映画『ブラインド・マッサージ』(原題: 推拿)
目には種類があるの。光が見える目と、闇が見える目が――
南京の盲人マッサージ院を舞台に巻き起こる人間模様を苛烈に描いた本作は、2014年、第64回ベルリン国際映画祭銀熊賞のほか、数多くの賞を受賞。視覚障害者の視点を体感するような映像と、人間の本能をえぐるような衝撃的な物語が世界中で絶賛されている。
原作『ブラインド・マッサージ』(ビー・フェイユィ著/白水社刊)は中国で20万部のベストセラー小説で、出演はロウ・イエ作品ではおなじみの実力派チン・ハオ(『二重生活』『スプリング・フィーバー』)、グオ・シャオトン(『天安門、恋人たち』)を初め、中国映画界の新星ホアン・シュエンが、盲人マッサージ師という難しい役どころを緊張感たっぷりに演じている。
《ストーリー》
南京のマッサージ院。ここでは多くの盲人が働いている。幼い頃に交通事故で視力を失い、「いつか回復する」と言われ続けた若手のシャオマー、結婚を夢見て見合いを繰り返す院長のシャー、客から「美人すぎる」と評判の新人ドゥ・ホン。ある日、マッサージ院にシャーを頼って同級生のワンが恋人のコンと駆け落ち同然で転がり込んできたことで、それまでの平穏な日常が一転、マッサージ院に緊張が走る――。
目を開いて鑑賞し、目を閉じて咀嚼する恋愛群像劇
盲人マッサージ院で働く彼らは懸命に仕事に取り組みながら明るく笑い合い、悲しみも分かち合い、時に嫉妬に駆られ、恋愛もし、セックスをし、将来に不安を感じたり、結婚相手を探したり。そこには視覚障害者と健常者との区別はない。
しかし、想像して欲しい。そのひとつひとつの行動が目が見えないことによって目の見える生活とどのように違ってくるのかを。
この作品の登場人物たちは視覚を失った中で、悲しみや怒りを表現する時自らの身体を衝動的に激しく傷つけたりする。こちらが見ていられないほど剥き出しの感情でその苦しみを表現する。周囲の人間はその溢れ出す鮮血に激しく動揺するが、本人は自分の血の赤さを知ることはできない。感じるのは痛みとその生温さと匂いだけだ。
「愛」を伝え合う姿も苦しいほどにまっすぐだ。気配を感じ、言葉を交わし、確かめるように身体に触れ、声や匂いで相手を感じようとする。視覚を失った青年は、視覚以外の全ての感覚を研ぎ澄ませて好きな女性を知ろうとするのだ。喧嘩の場面では、相手を掴んだら離さず、殴り続ける。容赦するということができない。離してしまえば不安になるからだ。
登場人物たちの情念や情動を、観ているこちらが怖くなってしまうほど正直にリアルに描きながら、中盤からは映像を「ぼかす」という視覚的な方法で盲目の世界を追体験させていくのだが、ここで鑑賞者である自分もどんどん不安に駆られていく。この闇の中で、視野が狭まり、視界はぼやけて、音だけが現れては消えていく状況にめまいを感じる程にその映像世界に引き込まれてしまうのだ。
この卓越した映像表現による見ていながらも見えなくなりそうな不安感と、それぞれの人々の心の叫びをその暗闇の中で悲痛なほどに共有してしまったというこの「救いの無さ」はラストシーンの美しさによってひとすじの光を得る。
「見えないことにより見えている多くのこと」と、「見えることにより見えていない多くのこと」について、劇場を出た後の光とそれに照らし出される世界を見つめながら考えさせてくれる作品である。
映画『ブラインド・マッサージ』予告篇
映画作品情報
第51回 台湾金馬奨(台湾アカデミー賞)6冠 作品賞、脚色賞、撮影賞、編集賞、音響効果賞、新人賞受賞
第9回 アジア・フィルム・アワード 作品賞、撮影賞受賞
第6回 中国映画監督協会 最優秀監督賞受賞
第8回 アジア太平洋映画賞 審査員大賞受賞
第15回 華語電影傳媒大獎 作品賞、監督賞ほか計6冠受賞
第15回 ラス・パルマス国際映画祭 主演男優賞受賞
監督: ロウ・イエ
脚本: マー・インリー
撮影: ツォン・ジエン
原作: ビー・フェイユイ著 「ブラインド・マッサージ」 (飯塚容訳/白水社刊)
編集: コン・ジンレイ、ジュー・リン
2014年 / 中国、フランス / 115分 / 中国語 / カラー / 1:1.85 / DCP / 日本語字幕:樋口裕子
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