ドラマ+映画『伊藤くん A to E』春名慶プロデューサーインタビュー
ドラマ+映画『伊藤くん A to E』 春名慶 プロデューサー インタビュー

『伊藤くん A to E』
春名慶プロデューサーにインタビュー!

ドラマと映画2つだからこそできた挑戦
伊藤くんとA to E、あなたは誰にどんな共感をする?

岡田将生×木村文乃W主演、廣木隆一監督による映画『伊藤くんA to E』が2018年1月12日(金)全国ロードショーとなる。本作は、映画に先がけ、MBS/TBS系ドラマイズム枠にて深夜ドラマが放映中だ。オムニバス形式のドラマでは毎話、AからEの女の子たちと共に、観ている私たちも(こんな”痛男”のどこがいいのか?)と思いながら結局、超絶痛い男、伊藤くんに振り回される。

『伊藤くん A to E』は、数多くの恋愛映画をヒットに導いてきた春名慶プロデューサーの、初ドラマプロデュース作でもある。公開予定の映画や絶賛放映中のドラマの魅力、作品づくりについてお話を伺った。

―― 春名さんは、自分をどんなプロデューサーだと思いますか?

現場を預かるプロデューサーではなく、いわゆる企画プロデューサーです。ビルやマンションを建てる時に、設計図がありますよね。その図面を最初に引くのが僕の仕事なのかなと思います。そこに骨組みを建てたり、壁にセメントを塗ったりといった人達が入ってくるのが映画づくりかなと思うんです。

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―― 『伊藤くん A to E』はどのような設計図からスタートしたのでしょうか?

『伊藤くん A to E』はTBS系列のMBS枠でドラマが放映されています。もともとは、MBSさんから「原作(柚木麻子『伊藤くん A to E』幻冬舎文庫)を元に深夜の連続ドラマと映画がつくれないだろうか」というご相談を受けて、「こういう風にできたら面白いんじゃないか」と話し合いながら進めていきました。なので、厳密にいうと今回の企画は、最初の図面を引いたわけではないんです。

―― 原作は先に提示されていたということですが、他に決まっていたことはありますか?

実は、原作が発刊された時に一度読んでいて、当時は「1本の映画にするには難しい」と見送りました。原作は連作短編的なオムニバス形式になっています。オムニバスって、2時間の映画1本にすると単なるダイジェストに陥りやすいという罠があるんですよね。例えば『伊藤くん A to E』ではAからEの女性がいて、それをなぞって行く表層的な物語で終わってしまう。原作者の柚木さんが伝えたかったテーマ、あるいは物語の本質が見えないまま原作にある出来事が進んでいくだけということになりかねない。1本の映画単体では難しいタイプの原作だろうなとも思っていました。

しかし今回は、映画単体ではなく、連続ドラマ8話と映画という”器”があります。そうなった時に僕の中にあるインスピレーションが「だったら調理できるぞ」と思ったんです。

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―― ドラマ版と映画版の違いは何でしょうか?

最初、映画版はドラマの後日譚の予定だったんです。原作のその後の彼女たちということですが、僕自身はそれがピンとこなかったんですね。なぜかというと、原作者の柚木さんの中では小説の最後のページで色んなことが解決、完結しています。それを掘り起こすエネルギーって大変だろうし、単純に1回解決した登場人物の「先」を観てもつまらないんじゃないかなと思ったんです。

『伊藤くん A to E』はAからDの女の子、一人ひとりが伊藤から酷いことをされるというエピソードが、それはそれは痛くて面白いんです。そこで、ドラマ8話分はその4人の女の子にフォーカスを当てて2話づつで深堀りしていける。その器がまずありるので、最後のE・矢崎莉桜(木村文乃)の章は、グランドストーリーとして面白い。じゃあ、そのEの章をメインに映画をやってみようと区分けをしていきました。すると、この連作短編の面白さを深堀りしながら、全体的な物語のうねりを映画館で伝えていけるだろうと思ったんです。

ドラマ版と映画版は筋立てこそ同じですが、物語を読み解く「視点」を変えています。ドラマは矢崎莉桜の妄想劇場として女の子の陳情から伊藤くんの行動を想像する。それに対して映画は伊藤くんのライブアクションとして、こんな酷いことをしていくんだという現場を実際に見せていきます。同じ筋立てなのに、アングルを変えるとこうも印象や見え方が違うのか、ということがこのプロジェクトの面白さだと思うんです。映画版は伊藤くんと莉桜の対決の物語に一番フォーカスしています。

―― A~Dの女の子を一言で表現するとしたらどうなりますか?

