原恵一監督 インタビュー
原作者も絶賛の劇場アニメーションが完成!
監督のこだわりを信頼するクリエイター陣が実現
2018年本屋大賞を史上最多得票で受賞。累計発行数170万部を突破した辻村深月のベストセラー小説を劇場アニメーションとして映画化した『かがみの孤城』。
学校での居場所をなくし家に閉じこもっていた主人公の中学生・こころ。ある日突然、迷い込んだ鏡の中の世界にそびえ立つ孤城で自分と似た境遇を持つ中学生6人と出会う。そして見つけた者は何でも願いが叶うという秘密の“鍵”を探す物語が展開される。
監督を務めたのは、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)、『河童のクゥと夏休み』(2007年)、『カラフル』(2010年)、『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(2015年)など数々の劇場アニメーション作品を手掛けてきた原恵一。
映画が公開され多くの反響を呼んでいる本作がどのように作られたのか、その過程や作品に込めた思いなど監督に話を聞いた。
多くの読者がいるベストセラー小説
原作を読んだ人をがっかりさせたくない
本作は、2018年本屋大賞をはじめ数々のタイトルを受賞した辻村深月のベストセラー小説。これまで漫画や舞台化もされてきたが、劇場アニメーションとして映画化を手掛けるにあたって最初に抱いた思いを語る。
「本屋大賞も獲って、170万部も売れている原作なんで、なるべく原作を読んだ人をがっかりさせないように映像化しなければというのが最初に思ったことです」
制作に入る際、原作者の辻村先生とは挨拶を交わした程度であったというが、辻村先生が絶賛するほどの仕上がりになっている本作。
「制作に関しては、脚本とか絵コンテとかキャラクター設定とかは送っていましたけど、特に違うという反応はなかったです。大体がイメージ通りで喜んでもらえていたみたいです」
“たかが学校なのに”
真田美織を通して伝えたいメッセージ
映画化するにあたり原監督が特に重要だと思ったのは、主人公の安西こころが家に閉じこもる原因でもある同じクラスの真田美織という存在。
「まず思ったのは、こころを執拗にいじめる真田美織という女の子をどれだけ憎らしく描けるか。僕はそこが肝だと思いました。やっぱり真田がきちんと“悪”になっていないと、お客さんがこころに感情移入ができないんじゃないかと思ったんです」
実際に真田美織の存在が、こころが学校に行くことができない大きな要因となっている。さらに、物語の鍵となる“願い”にも大きく関係してくる。真田はある種、自分が被害者側で主人公であるかのような立ち位置で振舞っており、自分が主人公になることを躊躇しているこころとは対極的だ。
「真田みたいな子たちというのは、学校生活をとても楽しんでいるんですよね。だけど、物語の後半でこころと(クラスメイトの)東条さんが話すところで、真田たちのことを東条さんがすごい大人っぽい見方をして否定するじゃないですか。“たかが学校なのに”って。同世代の子たちにも同じことを感じてもらいたいですね」
本作はファンタジーでありながら現実にもあるシリアスなテーマが描かれているが、映画全体を通して観ると、シリアスな部分と映画としての面白さのバランスがとれている。原監督はどのようなことを意識したのだろうか。
「描いているテーマは重いですけれど、ファンタジーならではの画の楽しさは意識しました。僕は放っておくとどんどん地味なものを作る監督なんで(笑)。孤城の外観や内装、背景に描く造形など、そこは意識的に若い人に憧れられるような画を作ってやろうと思っていました」
信頼する制作陣と、イメージ通りの孤城に
本作では、キャラクターデザインを務めたA-1 Picturesの佐々木啓悟をはじめ、数々の名作を手掛ける制作陣が原監督のもとに集結している。
前作『バースデー・ワンダーランド』(2019年)に引き続き、ヨーロッパ出身のイリヤ・クブシノブも参加。本作ではビジュアルコンセプト、そして鏡の世界にそびえ立つ孤城のデザインを担当している。物語の舞台となる孤城のビジュアルはどのように創り上げられたのだろうか。
「孤城については、“周囲に陸が全くない海からそびえ立つ岩山の上にお城が建っている”というイメージをイリヤに伝えました。その元になったのは、僕がたまたまテレビで見たオーストラリアにあるボールズ・ピラミッドというものすごく不思議な景観でした。周りに何もない海上に突然500m以上の岩山がそり立っていて、それをテレビで見た時に“あっ、この上にお城を作ったら面白いな”と思いついたんです。そのイメージをイリヤに共有して本作の孤城をデザインしてもらいました」
原監督はイリヤ氏のデザインセンスを全面的に信頼しているという。大きな直しもほとんど必要なく、監督のイメージを超える孤城が出来上がったそうだ。
「洋風のお城のデザインということで、やっぱりヨーロッパ人の視点が欲しかったんです。主人公たちそれぞれの個室のデザインなど内装も含めて、日本人が考えるお城とは違ったものが何か出てくるんじゃないかなと思いました。僕もこれまでヨーロッパの宮殿やお城をそこそこ見てきていますが、日本人からすると“なんて無駄なスペースが多いんだ”って感じますね。“何でこんなに天井が高いんだ”とか(笑)。つまりそこが“贅沢”ということだったんだと思います」
