スペシャルトークイベント
美しく壮大な生命の物語にこめられた裏テーマは!?
原作者×監督×研究者の白熱“海獣”クロストーク
自然世界への畏敬を下地に、独特の線使いと描画表現で読者を魅了し続ける漫画家・五十嵐大介。初長編作品「海獣の子供」(小学館IKKICOMIX)では、“14歳の少女”と“ジュゴンに育てられた兄弟”とのひと夏の出逢いを、圧倒的な画力とミステリアスなストーリー展開によってエンターテインメントへと昇華させた。壮大で美しい世界観を誇り、映像化は不可能といわれてきた同作を、映画『鉄コン筋クリート』他でのハイエッジな映像表現で世界から注目を浴びるSTUDIO4℃がついにアニメーション映画化。芦田愛菜、蒼井優ら豪華キャストの声優出演は早くも話題を集めている。
6月7日(金)の全国公開に先立ち、4月17日(水)「大哺乳類展2—みんなの生き残り作戦」が好評開催中の国立科学博物館で、映画『海獣の子供』と「大哺乳類展2」がコラボレートしたスペシャルトークイベントが実施された。
登壇者は、原作者の五十嵐大介氏、キャラクターの表情や動きの豊かな表現・演出でアニメファンを魅了する渡辺歩監督、海棲哺乳類を専門とする「大哺乳類展2̶みん なの生き残り作戦」監修・田島木綿子博士。トークショーでは、田島博士から物語の中でシンボリックに登場するザトウクジラの存在についての質問やトリビアが飛び出し、五十嵐氏が同作を生み出したきっかけや、原作と映画の関係性に言及するなど濃密なトークが展開された。
発想のきっかけはあの伝説の生き物
印象的なタイトルが耳に残る同作。五十嵐氏はその発想のきっかけが”フィッシュガール=人魚”だったと明かした。「元々図鑑が好きで、よく図鑑を見ながら魚のイラストを描いていました。あるときふと隣に女の子を描いてみたら、フィッシュガールという言葉が浮かび突然イメージがわいてきた。ジュゴンは子供を抱えるようにして授乳することから、人魚伝説のモデルになっています。抱えているのが人間の子供だったら面白いと思って、発想が広がっていきました。狼に育てられた子ども(アマラとカマラ)を思い出したりして。タイトルは最初海の子供というイメージでしたが、それだと漠然とし過ぎてしまう。調べてみるとジュゴンは『海獣』といわれることが分かったので海獣の子供にしました」
ファンタジーだからこそ大切な創作と事実のバランス感
人魚伝説や海の生き物の生態を調べる中、創作と事実とのバランスをどのようにとっているかが話題に。五十嵐氏は”僕の漫画は絵がシリアスなのでドキュメンタリーのように思われることもあるが、そうはしたくなかった。漫画はもっと自由でいいと思っている”と自身の作品作りへの考え方に触れ、「今作のテーマにもなっていますが、海の中はまだ解明されていないことが多い。例えばクジラでも、もしかしたらまだ見つかっていない種類がいるのでは?と想像しながら描きました。作品中にはマッコウクジラに少年が食べられるイメージが出てきますが、上顎に本来のマッコウクジラにはない歯があって、実はこれも未知のクジラ…という言い訳も考えています」と笑いを誘った。
原作のファンだが、研究者としても作品をみてしまうという田島博士も話を聞いて納得した様子。「先生の中に今お聞きしたようなコンセプトがあるならそのまま進んでほしい。未知の生物の存在はありえますし、近い将来にみなさんが知らない新たなクジラが見つかるかも。作品のコンセプト”海で起こることのほとんどを私達は知らない”は我々もいつも感じていて、自然の一部しか見られていないと常に思っています。作品からもその視点が伝わってきて心地よかった」と同意した。
シンボリックに登場するザトウクジラの秘密
作品内に登場するザトウクジラ”ヴィーナス”は、予告編にも幾度も登場するシンボリックな存在。田島博士からは「なぜシンボルにザトウクジラを選んだのか?」という質問が。五十嵐氏による「形が一番好きだったことと、胸ビレが長く、泳ぐ姿が飛んでいるように美しく見えるので作画的に魅力的。腹の白い部分が胸ビレを広げた時に人間に見えたら面白いと思いました」の回答に続き、渡辺監督も映画の中のヴィーナスや海獣の描き方について言及した。
「ヴィーナスは、あえて実物のクジラのサイズよりも大きく、胸ビレも長く描くことで、よりダイナミックになるように仕上げました。海獣たちの描写も、実物を何度も見て佇まいや動きを突き詰めたうえで、映像の中でそれらしく見えるよう誇張しています」(渡辺監督)
また、田島博士からはザトウクジラの知られざるエピソードも「ザトウクジラはとても優しくて、シャチに狙われているアザラシをひれのところに乗せ、苦しい姿勢で30分以上泳いで助けたりします。そういうことをするのは、人間が分かっている中ではザトウクジラだけです」。この話を聞いた五十嵐氏が”知っていたら作品にもっと生かせたのに”と悔しがる場面も飛び出した。
