大九明子監督 インタビュー
篠原涼子、中村倫也ら多彩なキャストの魅力をコメディ群像劇として1本に紡ぐ
映画『勝手にふるえてろ』(2017年)、『私をくいとめて』(2020年)で数々の賞を受賞し、映画ファンから絶大な支持を集める大九明子監督が結婚式を舞台にした群像劇を映画化した。映画『ウェディング・ハイ』である。脚本を手掛けたのは芸人、タレントとして活躍するほか、脚本家としてもその才能を発揮するバカリズム。今作は完全オリジナル・ストーリーで、絶対にNOと言わない敏腕ウェディングプランナーを主人公に展開。随所に散りばめられたユーモアに笑い、先の読めない展開にハラハラドキドキし、最後は最高にハッピーな気持ちになれるドタバタ群像コメディとして紡ぎあげた。
主人公の敏腕ウェディングプランナーを務めるのは、3年ぶりの映画主演作となる篠原涼子。その他にも、中村倫也、関水渚、岩田剛典、向井理、高橋克実、中尾明慶、六角精児、片桐はいり、臼田あさ美など多彩なキャストがクセ者揃いのキャラクターを演じ、“一瞬も見逃せない”ウェディング・パーティーを作り上げている。
映画公開を前に、大九明子監督に作品やキャストに対する思いを聞いた。
準備は6割、残りは現場の面白さを取り入れる
—— 最初から最後まで笑いの絶えない楽しい作品ですね。観ていて楽しいだけでなく、これから結婚式を挙げようとしている人たちにとってはとても役に立つマニュアルになると思いました。監督のオファーを受けたときのお気持ちからお聞かせください。
「映画が撮れて、嬉しい」と前向きな気持ちでお引き受けしました。しかし、引き受けてみたら登場人物がすごく多くて、準備期間がなかなかタイトで大変でした(笑)。
—— バカリズムさんの脚本はいかがでしたか。
振りと回収が見事だと思いました。バカリズムさんの一ファンとして、単独ライブのDVDなどを観てきましたが、シナリオは想像していたよりもソフトに感じました。
しかし面白いことは間違いない。その面白さを私がバカリズム脳になって作ることはできませんから、映画としての面白さを最大限、作り出そうと思いました。
—— 画面を分割して映し出す手法が使われていましたが、テンポ感があって、映画ならではの面白さを感じました。脚本を読んだときに思いついたのでしょうか。
登場人物たちを際立たせる一発一発の面白さがたくさんある。これを1本の映画として豊かに紡いでいくのが自分の仕事だと思ったときに、徐々に浮かんできました。
私は事前にカット割りをしないんです。まずは俳優に芝居をしてもらって、それからカット割をします。その過程で「ここはテンポを出すシーンだな」と思い、「ここは多分、分割して使うので、タイトな画にしてください」とその場でカメラマンの中村夏葉さんに頼みました。
私はどの作品も事前にあまり決め込まないようにしています。準備は6割くらいにして、後は現場の面白さを取り入れるように待っている感じですね。分割画面もその中で何となく決まっていきました。
チャーミングな中越を作ってくれた篠原涼子
—— “絶対にNOと言わない”敏腕ウェディングプランナー中越真帆を演じているのは篠原涼子さんです。初めて会ったときの印象はいかがでしたか。
篠原涼子さんとご一緒できるなんて光栄だなと思いました。衣装合わせではマスクを外して衣装を着た姿を撮影するのですが、マスクを取ってもらうことをみんなが忘れてしまうくらい、“篠原涼子だ!”と緊張していましたね。気さくで可愛らしい方なんですけれど、最初はちょっと気後れしていました。
—— 篠原さんはこれまで“できる女”を数多く演じてきました。今回の中越も優秀なウェディングプランナーですが、コミカルな部分も見せています。どのように演出されたのでしょうか。
演技についてはこれまでの作品でも、まずは1回、段取りでお芝居をしてもらったうえで、「ここはこうしましょう」と俳優と一緒に作ってきました。
今回の中越は “披露宴の影武者としてプロフェッショナルに徹している人”がベースにあります。衣装、髪型、メイクなどを決めるときにいつもそれを伝えつつ、「衣装はこれにしましょう」とか「ヘアメイクはこうしましょう」と相談しながら決めていきました。
