映画『LAPSE ラプス』
中村ゆりか&根岸拓哉インタビュー
クローンを通して映し出す人間本来の生き方
「“未来に頼る”だけではなく、這い上がる心を忘れない」
藤井道人監督らが所属し、話題作の公開が続くクリエイティブチーム BABEL LABEL。同チームが手掛けた映画『LAPSE(ラプス)』、『青の帰り道』の期間限定再上映が横浜の「シネマ・ジャック&ベティ」で決定し、上映初日の7月6日(土)にキャスト、製作陣による舞台挨拶が行われた。
『LAPSE(ラプス)』は“未来”をテーマとした短篇3篇から成る物語。アベラヒデノブが監督・脚本・主演を務める『失敗人間ヒトシジュニア』では、クローンと人間が共存する2050年を舞台に、自分がクローン人間の失敗作だったと知らされる男を描く。
今回の再上映に際して、同作で主人公と同じく失敗作と告げられ“親”(オリジナル)から捨てられたクローン・初美(ハッピー)役の中村ゆりかさん、“親”と決別し、自分たちなりの未来を掴もうとするクローンたちのリーダー・リュウ役の根岸拓哉さんに『LAPSE(ラプス)』への思いを聞いた。
想定外の状況でも「生きていかなくちゃいけない」と感じる作品
―― 『LAPSE』は、SF要素が強い世界観ですが、誰かに決められた“行く末”に抗い「未来を自分で掴む」という、どんな人にも通ずるテーマが描かれています。この作品のテーマをどのように捉えて取り組んだのでしょうか?
中村: 作品としての未来や世界観に軸を置きながらも、その中で私達がどうやって突き進んでいくか、殻を破っていくかという部分が強く描かれていると感じました。脚本を読んだ時から、「(どんな状況でも)生きていかなくちゃいけないんだ」ということを改めて教えられる映画だと思い、その中で描かれる「気持ち」を大切にしました。
根岸: やっぱり想定外のことがあるのが人生。僕ら役者だけではなく、どんな仕事の人でも先が見えない状況に変わりはありません。(未来を誰かに決められることに)抗っている人はたくさんいると思いますし、僕自身も抗いながら生きていたい。作品で描かれているのは、危機に直面したクローンたちのすぐそこに迫る未来ですが、盛り上がる場面もその先に待っているハードな場面も同じくらい大事に考えて取り組みました。
今作のクローンは感情のない「コピー」ではなく“差別された人間”
―― ハッピーもリュウもクローンですが、失敗作と告げられるまでは普通に人間として生きてきた存在。その中でクローンとしての見せ方を意識したり、工夫したところがあれば教えてください。
中村: 今まではクローンというと、感情をうまく表現できない(見た目の)コピーのようなイメージでしたが、この作品ではとても人間らしい存在です。傷ついたり、悲しんだり、狂気に満ちている人もいて、観ている人の胸に突き刺さるような感情がたくさんあります。「クローンだから」と意識するよりは、どこにでもいるような1人の女性として、あの世界で生きていかなくちゃいけない危機感や緊迫感を出せるように考えました。
根岸: 僕も、クローンというよりは“差別されている人間”として演じていましたね。リュウはその中で集団を引っ張るリーダーの役。場面によって場を盛り上げたり、苦しいときは苦しい表情をしたり、喜怒哀楽をちゃんと表現できればいいなと。
―― アベラ監督と役について相談することはありましたか?
中村: 監督とは、シーンごとにどの程度人間味を出すかなど微妙なバランスを相談しました。「ここはもう少し人間らしく」とか、表情の細かいところを調整しながら進めて、いいと言っていただいたものを自分の中に取り込んでいく作業をする内に、気持ちが少しずつシンクロしていきました。打ち合わせの時点では、まだイメージがはっきり見えなかったけれど、現場で一緒に作り上げていけたと思います。
根岸: 僕の方は役作りについてはあまり話しませんでした。どちらかというと自分でまず演じてみたいタイプで、すごく自由にやらせていただきました。1つ自分の中の軸としてあったのは、クローンという差別を受けている仲間をとにかく大事にする気持ち。クローンたちはみんなで一つの思い、未来を描いていることが伝わればいいなと。それが結果的に監督からも「いいね」と言っていただけたので良かったです。
家族との関係に傷つき、苦しむ姿に共感してもらえるはず
―― それぞれが演じた役柄について、1人の“人間”としてはどんな女性、どんな男性だと思っていましたか?
