映画『ブランカとギター弾き』
長谷井宏紀監督インタビュー
今日一日がハッピーになる映画。
フィリピンを舞台に子供と大人の関係をリアルに描写。
日本人として初めてヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画祭の全額出資を得た長谷井宏紀監督がフィリピンを舞台に撮影し、世界中の映画祭で高い評価を得た映画『ブランカとギター弾き』(原題: BLANKA)がシネスイッチ銀座ほかにて日本公開となり凱旋を果たした。
『ブランカとギター弾き』が製作された経緯や作品に込めた思いなど長谷井宏紀監督にお話を伺った。その内容をお伝えいたします。
―― この映画はどのような経緯で製作が決まったのでしょうか?
イタリア人プロデューサーから提案があって、ヴェネツィア国際映画祭の「ビエンナーレ・カレッジ – シネマ部門」に紙一枚だけの企画書で応募したところから始まりました。過去に製作した短編作品も観てもらい、応募のあった約600本のプロジェクトの中から最終的に選出される3本に選ばれ、全額出資を受けることになりました。この年は、ポーランドとアメリカ、そして自分たちイタリアの製作チームが選ばれました。
―― 本作は現地のドキュメンタリーではないかと思えるほどリアルな描写でしたが、製作期間はどのくらいだったのでしょうか?
製作期間は、脚本執筆から8~9ヶ月で完成しました。
キャティングは2ヶ月くらい現地を歩き続けて、脚本のキャラクターに合うキャストを見つけました。
編集自体は1ヶ月半~2ヶ月で短いほうと思いますが、脚本に一貫してある流れと魂を表現することに楽しみを感じながら編集していました。映画本編は数え切らないくらい観ていると思います。
―― 多面的な観方がある映画だと思いましたが、この映画を表現する上で何処に軸をおいて製作されたのでしょうか?
軸は一つではなく、軸の中にもいろんなレイヤーが沢山あって、それが束になって太い軸になっているので、仕上がった映画を観てみんなが軸はこれなんだろうと感じてくれればいいと思います。
不特定多数の人たちと映画館やインターネットを通じて何かをシェアする(映画を観てもらう)ということはどういうことなのかをよく考えていました。映画を観終わった後に楽な気持ちや温かい気持ちになってもらえるようにしたかったので、なるべくそうなるように気をつけて作りました。それが大きな軸かもしれません。
―― ラストシーンは、こだわるところの一つだと思いますが、どんな思いで作られたのでしょうか?
ラストシーンは、脚本の段階からあってそこに向かって映画を創り上げていきました。ただ、脚本の段階で最後のところにセバスチャンはいなかったです。
映画は撮影を進めていくといろんなものが変わっていきますが、みんなで撮影していく中で「ここには絶対いなきゃダメだね」という話になってセバスチャンを置くことにしました。
最後のブランカが泣き笑っているシーンは、脚本のときから決まっていましたが、あのシーンのブランカの気持ちを映画を観た人とシェアしたいという思いがありました。彼女を通して何かを感じてもらいたいです。
スイスの映画祭で上映を観た70歳以上の観客の女性が僕のところに来てくれて「今日一日とてもハッピーになったよ」と言ってくれたのがとても嬉しかったです。
映画はひとつのプロダクトとして製作していますが、映画を観てくれた誰かの一日を数時間でも“よい気持ち”にできたなら今回映画を製作した意味があったと思います。その気持ちをシェアするために作ったので、いろんな人に観てもらう機会を作っていただいたのは嬉しかったです。
―― 子供にもいい映画だと思いました。
ドイツの子供の映画祭(キキフェ映画祭2017)にも出品していて、子供審査員部門でグランプリをもらったりもしています。言葉が解らなくても内容が解かる映画になっていると思います。
―― 『ブランカとギター弾き』という作品タイトルは、どのように決まったのでしょうか?
原題の「BLANKA」というタイトルは、元々ワーキングタイトルだったんですが、僕はタイトルを決めるのがあまり得意ではなかったので、それが最後まで来てしまったんです。最後の最後は、日本の配給や宣伝の皆さんと話し合って、日本での公開先やどのような方に作品を観てもらいたいかなど、いろいろな要素を一緒に考えて「よし、これでいこう!」って感じで決まりました。その過程が面白くて、楽しかったし、有難かったです。
―― 最後にこれからこの映画をご覧になる皆さんへメッセージをお願いいたします。
路上で暮らすブランカの勇気、ピーターの優しさ、そして子供たちの思いをこの映画を通じて、そして僕らの日常に、感じて頂くことができるなら、それにもまして嬉しいことはありません。
僕らは繋がっている。それは世界中のどこまでも。
インタビューを終えて
この映画は、フィクションとノンフィクションの合間にある映画である。この映画を通して、子供の置かれている立場とその国の情勢を如実に映し出している。
世界中の子供から大人まで一人でも多くの方に観てもらいたい素晴らしい映画である。
[インタビュー&スチール撮影: 坂本 貴光]
監督プロフィール
長谷井 宏紀 (Kouki Hasei)岡山県出身。映画監督・写真家。セルゲイ・ボドロフ監督『モンゴル』(ドイツ・カザフスタン・ロシア・モンゴル合作・米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品)では映画スチール写真を担当し、2009年、フィリピンのストリートチルドレンとの出会いから生まれた短編映画『GODOG』では、エミール・クストリッツァ監督が主催するセルビアKustendorf International Film and Music Festival にてグランプリ(金の卵賞)を受賞。 その後活動の拠点を旧ユーゴスラビア、セルビアに移し、ヨーロッパとフィリピンを中心に活動。フランス映画『Alice su pays s‘e’merveille』ではエミール・クストリッツア監督と共演。2012年、短編映画『LUHA SA DISYERTO(砂漠の涙)』(伊・独合作)をオールフィリピンロケにて完成させた。2015年、『ブランカとギター弾き』で長編監督デビューを果たす。現在は東京を拠点に活動中。 |
映画作品情報
監督・脚本: 長谷井宏紀
シネスイッチ銀座他にて7月29日(土)より全国順次公開!
公式Facebook: @blanka.jp