宇和島伊達400年記念映画『海すずめ』
主演・赤松雀役 武田梨奈 インタビュー
赤松雀が地元の人に愛されて、私、幸せです!
「宇和島伊達400年祭」を記念し製作された市立図書館自転車課を舞台に繰り広げられる映画『海すずめ』で、主人公の赤松 雀(あかまつ すずめ)を演じた女優・武田梨奈さんに話を聞いた。
―― この映画を通じての地元の方々とのふれあいはありましたか?
地元の方々は毎日のように現場に来てくださって、炊き出しや、お弁当を作ってきてくださいました。協力してくださったというより、一緒に作品を作っていってくれました。
撮影中も、撮影がない日も、商店街を歩いていたりすると、皆さん声をかけてくれて、しかもそれが『女優 武田梨奈』としてじゃなく、「雀ちゃん」ってみんな声かけてくれるんですよ。「雀ちゃん、これ持ってきな」って言ってお菓子をくださったりとか、ほんとに一人の「雀」っていう女の子を、町の皆さんが一緒に作ってくださったんだなぁと思いました。
―― 共演されたキャストの方々とはどのような交流がありましたか?
撮影は20日間くらいしかいなかったんですが、ほかのキャストの皆さんもほんとに仲良くしてくださいました。特に自転車課の仲間となる小林豊さんや佐生雪ちゃんとは同世代なので、ほんとに仲良くなって、「商店街のあらゆるお店の食べ物を制覇しよう!」と宣言して全部回ったりもしました。また、父親役の内藤剛志さんは本当の娘のように可愛がってくださり、すごく助けられた部分がたくさんありました。
―― ベテランの女優さんたちに囲まれて、何か得たものはありますか?
吉行和子さんが演じるトメさんは、九島に住んでいるという設定だったんですが、吉行さんは自分の衣装について、ヘアメイクさんや衣装さんと一緒に相談してトメさんを作りあげていらっしゃいました。
例えば、「これだとちょっとおしゃれすぎるんじゃないか」、「もっとしわを足してほしい」、「今日の夜、商店街に言って自分で、衣装見に行っていいですか」などと意見をおっしゃってご自分で商店街で帽子を買ってきたりしていたんです。自分でその役に合うスタイリングもされていたので、すごく刺激的でした。
途中でピンをつけるようになったんですけど、あれは吉行さんのアイデアです。私も、与えられたものに関しては、いかにプラスにしていくか考えて、いつも監督やスタイリストさん、メイクさんたちと話し合ってきましたが、吉行さんは最初に与えられる前から自分で、作ったり探したりされてたので、すごいなぁと思いました。
―― 「雀」という役を演じるにあたり、役作りはどのようにしたのでしょう?
自分の中で、「雀」と自分がリンクする部分があったので、そこは自分なりに表現していこうっていう気持ちはありました。どこかというと、雀は小説家になりたくて本を書いているんですけどその次が書けない。本当はすごく書きたいし、やりたいこともある。でも、編集者にも認めてもらえないし、自分に才能がないことにも気づいてしまったっていう自分との戦いのところです。
私も20歳前後の時に、オーディションをすごくたくさん受けていて、300回ぐらい連続で落ちたことがありました。そういう時に自分がやりたいことや目標はあるのに、そこに追いつけない、近くにも行けない、どうしたらいいんだろうって葛藤する時期があったので、そういった部分では雀とすごくリンクしていると思いました。
―― 武田さんはその葛藤をどのように乗り越えましたか?
「いつまで役者やりたいと思ってる?」とマネージャーさんに聞かれたとき、「死ぬまでやりたいです」って言ったんです。そしたら「じゃあ直ぐにブレイクしようと考えなくていいよ」って返されて「何でですか?」って尋ねたら、「ブレイクして、そのまま続けられるならいいけど、死ぬまでずっとやっていきたいんだったら、一歩ずつ作品やっていって、最後に頂点に行けばいいじゃん」ということを言ってくださったんです。
300回ぐらいオーディション落ちた経験をして、ようやく今の事務所に入れたのになかなか仕事が決まらなくて、「あぁ、仕事このまま決まらなかったらきっと、この事務所にも見捨てられるだろうな」っていつも思っていました。そういう不安と戦っていた時期だったので、このマネージャーさんの一言で、一気に肩の力が下りた気がしました。そしたら逆に、仕事が来るようになったんです。
自分なりに、自分のペースで、一歩一歩行けたらいいんだろうなっていう気持ちになれました。がむしゃらすぎて、夢中すぎて、たぶん周りが見えなくなっていたんでしょうね。
―― 今回の映画では、監督にどんなことをアドバイスされましたか?
映画の中で、雀とお父さんの気持ちがすれ違って距離が出来ているときに、お母さんがそれに気づいて、「お父さんはあんなこと言ってるけど、実はあなたのこと思ってるんだよ」って言って、本をたくさん買っているのをおしえてくれるシーンがあるんです。私は台本を読んだ時、雀がお父さんに対して勘違いをしていたことに初めて感じる申し訳なさや嬉しさ、そういういろんな感情が込み上げてきて、泣いてしまったんですが、実際にテストでも涙があふれてきたんです。
私にとって、それは自然な涙だったんですが、監督は「その気持ちもすごくわかるけど、この『海すずめ』っていう映画の中では、雀は一滴も涙を流さない子なんだよ。だから雀は最後まで強くいてほしい」と、監督の強い要望がありました。
―― これまで、演技について特別な勉強はしましたか?
