(原題: Seymour: An Introduction)
ほんとうの豊かさとは?ほんとうの幸福とは?
音楽を通じて人生のうつくしさを伝えた89歳ピアノ教師を描いた珠玉のドキュメンタリー
《ストーリー》
人生の折り返し地点――。アーティストとして、一人の人間として行き詰まりを感じていたイーサン・ホークは、ある夕食会で当時84歳のピアノ教師、シーモア・バーンスタインと出会う。たちまち安心感に包まれ、シーモアと彼のピアノに魅了されたイーサンは、彼のドキュメンタリー映画を撮ろうと決める。
シーモアは、50歳でコンサート・ピアニストとしての活動に終止符を打ち、以後の人生を「教える」ことに捧げてきた。ピアニストとしての成功、朝鮮戦争従軍中のつらい記憶、そして、演奏会にまつわる不安や恐怖の思い出。決して平坦ではなかった人生を、シーモアは美しいピアノの調べとともに語る。彼のあたたかく繊細な言葉は、すべてを包み込むように、私たちの心を豊かな場所へと導いてくれる。
《みどころ》
10代で『いまを生きる』(1989年)、20代で『リアリティ・バイツ』(1994年)などに出演し、通算40本を超えるキャリアで知名度をあげてきたイーサン・ホークは、今も昔も独特の存在感を放つ人物である。イーサン・ホークといえば、俳優の印象が強いのではないだろうか。しかし、彼は俳優だけでなく、作家、脚本家、演出家、映画監督など多彩に活躍している。
そのイーサン・ホークが監督としてドキュメンタリー映画に挑戦した。これまでの監督作品としては『チェルシー・ホテル』(2001年)、『痛いほど君が好きなのに』(2006年)などの劇映画があるが、ドキュメンタリーは本作が初めてである。劇映画とドキュメンタリーとでは、途方に暮れてしまうほどに表現形式には大きな違いがあったらしく、学ぶところが多かったようである。
イーサン・ホークが、初対面で自らの悩みを打ち明けてしまうほどのシーモア・バーンスタインとは、いったいどのような人物なのか興味がそそられる。2人の出会いは、最初から互いにシンパシーを感じあうような運命的ともいえるものだったらしい。しかし、なぜイーサン・ホークがドキュメンタリーを撮ろうと思うほどに心が揺さぶられたのか、その謎は映像を追っていくうちに明らかになっていくだろう。
シーモア・バーンスタインは、幼少の頃に聞いたシューベルトの『セレナード』でピアノに魅了され、6歳からピアノを弾き始めている。10代で急速にピアニストとしてのキャリアがはじまり、17歳でグリフィス・アーティスト賞を受賞しアメリカ国内で早くから名声を築き、その後も数々の賞を受賞し順調に知名度をあげていった。ピアニストとして成功していたにもかかわらず、シーモアは50歳のある日突然、演奏活動から引退し後進の指導に身を捧げるようになる。
イーサンはシーモアの日常やエピソードを、丁寧に繊細に淡々と描いている。シーモアが教え子にレッスンをする場面がたびたびでてくる。彼のレッスンは単に才能や技術を磨くだけのものではなく、人間的成長を促すような慈愛に満ちている。彼は、自らの著作『音楽による自己発見 心で弾くピアノ』のなかで「教える目的は、生徒の人間としての成長に力を貸すこと」と述べているが、練習から得られる感情・思考・肉体的反応の洗練とコントロールが生活(人生)にも影響を及ぼすと考えていたようである。そして彼は、教えることによって自らも成長を重ねていった。
彼自身が譜面に向き合うときは、作曲家の意図を直感的に悟り、それを忠実に表すべく鍵盤上で指を遊ばせていく。試行錯誤して鍵盤に指を躍らせる様は心底楽しそうで、観る者を童心にかえらせてくれる。シーモアの鍵盤遊びは、音楽への愛、作曲家への愛、人生への愛に満ち溢れていた。
イーサン・ホークは、俳優としてある程度の成功をおさめていながら、常に何かが足りないという欠乏を感じていたようだ。イーサンだけでなく、私たちを含むほとんどすべての人々が、多少なりとも欠乏を感じて生きているのではないだろうか。その欠乏を埋めるべく様々なものを求め行動していく。しかし、その欠乏というものは真に存在するのであろうか?ただ単に自分が自らの内側につくりだしているだけなのかもしれない。
私たちは、一生をかけて自分という小宇宙の謎解きの旅をしている。どのような人生を歩むかは、各々に選択の自由が与えられている。なにをもって幸せとするのか、満足するのかはそれぞれに任されている。どのような心持でどんな未来を選ぶのかによって幸せ度にも差が出てくることを、シーモアから受けとることができるだろう。
映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』予告篇
映画作品情報
原題: Seymour: An Introduction
監督: イーサン・ホーク
製作: ライアン・ホーク、グレッグ・ルーザー、ヘザー・ジョーン・スミス
撮影: ラムジー・フェンドール
音声: ティモシー・クリアリー、ギレルモ・ペナ=タピア
編集: アナ・グスタヴィ
出演: シーモア・バーンスタイン、イーサン・ホーク、マイケル・キンメルマン、アンドリュー・ハーヴェイ、ジョセフ・スミス、キンボール・ギャラハー、市川純子ほか
配給・宣伝: 有限会社アップリンク
協力: スタインウェイ・ジャパン株式会社
2014年 / アメリカ / 81分 / 英語 / カラー/ 1:1.85 / DCP
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