第31回東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品『華氏119』スペシャルトークショーレポート

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品『華氏119』トークショー (中林美恵子、湯山玲子)

第31回 東京国際映画祭(TIFF) 
特別招待作品『華氏119』スペシャルトークショー

元アメリカ共和党職員、中林氏が読み解くムーア砲

ブッシュ政権を猛烈に批判し、全世界2億ドル、日本でも興行収入17億円を叩き出した問題作にして大ヒット作『華氏911』(2004年)を筆頭に、アメリカの銃社会に風穴を開けた『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)、医療問題に鋭いメスを入れた『シッコ』(2007年)と、これまでも巨大な権力に対抗し、突撃アポなし取材を敢行し続けた世界で最も有名なドキュメンタリー作家マイケル・ムーアの最新作『華氏119』(原題:Fahrenheit 11/9)が、第31回東京国際映画祭(TIFF)の特別招待作品として10月28日(日)にEX THEATER ROPPONGで上映された。

【画像】映画『華氏119』(原題:Fahrenheit 11/9) メインカット

上映後には、11月2日(金)に控える日本公開を記念して、著述家、ディレクターとして各メディアで活躍中の湯山玲子氏と、アメリカで10年間予算委員会補佐官(共和党)の職員としてアメリカの国家予算編成を担当していた早稲田大学社会科学部教授の中林美恵子氏を招き、トークショーが開催された。

ムーア監督の「問題提起」バズーカ、右にも左にも命中

湯山: よろしくお願いします。映画を観たのが、つい一昨日。中間選挙を前にした現在のアメリカを知るため、一個の重大なテキストとしてこの映画を楽しませていただきました。

中林: アメリカの議会上院で約10年間、共和党側で予算編成に携わっていました。トランプ大統領嫌いのマイケル・ムーア監督に対しては、当然ながら「大嫌い」と狼煙を上げたメインストリームの中にどっぷり。天敵のように見ていたんです。そのため監督の作品は、観ないようにしてきました。今回、観させていただいて、本当に面白かったです。 ムーア監督が、エッセイみたいな感じで思いを伝える映画になっている。一番興味深かったのが、(トランプ大統領だけでなく)オバマ前大統領のことも非難しているところですね。特にミシガン州で水道水の汚染問題が起こった時、その水を飲むようなパフォーマンスをしながら、結局はちゃんと飲まなかったじゃないかと。アメリカでは右側のムーブメントと左側のムーブメントで同じことが起こっていると感じたんです。これは非常に深い示唆がありまして、私は右側から観たけれど、(左側から見たムーア監督が)おっしゃっている意味がわかったし、今後の世界でアメリカ政治を占う意味で参考になる映画でした。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品『華氏119』トークショー (中林美恵子)

アメリカの政治風土

湯山: アメリカは、普通の人たちのマイクを向けられた時の政治意識や回答が、意識が高いというか、語れるまでに熟知していますね。

中林: 大きなテーマです。まず日本の政治の中には国民参加の土壌が少ない。それは議院内閣制だから。議会の仕事が国民に見えづらい。ところがアメリカではどの法案に誰がどう投票したのか、どういう修正をつけたのか、全部記録に残る。そうすると議員を評価しやすいんです。

湯山: 通信簿がついている!

中林: 議員の通信簿の情報が得られる。そして大統領制だから大統領も選べる。日本の国民は総理大臣を選べません。そうすると参加意識が違ってきますよね。

湯山: 個人が動けば政治も動かせる。

中林: 自分たちが何かを動かさないと物事は動かない、という気持ちが日本より強い。エッセイ的なひとりの映画監督が放つ強いメッセージは、必ずしもすべて(の人の意見)を代表していない。私はこう思う。「どうですか?」という見方です。

湯山: そういうことですよね。

中林: 反対する人もいます。でも、きっかけになって興味を持ってもらえればいい。こういった行動が、アメリカの中で受け入れられています。例えば日本だったら協調しなければとか、みんなに合わせなければとかがメンタリティとして強い。それがやはり政治文化にも反映されてしまう。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品『華氏119』トークショー (中林美恵子、湯山玲子)

中間選挙はトランプ大統領の中間テスト

湯山: この映画、マイケル・ムーアが中間選挙の前に放ったんです。中間選挙というのは、大統領の中間テスト。今までやってきたことに対し疑問があることは、ガラッとひっくり返り意見が通らなくなる。史上最注目の中間選挙になるのでは?

