映画『見栄を張る』
藤村明世監督&久保陽香 インタビュー
くすぶる女優の成長譚にこめられたつくり手たちの等身大の気持ち
是枝裕和監督製作総指揮のオムニバス『十年 日本(仮)』の一篇を手がける新鋭 藤村明世監督の長編映画デビュー作『見栄を張る』が、2018年3月24日(土)より公開となった。
初日は満員御礼。「28歳、売れない女優。そろそろ本気出す」くすぶる女優の成長譚にはつくり手たちの等身大の気持ちがぶつけられ、数多くの観客たちから絶賛と共感の言葉が贈られた。
本作は、シネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)の助成で製作され、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016でSKIPシティアワード、イタリアのWorking Title Film Festivalにてスペシャルメンションを受賞したほか、世界の国際映画祭で注目を集め、満を持しての劇場公開を迎えた。
シネマアートオンラインでは、藤村明世監督、主演の久保陽香さんにインタビューを行い、本作の魅力について話を聞いた。
―― 久保さんが時おり見せる“ヘン顔”に惹かれました。特に、冒頭のオーディションのシーン。あのクシャッとした表情は藤村監督から何かリクエストがあったんですか?
久保: え! 私、ヘン顔してますか?
藤村: それは……してますね(笑)。してますねと言いますか、その部分がちょいちょい出るような演出にしようとは思っていました。泣けなくてヘンな顔をするところとか、最初の睨むところとか。久保さんの魅力は表情豊かなところだと稽古の時から思っていました。
久保: 冒頭の睨むシーンは、「もっと!」「もっとイケますか?」「もっと!」と藤村監督から何度も言われて。どこにいっちゃうんだろうと思いながらぎゅーっと睨んで。撮影順ではあそこがラストだったので、最後だからふざけてるんだろうなと思っていました。
藤村: 可愛らしかったです(笑)。何パターンか撮影して、一番強烈な表情を採用させてもらいました。
―― 久保さんのキャスティングがとてもよかったと思います。
藤村: よく周りからは、「女優に対して女優の役をやらせるのは失礼かもしれないし、よくできたね?」と言われます。ただ、私はむしろお芝居が上手だから、久保さんのことをちゃんと女優だと思っているからこそ「やって下さい」とお願いしました。結果として、久保さんに演じてもらえたことですごく魅力的なキャラクターになったと思います。
久保: 私はこの脚本を読んだ時に、「私がいる!」と思ったんです。その当時、私は主人公の絵梨子と同じように、仕事面でも家のことでも悩んでいる時期でした。実家が近い関西方面に仕事で来ても、帰らないでホテルに泊まったり。この先女優としてどうやっていこうかなとか。
藤村: 私自身も、脚本を書きながら絵梨子はすごく自分に近い存在だと思っていました。まだリングにも上がれていない。絵梨子は女優として。私は映画監督として。これからどうしていけばいいんだろうって。その想いは久保さんに最初にお伝えしました。撮影に入ってからは、久保さんにお任せして絵梨子を演じてもらいました。
―― 本作のテーマ「泣き屋」という職業はどこで知ったんですか?
藤村: 高校生の時に、朝のワイドショーで「特殊な職業特集」が紹介されていて、その中で見て知りました。遺族が他の参列者に向かってお葬式を立派に見せるためにサクラを呼ぶ。死んだ時にまで体裁を気にするなんてと興味を持ったんです。それからしばらくして、大学で映画を勉強するようになった時に、長編映画を作るならあの「泣き屋」のお話をテーマにしてみたいと思ったんです。ただ、資料集めをしていくうちに、かつて「泣き屋」はもっと高尚な職業だったということを知りました。僧侶のような、人の魂を送る役割。だから、本作ではそうした「死と向き合う泣き屋」をテーマに映画をつくりました。
――お葬式のシーンが沢山出てきますが、何か材料にした映画はありますか?
藤村: 特にこれといったものはありませんが、撮影前に観て面白かったのは、『渇き。』(2014年)。小松菜奈さんが死んだ子にキスをしてみんながビックリするみたいな奇妙なシーン。あとは、少し前ですが『世界の中心で、愛をさけぶ』(2001年)。長澤まさみさんがスピーチするシーンがすごくきれいだなと思いました。最近だと、『永い言い訳』(2016年)。シニカルというか、馬鹿にした感じ。見え方が一つひとつ全然違っていて、お葬式シーンはつい気にしてしまいます。
―― ご自身が体験されたお葬式から反映されたものはありますか?
藤村: あります。小学生くらいの時に祖父が亡くなり、その時に初めて身近な人のお葬式に参列しました。お寿司とかお酒を囲んで、親戚同士がみんなで宴会みたいに盛り上がる。祖父が死んだ事実とその賑わいとのギャップに興味を持ちました。そうした不思議な雰囲気は作品の中に採り入れたいと思って。死によって久しぶりに会う人がいたり、別れる人がいたり。お葬式というのは何か特別な儀式なんだと思います。
―― 久保さんは?
久保: 私の場合は、お葬式のシーンはどちらかというと絵梨子と同じで泣き屋の修行に行っていた感覚なので、実体験というよりは何か見たこともないものを見に行く感覚でした。モデルにする人もいないですし。毎日探り探りで。受けの芝居も多かったので、本当に途中で、私は絵梨子なのか久保陽香なのか分からなくなる時が何度もありました。それがリアルな表情になっているんじゃないかなと思います。
藤村: 絵梨子の泣き屋の上司役である似鳥(美貴)さんにはしっかり資料を読んでもらいましたが、久保さんには泣き屋についての指導は事前にしていませんでした。
―― 劇中で、亡き姉の息子を引き取るかどうか絵梨子に選択が迫られた時に、彼女は一旦預かることを決めます。独身で28歳。女優という職業を続けたい主人公。なかなか大胆な決断だったと思います。もしも久保さんご自身がその場にいたら、どういった選択をすると思いますか?