篠原さんの初日は新郎新婦が式場の見学に来たシーンでしたが、段取りでの喋り方がぴしっとしていました。いつもビシバシとした、できる女の役をやっていらっしゃるからでしょう。それで「中越はプロフェッショナルではあるけれど、新郎新婦のことを第一に考えて、常にニコニコしていて、柔らかい話し方をすると思います」とお伝えしたところ、それ以降はチャーミングな中越を作ってくれました。
パンプスを脱いでコミカルに走るシーンは予告編にも出てきますが、「ここは靴を脱いで全力で走りましょうか」とお伝えしただけで、あの走り方をしてくれました。そういったことを面白がってやってくれました。
中越はいろいろなことに振り回される受けの役どころですが、その受けが輝いていて、すごく素敵だなぁと安心して見ていました。ウェディングプランナーとしてチームを組んでいた加藤を演じた臼田あさ美さんとカメラが回っていないときも楽しそうにお話しているのは、監督として見ていて嬉しかったです。
新郎を安心して任せられた中村倫也
—— 穏やかですが若干周りに流されやすい新郎の石川彰人を中村倫也さんが演じていました。ドラマ「想ひそめし~恋歌百人一首~」(2015年/NBN)、映画『美人が婚活してみたら』(2019年)、『私をくいとめて』(2020年/声の出演)に続いての出演ですね。
私としては何度も一緒にやってきた好みで岩田くんや向井くんがやっていた役をやらせてあげたいと思ったのですが、いざ始まってみると「新郎が中村倫也でよかった」と思いました。中村くんは受けの芝居をしながら、メインとして引っ張っていくことができる人なんです。この人が新郎をやってくれればちゃんとした作品になるという安心感があって、すっかりお任せしていました。あまり手をかけてあげていなかったかもしれません。彼にずいぶん助けられました。
—— 中村さんの印象に残っているシーンはどちらでしょうか。
「俺の城だぜ」などと言っているときの言い方やシンプルに振り回されているところは全部、よかったですね。特に、結婚式の準備に関する話が終わり、やっとベランダに逃げられると思ったら、行くや否やまた呼ばれたときのUターンは100点満点。できあがったものを何度観ても笑ってしまいます。
—— 花嫁を奪いに式に乱入しようとする元カレの八代裕也を演じた岩田剛典さんは衣装の奇抜さからこれまでに岩田さんが演じてきた役との違いを感じました。振り切った演技には笑ってしまいます。
岩田さんとご一緒するのはこの作品が初めてでしたが、とても楽しくやらせてもらいました。衣装をいつもお願いしている宮本茉莉さんも一緒に「裕也はちょっとおバカな雰囲気があるものの、走り回るときにひらっと粋に見える衣装にしよう」などと話しながら作っていきました。
岩田さんご本人はすごく真面目な方で、私は覚えていないのですが、衣装合わせのときに職業などの設定を質問されたようなのです。私は「職業とか設定なんてそんなものない」と答えたらしいのですが、岩田さんはその答えでこの映画の中での立ち位置を理解してくれたようです。すごく信頼のおける俳優だと思いました。
岩田さんとも現場で役を作っていきましたが、それもすごく楽しかったです。「ここでこういう風に走りこんできたら、こっちの扉に向かっていってください」と私が伝えると、すぐにやってみせるのではなく、「そうしたら、ここで一回立ち止まって、こんな風にやってみますね」と先にどうやるのかを教えてくれるんです。演出を一緒に作るセッションをしているような楽しさが味わえました。
終盤にちょっと面白いポーズをしてもらっています。私がそのポーズをやってみせるとスタッフは爆笑していましたが、岩田さんは真剣な顔で私の動きを見ていて、ちゃんとコピーしてやってくれました。いろんなことを真剣に考えて生きている人なんでしょうね。
—— 作品同様、現場も笑いが絶えなかったのでしょうか。