中林: おそらく最近の歴史で、最も注目される選挙を迎えている。例えばペンシルベニア州でユダヤ教の礼拝所が襲撃されたり、民主党の支援者たちに爆発物が送られたり、7000人規模のホンジュラスからの移民がアメリカになだれ込む動きも。暴力的な行動まで起こっていて、11月の選挙に影響があろうかと思われます。つまりアメリカでは11月に選挙があって、その前の月の10月には「オクトーバー・サプライズ」がある。選挙結果に影響を与える情報やスキャンダルが、選挙寸前の10月に発覚するということです。

湯山: サプライズの10月が来ました。とんでもないですね、右から左から。中米からの「移民キャラバン」は凄いわ、セクハラ問題、LGBT関連に代表される反右派勢力も。こうなったら民主党の好機、かと思えば右派の好機でもある。トランプ大統領と周りのチカラの示しどころでもある。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品『華氏119』トークショー (湯山玲子)

中林: この中間選挙がどうなるか?今一番アメリカで注目を集めているサイトは 「FiveThirtyEight」です。 2012年、すべての選挙区で誰が勝つかを当てました。まあ、(トランプ大統領が当選した)2016年だけ駄目だったんですけど。予想では80%以上の確率で下院は民主党、80%以上の確率で上院は共和党と言われている。片方でも民主党に議席を取られると、トランプ大統領の政権運営はかなりイライラする状況がやってくることになります。

湯山: 共和党の中も二つに分かれちゃって。トランプが出てきた時、共和党の中でも極右と言いますか、「あんなのが出てきたらアメリカの保守主義は駄目になる」って割れたじゃないですか。実際バノン[*1]さんがそっち側(共和党保守派)。

中林: バノンさんの存在は、アメリカ全体を考える意味でとても大事な要素です。というのは、バノンさんは映画『Trump at War』[*2]を作りました。マイケル・ムーアさんと同じくらいの時期に。共和党応援のメインストリームは信用できないって。エリートではない人たちが中心になって、右から攻めるって話。ムーアさんは反対側から同じような意味でメインストリームでは駄目だと。

湯山: そこがシェイクハンド。

中林: ここがね、今後のアメリカを占う事になると思います。

中林: ワシントンでは、この(感情的な)動きに対する脅威というのを物凄く感じています。政治政策のプロであるエスタブリッシュメント[*3]が、頭を抱えています。ですから共和党の中にもトランプ大統領に対する批判が結構ある。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品『華氏119』トークショー (中林美恵子)

ミレニアル世代が将来のカギを握る

湯山: もうまとめなきゃいけない時間が来ています。最後に映画の描く希望というような未来の話、ミレニアル世代[*4]について。

中林: ミレニアル世代は、アメリカの将来の政治にとって重要な世代。この人口はどんどん増えていきます。ですからヒラリー・クリントンさんが上手くいかなかったのは、おそらくその世代に背を向けられたことがあると思います。既存の政治では満足できないって。問題は、彼らはあんまり投票所に行かないんです。

湯山: 日本と同じだわ。

中林: ついこの間ギャラップ社が取ったアンケートで、65歳以上の人に「あなたは確実に選挙に行きますか?」って聞いたら82%ぐらいの人が「絶対行きます」って回答。一方で20代の人たちに「行きますか?」って聞いたら、26%ぐらいしか「行く」って答えない。だからムーアさんも応援しているんだと思います。それからアメリカで人気のテイラー・スウィフトさんが「みんな若者は選挙に行きましょう」って。

湯山: そうそう、あれもニュースになっていました。

中林: 彼女もそこを危惧して大きく声を上げたんじゃないかと思います。

司会: ということで今後の未来が見える形で、本作の理解を深める形でいろんな貴重なお話、ありがとうございました。

湯山&中林: ありがとうございました。

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品『華氏119』トークショー (中林美恵子、湯山玲子)