久保: どうでしょう。ただ、親戚一同の中で周りから「出来ないだろ!?」と言われたら、ついムキになって「出来るよ!」って、絵梨子と同じ行動をとるかもしれません。反抗的な気持ちになって、「決め付けないでよ!」って。きっと言うと思います(笑)。
――そこはまさに、タイトル通りと言いますか(笑)。『見栄を張る』いいタイトルだと思います。これは初めから決まっていたんですか?
藤村: そうですね。最初からずっと決めていました。エゴサーチしにくいとか「涙」という単語を入れた方がいいんじゃないかとか色々と言われましたが、完成した時にやっぱりこれしかないなと。これでいくことにしました。
久保: 私はこのタイトルがとても好きです。このインパクトがすごくいい。「一言で言い切ったぞ!」という感じ、しっくりきます。
―― 先程「まだリングにも上がれていない」というお話がありましたが、この映画は2016年の第11回大阪アジアン映画祭で満席を記録して、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016でSKIPシティアワードを受賞。その後も国内外で沢山の賞を受賞しました。この映画の転がり方について、お二人は今どう思われますか?
藤村: 『見栄を張る』は私の想像以上に広まっていると日々感じています。周りの人達からは「すごく好きだよ」「2回、3回観たよ」と言ってくれる声が多く聞けたので、すごく嬉しかったです。もちろん、私は劇場公開を目指して映画をつくったので、これでやっとリングに上がれたと言いますか。皆様のお力添えの上で劇場公開が出来てとても嬉しいです。
久保: 私の周りでも「何回も観たよ」と言って下さる人達が沢山いて、「観る度に見え方が違う」「背中を押してもらえて清々しい気持ちで帰れました」という言葉をいただけて、とても嬉しく思います。あとは、『見栄を張る』のおかげでちょっと仕事が増えたというのがあります(笑)。事務所の人が本作を映像資料として外部にお渡しすることがあるそうなんですが、評判がいいみたいで。『見栄を張る』には人を惹きつける力があるんだと思います。
―― 実は私も3度拝見しました。SKIPシティとCO2の東京上映と今回のインタビュー直前にサンプルDVDで。それで、今回観て思ったのが、涙のシーン。泣けないシーンも含めて、涙のボルテージがあって、ラストシーンがすごくグッと来ると思ったんです。涙の強弱について、お二人で相談をされたんですか?
久保: 撮影は順撮りというわけではなくてシーンごとにバラバラだったので、この時の自分の感情はどこまで上げていっていいのか。その場の勢いに任せると感情が出過ぎちゃう時もあったので、藤村監督と確認し合いながら慎重に進めていきました。ただ、涙のシーンについて言うと、藤村監督から「涙を溜めるパターンと、涙をツーっと流すパターンと、涙をポロポロと流すパターンの3つをお願いします!」「編集の時にバランスを取るので」と言われて。そのリクエストを受けた時に、「なんてSな人なんだろう」と思いながら演じていました(笑)。
藤村: 失礼なお願いをしていたと思います(笑)。本当に、素晴らしい涙の強弱の演技をありがとうございました!
プロフィール
藤村 明世 (Akiyo Fujimura)1990年東京都生まれ、東京都在住。 |
久保 陽香 (Haruka Kubo)1987年兵庫県出身。 |
映画作品情報
《ストーリー》「あの監督、ちゃんと私の芝居見れてないんですよね」28歳の吉岡絵梨子は、周囲には“女優”として見栄を張りながらも、実際にはカフェのアルバイトで生計を立てる日々。これまで目立った仕事といえば、ウサギの着ぐるみを着て踊った“スーパーラビットビール”のCM出演のみ。映画のオーディションを受けるも満足な芝居ができず、その苛立ちを監督のせいにしてやり過ごす絵梨子。私生活では、売れないお笑い芸人の翔と半同棲中。公私ともにパッとしない東京生活に悶々としながらも、女優として成功する夢をあきらめきれないでいた。 「私が和馬の面倒をみます!」そんなある日、和歌山に暮らす姉の由紀子が交通事故で突然亡くなったとの連絡が。5年ぶりに帰郷した絵梨子を待っていたのは、長らく疎遠だった親戚からの冷たい目線、そしてシングルマザーだった姉が遺したひとり息子、和馬だった。由紀子の葬儀が終わり、悲しみも癒えないうちから和馬の親権をどうするか話し合う親戚たち。いたたまれなくなった絵梨子は、家事もろくにできない自分を顧みず、つい「私が面倒をみます」と見栄を張ってしまう。 「お金を払ってまで泣いてもらうなんて……」葬式から数日たち、姉と一緒に仕事をしていたという佐久間花恵が訪ねてくる。姉がどんな仕事をしていたかを尋ねる絵梨子に対し、花恵はある葬式会場に喪服姿で来るよう指示。そこで絵梨子が目にしたのは、見ず知らずの故人の葬儀で涙を流す花恵の姿だった。彼女が泣き始めた途端、悲しみが波及するように遺族たちも次々と泣き始める。この仕事、参列者の涙を誘う「泣き屋」というらしい。絵梨子は女優ならば簡単にできると思い「泣き屋」を始めてみるのだが、いざ葬式ではなかなか涙が出てこない。やがて絵梨子は、この仕事の真の役割を知ることとなる。 |