藤井道人監督&主演 世良佑樹 インタビュー
二度目のタッグ!?お互いの信頼関係とは!?
「なぜ私たちは、失わなければならなかったのか—」。
被害者になった者、加害者になった者……大切なものを失った彼らの運命が絡み合い、交差し始める、喪失と再生の物語。
『オー!ファーザー』(2014年)、『7s/セブンス』(2015年)の藤井道人監督が、自身の原点に戻り、長年撮りたかったテーマを完全自主映画体制で描いた映画『光と血』(INNOCENT BLOOD)が、ハンブルク日本映画祭2017でオープニング作品としてワールドプレミア上映された後、遂に6月3日(土)より日本公開となった。
藤井道人監督と主演を務めた世良佑樹さんのお二人に本作の背景や製作の裏側などお話を伺った。
―― 藤井監督にお伺いしますが、『光と血』という映画を撮ろうと思ったきっかけは何ですか?
藤井: 2013年に初めて商業映画を監督して、その時に今までやってきたことの未熟さを知って監督やめようと思っていたんですけど、どうせ辞めるんだったら1回自分の思った通りに納得いくものを作ってからやめようと思って書き始めたのが『光と血』だったんです。群像劇が好きで納得いく群像劇を作りたいと思ったのがきっかけでした。
―― 本作のキャスティングはどのような形で行われたのですか? 世良さんとは2回目のタッグですが、世良さんを選ばれた理由など教えてください。
藤井: 今回は全員オーディションだったんですけど、この映画を撮りたいって言った時に集まってくれた1人が世良だったんです。僕ら同い年なんですよ。それで『東京』っていう映画の時からの信頼関係があって、その時からお互い上に行きたいでも行けてないっていう悔しさがマッチしていました。それで、オーディションでの世良の芝居がすごく良かったんですよ。「じゃあ、こいつでいっか」って(笑)。賭けてみようって思いましたね。
世良: こっちはすごい覚悟して行ってたんですけどね(笑)。まあ、ありがたいです。
―― 世良さんは藤井監督とのタッグはいかがでしたか?
世良: 藤井監督は本当に話をよく聞いてくださるんですよ。なので、こちらもこうしたいというのを持っていくのですが、それに対して隙間の芝居みたいなのがあって、本当に藤井監督は細かい要求があるんです。
体の角度一つとっても絶妙なこだわりがあって、そこにハマるように動いたりするのが辛かったんですけど勉強になりました。前回より数倍どころか数百倍くらいきつかったです(笑)。
藤井: 細かいとはよく言われるんですけど、年々求めるレベルが上がってきている自覚はあります。役者は何故そう動くのか考えないで動いたりする場合があってこっちは客観的に見ているから分かるんですよ。だから妥協をしないってことですかね。妥協の先に評価っていうものがあると思うんですけどデビューで妥協をしたって訳ではないけど精一杯やって、精一杯と死ぬ覚悟で作る差は圧倒的にあって自主映画だからとかそういう事ではなくて踏ん切りをつけるという意味では細ったと思います。
―― その中で主演に選ばれてどのような気持ちでしたか?
世良: 今回初めての長編映画でしたけど、前回短編映画を一緒にやらせていただいていたので、全員のことを勝手に自分が背負っている気持ちになっていました。プレッシャーもすごく感じていたので、何を用意するにもみんなより落ちていたらダメだって思っていました。
だから最初のディスカッションの時から、その当時抱えていたすごく辛いこととかをすべて藤井さんとマンツーマンで話し合って、その先にこの作品がスタートしたんですよ。
藤井: そう、オーディションしてキャストが決まってから脚本を書き始めて、みんなとディスカッションしながら書き上げました。
世良: そのディスカッションが今回の役に反映されている部分が大きいと思います。各々のいろんな役が絡み合っていくので、その一人ひとりもきっと藤井さんがディスカッションした中で感じたものを役に反映させているのかなって映画を観て思いました。
―― キャスティングは初めから役に当てはめるように決めたわけではなかったのですね。
藤井: そうなんですよ。完全自主製作で過酷になることは分かっていたので、それでも一緒についてきてくれる人っていうようなやり方で、その時の感性でフィーリングが合った人を選びました。それで選んだ本人達に役を宛書きするという方法をとりました。
10人のキャストとのディスカッションやインタビューを経て、絶対にやりたいと思ったのは“喪失”という普遍的なテーマでした。みんな最初スーパーマンになれるとか、自分が想像した未来があって、でもそうじゃない現実が目の前にあって、その人生とどう折り合いをつけていくか、その喪失と向き合う物語を描きたいと思いました。
やはり脚本にした段階で若干ドラマティックにはなっているけど、タラレバの話ではなくて人生それでも進んでいくんだよっていうのを、ディスカッションの中からスポイルしていって脚本を作りました。
―― 本作を観て映画の中で起こることは実際の日常にも起こる可能性はあるとリアルに感じました。
藤井: 「もし」っていうところですが、「女性が何者かに暴行を受ける」、「急に交通事故で弟を失う」、「無差別殺人で最愛の人を失う」、映画の中で起こっていることは特別なことではなく、言い方は難しいですけど、いつ自分に降り掛かってきてもおかしくないことで、「その時に人はどうやって生きていくんだろう」っていう話を「あの時はこういうことをやりたかったんだな」って、最終的に上がった作品を観て思いました。
―― 劇中で海外のシーンもありましたが、実際に海外へ行って撮影されたのですか?