[*1] スティーブン・ケヴィン・バノン(英: Stephen Kevin Bannon)
2016年8月に大統領選挙の際、トランプ陣営の元選挙対策本部長に選出される。
2017年8月18日に退職。その後共和党内のトランプ派に反旗を翻し、ブライトバート(Breitbart News Networkアメリカ合衆国のオンラインニュースサイト)に復帰し、現在に至る。

[*2] 映画『Trump at War』(戦うトランプ)
18年中間選挙に向け、共和党員はコアなトランプ支持者だけでなく、トランプは嫌いでも共和党に投票する必要があると警鐘を鳴らす内容。

[*3] アメリカの一部の富裕層、支配層。アメリカではしばしば、WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)とアイビー・リーグ(米国東部私立大学連合)がエスタブリッシュメント勢力とされる。最近では、社会運動との関連で、「既成特権階層」の意味で使われることが多い。アメリカでは、政・財・官・言論界をリードする東部エスタブリッシュメント、巨大産軍複合体、ロックフェラーなどの巨大企業グループなどが有名。

[*4] アメリカで、2000年代の初頭に成年期を迎えた世代のことをいう。初めてのデジタルネイティブ世代。金融危機や格差の拡大、気候変動問題などが深刻化する厳しい社会情勢のなかで育ったことから、過去の世代とは異なる価値観や経済感覚、職業観などを有する。

[スチール撮影&記者: 花岡 薫]
 
 

イベント情報

第31回東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品
<映画『華氏119』スペシャルトークショー>

■開催日: 2018年10月28日(日)
■会場: EX THEATER ROPPONGI
■登壇者: 中林美恵子(早稲田大学教授)、湯山玲子(著述家/ディレクター)

【写真】第31回 東京国際映画祭(TIFF) 特別招待作品『華氏119』トークショー (中林美恵子、湯山玲子)

映画『華氏119』予告篇

映画作品情報

【画像】映画『華氏119』(原題:Fahrenheit 11/9) ポスタービジュアル

《作品概要》

大ヒット作『華氏911』から14年 ― 今度はあの第45代アメリカ大統領トランプとの対決が始まる!2016年7月にはマイケル・ムーアはエッセイの中で、この暗黒時代を既に予測。当選後もトランプ大統領による炎上ツイッター、虚言暴言やスキャンダルで政権はカオス状態に。それにも関わらず、米国だけでなく世界に影響を及ぼし続けている。更に取材を進めるうちに終身大統領になるという背筋も凍る妄想を天才的な狡猾さで実現しようとする真実などが暴かれていく!政治家も、メディアも、そしてあなたも、みんなトランプの術中にはまっている!?ムーア節炸裂!まさかのチェンジ・ザ・ワールド・エンターテイメント上陸!

 
第43回 トロント国際映画祭(tiff) ドキュメンタリー部門 オープニング作品
第31回 東京国際映画祭(TIFF) コンペティション部門 出品作品

 
原題: Fahrenheit 11/9
 
監督: マイケル・ムーア
 
出演: アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ
 
2018年 / アメリカ / 英語 / カラー / 5.1chデジタル / 128分
配給: ギャガ
© 2018 Midwestern Films LLC 2018
 
2018年11月2日(金)
TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー!
 
映画公式サイト
 
公式Twitter: @kashi119
公式Facebook: @kashi119

この記事の著者

花岡 薫

花岡 薫ライター

自分にとって殿堂入りのスターは、アラン・ドロン。思い起こせば子どもの頃から、愛読書は「スクリーン」(SCREEN)と「ロードショー」(ROADSHOW)だった。朝から3本立てを鑑賞し、英語のリスニング対策も映画(洋画)から。お腹が空くまで家には帰らなかったあの日々が懐かしい。
今も変わらず洋画が大好きで、リチャード・ギア、ロブ・ロウ、ブラッド・ピットとイケメン王道まっしぐらな性格も変わらず。目下の妄想相手はアーミー・ハマー。カッコいい俳優さんたちが、人生の好不調に耐えて充実した50代を迎えられる姿を、陰ながら応援をしていきたい。

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