ルーカス・ドン監督インタビュー
「最大の壁は自分自身」
ありのままの自分を受け入れ“強さと絆”を手に入れた
バレリーナを夢見るトランスジェンダーの少女ララの姿を描いた映画『Girl/ガール』が、7月5日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショーとなる。
映画『Girl/ガール』は製作当時25歳だったルーカス・ドン監督が、ベルギーに実在する少女ノラ・モンセクールの実話を元に脚本化したフィクション。長編デビュー作ながら第71回カンヌ国際映画祭に選出され、カメラドール(新人監督賞)、最優秀演技賞(ある視点部門)、国際批評家連盟賞の3冠を受賞。「奇跡のように完璧なデビュー作」とメディアから喝采を浴びた。さらに第91回アカデミー賞®外国語映画賞〈ベルギー代表〉に選出、第76回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞ノミネートという快挙を成し遂げた。評論家・観客からは“ニュー・ドラン”とも称される、今世界が最も注目する新鋭監督である。
初来日のドン監督は、映画を撮るようになったきっかけと映画を製作するまでの経緯を少年時代にまで遡り情熱的に語った。
フィルムメーカーになったきっかけ
―― 何歳頃から映画に興味を持ちましたか?
実は僕の母親がシネフィル(映画狂)でした。子どもの頃に映画からどんな風にインスピレーションを受け、作品が心の琴線にどう触れたのかを話してくれました。映画を観ることで、未知の世界に誘われた経験を伝えてくれました。その時に映画が人に与える不思議な影響力に関心を持ちました。
―― 実際に映画を撮り始めたのは、いつでしたか?
初めての聖体拝領(正式に自分の意志でカトリック教徒になる儀式)の時にカメラをもらいました。そのカメラで母や弟、自分の周囲の人たちを撮り始めたのです。今はあの時ほどじゃないけれど、あれして、これしてと命令する口うるさい監督だったらしいです。自分の作った映画を誰かに観てもらい、何かを感じてもらいたいと思う気持ちが日増しに募っていきました。そのまま情熱が続き、高校でも友達と映像を撮り、必然的にKASKスクールオブアーツ(映画の学校)に進むことになりました。
ダンサーになりたかった少年時代
―― 子どもの頃から映画監督を志望していたのですか?
(昔を思い出すかのように幼かった少年時代のエピソードを話し始める)
映画に魅了される前は踊りが大好きで、ダンサーになりたかったのです。ところが、踊っている自分の中のフェミニニティに周りの人が居心地悪く感じていることに、自分が違和感を覚えたのです。その時にジェンダーの存在に気付きました。一般的に人の考える男の子に対しての期待や規範の存在を理解し、踊りを止めてしまったのです。つまり僕自身が、人や社会の言う「男らしさ」はこうあるべきだという概念に自分を合わせてしまったのです。10代の時の僕は、自分のあるがままの姿でありたいと思ったけれど、容易なことではなかったのです。現在の僕自身になるために、何かを変えなければいけないと感じていました。人によってレベルは違うけれど、誰もが同じように経験をする普遍性のあることだと思うのです。
ノラ・モンセクールとの出会い
―― ノラさんを知ったのはいつですか?
今から 9年近く前になります。2009年、僕が映画学校に入学したばかりの18歳の時でした。ノラ・モンセクールさんは15歳のトランスジェンダー女性なのですが、バレリーナを夢見ていました。ポワントの授業を受けたいので女性のクラスに変更を願い出たところ、学校に断られてしまったのです。それが記事になり、目にしたのが最初の出会いでした。15歳で自分のセクシャリティを公表し、バレリーナになる夢を貫く強い意志を持っていました。あるがままの自分になろうと周囲と闘っていたノラに対し、とても敬意を感じました。
ドン監督はすぐに会いたいと連絡をしたが、マスコミが騒いだため面会を断られてしまったそうだ。それから1年後の2010年にやっと会ってもらえることに。その後何度も会うことで友情と信頼を重ね、ノラさんから彼女の物語を作ることを許可された。映画学校を卒業して4年後に『Girl/ガール』を世界に向けて発信。初作品でカンヌ国際映画祭3冠受賞という快挙を成し遂げた。 |
―― ノラさんと8年越しの約束が実りました。ノラさんはなんておっしゃいましたか?
