映画『生理ちゃん』品田俊介監督インタビュー
女性にとっては共感度100%
男性にとっては生理を「知る」機会に
女性たちにツキイチでやってくる「生理」を擬人化し、女性たちから共感の声を呼んで大ヒット中のコミック『生理ちゃん』。手塚治虫文化賞<短編賞>を受賞した話題作が、二階堂ふみを主演に迎えて実写映画に。ムカつくヤツには生理パンチをお見舞いし、時に暴言、時に名言を放つ。動いてしゃべる最強のブサカワキャラ“生理ちゃん”が11月8日(金)、ついにスクリーンに登場した。
仕事中でもデート中でも、いつでもお構いなしにやって来る生理ちゃん。生理ちゃんが来るとダルいし、イライラするし、お腹は痛いし……。でも、心が痛いときや悩んだときも、生理ちゃんは気づけばいつもそばにいてくれる。「大変なのを、生理を理由にできないから、大変」な女性たちと生理ちゃんを、ファンタジックで愛おしいコメディとして描いた。
監督を務めたのは、フジテレビで長年ドラマ制作に携わり、多くの演出を手がけてきた品田俊介。映画初監督作品にして、女性特有の生理ちゃんに真正面から取り組むことになった品田監督にインタビュー!キャスティングやキャラクター造形、TVドラマとの違いなどたっぷりお話を伺った。
何気なく手に取ったコミック『生理ちゃん』を読んで衝撃!!
―― 原作はかなり斬新なテーマでしたが、『生理ちゃん』を映画化された理由やきっかけがあれば教えてください。
もともと、製作の吉本興業から自由につくりたい映画をつくってほしいというオファーをいただいたのが最初です。テレビの世界ではドラマ畑でずっとやってきているのですが、映画を撮るならSFやホラー、ファンタジーなど、いわゆる“ジャンルもの”で、しかもまじめな作品が良いな、という気持ちがあって。他のスタッフといろんなアイデアを出し合ったり、原作になりそうな小説やコミックを読むなどしている中で、ふと手に取った『生理ちゃん』を読んで衝撃を受けたんです。
―― コミックのどんなところに衝撃を受けましたか?
僕は男性なので、生理にまつわるすべてのエピソードが初めて出会うものだったんです。しかもそれを描いたのが男性というのにも驚きました。世の中の男性のほとんどがそうだと思うのですが、生理に関しては無知からのスタートで新鮮でしたし、身近にいる女性が抱えている問題だったのに、知らないというか知ろうともしなかった自分に気づかされました。とはいえ、これを映像化するのは難しいだろうと思いましたし、無理かな……という気持ちも最初はありました。ただ、何度か読むうちにだんだん「生理ちゃん」が愛おしくなってくるというか、クセになるようなところがあって。生理ちゃんの存在自体がファンタジックでもあったので映像化に挑戦したくなり、「やるからにはやってやろう!」という気持ちで取り組み始めました。
当時はコミックがまだ1巻しか出ていなくて、手塚治虫賞の受賞前だったので、原作が想像以上に話題になっていった部分もあります。
原作のどのエピソードを膨らますかは、観客に寄り添える内容かどうか
―― 原作は1巻だけでも、1話読み切りのエピソードが9話収められています。この中から映画に登場させるエピソードはどのように選ばれましたか?
