映画『エキストランド』主演・吉沢悠インタビュー
吉沢悠が新境地に挑んだ!
「ダークサイドや人間の嫌な部分に逆に興味をそそられました」
『神奈川芸術大学映像学科研究室』(2014年)で注目を集め、『東京ウィンドオーケストラ』(2017年1月公開)で商業映画デビューを飾った新鋭の坂下雄一郎監督が約2年半をかけて、13に及ぶ全国のフィルムコミッションへの取材を敢行し、完全オリジナル脚本で自主製作した映画『エキストランド』が2017年11月11日(土)より劇場公開を迎えた。
『エキストランド』は、過去の失敗から映画を製作することができなくなったプロデューサーが地方の市民を騙して映画を作ろうと画策するというストーリーの映画で、地方創生が謳われる時代への鋭いメッセージ、映画製作やモノ作りのうえで大切なことをシニカルに描いた作品である。
本作で地方の市民を騙し、自分のためだけに映画を作ろうと画策する悪徳プロデューサー・駒田を演じた主演の吉沢悠さんに撮影秘話や今後のビジョンについてのお話を伺った。
―― 出演のオファーを受けた時の感想を教えてください。
一番最初にお話をいただいたときは、自分が今まで演じてきた世界観とはまた違ったキャラクター設定の役だったので、自分の中でどういう風に演技ができるかなっていうチャレンジングな部分が見い出せてすごく嬉しかったです。
―― 地域創生を逆手に取り、自分のためだけに映画製作を企てるという、非常に冷酷な主人公を演じられていらっしゃいましたが、台本を読んだときはどのような感想をお持ちになりましたか?
起こる出来事がひどいことのオンパレードだったので、いい意味で振り切れているのがコメディとしてすごく魅力的だなと思いましたね。実際にこういう現場に出会ったことはないですけど、部分部分で見るとあるあるでもあるのかなっていうリアリティが盛り込まれているので、内外問わず楽しんでいただけるんじゃないですかね。こんなのがあったら怖いなっていうような、ダークサイドの部分、人間の嫌な部分が描かれていて、逆に興味をそそられました。
―― “悪徳”という言葉がぴったりな役でしたが、演じていくうえで気をつけたことや意識されたことはありますか?
駒田のペースですね。役者なのでもらった役の演技に対して反応したくなるんですけど、それに対して駒田はこう思っているっていう、あえて反応しないっていう部分は軸として持っておこうかなって思ったので。そこが表現として冷たさに繋がったのかなと思ったんですけど、あえて冷たくしようとしてしているわけではなく、駒田には駒田の理由があってああいう風にしているっていう。冷たいキャラクターを作ったっていうよりも、“駒田っていう人間はそういう人”っていう掘り下げ方で作っていったので、もしかしたらそれは駒田の冷徹さとかひどさにイコールになるんじゃないかなっていうのが、僕の中で意識した部分ではありますね。
―― 駒田に共感した部分はありますか?
映画人というかクリエイティブな人間としていい作品を作りたいって思ったときに、「これ僕が大変な思いをして作ってるんだからさ」と(手直しをするなと)上から言われちゃって、それを飲み込まなきゃいけないみたいな。ああいうのって映画界だけじゃなくて一般社会でもあるんじゃないかなっていう、普遍的なシーンになっていると思うので、特別な状況というよりは観ているお客さんも共感しやすい部分だったりするのかな。
あとは、最後のほうで「映画は人を幸せにすると思ってるんですか?」っていう、自分の気持ちを吐露するところは、過去に傷ついた自分がいるからこそ、そういう思いが生まれてきていると思います。彼は彼なりに人生を経験してきている中で、一生懸命生きてきて、今そういう風になってしまっているのがすごくチャーミングだなって思うので、実際に駒田役をやって、映画を観て、ひどいなって思ったんですけど、なんか憎めないっていうのが僕の中にあって。だから好きですね、駒田は。
―― 印象的だったシーンを教えてください。
ちょうど映画の中盤くらいで、駒田が無理矢理地方の町に“渋谷”を作れと言って作らせておいて、なんだよこれっていう、映画が成り立たないからふざけんなっていうのをぶつけたときに、市民のほうから「あんたのやり方間違ってますよ」って言われて、お互いの意見が決して折り合わずにぶつかってしまうっていうシーンがあるんですけど、その撮影がたまたま雨で。かなり土砂降りだったというのが、僕(駒田)を除いたみんなが物悲しくなるという心情にリンクするような天候だったので、コメディの流れからきて、急にヒューマンの要素が生まれた気がして、天候には恵まれていないはずなのに、ちょうどいいタイミングで雨が降ってくれたというのが面白いご縁だと思って、思い出に残っていますね。急遽スタイリストさんがみんなのカッパを用意してくれたんですけど、僕は雨のシーンでやりますって言われたときにカッパ着たくないなと思っていて。駒田はわがままを言って一人だけ傘をさしているっていう嫌な感じにしたいなと思っていたら、スタイリストさんがもう用意してくれていて、以心伝心じゃないですけど、この世界観がいいっていうのがスッと流れたシーンだったので、印象的でしたね。
―― 映画の終盤、家が壊されるシーンでの呆然とした表情がとても印象的でしたが、あのシーンではどのような心情で撮影に挑まれましたか?
