映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』公開初日トークショー レポート
【写真】映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』公開初日トークショー (ピアニスト 大木裕子)

映画 「シーモアさんと、大人のための人生入門」

教え子、ピアニスト大木裕子 公開初日トークショー

「まず、弾いている自分が感動し、それを聴いている人にもシェアする心得を教えて貰った」

89歳のピアノ教師、シーモア・バーンスタインの生き様を描いたイーサン・ホーク監督作『シーモアさんと、大人のための人生入門』(原題:Seymour: An Introduction)が 10月1日(土)よりシネスイッチ銀座、渋谷アップリンクほかにて公開となった。映画の公開を記念し、公開初日のシネスイッチ銀座にて、ニューヨークでシーモアさんに師事されていた大木裕子さんから、シーモアさんから実際に教わったこと・学んだこと、そしてシーモアさんの人となりなどについていくつかのキーワードに沿ってお話し頂くトークショーが開催された。

キーワード① お偉い先生

40才のとき、主人の転勤でニューヨークに行ったのですが、「とても素晴らしい先生がいるから紹介したい」と知人に言われたんですよ。その時に“ニューヨークのお偉い先生”と聞いて、「うーん」と躊躇していたんです。私が学生だったら是非“ニューヨークのお偉い先生”に見ていただきたいけど、そのそもそも“お偉い先生”というか、“先生”という人種があまり好きではなかったので…(笑)。

でもある日シーモア先生の本を読んでみたら、目次に「演奏会の当日に何を食べるか?」という項目があって、面白い方だなと思うとともに、「演奏を人に見せてやろう」と考える方ではないんだと思い、先生にお会いしたんです。

映画の中で現在もシーモアさんに師事されている市川純子さんも言っていましたが、音楽で話をしたら、シーモアさんにひとめぼれしました。

キーワード② なぜできないか、ではなく、なぜできたのか

ある時先生が「長い間教師をしているけど、一番古い弟子の発言にすごくショックをうけた」とおっしゃったんです。どうやらその方は「「演奏会にむけて練習するとき、うまくできたところではなく、できないところを一生懸命練習する」とおっしゃったそうで、先生が私に「まさか君もそんな風に練習しているんじゃないよね?」と聞かれたんです。それで「どちらかというとわたしもそうです」と先生に言ったら、「できないことはもちろん勉強しなくてはならないけれど、そればかりやるのは違う。まずは、上手くできたことを”なぜできたのか”と分析しなければいけない。そうすれば、例えば演奏会で緊張で頭の中が真っ白になってしまっても、”こうすればうまくいく”とわかっていれば、なんとかなる。上手く演奏できると自分自身に歓びがある。まずはそれが大切だ」と言われたんです。

キーワード③ 仕事の結果が出るためにする準備の仕方

「100万回練習してもうまくいくとは限らない。まずはイメージを持ちなさい。では、そのイメージをどうすれば実現できるか?」と先生は言うんです。ピアノの練習で言うと、普段わたしたちは出来ないところをひとつずつクリアしていき、全部クリアしたら曲が出来上がり弾けるようになったと思ってしまう。もちろん学校を卒業するまではそういった練習も必要ですが、一人前と言われ人前で弾くようになったときには、そうではないんです。

自分がどれだけ曲に感動しているか。そしてそれを人に伝える。その技術を持つことが目的なんです。命題をクリアするより、とにかく練習や準備をする場合に、できない所ができるようにと考えるのではなく、自分がどう考えるかが重要。

他人にジャッジされながら弾くのではなく、弾いている自分が感動している、それを聴いている人にもシェアしたい、というのがシーモア先生の基本姿勢なんです。そのような心持ちでいるほうが良いですよね。

キーワード④ NY中の犬と握手

先生はとにかく動物好きで、かわいい動物の画像を見つけると生徒たちにメールで送ったりしているそうなんですが、マンハッタンでツンとした犬が散歩していても、すぐに手を差し伸べるんです。「シーモア先生の大切な手が噛まれたら大変!」とお弟子さんが注意するのですが、先生は全く気にしていないどころか、絶対この犬は噛まないと感じている。私の考えでは、先生は本能的に相手のことが分かっているんだろうと思っています。先生が毎夏過ごすメイン州のお家の周りには野生の動物がたくさんいるんですが、普通なつかないようなリスやアライグマなんかが、みんな先生の元によってくるんです。しまいには、シーモアがピアノを弾くと動物たちが寄ってくるようになったとか(笑)。

映画 「シーモアさんと、大人のための人生入門」 ピアニスト 大木裕子

[オフィシャルレポート]

