一生懸命に生き、何かを実現したちいさな英雄たちを描く
プロデューサー西村義明がスタジオジブリを退社し、立ち上げたアニメーションスタジオ「スタジオポノック」。2017年夏にはスタジオジブリで活躍してきた卒業生であるクリエイターやスタッフが多数参加した第一回長編アニメーション映画『メアリと魔女の花』(米林宏昌監督)を発表し、世界の映画シーンにおいて鮮烈なデビューを飾った。
そのスタジオポノックの最新作、ポノック短編劇場『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』が公開された。「子どもたちから大人まで楽しめるアニメーション映画を作っていこう」という思いで作られた短編アニメーションのオムニバス映画で、米林宏昌監督『カニーニとカニーノ』、百瀬義行監督『サムライエッグ』、山下明彦監督『透明人間』の3作品からなる。
『カニーニとカニーノ』
サワガニの兄弟が巨大な泡の塊に連れ去られた父カニを探す大冒険ファンタジー。擬人化された2匹は先端にカニバサミの付いたモリを持ち、カニの甲羅色したマントを羽織る。兄カニのカニーニ役に木村文乃、弟カニのカニーノ役に鈴木梨央が声を担当した。
川の流れやクライマックスで兄弟を襲う魚をCGで表現。水に透明感があり、せせらぎが聴こえてくるかのよう。魚のリアル感は不気味さを増幅させる。手書きの背景にCGを融合することで表現の幅がぐっと広がった。
ところで、サワガニは交尾を行うとメスが水から出て産卵し、孵化が近づくと水中に戻って孵化を待つ。このサワガニの生態を作品内で表現していた。制作者の作品に対する真摯な姿勢が伝わってくる。
『サムライエッグ』
極度の卵アレルギーの少年がアレルギーと向き合い、生きていく姿を描く。
経口免疫療法(原因となる食物を症状が出ない程度の少量を継続的に食べ、その量を少しずつ増加させることで、最終的には一定量を食べられるようにする治療法)を受け、母親が給食のメニューに似せて作ったお弁当食べる。こんなに気を遣っていても、思わぬところで卵を摂取してしまい、救急車を呼ばなくてはならないことがある。作品は食品アレルギーのある子どもと保護者の気を抜けない日々を映し出した。食品アレルギーに対する理解を深めるきっかけとなるだろう。
少年シュン役には約100人の中から選ばれた篠原湊大。細やかな配慮をしつつ、明るく振る舞う母親役に尾野真千子。母親は大阪の岸和田弁を使うのだが、尾野真千子はNHK連続テレビ小説「カーネーション」で岸和田弁を経験済み。音声を先に収録するプレスコ収録を行い、尾野真千子のセリフに合わせて、映像を制作。完璧な岸和田弁が評判になっている。
『透明人間』
ワイシャツを着て、歯を磨き、古ぼけたアパートを出て仕事に向かう。一人暮らしの青年の日常のひとコマ。しかし、何かが違っていた。彼は透明だったのである。
服を着て、眼鏡をかけているのに誰にも認識してもらえない。次第に重さもなくなり、浮かび上がっていく。完成披露プレミア試写会で山下明彦監督は「そこにいるんだけど、いないも同然という扱いを受けている人々を描きたかった」と語っており、本作では透明=社会からの孤立を表現したのだろう。
青年は1人の老人に声を掛けられる。老人にとっては何気ないひとことだったかもしれない。しかし、この邂逅が青年に勇気を与え、行動を起こさせた。自分の存在を認めてくれる存在は何ものにも代え難いのだ。
誰も自分のことを気にしてくれない。こんな不安に陥ることは誰にでもある。しかし、思いがけないどこかに、見てくれている人はいるとこの作品は希望を与えてくれる。
オダギリジョーが透明人間の声を担当。セリフらしいセリフはないが、息遣いや吐息で透明な青年の表情が見えるようだ。見事なボイスアクトである。
映画『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』予告篇
『カニーニとカニーノ』特別予告編
『サムライエッグ』特別予告編
『透明人間』特別予告編
映画作品情報
「カニーニとカニーノ」
監督 :米林宏昌 / 音楽: 村松崇継 / 声の出演: 木村文乃、鈴木梨央
「サムライエッグ」
監督: 百瀬義行 / 音楽: 島田昌典 / 声の出演: 尾野真千子、篠原湊大、坂口健太郎
「透明人間」
監督: 山下明彦 / 音楽: 中田ヤスタカ / 声の出演: オダギリジョー、田中泯
エンディングテーマ: 木村カエラ「ちいさな英雄」(ELA/ビクターエンタテインメント)
プロデューサー: 西村義明
制作: スタジオポノック/スタジオポノック・日本テレビ・電通 提携作品
配給: 東宝