あれは台本を読んだ段階で一番楽しみにしていたシーンで、どれだけ魂を抜けるかというのにかけていたんですよ。キャラクターとか、人間性とか抜きにして、どれだけ面白い感じになれるかなっていう、あそこだけ自分の中でエッジをきかせたかったので、こういう風にやってみたいなっていうプランがあったんですよ。それがあの形でした。
駒田は全体的にひどい人間なので、ああいう風にされてもしょうがないなって思ったんですけど、やっぱり前野くん(えのき市の職員・内川役)が面白いなって思いました。最後の最後であんな冷徹な顔して、一番悪いヤツじゃんみたいなところ(笑)。今までずっといい人できていたのに、ただのいい人じゃなくて、ちゃんとダークサイドが出ていたのが面白かったですね。
―― 「映画はみんなを笑顔にしてくれる、本当にそう思っていますか?」というキャッチコピーがありますが、吉沢さんにとって映画はどのような存在ですか?
映画は何本かやらせてもらっていますけど、映画の世界の中で生きている映画人って言われている人たちが語ることとかは、いい意味で神聖なものみたいな意識が僕の中にあって。たぶんその世界の中に憧れみたいなものがあると思うんですよね。今もいるんですけど、昔はもっと職人気質のスタッフさんが多くて、緊張感だったりとか、その思いを受け継いで現役でやられている方もいらっしゃるんで、こんだけ情熱をかけられるってすごいなっていう、尊敬の部分があるので、まだ(自分は)そこの域に達してないなっていうのもあるのかもしれないですね。
―― 40代を目前に控えられていらっしゃいますが、今後こういう役をやりたい、こういうことに挑戦してみたいなどというのはありますか?
30代って結構微妙な時期だなっていうのはいろんな人に言われましたし、役的にも父親役を演じたりもして、表面的な部分での幅は広がったんですけど、もうちょっと内面的な、男の色気的な部分って40代、50代ってなってきたほうがより出やすいのかなっていうのは感じていて。年を重ねていったほうがそういう部分は出やすいのかなって思うので、そういう色気みたいなのが、オーバーリアクティングでやっていくというよりも、自然と、佇まいで出てくる役者になれたらなと思います。10代や20代の頃はエッジのあるどうのこうのとかを思っていたんですけど、人間は経験した分だけ色がついていくと思うので、そういう意味ではいろいろ挑戦したいなと思いますね。
―― 最後にこの作品を楽しみにしている方々に向けてのメッセージをお願いします。
あまりユーロスペースでかかるような内容ではないと思うので、そこをどういう風に受け入れられるかすごく心配な部分はあります。感情移入されにくい主人公だと思うので、結構気楽な感じで、フラットな状態で観ていただいたほうが「俺はここをこういう風に感じたよ」っていうそれぞれの気づきがあるような映画になると思うので、基本的には笑ってもらえたらなというのが一番です。それぞれの琴線に触れるようなポイントを見つけていただけたらなと思います。
―― インタビューを終えて
落ち着いた佇まいで一つ一つの質問に丁寧に答えてくださった吉沢さん。今までのイメージを打ち破るような、冷徹で冷酷なキャラクターを演じられた本作はもちろん、年齢を重ねられるごとに益々深みが出てきていらっしゃる吉沢さんの今後のご活躍にも是非注目していきたい。
[スチール 撮影: Cinema Art Online UK / インタビュー: 小森 萌菜]
プロフィール
吉沢 悠(Hisashi Yoshizawa)1978年8月30日生まれ、東京都出身。1998年にデビュー。 |
映画『エキストランド』予告篇
映画作品情報
《ストーリー》過去の大失敗から映画を撮れなくなったプロデューサー・駒田(吉沢悠)は、映画で地元を盛り上げたいと思っている市民達を騙して、自分のためだけに映画を作ろうと画策する。 最初は指示されるがままだった市民達も、その横暴な立ち振る舞いに疑問を感じ始める。 撮影最終日、自分たちが利用されてるだけだったと気付いた市民達は一矢報いようと、ある計画を立てる。 |
ユーロスペース、上田映劇ほか全国順次公開!
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