A子(佐々木希)は”執着”。B子(志田未来)は”欺瞞”、自分を騙したりごまかしたり。C子(池田エライザ)は”嫉妬”、これは同性、つまり自分の親友へのものです。その親友D子(夏帆)が”稚拙”です。彼女はもちろん学歴があって勉強はできるだろうけど、こういうことをしたら相手が傷ついちゃうんじゃないか、という想像力を働かせずに他者と関わってきたんです。原作は、女性のみならず人間の持っている脆さをあぶり出していく”柚木節”がきいていると思います。しかも映像だとそれぞれを、生身の役者さんが演じて監督さんが演出するわけですから。映像ならではの”痛さ”や”居心地の悪さ”あるいは「ばっか(馬鹿)じゃないの」と笑いながらどこかで「あれ?私にもこういうところあるかもしれない」という共感もあるんじゃないでしょうか

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―― ドラマは映画と異なり毎話反応があると思います。視聴者の反応で印象に残っているものを教えてください。

視聴者って予測変換して観ていくんですよね。もちろん、毎話展開していく物語を一喜一憂して観てくださるとは思うんですけど、どこかみんな「この先どうなるの?」感があるんじゃないかな、連続ドラマって。例えば「結局は、莉桜もやがて崩れるんでしょ」とか莉桜がどうなっていくのかを先読み、先を知りたいという反応が書き込みの中では目立っている気がしますね。「え。でも、今は(A~Dの女の子たちを)馬鹿にしてるけど、莉桜もやがてメッキは剥がれていくんでしょう」というような予測変換して先を楽しんでいる人が多いというのが気になりました。

―― 春名さんの周りに伊藤くんっぽい、と思うような”痛い”人はいますか?

こんな人いるな、というのがパッと思い浮かばないですね。自分がつくる映画やストーリーで、あまり身近な体験談ということを意識したことがないんです。僕はオリジナルの映画をつくったことがほぼないんですが、基本は原作(今回の場合は小説)に答えがあります。原作小説に書いてあることをくんで、キャラクター造形を映画のストーリーの中に溶け込ませるというのが僕の仕事かなと思っています。

伊藤くんって、何が痛いかというと”無自覚”なんですね。各々女性陣を傷つけたり色んな無理難題を突き付けたりしてますけど、本人はそれを”しめしめ”と思ってやっていない。確信犯じゃないからこそ他者から見ると「ああ、痛いな」ってなると思うんですよ。

―― 春名さんは普段どんな映画を観ますか?

僕、映画はあまり観ないんです。むしろ旅番組やドキュメンタリーが好きで、よく観ます。映画少年でも映画青年でもなく、子供の時は自分がこんな商売(映画プロデューサー)をやるなんて想像もしてなかったですし。もちろん映画づくりは仕事として好きですけど、それだけだと視野が狭くなる気がします。同じジャンルで考えるよりも違う世界、違う業界で成功していることや何か面白いことをどう水平転換して映画のビジネス、いわゆるエンタメに持ってくるかということの方が興味があるんです。常に違う業界の話を見たり読んだりします。そこにあるヒントを、今の自分の仕事に活かすメソッドに変換したいと考えています。

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―― 映画とドラマそれぞれの『伊藤くんA to E』の見所を教えてください。

映画版は、連続ドラマを全く観ていない人でも楽しめる内容になっています。名は体を表す、で伊藤くんとA to E(の女の子たち)のお話にきちんと構成がなされています。伊藤くんにずっとカメラがついて行って、この”痛男”が女の子たちをどうなぎ倒し、ぶん回していくのか、というところを楽しんでもらえるつくりになっていると思います。

ドラマ版は、A to Eから見た伊藤くんという物語になっていて、ドラマを観てもらった上で映画を観てもらうと、どこか複眼的に豊かに観られると思います。AからDに関して、自分の知り合いがそこ(映画館のスクリーンの中)にいて痛い思い、酷いことをされているという、いい意味で複雑な気持ちで“親身になって”観てもらえると思います。

また、ドラマ版はAからDの女の子の、感情一つ一つ細やかな動きにかなりフォーカスがよったつくりになっています。どこか馬鹿にし、笑いながら、でもどこか半分「あれ?私のことかもね」とヒリヒリ共感しながら観てもらいたいです。そんな楽しみ方がドラマ版の魅力かなぁと思います。

―― 原作と映画、異なる部分はあるのでしょうか?