アクションの稽古はずっと行っています。演技については、事務所に入る前は、ワークショップみたいなレッスンに行ってはいました。
今の事務所に入ったとき、「お芝居がまだまだなので、お芝居のお稽古に行かせてください」とお願いしたのですが、マネージャーさんは「梨奈はしなくていいと思う」と言うんです。理由は「作りこまずに、自然体でいろんなものに染まっていくほうが、“武田梨奈”らしくて面白い。こういうタイプの人って余りいないから、それを生かしてお芝居につなげていったらいいと思うよ」って。『祖谷物語―おくのひと―』(2013年)の時にも、監督はオーディションとかいろいろやられたらしいんですけど、私を選んでくださった理由は「何にも染まってなかったから」だったそうです。
―― これからの目標や、やりたい役などがあれば教えてください。
私がお芝居やりたいと思ったきっかけは俳優の武田鉄矢さんです。いろんな映画やドラマを観ていると、女優さんってとてもきれいで、ラブシーンの時も涙ですらすごく美しくて、それはそれでとても素晴らしいなと思うんですけど、そういうきれいなものは私には自分で向いてないって思っていました。
でも、武田鉄矢さんのお芝居を見たときに、涙よりも鼻水流して顔もすごいぐっしゃぐしゃになって、これってお芝居を観ているのか、目の前でドキュメンタリーを見せられているのかわからないっていう感覚になったんですね。だから、私も人間らしい汚いものを美しく表現できるような、ほかの女優さんにできないようなリアルな人間を表現していきたいと思っています。
アクション映画でも、美しい女性がスタイリッシュに男性を倒していくっていうものがありますが、普通、女性があんなに男性を何十人も倒していくなんてありえないだろうって私は思っちゃうんですよ。女性がボコボコにされながらも、立ち向かっていくアクション映画って、ハリウッドとかでもなかなかないですよね。だったら私が、等身大で本当にそこに生きているような女性を、演じてやろうって。
いろいろな役にチャレンジしながら、そういうリアルを学んでいきたいと考えています。
―― この映画の一番の見所、一番観てほしいところを教えてください。
今の世の中、SNSだったり、いろんな、メールだったり、いろんな伝え方とか人との交流ができる時代にはなってると思うんですけど、この映画のように、自転車に乗って、人に会いに行って、人と話すからこそ生まれてくる感情だったり、そういうものって大切じゃないですか。今の時代だからこそ、忘れてはいけないなぁって思うんですよね。瀬戸内海の景色の中で、そういうアナログの大切さを感じていただければと思います。
―― 最後に、シネマアートオンラインの読者の皆様へ。
[インタビュー: 仲野 マリ / 構成: 安田 瑛里 / スチール撮影: 平本 直人]
プロフィール
武田 梨奈 (Rina Takeda)1991年6月15日生まれ、神奈川県出身。2009年映画「ハイキック・ガール!」主演デビュー。「デット寿司」(2013年)でアメリカのFantastic Fest最優秀主演女優賞、第1回と4回目のジャパンアクションアワードのベストアクション女優賞、2015年ロサンゼルスで行われた日本映画際で最優秀主演女優賞を受賞。また今年ロスにて「第88回アカデミー賞授賞式」のレッドカーペット・ナビゲーターを務めた。インドネシア、タイ、韓国など海外の映画作品にも出演し、世界的女優として活躍が期待される中、今年は主演ドラマ「ワカコ酒2」のほか、主演映画が続々公開予定。CM「セゾンUCカード」でもお茶の間でおなじみである。 |
映画作品情報
《ストーリー》愛媛県宇和島市。小説家デビューを果たすものの2作目の小説が書けない主人公の赤松雀(武田梨奈)は、地元に戻り図書館の自転車課(自転車で図書を運ぶ)で働き始める。共に働くのは元ロードレーサーの岡崎(小林豊)とアルバイトで嫌味な上司の娘・ハナ。ある日、本の常連客であるトメ(吉行和子)から「もともと現在の市立図書館の前には、空襲で全焼した私立伊達図書館があった」(史実) という事とトメ自身も戦前はそこで働いていたことを教えられる。 そんな最中、街は”伊達400年祭の武者行列”で使用される着物の刺繍模様の復元するための資料‘御家伝来の本‘を探して騒ぎとなっていた。一方で、図書館では自転車課の廃止案が浮上していることも発覚。雀は資料となる本を求めて、そして自転車課廃止を阻止するべく走り出す。はたして刺繍図録は見つかるのか?! 図書館自転車課の存続は?! そして がむしゃらに走り続ける雀は、新たな小説執筆へ歩み出すことができるのか! 宇和島藩伊達家入部400年を迎えた今しか誕生しえなかった歴史+青春スペクタクルムービー。 |
出演: 武田梨奈、小林豊、内藤剛志、岡田奈々、目黒祐樹、吉行和子 ほか
監督・脚本: 大森研一
主題歌:「ただいま」 植村花菜(キングレコード)
企画・製作: ウサギマル
配給: アークエンタテインメント
2016年 / 日本 / カラー / 16:9 / 5.1ch / 108分
© 2016 「海すずめ」製作委員会」 製作委員会
2016年7月2日(土) 有楽町スバル座ほか全国ロードショー!