中村: ハッピーは自分がクローンと知らされるまでは、“オリジナル”が本当の母親だと信じていました。母親はやっぱり大きな存在ですし、いざ「いなくなってほしい」と言われたときの苦しみや悲しみ、衝撃もはかりしれません。だからこそ、見た人にも一番共感してもらえるキャラクターではないかと思っています。自分の存在が否定されたことを恥ずかしく思い苦しんでいますが、それは本来の人間の感情だし、生き方だと思います。生きていくためには“未来に頼る”だけではなく、自分の力で這い上がっていく心も忘れちゃいけないと意識して演じました。
根岸: リュウはどこか達観している男だと思います。クローンがみんな処分される世界で、その危機を乗り越えた人物じゃないときっとリーダーにはなれないでしょうし、出番が少ないからこそ、それを見せるために考えた部分がたくさんありました。僕は身長が高いので、見た目の存在感は出せると思いましたが(笑)、歩き方やバイクの降り方、ヒトシジュニアを見る目線や笑顔など細かいところにもこだわりましたね。
キャスト2人の「ゼロからのスタート地点」は?
―― クローンたちのコミュニティでは、今までの価値観が壊された人間(クローン)がゼロから未来に向かおうとする姿が印象に残りました。お二人自身の経験で価値観が変化したり、「ここがスタート」と感じたエピソードがあれば教えてください
中村: 高校卒業後に、お芝居との向き合い方や進み方についてすごく悩みました。学生時代はある程度大人の助言や価値観に後押しをされていた部分がありましたが、ここからはまさにゼロから自分で決めて、自己判断ができないといけないと。
もともと今作と同じ短編映画『5windows』(2012年/監督:瀬田なつき)への出演をきっかけに本格的に芝居に取り組みたい思いがずっとありましたが、それをいつどう発揮し、誰に伝えたらいいのかが分からずにモヤモヤしていて。それが高校卒業のタイミングで私自身のスタートすることにつながったのかもしれません。
『5windows』は私にとって初めてちゃんとお芝居に向き合え、思うように芝居ができないことをすごく感じた作品でもあります。あのときの悔しさがあったからこそ、今いろいろな作品と向き合っていられる部分もあるので感謝しています。
根岸: 僕は1つの作品ではないけれど、リスタートという意味ではたくさんのきっかけがありました。自我が確立していないうちにこの仕事を始めたので、当時の社長たちから仕事や基本的なことまで怒られましたが、それがあってできた自分だと思っています。
親の教えもあり、若い頃から自分の意見は伝えるようにしてきました。その意見が合っているとは言えないかもしれないけれど、まず挑戦してみて、批判されたり、間違っていると気づくことでまた違うスタートを切る。常にその繰り返しだと思っています。
この先仕事をしていくうえでもそうだし、リスタートを続けられる人生でありたい。役者だからということではなく、イチ人間としてそれを繰り返しながら進んでいきたいです。それに、常に新しい価値観にふれていかないと頭の中って固まってしまうから、今はいろいろな仕事の人から話を聞くのも楽しいですね。
30分の中に刺激と幸せの時間がつまっている
―― 監督・主演を務めたアベラさん、プロデューサーの藤井さんの印象をそれぞれ教えてください。
中村: アベラさんは顔つきも中身もすごく柔らかい方。キャラクターを大事に撮っていただけるので、信頼して撮影ができました。今作では脚本・監督・主演までしていて本当に多才。演技は最初少し心配していましたが(笑)、現場に入ると楽しんでできました。
藤井さんはドラマで一緒に仕事をさせていただいたとき、役にとても寄り添ってくれる監督でした。その時は私と藤井さんが思う役のイメージが違っていて、うまくお芝居ができなかったのですが、そこに気づいてくださって、「その(中村さんの)イメージで演じてくれるのなら、こんな見せ方もある」と違った提案をしていただきました。映像を通して一人の人間をきちんと見つけ出してくれる優しい方ですね。
根岸: アベラさんはいつもテンパッていますね(笑)。現場でも飲み会でも。ずっとバタバタされているけど、すごく周りの人に愛されているのを感じます。お芝居も面白くて、“嫌われない芝居”ができるところがすてきだと思います。
藤井さんとは19歳くらいで出会って、月に1、2回くらい会うようになりました。撮影で一緒になるよりも飲んでいる時間の方が絶対長いのですが、その声を掛けてくれるタイミングがすごいんです。何故か僕にいいことでも悪いことが何かがあったときに誘ってくれるので、「神様なんじゃないか」って(笑)。とても男気があるし、監督としてもクリエイターとしても男性としても尊敬しています。
―― 再上映がなされた今、改めてお二人が思う『LAPSE』の見どころは?