さらに話題はザトウクジラの神秘的な歌声に。渡辺監督が、映画の中のザトウクジラの<ソング>について、本物のクジラの声をベースにしながら、象徴的なイメージとしての使い方を考えて作り上げたと制作秘話を明かすと、田島博士からは「クジラの<ソング>には毎年流行があります。誰が流行を作るのかは分かっていませんが、”今年はこれがくるぞ”というソングが生まれ、みんながメスにもてたいために真似するようになります、地域によって方言のようなものが存在します」という本物のクジラのソングについてのトリビアが披露された。
漫画版と映画版は同じ“種”から生まれた兄弟のようなもの
原作とは異なる視点と構成で描かれる今回の映画。五十嵐氏はその構成について問われると「漫画と映画とは全く違う表現。タイトルは同じですが、逆に原作と同じ形にはしない方がいいと思います。原作の元になった”種”を使ってそれぞれ別の作品を作った、いわば兄弟みたいなもの」と独自の認識を語った。渡辺監督は、映画製作にあたり意識したことに言及。「マンガと同じ読後感にこだわりました。原作が明確な答えや結論がつくような話ではないので、映画も説明をしすぎないようにして、できるだけ広くふくらみをもたせて物語を終焉させようと思いました。矛盾していますが、だからこそ琉花個人の目線で、彼女が見たものや結末に辿り着くまでのことを大事に描きました。映画を観てくださる方によって見え方が変わると思いますし、そこを楽しんでいただきたいです」
「生命を描くと最後は”女性”にたどり着く」
映画『海獣の子供』の製作に5年を費やしたという渡辺監督は、元々原作のファンであることにふれ、同作の監督を「どこまでいけるか分からないが、1つの挑戦」と考え引き受けたことを告白。また、「この映画は結果的に女性の映画」と話し、五十嵐氏も「漫画を描くときは、常に女性の読者を思っています。そこには女性へのリスペクトがあるから。この作品もそうだが、海は女性との親和性がすごく高い。生命を描くと女性に行き着きます」と作品に隠されたテーマを語った。「大哺乳類展2̶みん なの生き残り作戦」で生殖器の展示を手がけた田島博士は、逆に「野生動物の世界ではオスが本当に頑張っている」と自然界の命の継承について語り、「漫画やアニメ、学問と”媒体”は違うが、シンパシーを感じる作品。伝えたいこと、ゴールは映画も今回の展示も同じ。海の哺乳類を、まずは同じ仲間として知ってほしい」と締めくくった。
最後は会場に訪れた観客からの質問タイムに続き、サプライズでプレゼントの抽選会が開催。トークショーは盛況のうちに幕を閉じた。
美しい映像と圧倒的なスケールで生命の神秘を描き出す映画『海獣の子供』。作品全体を彩る久石譲の音楽にも注目のファンタジックで壮大な世界観をぜひ大画面で確かめてほしい。
(※トーク中のスチール写真はオフィシャル提供)
イベント情報
アートから見る“海獣”たち!映画『海獣の子供』×「大哺乳類展2」
|
「大哺乳類展 2-みんなの生き残り作戦」概要■会期: 2019年3月21日(木・祝)~6月16日(日) |
映画『海獣の子供』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》自分の気持ちを言葉にするのが苦手な中学生の琉花は、夏休み初日に部活でチームメイトと問題を起こし、長い夏の間、学校でも家でも自らの居場所を失うことに。父が働いている水族館へと足を運んだ琉花は、目の前で魚たちと一緒に泳ぐ不思議な少年“海”とその兄“空”と出会う。そして父から「彼等は、ジュゴンに育てられた」と明かされる。 明るく純真無垢な“海”と何もかも見透かしたような怖さを秘めた“空”。琉花は彼らに導かれるように、それまで見たことのなかった不思議な世界に触れていく。3人の出会いをきっかけに、やがて地球上では様々な現象が起こり始め、夜空から光り輝く流星が海へと堕ちた後、海のすべての生き物たちが日本へ移動を始める。そして、巨大なザトウクジラまでもが現れ、“ソング”とともに海の生き物たちに「祭りの<本番>が近い」ことを伝え始める。“海と空”が超常現象と関係していると知り、彼等を利用しようとする者。そんな二人を守る海洋学者のジムやアングラード。それぞれの思惑が交錯する人間たちは、生命の謎を解き明かすことができるのか。 |
音楽: 久石 譲
キャラクターデザイン・総作画監督・演出: 小西賢一
美術監督: 木村真二
CGI監督: 秋本賢一郎
色彩設計: 伊東美由樹
音響監督: 笠松広司
プロデューサー: 田中栄子
アニメーション制作: STUDIO4℃
製作: 「海獣の子供」製作委員会
配給: 東宝映像事業部
© 2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会
2019年6月7日(金) 全国ロードショー!
公式Twitter: @kaiju_no_kodomo