テーマ選びはいちばん重要でしたね。観ていただく方に共感していただける、寄り添えるようなキャラクターを中心にしようと思い、最終的にキャリア女性の青子、自分にコンプレックスを抱えるりほ、受験生のひかるという3人の話を軸にすることが決まりました。
周辺女性には入念に取材 登場人物の背景についても徹底リサーチ
―― 男性の監督が生理をテーマに描くことについて、苦労や工夫した点があれば教えてください。
取材に関しては、他のドラマ以上に多数の女性に聞き取りしましたね。生理に対するリアルな不安や苦いエピソードを聞き出していって、かなりの部分を映画に反映させています。例えば、出版社で働く主人公の青子が生理中に同僚と洗面所で会って会話を交わすところなども具体的な話を聞く中で取り入れた部分です。
また、生理に関してだけじゃなくてドラマ的な登場人物のキャラクターに関しても取材を重ねました。例えば、主人公のようなキャリア編集者で恋愛との両立を目指している方にもお会いして詳しくお話聞きましたし、「私なんて……」とネガティブなことばかり言うりほのキャラクターも、控え目で自分を否定してしまいがちな性格の方を探して取材するなどしました。
二階堂ふみと伊藤沙莉の絶妙キャスティング
―― 主演の二階堂ふみさん、伊藤沙莉さんのキャスティングがぴったりハマっていました。2人をキャスティングされた理由や、現場での様子を教えてください。
実は、伊藤沙莉さんが演じたりほ役は、ぜひ演じたいという女優さんが多かったんですよ。りほは「私なんて」が口ぐせで、ブログでは毒舌や文句をまき散らすコンプレックスの塊のような人。そういった女性が抱える気持ちを代弁したいと思う方が多かったんでしょうね。伊藤沙莉さんは、以前連ドラでご一緒したこともあったのですが、親近感というか身近にいそうな人物を自然に演じる方で。さらに、素晴らしい女優さんなのに会話の中で「私なんて」と実際に言う方だったので、イメージにぴったりだったんです。伊藤沙莉さんが言う言葉やご本人のキャラクターから、りほのキャラクターがふくらんでいった部分もありますね。
二階堂ふみさんは、映画のテーマが生理なので主演を引き受けていただけるか心配していましたが、快くOKいただいて。原作ものもコメディも、陰のある女性も何でも演じられる振り幅のある方だったので助かりました。テーマは繊細ですが基本はコメディなので、入り口として柔らかさを感じさせてくれる、主演としての信頼感がありました。台本をロジックと感性の両方で吸収して、撮影の時には、僕が考えていたラインを簡単に飛び越えてしまう演技をしてくれるので、感心させられることばかりでした。
原作が持つぬくもりを大切に造形した ブサカワキャラ「生理ちゃん」
—— 劇中には「生理ちゃん」ほか、「性欲くん」「童貞くん」といったキャラクターが着ぐるみで登場します。人間ではないキャラの設定などはどうされましたか?
「生理ちゃん」の描き方については、CGや俳優が演じるというのも選択肢にありました。が、原作の絵が持つぬくもりを大切にしたいと最終的に着ぐるみやぬいぐるみで表現することになったんです。女性が抱きついたり寄り添ったりするキャラクターでもあるので、触り心地には工夫を重ねました。できるだけコミックの生理ちゃんを忠実に再現したかったので、あれこれ悩んで最後には作者の小山先生にアトリエまで来てもらい、目や口の位置を決めてもらったんです。
「生理ちゃん」の声を演じるのはあの女優!?
—— 登場人物の女性によって生理ちゃんの大きさが違うところ、他人の生理ちゃんが見えるなど、生理を可視化しているところがおもしろいですよね。キャラクターの声や足音も印象的でした。
生理ちゃんの大きさは、原作でもそうですがその人の症状の重さによって違うんですよね。痛みやだるさ、眠気などの症状がひどい人の生理ちゃんは着ぐるみサイズだし、軽い人や若い子はぬいぐるみやキーホルダーサイズで。
声はみんな同じように聞こえるかもしれませんが、それぞれ登場人物の“マイ生理ちゃん”は演じる女優さんが吹き込んでいるんですよ! なので、主人公・青子の生理ちゃんの声は二階堂ふみさんが演じています。足音は音響効果さんが何パターンも出してきてくれて、最終的に手づくりの音になりました。歩数に合わせた音の出し方や、足音が消えるタイミングなどにはこだわりましたね。
「性欲くん」は、とにかくいやらしいことをつぶやきながら登場するので、これは俳優さんの声じゃないです(笑)。何をつぶやくかは、下品になり過ぎないように気をつけました。
—— この映画をどんな方に観てほしいですか?
女性は本当に共感できると思うので、ぜひ観てほしいです。できれば男性やお子さんも一緒に観てもらって、生理に興味を持つきっかけにしてもらえたらうれしいですね。僕がそうだったように、生理について知ろうとしなかった自分に気づいてほしいなと。コメディやラブストーリーの要素を持ちながら、子どもから大人まで生理について学べる作品になっていると思います。
子どもの頃から大好きなスティーブン・スピルバーグ監督のようになりたい
—— 最後に、品田監督は今作が映画デビューでしたが、映画の製作はいかがでしたか?
