希望が見えにくい21世紀。「よし、オレもがんばって生きようか」と、もう一回ギアを入れなおす、そんな勇気をもらえる映画である。
[ライター: 仲野 マリ]
映画『ハロルドが笑うその日まで』予告篇
映画作品情報
原題: Her er Harold
監督・脚本: グンナル・ビケネ (Gunnar Vikene)
出演: ビョルン・スンクェスト (Bjorn Sundquist)、ビヨルン・グラナート (Bjorn Granath)、ファンニ・ケッテル (Fanny Ketter)
2014年 / ノルウェー / ノルウェー語、スウェーデン語 / 88分 / カラー / シネマスコープ
配給: ミッドシップ
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