最愛の一人息子を亡くした男のはかり知れない喪失・・
悲嘆にくれる心を癒し、支えたのはかつての戦友だった
“50歳のスタンド・バイ・ミー”―そう銘打たれたキャッチ・コピー。仲間の人数が3人と4人と人数の相違はあるが、観終えた後の心地良さはどちらも同じだ。映画『スタンド・バイ・ミー』(1986年)が少年たちの遺体探しであるのに対し、『30年後の同窓会』は老年たちが遺体を引き取りにいくというコントラストもニクい。メガホンをとったのはリチャード・リンクレイター監督だ。『恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)や『スクール・オブ・ロック』(2003年)など、さりげない日常の中に人生の切なさとユーモアを織り込む名匠。本作も彼らしさが随所に散りばめられた快作となっている。妻に先立たれ悲しむ間もなく、今度は息子が戦死したとの知らせを受けたドク(スティーヴ・カレル)。人生のどん底につき落とされた彼が心の拠り所として求めたのは、かつてベトナムで苦しみを共にしたサル(ブライアン・クランストン)とミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)だった。旧友の突然の来訪。サルとミューラーは戸惑いながらも傷心のドクと共にアーリントン墓地(アメリカの戦没者墓地)へ遺体を引き取りに行く決意をする。しかし様々な手違いが発生し、目的地は二転三転。思いもかけず三人は長旅を余儀なくされるのだったが、それはドクにとって心の再生の旅となるのであった――。
映画『30年後の同窓会』は老齢の男三人が繰り広げるロード・ムービーだ。だが、そのジャンルにありがちな、楽しい珍道中だけが見どころではない。米国の史上に残る大きな爪痕である「ベトナム戦争」と「イラク戦争」。この二つのタブーに真っ向から向き合った社会派ドラマでもある。二つの戦争がもたらした悲惨な現実を三人の友情とかけ合いから浮き彫りすることにより、改めてその意義を観ている人に問うてくる。私たち日本人も、戦争の哀しさとやるせなさをリアルに感じることができる一本だ。
―かと言って、決して肩をはるような映画ではない。それぞれ個性の異なる三人が奏でる協奏曲は常に笑いが絶えない。特にサルとミューラーは正反対の人間だ。サルは一人でバーを経営する気ままで自由奔放な男であるのに対し、ミューラーは敬虔な聖職者で絶えず実直な顔を崩さない。人種だって異なる二人だが、人間社会の対極にいるようなキャラクター同士が千年の知己のような友情で結ばれている―人種のるつぼと言われるアメリカらしい光景だ。
同窓会と呼ぶには、あまりにも悲しい出来事がきっかけで集まった三人。ただ苦難の中で培われた友情は、幾年の時を経ても決して変わることのない、かけがえのない奇跡の産物だということを教えてくれる映画だ。
映画『30年後の同窓会』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》男一人、酒浸りになりながらバーを営むサル(ブライアン・クランストン)と、破天荒だった過去を捨て今 は牧師となったミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)の元に、30年間音信不通だった旧友のドク(スティーヴ・カレル)が突然現れる。2人にドクは、1年前に妻に先立たれたこと、そして2日前に遠い地で息子が戦死したことを2人に打ち明け、亡くなった息子を故郷に連れ帰る旅への同行を依頼する。 バージニア州ノーフォークから出発した彼らの旅は、時にテロリストに間違われ得るなどのトラブルに見舞われながら、故郷のポーツマスへと向かう――。 30年前に起きた“ある事件”をきっかけに、大きく人生が変わってしまった3人の男たち。 仲間に起きた悲しい出来事をきっかけに出た再会の旅。語り合い、笑い合って悩みを打ち明ける旅路で、3人の人生が再び輝き出す。 |
邦題: 30年後の同窓会
原作・脚本: ダリル・ポニックサン「LAST FLAG FLYING」
出演: スティーヴ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーン
配給: ショウゲート
2017年 / アメリカ / カラー / ビスタ / 125分 / 5.1chデジタル / 字幕翻訳:稲田嵯裕里
主題歌翻訳: 多摩ディラン
公式Facebook:@30yearsdousoukai