言葉というよりも感情をみせてくれました。友情以上の絆が僕たちの間にはあるのです。時間をかけて内面を理解しようとし、リスペクトを持ったエレガントな形で映像化したいという人物がいたとしたら、僕のことですけど、感動的なことですよね。この作品は少女が大人になっていく様子を描いた映画で、人生の大人になる瞬間を共有している僕たち2人のドキュメンタリーとも言える作品なのです。彼女はこの作品の大ファンです。カンヌ国際映画祭の初上映に来て、とても感動してくれました。この作品がたくさんの人の心に触れ、トランスジェンダーであろうとなかろうと皆さん自身を見出してくださることにワクワクしています。ノラさんは、多くの人の心に届くことを願ってくれています。
―― ベルギーの親世代はトランスジェンダーの子どもたちに理解がありますか?
ノラの家族は愛情深く良き理解者でした。全員がそうだとは思わないけれど、そういう親は多いと思います。主人公ララの父親は自分の子どものアイデンティティが何であれ、あるがまま受け入れ、子どもの幸せの形を考えています。そんな無償の愛のサポートを子どもたちに提供するお手本として観てもらえたら嬉しいです。
―― ララ役のビクトール君は、ヌードや衝撃的なシーンもあります。本人とご両親を説得するのは苦労があったのでは?
そんなに大変ではありませんでした。まず脚本を読んでもらい、ノラさんに会わせました。映画の中のシーンは、理由があってそのシーンがあるのだと理解してくれました。だから僕たちが作ろうとしたアーティスティックなビジョンを一緒にやりましょうという事になったのです。ララ役のビクトールはダンサーなので、自分の肉体というものを理解しています。普段から自分の身体をアートフォームとして使っているので、ララの裸になるシーンも同じアプローチでした。
今後の自分について
―― ララのなりたい自分になる壁はトランスジェンダーであることでした。監督には壁のようなものはありましたか?
(しばらく考え込んでからゆっくりと答える)
自分自身が自分の一番の敵になってしまったという事実を克服することが、一番の壁だったように思います。幼い頃から周りが自分に期待する事、ヘテロが通常であると考える社会の中で、周囲に迎合する事が生きやすいとわかり、自分を合わせていたのです。そうではありましたが、心の中でいつも自分自身との対話を続けていました。この行動は本当の自分だったのかどうかって。周囲に合わせてしまう自分と向き合い克服することが、一番高い壁で大変でした。
―― 初の長編映画『Girl/ガール』を製作、発表、そしてノラさんに報告後の自分への感想は?
ひと言で表現すると、「ストロンガー!」。僕は元々エモーショナルな人間なんです。そうじゃなきゃ映画監督なんてやらなかったと思いますよ。
―― これからの映画の方向性はありますか?
この作品を撮ろうと思いついた瞬間、自分自身の人生の核となる「ダンス」「変身」「アイデンティティ」という3つのテーマが全部ありました。アイデンティティとは、パフォーマンスの側面があると思っています。誰と居るかで人はアイデンティティと違う側面を演じることがあり、そこが興味深いのです。いわゆる「男らしさ」、「女らしさ」というジェンダーもパフォーマンスの要素があるのではないかと。そこにいつも自分は惹かれ、関心を持っているのです。幼い時から自分が感じている3つのテーマ、「ダンス」「変身」「アイデンティティ」をこれからも模索していきます。
[インタビュー: 花岡 薫 / スチール撮影: 坂本 貴光]
プロフィール
ルーカス・ ドン (Lukas Dhont)
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映画『Girl/ガール』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》バレリーナを夢見るトランスジェンダーの少女ララ。 イノセントな彼女がたどり着く、映画史上最も鮮烈でエモーショナルなクライマックスに心震える感動作 15歳のララの夢はバレリーナになること。しかしそれは簡単なことではなかった。彼女は男の体に生まれてきたから。それでも強い意志と才能、娘の夢を全力で応援してくれる父に支えられ、難関のバレエ学校への入学を認められる。夢の実 現のためララは毎日厳しいレッスンを受け、血のにじむような努力を重ねていく― だが、初めての舞台公演が迫る中、思春期の身体の変化により思い通りに動けなくなることへの焦り、ライバルから向けられる心ない嫉妬により、彼女の心と体 は追い詰められていく― |
第76回ゴールデン・グローブ賞 外国語映画賞ノミネート
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー!