映画『マンハント』ジョン・ウー監督 インタビュー
小説「君よ憤怒の河を渉れ」を再映画化!
容疑者と刑事の“絆”が真相を解明する
『M:I-2』(2000年)、『レッドクリフ PartⅠ』(2008年)、『レッドクリフ PartⅡ ―未来への最終決戦-』(2009年)で知られるジョン・ウー監督の最新作『マンハント』(原題:追捕 Manhunt)が2月9日(金)に全国公開される。原作は西村寿行のサスペンス小説「君よ憤怒の河を渉れ」。1976年に同名の映画が高倉健主演で公開されている。この作品は中国で文化革命後初の外国映画として1979年に公開され、観客動員数8億人を超えるメガヒットとなった。今でも多くの人の記憶に残る。
今回は中国の人気俳優チャン・ハンユーと福山雅治のW主演。監督は無実の罪を着せられた弁護士ドゥ・チウと、彼を追う大阪府警の刑事・矢村が、事件の真相を追及しながら立場や国籍を越えた絆で結ばれていく姿を描いた。“二丁拳銃”などジョン・ウー監督らしいアクションがふんだんに盛り込まれた作品に仕上がっている。
物腰の柔らかい福山に合わせてキャラクターを大きく変更
監督は高倉健の熱烈なファンだ。
先行作品で描かれた主人公の杜丘は高倉健さんにしかできない役だと思ったので、本作では設定を中国人にして、職業も検事から製薬会社の顧問弁護士にしました。チャン・ハンユーには、剛毅でありながらも優しくて甘い魅力もあるキャラクター、往年の映画スターで言えばクラーク・ゲイブルやハンフリー・ボガートのような感じで演じてもらいました。一方の福山雅治は品格があり、物腰が柔らか。優しさと強さを合わせ持っています。オリジナルの矢村警部の人物設定では、冷徹すぎて彼に合わないと思いました。そこで悲しい過去を持つ設定を加え、感情豊かなキャラクターにしたのです。より人間味のある現代的なキャラクターになったと思います。
「ロケは大阪で」街が持つ活力からインスピレーションを受ける
ロケは大阪を中心に行ったという。
大阪は『レッドクリフ』のプロモーションのときに初めて訪れました。活力に満ち、魅力的な街ですね。今回は大阪からインスピレーションを受け、動きのあるカメラワークにしました。100%のリアリティを追求するよりも、動きに重きを置いたのです。2人の男の友情を描くうえで遊びの要素も取り入れ、人物や場所をリズミカルに表現しました。
こだわりは「義理」と「悲劇」
私は映画を撮るときに、自分のスタイルを色濃く反映させます。これまでの作品は義理を重んじる一方、悲劇的な要素を入れてきました。今回もそのスタイルに近いです。映画のキャラクターは、俳優のみなさんのイメージを思い浮かべながら書いています。ただ、私は似たような雰囲気の俳優を選んでしまうところがあります。チャン・ハンユーもそうですが、ハンサムでクリーンなイメージがあり、しかもヒューマニスト。そしてアクションをするとかっこいい。日本でいえば高倉健さんと小林旭さんみたいな感じです。國村隼さんとは25年前に仕事をしたことがあり、今回、友人としてお願いして出演してもらいました。一緒に仕事ができてうれしく思っています。
「男しか撮れない」イメージを払拭
本作では真由美のほかに、2人組の殺し屋、矢村の部下などたくさんの女性キャラクターが取り入れられている。
女性たちはそれぞれ多様な個性を持たせました。まず、ハ・ジウォンとアンジェルス・ウーは冷徹さを見せるプロの殺し屋。ただ、2人はドゥ・チウを殺しに行く加害者ですが、別の視点では被害者でもある。チー・ウェイが演じた真由美はオリジナルの真由美と同じように自由で野生的で気性の激しい女性ですが、より複雑な境遇を背負っています。これまで私は、「男しか撮れない」と言われてきました。そこで今回、たくさんの女性をキャラクターに取り入れ、「女性も撮れる」とアピールしたかったのです。今回、撮ってみて、“もっと女性を撮りたい”と思いました。次回作は女性が主人公のアメリカ映画です。
立場や国籍が違っても友情は育める
1976年の映画『君よ憤怒の河を渉れ』では、高倉健演じる検事の杜丘と中野良子演じるヒロインの真由美とのロマンスが織り込まれていたが、本作ではドゥ・チウと矢村の友情に焦点を当てている。
リメイクを決めたときに、映画ではなく、小説「君よ憤怒の河を渉れ」の権利を取得したので、ストーリーは原作に基づいて一から作りました。そこで、ドゥ・チウと矢村の関係性は立場の違いから生まれました。立場も国籍も違う2人だが手錠で繋がれており、危機を乗り越えるには互いに協力していくしかない。異なる文化や背景のもとに生きてきた人同士でも友情が育めるということを描きたかったのです。