映画では、原作小説と少し違って、女性代表の莉桜が”痛男”の伊藤くんをちゃんと押し返し裁断してくれます。廣木監督が「伊藤くんが言っていることは無自覚でKYで彼の言っている理屈というのは破綻している、めちゃくちゃなんだ。ただ、今の若い子って多かれ少なかれこういう感覚で生きているんじゃないの」と言っていました。前を向いて景色を見たところで、薔薇色の景色が広がっているわけじゃないということを”うつむき世代”はみんなどこかで知っています。傷つくことが怖いから、自分から身を乗り出すことがない、そんな伊藤くんのイデオロギー、もどかしさは「どうせ頑張っても報われないんでしょ」「だったら勝負に出なくていい。勝負に出なければ負けなくていい。だって負けるのヤダもん」どこか、そんな今の子たちの感覚の集合知みたいだなと思います。
最後は、鬼退治じゃないですが、5番目の女性である莉桜が、伊藤くんに果敢に立ち向かって行きます。

ドラマ+映画『伊藤くん A to E』 春名慶 プロデューサー インタビュー

インタビューを終えて

最後に、春名さんは映画を「大人女子(莉桜)が伊藤くんにカツ!をいれて、観た女性たちがスカッ!とするそんな物語になっていると思う」と話してくれた。

放映中のドラマの続きはもちろん、岡田将生が演じるイケメンなのにかなり残念な”痛男”伊藤くんが登場する映画の公開が、今から楽しみだ。

[スチール撮影: 平本 直人 / インタビュー: 宮﨑 千尋]

 

プロフィール

春名 慶(Kei Haruna)

映画プロデューサー/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ 取締役
1969年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、1993年博報堂入社。番組企画セクション配属を経て、1997年に当時の映画セクションに転属となり映画ビジネスに携わる。
主なプロデュース作品に、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『いま、会いにゆきます』(2004年)、『県庁の星』(2006年)、『神様のカルテ』(2011年)、『僕等がいた』(2012年)、『アオハライド』(2014年)、『ストロボ・エッジ』(2015年)、『僕だけがいない街』(2016年)、『青空エール』(2016年)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)、『君の膵臓をたべたい』(2017年)など。『となりの怪物くん』が2018年公開予定。

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映画作品情報

映画『伊藤くん A to E』

《ストーリー》

伊藤あいつにさえ、出会わなければ―
落ち目の脚本家・矢崎莉桜(木村文乃)は、“伊藤”という男について悩む【A】~【D】4人の女たちの切実な恋愛相談を、新作脚本のネタにしようと企んでいる。心の中でづきながら「もっと無様に」なるよう巧みに女たちを誘導、そんな莉桜の前に“伊藤”(岡田将生)が現れる。“伊藤”は莉桜が主宰するシナリオスクールの生徒。中身が無く、いつも口先だけの彼が、なぜか莉桜と同じ4人の女たちについての脚本を書いていたのだ。しかもそこには、莉桜のネタにはない5人目【E】の女が存在し…。“伊藤”の狙いは一体何なのか―。莉桜は徐々に追い詰められていく。

【画像】映画『伊藤くん A to E』

 
出演: 岡田将生、木村文乃/佐々木希、志田未来、池田エライザ、夏帆/田口トモロヲ、中村倫也、田中 圭
監督: 廣木隆一
原作: 柚木麻子「伊藤くん A to E」(幻冬舎文庫)
脚本: 青塚美穂
音楽: 遠藤浩二
主題歌: androp「Joker」 (image world)
配給: ショウゲート     
制作プロダクション: ドリマックス・テレビジョン
©「伊藤くん A to E」製作委員会
 
2018年 1月12日(金) 全国ロードショー!
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @ito_kun_AtoE
公式Instagram: @ito_kun_atoe

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