- 2017-9-9
- ドキュメンタリー映画, 日本映画, 映画レビュー, 映画作品紹介
映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』
正義の反対は、もうひとつの正義
半世紀以上続く「捕鯨論争」に新しい光が注がれる――
今、日本人が真剣に考えなければならないコミュニケーション問題が描かれている。
おクジラさまの聖地・和歌山県太地町
ルイ・シホヨス監督の映画『ザ・コーヴ(The Cove)』(2009年)が第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞をはじめとした公称24冠の数々の賞を受賞したことで、世界的に一躍有名となった人口約3,500人の小さな町、和歌山県太地町。
「日本の古式捕鯨発祥の地」として約400年の歴史をもち、太地町では、捕鯨やイルカ漁が地域経済に欠かせない産業である。現在、水産庁の規制と県の許可の下で追い込み漁を行なっている。それとともに、海の恵みに感謝を表した伝統的な文化行事も年中行っている。
昔から変わらない伝統を守った生活を送ってきた太地町は、『ザ・コーヴ』の公開によって、世界の活動家たちからの攻撃のターゲットとなり、世界の報道関係者や多くの外国人活動家、政治団体がこの小さな町に押し寄せてくるようになった。日本の調査捕鯨船に体当たりをしてメディアを巻き込み、世界中から何百万ドルという寄付金を集めて成功しているNGOのシーシェパードはSNSを駆使して、「イルカ殺しの町TAIJI」を世界中に拡散してゆく。それに即座に対抗できない日本のコミュニケーション問題も加わって、太地町は欧米の作ったグローバルスタンダード(世界標準)からみる「違う価値観」という世界の縮図の代表となっていく。
真実はひとつではない
「映画を通じて、多様な価値観が共存する現実を知ってほしい」と語る佐々木芽生(めぐみ)監督。
初監督作となったドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』(2010年)では、ハンプトン国際映画祭の最優秀ドキュメンタリー作品賞をはじめ、海外の映画祭などで高い評価を得ている。
その佐々木監督が6年の制作期間をかけて、半世紀以上も続く「捕鯨論争」に新たな光を当てた。この映画制作のきっかけは、『ザ・コーヴ』を観たときの疑問だったという。NYに在住する彼女が見聞きする報道では、クジラとともに生きてきた地域や人々に対する理解や情報はなく、一方的で批判的だと感じ、日本からの反論の声が聞こえてこないことにも違和感をもったという。『ザ・コーヴ』のアカデミー賞受賞が彼女の背中を押して、自らドキュメンタリー映画の制作に踏み切った。
「捕鯨は日本の伝統・文化」だと説明したところで、長い伝統であっても、時代にそぐわなければやめようとする欧米の考え方には、全く通用しないと話す佐々木監督。奴隷制度や切腹のように悪しき伝統だと定着してしまった反捕鯨の考え方を覆すには、相当効果的な情報発信の戦略と覚悟が必要だとも語る。
「排除」から「共存」へ
自分と相容れない考え方や生き方をする人を排除するのではなく、その違いを認めて共存することの大切さが、この作品には込められている。また、意見の違う人の話にも耳を傾けて、それがたとえ嫌なことであったとしても、ただ違いを認めて、受け入れることはできないのかという疑問も投げかけられている。絶滅の危機に瀕しているのは、クジラやイルカだけでなく、太地町のような小さな町もそうである。太地町の漁師や住民たち、世界の活動家たち、太地町の住民となって取材を行う米国人ジャーナリスト、佐々木監督たちの折り重なる視線を通して、真実はひとつではなく、正義の反対は別の正義であることを私たちに認識させるドキュメンタリー映画である。
映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』予告篇
映画作品情報
監督/プロデューサー: 佐々木芽生「ハーブ&ドロシー」
制作: FINE LINE MEDIA JAPAN
制作協力: ジェンコ、ミュート
協賛: アバンティ、オデッセイコミュニケーションズ、
書籍版『おクジラさま ふたつの正義の物語』が集英社より8月25日発売
2017年 / 日本・アメリカ / 96分 / HD / 16:9
ユーロスペースほか全国順次ロードショー!
公式Facebook: www.facebook.com/okujirasamafilm/
公式Instagram: www.instagram.com/okujirasamafilm/