インタビューを終えて
ジョン・ウー監督は1月30日(火)東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで開かれた同作品のジャパンプレミア上映時の挨拶で「子どもの頃から日本映画が大好きで、日本映画に取り組むことは私の長年の夢でした。敬愛する高倉健さんへのオマージュも込めてこの映画を撮りました」と語っている。アクション映画の巨匠であるジョン・ウー監督にとって、原点回帰にして集大成ともいえる作品のようだ。
[スチール 撮影: 坂本貴光 / インタビュー: 堀木 三紀 / 構成:仲野マリ]
監督プロフィール
ジョン・ウー(John Woo)世界で最も著名な映画監督の1人。1970年代、ショウ・ブラザースで助監督としてキャリアをスタート。のちにゴールデン・ハーベストに移り監督としてデビュー。1986年、シネマ・シティで製作した『男たちの挽歌』が大ヒットし、批評家からも絶賛される。独特の世界観を持つスタイリッシュなアクション映画で―― 『狼/男たちの挽歌・最終章』、『ワイルド・ブリット』、『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』など―― 中国にとどまらず世界中に熱烈なファンを持つ。1993年ハリウッドに進出し、『フェイス/オフ』、『M:I-2』など世界的な大ヒット作を生み出す。10年前、中国に戻って『レッドクリフ』、『The Crossing/太平輪』などを手がける。 主な作品に『カラテ愚連隊』(1973年)、『ジャッキー・チェンの秘龍拳/少林門』(1975年)、『剣聖たちの挽歌』(1979年)、『滑稽時代/モダン・タイム・キッド』(1980年)、『アーメン・オーメン・カンフーメン』(1982年)、『男たちの挽歌』、『ソルジャー・ドッグス』(1986年)、『男たちの挽歌Ⅱ』(1987年)、『狼/男たちの挽歌・最終章』、『ワイルド・ヒーローズ/暗黒街の狼たち』(1989年)、『ワイルド・ブリット』(1990年)、『狼たちの絆』(1991年)、『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』(1992年)、『ハード・ターゲット』(1993年)、『ブロークン・アロー』(1996年)、『フェイス/オフ』(1997年)、『M:I-2』(2000年)、『ウインドトーカーズ』(2002年)、『ペイチェック 消された記憶』(2003年)、『レッドクリフ PartⅠ』(2008年)、『レッドクリフ PartⅡ -未来への最終決戦-』(2009年)等がある。 |
映画『マンハント』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》酒井社長(國村隼)率いる天神製薬の顧問弁護士であるドゥ・チウ(チャン・ハンユー)がパーティの翌朝、ベッドで目を覚ますと、社長秘書・希子の死体が横たわっていた。現場には自身の指紋が付いたナイフが置かれるなど、突如として殺人事件の被疑者となった彼は、何者かにハメられたことに気づき、その場から逃走。そんなドゥ・チウを大阪府警の敏腕刑事・矢村(福山雅治)は、新人の部下・里香とともに独自の捜査で追っていく。 カギとなるのは、天神製薬研究員だった婚約者を3年前に失った謎の美女・真由美(チー・ウェイ)。次々と警察の包囲網を潜り抜けていく被疑者に近づくほどに、この事件に違和感を覚え始め、次第に見解を変えていく矢村だったが、ついに真由美の実家である牧場にいるドゥ・チウを捕らえることに成功。だが、手錠をかけた彼とともに、女殺し屋・レイン(ハ・ジウォン)たちからの襲撃に立ち向かった矢村は、彼の無実を確信する。何者かによって捜査が妨害されるなか、身分や国籍を超えた“強く熱い絆”が芽生えた2人はともに手を組み、事件の真相に立ち向かうことを決意する。だが、そこには恐ろしくも、巨大な陰謀が待ち受けていた――。 |
製作: ゴードン・チャン チン・ヒンカイ
製作総指揮: ピーター・ラム ラ・ペイカン
原作: 西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』/徳間書店刊 および 株式会社 KADOKAWA の同名映画
撮影監督: 石坂拓郎
美術監督: 種田陽平
衣装デザイン: 小川久美子
音楽: 岩代太郎
アクションコーディネーター: 園村健介
配給: ギャガ
公式Facebook: @manhuntJP