実際に孤城のモデルとなったお城はないそうだが、孤城の内装については色々な写真を見てイメージを膨らませていったという。
「子供たちが集まっていた暖炉がある部屋の内装に関しては、『世界の夢の図書館』という世界各地の古い図書館の写真集を参考にしていました」
ベテランアニメーターの力が支える制作現場
膨大な作業量、多岐にわたる制作工程のあるアニメーション制作。特に重要な役割となる原画において頼りになるのは、やはりベテランの力だという。
「どこの現場でも一番頼りになるのはベテランのアニメーターたちです。今回も井上俊之さんや松本憲生さんといったツートップに入ってもらっていますが、そういう人たちはもうきちんと(期限までに)上げてくるんです。仕上がりも惚れ惚れするほど素晴らしい。カットによって作業量や難易度が全然違うのですが、井上さんや松本さんには大変なカットを安心して任せられます」
當真あみは本番までに「より“こころ”になっていた」
主人公の安西こころの声を演じたのは、原監督に「“こころ”を見つけた」と言わしめた當真あみ。本作で声優へ初挑戦となったが、オーディションやアフレコはどのように行われたのだろうか。
「ある程度のディレクションはオーディション時に済んでいました。大体1人あたり30分ぐらいのオーディションでしたが、“もうちょっとこうしようか”と何テイクか録った音声を他の人たちの同じ芝居と聴き比べて、當真さんに決めました」
こころ役のオーディションへの参加者は1,000人を超えていたそうだ。
「結構悩みましたよ。みんな上手さはあったし。ただ、安西こころという役に一番向いていたのが當真さんでした」
アフレコについては、まず2日間のテスト日を設けて収録し、それから1カ月後に本番の収録が行われたという。
「より“こころ”になっていました。本番よりテストのテイクの方がよかったら、それも組み合わせで使っていくつもりでした。本番までに変に上手くなっちゃうとつまらないなと思ったので。でも結局その必要はなかったですね。全部本番テイクだけで構成しました」
原監督が思い描く“こころ”を完璧に演じきった當真あみ。彼女が演じた“こころ”を是非観てほしい。
声優・高山みなみならではの“あのセリフ”も登場!!
また本作では、『名探偵コナン』シリーズで主人公の江戸川コナン役を演じている声優・高山みなみも参加している。主人公のこころたちと共に鍵を探す中学生のマサムネを演じたが、劇中では高山みなみならではのワンシーンも。
「あれはアフレコの少し前に思いついたんです。高山さんにお願いして、嫌がったら止めようと思ったんですけど、意外と快くやっていただけました。“この台詞が実は伏線にもなります”と伝えて」
元々の脚本通りのセリフも録っていたとのことだが、高山みなみの“あのセリフ”は見事に採用。果たしてどの場面で登場するのか、ファンにとっては大きな注目ポイントだろう。
プロフィール
原 恵一 (Keiichi Hara)1959年7月24日生まれ。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)で大きな話題を集め、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(2002年)、『河童のクゥと夏休み』(2007年)で日本での数々の賞を受賞。 また、第35回アヌシー国際アニメーション映画祭で特別賞と観客賞を受賞した『カラフル』(2010年)、第39回アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員賞を受賞した『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(2015年)ほか、『バースデー・ワンダーランド』(2019年)など、海外でも高い評価を受ける日本を代表するアニメーション監督。 2018年には芸術分野で大きな業績を残した人物に贈られる紫綬褒章を受章。アニメーション映画監督としては、高畑勲監督、大友克洋監督に次ぐ史上3人目の快挙を成し遂げ、国内外から新作が待ち望まれている。 |
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映画『かがみの孤城』予告篇🎞
映画作品情報
《ストーリー》そこは、私の世界を変える入口でしたーー 学校での居場所をなくし、部屋に閉じこもっていた中学生・こころ。 ある日突然部屋の鏡が光り出し、吸い込まれるように中に入ると、そこには不思議なお城と見ず知らずの中学生6人が。 さらに「オオカミさま」と名乗る狼のお面をかぶった女の子が現れ、「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。 期限は約1年間。 戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には一つの共通点があることがわかる。 互いの抱える事情が少しずつ明らかになり、次第に心を通わせていくこころたち。 そしてお城が7人にとって特別な居場所に変わり始めた頃、ある出来事が彼らを襲う―― 果たして鍵は見つかるのか?なぜこの7人が集めれたのか? それぞれ胸に秘めた〈人に言えない願い〉とは? すべての謎が明らかになるとき、想像を超える奇跡が待ち受ける─── |