思えばけっこう笑っていましたね。例えば、新郎上司のスピーチシーンですが、脚本に上司の心の声は書いてありますが、スピーチそのものは、決めセリフしか書かれていなかったのです。「その間を埋めよ」と笑いの天才から投げ掛けられた大喜利状態ですよね(笑)。そこで助監督の小林くんがスピーチを作ったのですが、これがなかなかよくできていました。高橋さんが全部覚えてやってくれたのですが、そのときは観客役のみなさんを含め、リアルな笑いが起こりました。そういう部分も含めて、笑いが多い現場だったかもしれません。
片桐はいりからの感想メールが心の支えに
—— 向井理さんは結婚披露宴会場に現れる謎の男を飄々と演じていました。向井さんにはどちらかといえばできる男、切れ者のイメージがあったので、この役どころは新鮮でした。
向井さんが貧相な雰囲気やもっと悪者っぽい雰囲気などいろいろ見せてくれたので、一緒に探りながら作っていきました。初めはちょっと“べらんめえ口調”が過ぎたので、「そんなにべらんめえじゃなくていいです」とお伝えしましたが、「こういう役をやりたかったんだろうな」と感じるくらい、楽しそうに演じていました。
—— 新郎の父役の尾美としのりさんのマジックでのトランプの扱い、新婦の父役の六角精児さんのマグロの解体ショーが見事でした。かなり練習されたのでしょうか。
それぞれ専門の先生についてもらって、かなり練習してもらいました。ベテランの素晴らしい名優があそこまで一生懸命にやってくださる。頭が下がる思いでした。
尾道三部作などを観てきた私の世代にとって尾美さんは「“あの”尾美としのり」です。映画の中の人というイメージが抜けなくて、最初はすごく緊張して「尾美さん」と声を掛けることさえできませんでした。撮影の合間にも練習されているお姿を拝見し、ものすごく一生懸命に演じてくださっているのを感じました。
六角さんは私が一方的にファンで、舞台を観に行っていますし、「タモリ倶楽部」が好きな私には“タモリ倶楽部によく出演する人”という意味合いもあって緊張しました。とても熱い芝居をやってくださいました。
—— 編集で何度もご覧になっているかと思いますが、完成した作品をご覧になったときはいかがでしたか。
自分の映画っていつまで経っても客観的には観られません。「できた!」と思いますが、作っている間も公開してからもほっとしたことは一度もないんです。
コロナ禍ということもあって、試写は出演者とは別々に観ました。後日、片桐はいりさんがメールを送ってくださったのですが、「この作品を撮ってよかった」と思えることが書かれていました。片桐さんは映画的見地や感度が高い方ですし、私にとって大事な心の支えになりました。
—— これから作品をご覧になる方にひとことお願いいたします。
結婚式と披露宴会場という仮初めの夢の城みたいなところで起きた1日のお話ですが、結婚だけが人生ではありません。結婚してもしなくても、それぞれがいい人生を歩んでいけるといいですね。
今、映画館に行き辛い空気がありますが、いらしてくださった方ひとりひとりがいい気持ちで帰ってくれることを祈るような気持ちでいます。
[インタビュー: 堀木 三紀 / スチール撮影: Cinema Art Online UK]
プロフィール
大九 明子 (Akiko Oku)
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映画『ウェディング・ハイ』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》結婚する2人にとって最大のイベント、それが結婚式。プランナーの中越(篠原涼子)に支えられ、お茶目だけど根は真面目な新郎・彰人(中村倫也)と 明るくてしっかり者の新婦・遥(関水渚)もようやく式当日を迎えていた。 しかし、結婚式に人生を懸けていたのは2人だけではなかった。スピーチに人生を懸ける上司・財津(高橋克実)をはじめ、クセ者参列者たちの並々ならぬ情熱が大暴走し、式はとんでもない方向へ進んでいく。 中越は披露宴スタッフと共に数々の問題を解決しようと奔走するが、さらに新婦の元カレ・裕也(岩田剛典)や、 謎の男・澤田(向井理)も現れて、物語は混迷を極めていく。 果たして“絶対にNOと言わない”ウェディングプランナーは全ての難題をクリアし、2人に最高の結婚式を贈ることが出来るのか――? |