イベント情報

<映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』公開初日トークショー>

■開催日:  2016年10月1日 (土)
■会場:  シネスイッチ銀座
■ゲスト: 大木裕子(ピアニスト)

登壇者プロフィール

大木 裕子(おおき ひろこ)/ピアニスト

ピアニスト 大木裕子

安川加壽子、高良芳枝、ルイ・ヒルトブラン、シーモア・バーンスタインの各氏に師事。東京藝術大学附属高校・大学卒。ジュネーヴ音楽院演奏家クラス一等卒。ヴィオッティ国際コンクール銀賞。リサイタル、読響、日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団等と協演。NHKラジオ・テレビに出演。1981-1991年、ニューヨーク滞在。リサイタル、オーケストラとの協演。1986/1989年、シエナ大学夏期音楽祭にて演奏とマスタークラスの講師を務める。1991年、帰国。CDについては、2009 年に『ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第3番とシューベルト:アルペジオーネ・ソナタ』(サンドラ・ベリッチと共演)、2013年に『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第3番 ハ長調 作品2-3/シューマン:幻想小曲集 作品12』をリリース。ソロ活動を続け現在に至る。

シーモア・バーンスタイン

ピアニスト、作曲家、教師、作家。1927年、アメリカ・ニュージャージー州ニューアーク生まれ。わずか15歳で人にピアノを教え始める。17歳でグリフィス・アーティスト賞を受賞、アレグザンダー・ブライロフスキー、サー・クリフォード・カーゾン、ヤン・ゴルバティ、ナディア・ブーランジェ、ジョルジュ・エネスクといった著名な音楽家に師事し、演奏家としての名声を築いた。朝鮮戦争中は兵役に就いたが、その間も各地の前線で、また軍の幹部向けに、数々の演奏会を行った。

50歳で現役のコンサート・ピアニストとしてのキャリアに終止符を打つ。以降の人生を「教える」ことに捧げる。

米国内外で引っ張りだこの“ピアニストの臨床医”である一方、多作な作曲家であり、その曲は初心者から上級者まで、さまざまなレベルの生徒を対象とした教材から、極めて洗練された演奏会用まで多岐にわたる。また定期的に、多くの国際コンクールの審査員も務めており、ニューヨーク大学の音楽科と音楽教育科で、准教授(非常勤)を務める。2004年12年12月18日、シェナンドア大学から名誉博士号を授与された。

【画像】映画『シーモアさんと、大人のための人生入門』

映画作品情報

映画 「シーモアさんと、大人のための人生入門」

《ストーリー》

人生の折り返し地点――アーティストとして、一人の人間として行き詰まりを感じていたイーサン・ホークは、ある夕食会で87歳(2016年現在)のピアノ教師、シーモア・バーンスタインと出会う。たちまち安心感に包まれ、シーモアと彼のピアノに魅了されたイーサンは、彼のドキュメンタリー映画を撮ろうと決める。シーモアは、50歳でコンサート・ピアニストとしての活動に終止符を打ち、以後の人生を「教える」ことに捧げてきた。ピアニストとしての成功、朝鮮戦争従軍中のつらい記憶、そして、演奏会にまつわる不安や恐怖の思い出。決して平坦ではなかった人生を、シーモアは美しいピアノの調べとともに語る。彼のあたたかく繊細な言葉は、すべてを包み込むように、私たちの心を豊かな場所へと導いてくれる。

 
邦題: シーモアさんと、大人のための人生入門
原題: Seymour: An Introduction
監督: イーサン・ホーク  
製作: ライアン・ホーク、グレッグ・ルーザー、ヘザー・ジョーン・スミス
撮影: ラムジー・フェンドール
音声: ティモシー・クリアリー、ギレルモ・ペナ=タピア 
編集: アナ・グスタヴィ 
出演: シーモア・バーンスタイン、イーサン・ホーク、マイケル・キンメルマン、アンドリュー・ハーヴェイ、ジョセフ・スミス、キンボール・ギャラハー、市川純子ほか 
配給・宣伝: 有限会社アップリンク 
協力: スタインウェイ・ジャパン株式会社
2014年 / アメリカ / 81分 / 英語 / カラー/ 1:1.85 / DCP
© 2015 Risk Love LLC
 
2016年10月1日(土)より、
シネスイッチ銀座、渋谷アップリンク全国順次ロードショー!
 

映画公式サイト

この記事の著者

この著者の最新の記事

関連記事

カテゴリー

アーカイブ

YouTube Channel

Twitter

【バナー画像】日本アカデミー賞
ページ上部へ戻る