また、今後どんな映画を撮りたいか教えてください。
TVドラマにずっと関わってきましたが、やはり映画はスクリーンの大きさ、音響、芝居の強弱などがまた違うとわかり、一つひとつが新鮮で日々勉強でした。先日はこの作品でオランダ映画祭に出品させてもらったのですが、映画は上映会や試写会で観ている方たちがどこで笑うのか、どんな表情になるのか、肌感がすごく伝わるのが魅力ですね。TVだと観ている人の感想がその場で聞ける機会はほとんどないので。考えてみたら、映画やドラマのつくり手になりたいと思ったのは、子どもの頃に『E.T』(1982年)や『グーニーズ』(1985年)、『インディー・ジョーンズ』シリーズなどを観てワクワクしたのが原点。スティーブン・スピルバーグ監督作品のような、子どもから大人まで楽しめる娯楽作品をつくりたいです。
《インタビュー後記》
小学生の娘がいるママライターの富田です。
原作コミックの『生理ちゃん』は、年頃の子どもを持つママ友の間で話題になっていて読んでいましたが、生理や性についてこんなにポップでわかりやすく、でも押しつけがましくなく教えてくれる漫画って今までなかったと感激! 映画を観ると、原作のエッセンスがぎゅっと75分に詰め込まれた、かなり笑えてちょっっぴりホロリとするコメディに仕上がっていてました。
原作者の小山さんも品田監督も男性なのに、こんなにリアルに生理のこと、女性のあるあるを描けるなんてすごい、と思いましたが、監督にお話を聞いて、男性の方が知らないからこそ知ろうとするし、客観的に女性を見られて「生理ちゃん」のキャラを生み出せたのかなと。同じ女性でも生理ちゃんの大きさが違うように、女性はしょせん自分の生理ちゃんしか知らないまま、約40年と言われている長いお付き合いを続けるんだと気づきました。
初潮ちゃんの話、学生時代の生理ちゃんと性欲くんの戦い、働く女性と恋愛と生理ちゃん。どの時代も通ってきたママ世代の大人女性こそ、共感もひとしおかもしれません。
[インタビュー: 富田 夏子 / スチール撮影: Cinema Art Online UK]
プロフィール
品田 俊介(Shunsuke Shinada)1980年3月6日生まれ。ドラマを中心に多くの演出を手がける。近年の主な作品に「信長協奏曲」(2014年)、「失恋ショコラティエ」(2014年)、「世にも奇妙な物語」(2016年)、「ナオミとカナコ」(2016年)、「人は見た目が100パーセント」(2017年)、「隣の家族は青く見える」(2018年)、「ルパンの娘」(2019年)など。2020年1月に新シリーズがスタートする「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」も担当。本作が初監督映画になる。 |
映画『生理ちゃん』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》編集者の米田青子(二階堂ふみ)は、クリスマスイブも締め切りに追われて慌ただしく働き、バツイチ子持ちの恋人・久保(岡田義徳)とのデートの予約もキャンセル。そこへピンクの物体「生理ちゃん」が現れ、翌日は仕事中もぼんやり。 いっぽう、青子が働く編集部の清掃スタッフ・山本りほ(伊藤沙莉)は、自分とは立場の違う社内の人々を激しいツッコミと共にディスり、超速でSNSに投稿する日々。彼氏もおらず、家では引きこもってゲームばかりする彼女のもとにも生理ちゃんはやってくる。 青子の妹ひかる(松風理咲)の元へは、受験会場へ向かう途中に注射器を持った生理ちゃんが肩に乗って登場。 仕事に、恋愛に、勉強に、ままならない現状に奮闘する彼女たちと、煩わしくも寄り添い続ける生理ちゃんたちの日々が、交錯しながら進んでいく。 |
音楽: 河内結衣
主題歌:「する」the peggies(Epic Records Japan)
制作: 吉本興業 /フジテレビジョン
制作プロダクション: フィルムメイカーズ
製作: 吉本興業
ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国公開中!