藤井: そうなんですよ。実際フィリピンに行きました。
元々映画のタイトルが『無辜の血』だったのですが、原稿を考えている時に何気なくテレビを見ていたら戦場カメラマンの方が「“無辜の血”を流さないために自分達が何をすればいいのか…」みたいなコメントをしていて、「“無辜”って何だ?」って気になってすぐ調べたら“罪のない人達”、英語で言うと”INNOCENT”っていう意味があって、直感的に「今やりたいのはこれだな」って思いました。その時、やはり海外に行く意味が自分の中にはあって、戦争地帯に行く覚悟もありましたが、本当に描きたいのは戦争ではなく、日常を描きたかったのでフィリピンを選びました。明らかに海外ということが分かる日本と格差のある場所にしたかったので、フィリピンのトンド地区というスラムに行きました。
人生で初めてだったので感動が大きくて、人生観が変わりましたね。フィリピンの人たちは、すごく活き活きとしていて、そこで呼吸する日常というものがちゃんとあって、日本の僕たちに付きまとう周りの評価とかステータスとか、それらすべての無意味さ、何も人生には残らないんだなって強く感じました。
旅は人をフラットにさせる力があると思いました。
―― 世良さんに役柄についてお伺いしますが、主人公の陽を演じてみて自分と似てるところはありましたか?
世良: 僕が演じた陽は根本的に人が好きなんだろうなって思っていて、そこは自分と似ているなって思いました。陽だけは恋人(婚約者)を失った後もずっと人と関わり続けていた唯一の人間なので、きっと人が好きなんだろうと思います。
―― 陽に近づこうと心がけたことはありますか?
世良: 元々誰かを失うということをそれほど重く感じていなかったです。
日常のシーンでは、一般の会社員を絵に書いたように友達も多いし、好きな人とも結婚したりと、そんな日常的な生活をどこまで自分が出来るかということしか考えていなかったです。
自分が最愛の人を失ったという経験もなく近い感覚が無かったので、どうしたら近づけるかと考えた時、みんなが普通に暮らしてる中で自分だけ食欲、性欲、睡眠欲を極度に制限して過ごしている状況で人を見たら何か違った見方が出来るんじゃないかと思って、身体も体脂肪率を3%、体重も20kgくらい落として痩せたんですよ。
そしたら思っていたより自分が尖っていて、芝居のディスカッションもあまりなかったので、やってきたことは間違えていなかったなと思ったので、そのまま本気で自分を信じて最後まで突き進みました。
―― 撮影現場で印象に残ったエピソードなどはありましたか?
世良: えーこれ言っていいんですかね(笑)。
藤井: いいよ!!
―― ???
世良: 工場のシーンで時間が決まってるのに遅れてきた方がいて…。
藤井: その工場借りるのに1時間3万円なんですよ!それで、それも自腹なのでなんとか5時間で撮ろうというシーンでカメラマンが2時間寝坊してきたんですよ。
―― え!?…ってことは6万円分ですよね…
世良: それで現場は変な空気になっているじゃないですか。でも、フラットに来て やるよって始めたんですけど、最終的に時間オーバーしちゃって現場もピリピリして貸してくれている方もイライラしていて…。そしたら藤井さんが「じゃあいい、俺が行ってくるよ」って言って、「うわー、藤井さんめっちゃかっこいい。流石だな」って思って見ていたら、財布から3万出していて、それでめっちゃ怒って帰って来たんですよ(笑)。
藤井: 3万って大きいですよ!結局1時間延長で6時間借りたんですけど… ”チキショー!”って感じです(笑)。
世良: 現場では笑えなかったので、一人の時にめっちゃ笑ってました。あの時面白かったですね(笑)。
藤井: いや、きつかったです…(笑)。
―― 本作で描かれている“喪失”というテーマについてどう思いますか?
藤井: 身内や親友が死んだとか、もしくは自分の中での喪失とか、誰しもが経験すると思います。人は前に進むために何かを絶対失っていて、その辛さや度合いは様々だけど、必ずあると思っています。
世良: 僕も同じく… かっこいいこと言われちゃったので(笑)。
人それぞれ度合いが違うというのは正にその通りだと思います。
―― 最後に映画を通して伝えたいことをお願いします。
藤井: 伝えたいことは映画の最後のシーンに込めました。どんなに劇的なことがあったとしても僕は誰しもに起こり得る日常を撮っただけなので、それを感じてもらえたらと思います。楽しんで観てくださいとは言えないですけど、何かを得て持ち帰ってもらえるような作品にしました。
世良: 監督が言ったように何が起きてもそれでも生きて行くんだよっていうのが僕の中で最大のメッセージになっていて、時間が経過して振り返った時に心の中で感じるものがまた一つあるから、この映画を観て一つでも光になったらいいなと思います。
動画メッセージ
プロフィール
藤井 道人 (Michihito Fujii)東京都出身。日本大学芸術学部映画学科脚本コース卒業。 |
世良 佑樹 (Yuki Sera)大阪府出身。20歳の頃に上京し、俳優業を始める。舞台を中心に活動し、主演作も数多くつとめる。映画やドラマでも活動の幅を広げている。『東京』(2013年 / 監督:藤井道人)にて、映画初主演。他には『復讐したい』(2016年 / 原作:山田悠介)や、『劇場版 本当にあった怖い話3D』(2016年 / 監督:今野恭成)など。そして、今作『光と血』では藤井監督と2度目のタッグを組み、体当たりで挑んでいる。 |
映画『光と血』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》日本、現代―― |
監督: 藤井道人
脚本: 小寺和久、藤井道人
美術: 佐々木勝巳
スチール: 三浦希衣子
デザイン: ウチコシトシアキ
配給: BABEL LABEL / エムエフピクチャーズ
2017年6月3日(土)より、新宿武蔵野館他順次公開!
公式Facebook: @poetryangel.film
ハンブルク日本映画祭公式サイト: http://www.jffh.de/ja/