中村: 30分の中に刺激を受けられるシーンやささいな幸せの瞬間がギュッとつまっていて、それが短編ならではの楽しみ方でもあると思います。スピード感があるので、逆に集中して小さなことも見逃さず見られるはずです。
根岸: 3作とも出演者全員がとにかく未来に向かって抗っています。やり方はそれぞれですが、きっとその中の誰か1人には共感できるところがあるはず。「リュウの考え方は分からない」という感想でもいいので、何かを感じてくれたらうれしいですね。
[スチール撮影: 坂本 貴光 / 取材・文: 深海 ワタル]
プロフィール
中村 ゆりか (Yurika Nakamura)1997年3月4日生まれ、神奈川県出身。 |
根岸 拓哉 (Takuya Negishi)1996年生まれ、埼玉県出身。 |
シネマ・ジャック&ベティ上映初日舞台挨拶の模様はこちら
映画『LAPSE ラプス』予告篇
映画作品情報
《INTRODUCTION》クリエイティブチーム BABEL LABELが描く、3つの未来の物語 映画『デイアンドナイト』『青の帰り道』など、話題作が続いているクリエイティブチーム BABEL LABEL(バベル レーベル)。今注目を浴びている彼らが、オリジナル映画製作プロジェクト<BABEL FILM>を始動させ、実力派俳優たちが集結した。BABEL FILM 第1作目となる『LAPSE(ラプス)』は、3篇から成る未来を描く物語。 |
『SIN』(監督:志真 健太郎)AIに医療が委ねられた2038年を舞台に、AIと人間の関係に疑問を抱く女子大生を描く CAST: 栁 俊太郎、内田 慈 、比嘉梨乃、平岡亮、林田麻里、手塚とおる 他 |
『失敗人間ヒトシジュニア』(監督:アベラヒデノブ)クローンと人間が共存する2050年を舞台に、 CAST: アベラヒデノブ、中村ゆりか、清水くるみ、ねお、信江勇、根岸拓哉、深水元基 他 |
『リンデン・バウム・ダンス』
|
撮影: 石塚将巳、佐藤匡、大橋尚広
照明: 水瀬貴寛 美術: 遠藤信弥
録音: 吉方淳二、西垣太郎
音楽: 岩本裕司、河合里美
助監督: 滑川 将人、大堀峻
編集: 磯部今日平 VFX: 関愼太朗、TweliG
装飾: 澤田望 美術助手: 湯本愉美 衣装: 安本侑史
ヘアメイク: 白銀一太、細 野裕之、中島彩花
撮影助手: 高橋潔、後藤あゆみ、赤松亨、鶴原優子、秋戸香澄、雨宮秀宜、田島学
照明助手: 福地賢治、横山淳、小田部将弥
ヘアメイク応援: 岡本紀子、鍵山あきこ、河本花葉
制作: 玉木南美、歌谷康祐、舞木ひと美、江毓軒、フミヤアリミツ、小座間陸
デザイン: 梶生彩奈 スチール: 市川唯、坂功樹、柳瀬渉
宣伝: 矢部紗耶香、平井万里子
アシスタントプロデューサー: 大橋和実
製作: BABEL LABEL
配給: アークエンタテインメント
© BABEL LABEL
公式Twitter: @lapse_movie
公式Instagram: @lapse_movie